エピソード13 加茂の陰陽師
<富士本ターン>
富士本:「…くうっ!」
一瞬の空白。
どれ位 私は眠っていたのか…?
あれから ナニが有った…?
私の手足は 未だ使えるのか…?
女の体重が、私の頬骨を歪ませている。
視界が、制限される。
周りの状況が、掴めない。
加茂理夜は? 加茂理夜は無事なのか!
地べたに顔を踏みつけられたままの格好で、私は必死に加茂理夜の姿を探す。
彼女は…
先程と同じ姿、格好で、拘束されたまま。…私を見ている。
…私の、惨めな姿を見ている。
富士本:「くそぉお!!」
指は? 腕は? 足は? 腰は? 身体は?
一瞬で全身の稼働状況を確認する。
富士本:動く!
(作者注:「」無しは心の声)
しかも、私の両手には、未だ、トンファーが握られたままだ!
富士本:未だ、戦える!
蟷螂:「動くなよ。」
そんな、私の心を見透かすかの様に、乾いた女の声が骨伝導する…。
蟷螂:「今、一寸考えてるんだ。 …このまま続けるか、止めるか。
…思ったより張り合い無いしな、…お前。」
蟷螂、軽く溜息…
蟷螂:「いいか、チョットでも動いたら あのチビの顔の皮を剥ぐ。」
蟋蟀とか言う「男の娘」が、
加茂理夜の顎に カミソリの刃を当てる。
私の、最大の弱点を…見透かされている?
富士本:止めろ! 加茂理夜には手を出すな!
そう声に出せば、奴に知られてしまう。
…私が、一番 奪われたく無いモノを、
蟷螂:「お前、さっき「捨て身」で掛かって来ただろう。」
ギスギスの骨皮だけの女とは言え、
…40kgを超える体重が 頬の上にしゃがみ込む。
…顎の骨が、キシキシと音を立てている、
蟷螂:「お前が「捨てる様な物」を奪っても …詰まらないんだよ。
…俺は、お前が悔しがって苦しむ姿が見たいんだ。 分るかなぁ?」
そして、甘く囁く様に 私に耳打ちする…
私は、噛み砕けそうなくらいキツく、歯軋りする!
加茂理夜:「くくくっ! …もしかして、私ピンチですか?」
蟷螂が突然立ち上がり、私の顔から離れて 完全に背中を晒す。
蟷螂:「ああ、…知らなかったのか?」
奴は、それでも私が動かない、動けない事を確信している。
加茂理夜:「私には、手を出さない筈じゃなかったのですか?」
蟷螂:「別にぃ、「殺すな」と言われてるだけで、
傷つけるなとは言われてないし…、」
蟷螂:「殺さずに痛めつける術は、心得ている。」
蟷螂が、上目遣いでニヤニヤと笑う。
蟷螂:「そう心配するな、死にたくなるほど 苦しむだけだ、
…凄く、痛くて、悔しい…だけ。 保証するよ。」
加茂理夜:「くくくく…、」
加茂理夜も、笑う?
蟷螂:「あれぇ…何で、そんなに余裕かなぁ?」
加茂理夜が両手首のピアノ線に体重を預ける。
うっすらと、その手首に血が、滲み始めている。
加茂理夜:「だって、…必殺技ゲージがドンドン溜まって行ってるみたいで スリリングなのです。 …この後で 貴方が、富士本にぐちゃぐちゃにされる所を、想像すると、…思わず!」
蟷螂、加茂理夜の頬にルガーの銃口を当てる…
蟷螂:「残念だったなぁ、 惜しかったなぁ、
どんな時でも妄想に逃避しようっていうお前等の気持ち、悲しいけど、分らないではないぜ。 …そう言うの、「中二病」って言うんだっけ?」
蟷螂:「でも 時々は、「現実」ってモノを見つめようぜ。」
ドラム缶の中から、猿轡を噛まされた竜二が何か叫んでいる!
蟷螂:「どう転んだって お前等に勝ち目は無いさ、
…あの「根性無し」は死んだってお前を犠牲にする事なんか出来やしない。 それに…」
蟷螂:「もしかしてあの「影の薄—い」土蜘蛛の事を期待してるんなら…無駄だぜ、 あいつは今頃…多分バラバラに切り刻まれてる筈だ。 予定的には…」
蟷螂、薄ら笑いを浮かべて、加茂理夜に見せつける…、
蟷螂:「つまり、ヒーローみたいに格好よく駆けつける…なんて事は不可能って訳だ。」
加茂理夜、それでも不敵に睨み返す…、
蟷螂:「さて、どっちからやろうか。
…死なない程度に、…少しずつ、皮を剥いでやるよ。」
蟷螂:「チビは、どうせ動けないからな、後回しだ。
…先ずは、お前からだ、」
蟷螂、床に落ちた長剣を拾って…再び富士本の所に戻って来る。
蟷螂:「動くなよ。
…両手に「獲物」を持ったままで、
…無様に地べたに這いつくばって、
…好きな様に 俺に皮を剥がれて行っても、」
蟷螂、富士本の美しく、長い黒髪を、
…長剣でぶちぶちと…散切りに …斬り落として行く、
蟷螂:「絶対に動くんじゃ無いぞ。
…動いたら、あっちのチビの 目玉を刳り貫くからな。」
蟷螂、富士本のブラウスの背中を切り裂いて、白い肌を露出させる。
蟷螂:「やられるが侭、耐えるんだ。
…その内、痛みが快感に変わるかもよ、こういうのNTRって言うんだっけっか?」
蟷螂、涎を吐散らしながら ヘラヘラ笑う!
興奮で、顔がチアノーゼ状態になっている?!
加茂理夜:「富士本 何時迄そうやって 這いつくばっているつもりです? …理夜は、そろそろ この「余興」にも飽きちゃったのです。 それに…、」
加茂理夜:「…さっきからオシッコに行きたいのを我慢してるんですよ!」
私は!
…一瞬で 蟷螂の軽い体重を跳ね除ける!
…自分でも信じられない程の身軽さで、
…蟋蟀を排除する。
軽く握ったトンファには、
何時の間にか 蟋蟀の「脳漿」が こびり付いている。
一瞬遅れて蟷螂が強襲する!
蟷螂:「詰まんねえなぁ! 詰まんねえよ!」
蟷螂:「折角のいい気分を 台無しにしやがって!」
蟷螂:「分ってんのかぁ? 分ってないのかぁ? お前は、…俺には勝てないんだよ!」
そんな事は、分ってる!
でも、加茂理夜が 言った!
富士本:「私が、お前をぐちゃぐちゃにする!」
20秒後、
…私は、再び 地べたに這いつくばる。
人間の限界まで高められた蟷螂の運動能力は、
いともあっさりと私の攻撃を躱して、…加茂理夜に辿り着く!
蟷螂:「だから、無理だって…」
蟷螂:「全く、手間取らせやがって。 どう落とし前付けてくれるんだよ。」
蟷螂、加茂理夜の顔面、…顔の真横にルガーの銃口を押し付けている。
蟷螂:「状況は何にも変わっちゃ居ねえ。
…俺の絶対的有利は、何一つ揺るいじゃいねえ。
…それ位、俺は強い、 お前は、弱い。」
蟷螂:「陰陽師だか土蜘蛛だか知らねえけど、…そんな時代錯誤の「まやかし」が チョットばかし根性見せたって、…何にも変わんねえんだよ!」
蟷螂:「だから、悔しがれ!
…今から、このチビの目玉を吹き飛ばしてやる。」
富士本:「止めて…、」
蟷螂:「お前、 …コイツの事、愛してるんだろ。
バレバレなんだよ!」
蟷螂:「大好きな女が、目の前でいたぶられる気持ち、…聞かせろよ。」
蟷螂が引き金に当てた指を… 緩める、
蟷螂:「そうだな、…それとも お前が 自分で自分の乳房を切り取ったら、
…コイツの顔を潰すのだけは勘弁してやろうか?」
富士本:「分った、私は、…何でもするから、
…お願い、加茂理夜には…手を出さないで。」
私は、何時の間にか 我を忘れて慈悲を乞う。
加茂理夜が、私を憐れむ様な眼差しで…
富士本:理夜、見ないで! そんな眼で私を見ないで!
蟷螂:「馬鹿じゃねえのか?
…言っただろう、俺は、お前が悔しがる事がしたいんだよ。」
蟷螂、改めて 加茂理夜の目玉に銃口を当てて、引き金に添えた指を…
蟷螂 & 加茂理夜:「もう、飽きた…」
破裂音:「…!」
富士本:「うぁわああぁあ…あっ!!」
私は目を閉じて地べたに崩れ落ちる、踞る、
見たく無い! 見たく無い! 見たく無い!
大好きな加茂理夜! 可愛い加茂理夜! 愛おしい加茂理夜!
私の加茂理夜が、私の加茂理夜が壊されるのなんて、見たく無い!
富士本:「うううぅう…あああっ…理夜、りやぁああ…」
私は、全身の覇気を喪失して、
…もしかして、私 失禁している?
どうでも良い、…もう、そんな事、どうだって良い。
加茂理夜:「富士本、しっかりしなさい。」
私は…心の中で その声を聞いた様な気がした…
…涙で失われた視界を拭い、
…顔を上げて、もう一度 加茂理夜を見つめる。
…それが、加茂理夜の望みだから、
蟷螂:「貴様! ナニをした?」
加茂理夜は、相変わらず 可愛らしい顔で、
ちょっと、困った「妹」を見る様な表情を…私に向けていた。
富士本:「理夜…」
蟷螂の、右腕が…
力を失って、肩口から垂れ下がっている。
握られていたルガーが、ゴトリ…と床に落ちた。
蟷螂:「なんで、俺の腕は、動かない!」
蟷螂、足を縺れさせて…蹌踉めく!
私は、一瞬の隙を突いて 蟷螂に強襲する!
スタンガンを発動したトンファーの一撃で、パニック状態の蟷螂を弾き飛ばす!
加茂理夜の絶対防衛圏を 取り戻す!
蟷螂:「何を、…した!」
加茂理夜:「教えて欲しいですか?」
立ち上がる蟷螂! 左手に新しいルガーを構えなおす。
…右腕は、弛緩してぶら下がったまま…動かない。
私は、トンファを構えて加茂理夜の盾になる!
蟷螂:「馬鹿じゃネエのか、
…ムエタイだか、トンファだか知らねえけどよ、鉄砲に勝てる訳無いだろ!」
破裂音:「…!」
蟷螂の引き金にかけた左手が…
…力を失って、ピストルを床に落す。
蟷螂:「な、…」
加茂理夜:「九九九っ…!」
加茂理夜の眼が、狂喜で潤んでいる!
加茂理夜、…笑いすぎて、息が出来ていない…
加茂理夜:「ひぃ…ひぃ…、くるひい…」
蟷螂:「なぜ、…俺の腕は動かない。」
加茂理夜、笑い涙をこらえながら…
加茂理夜:「お前の身体に20個の小型爆薬を仕掛けたのです。
…私の思い通りに、お前の神経経路を「断裂」する事ができる…という訳なのです。 如何に脳のリミッタを外そうとも、神経が千切れていては筋肉は役に立たないのです。」
蟷螂:「な、んだと…。」
加茂理夜:「絶対的な優位を確信して「ベラベラ」語ってくれたですが…
…全部、今のアンタの「間抜け顔」を見る為の「ドッキリ」だった!…って言ったら、どうしちゃいます?」
加茂理夜:「…自分では、凄く格好良い つもりだったですか?
…あら、もしかして泣いちゃうんですか?」
蟷螂:「何時だ、糞っ!」
蟷螂、必死の形相…
加茂理夜、にやけ顔…
加茂理夜:「最初に捕まえた時からなのです。」
加茂理夜:「まさか、北条一貴を狙ったお前を 私が生かしておくとでも思ったのですか?」
加茂理夜:「だとしたら…、 舌が痒くなるくらい大甘なのです。」
加茂理夜:「まずは、両腕の自由を奪ったのです。
…まさか、それだけで終わりって事はないですよね。」
加茂理夜:「次は…
…心臓を止めて、何分動けるか、試してみましょうか? …それとも、視覚と聴覚と声を奪って真っ裸でどっかの山の中に捨ててあげましょうか? …或いは、首の神経を切って全身麻痺で一生ベッドの中で余生を送らせてあげましょうか?」
蟷螂、破れかぶれで加茂理夜に特攻!
蟷螂:せめて思い切り体重をかけて、その両手首を千切ってやる!!
加茂理夜:「13番。」
蟷螂の体内の小型爆弾が、ぼそりと呟いた加茂理夜の「呪文」を受信…
破裂音:「…!」
蟷螂、…下半身の神経を千切られて、
その場に転がり…、座り込む…、
蟷螂:「……、」
蟷螂、呆然として…顔色が優れない。
加茂理夜:「さあ、次は 従順なペットへの ご褒美の時間なのです。」
加茂理夜:「富士本、お前の好きな様に、
…この女を「ぐちゃぐちゃ」にしちゃいなさい。」
富士本:「……!」
お許しを貰って、…私の肢体が弾け飛ぶ!
親猫から与えられた鼠に飛びかかって戯れ付く子猫の様に…
瞬く間に さっき迄喋っていた「ナニか」が「肉塊」へと姿を変えて行く…。
私は、恍惚のあまり 自分がナニを行っているのか…
とっくに分らなくなっていた。
<直人ターン>
横浜市神奈川区の超高層マンション 35階
4.5畳、女の子の匂いのするベッド…
に寝転んで、僕は携帯の蓋を弄んでいた。
やはり、と言うか、
まさか、と言うか、
部屋のドアは外側から施錠され、
部屋の隅には、溲瓶がわりの洗面器が …畳んだ新聞紙の上に置かれてあった。
部屋の時計は夕方 17時30分を指している。
直人:「退屈だな〜」
富士本さんは、何かを取りに行ったまま戻っていない。
波多さんは、夕食の買い出しに言っているらしい。
教授は、…教授はナニをしているのだろう?
兎に角 僕にはやる事が無い。
そろそろ、学校も終わった頃だよな。
直子は、無事に過ごしているだろうか?
ちゃんと、嫌がらずに「風町」に行っているだろうか?
とうとう、「心配」だから…
僕は携帯の「発信」ボタンに指を触れる。
連続した電子音に続いて…
…
…
…
呼び出し音:「プルルルルルル…」
直人:「どうしよう…、掛けちゃった。」
呼び出し音:「プルルルルルル…」
そうだよな…、
普通、女子が「知らない番号」から掛かって来た電話を取る訳なんて…
仁美:「はい、 もしもし…、森口ですけど…」
直人:って! とるのかよぉ!!!
…しかも、自分から 名前迄名乗るって…
直人:「仁美、お前…迂闊過ぎんだろう!!」
自分で掛けておいて、…なんか間違っているよな、とは思う。
仁美:「直人、…直人なの? アンタ今 何処に居んのよ!」
直人:「いや、ちょっと色々ありまして…込み入ってるので説明出来ないんですが…」
仁美:「大変なの! 直子ちゃんが!」
直人:「直子が、…どうかしたの?」
仁美:「直子ちゃんが! 変な女の人に連れて行かれちゃった!」
そして、
…新しい禁忌の扉が開く。
登場人物のおさらい
富士本佳枝:最強な「巫女」
加茂理夜:凶喜な「陰陽師」
蟷螂:御愁傷様です… 結構人間的な?キャラでしたよね…
香坂竜二:当然、この人が小型爆弾仕掛けたので、「早く爆発させろ!」 って、ずっと加茂理夜に向かって叫んでたんですね…
春日夜直人:主人公、後半では頑張りましょうね!
森口仁美:ヒロイン、後半では頑張りましょうね!




