エピソード11 必勝の戦術
<蟋蟀ターン>
大雄山の林道を1km程 分け入った材木工房の裏手に、深濃のサルビアブルーに全塗装された117クーペが滑り込んでくる。
パッと見た目は35年前の「第三期型四角目4灯」オリジナルそのままだが、…よく見れば此処其処にレストアの痕跡が見られる。
内装のオレンジ本革、メーターパネル&ステアリングのウッド、三角窓を含む外装各所のメッキは全て「特注の新品」に取り替えられており、ホイールはピカピカに磨き上げられたAHPディッシュ&素人目にもフェンダーからはみ出てる極太ミシュラン、G180WE型1.8L直4DOHCは動弁系から主運動系に至るまで完璧にオーバーホールされた、在る意味 かなり「痛い」 車。
当然 助手席に座る「奥様」は、レストア費用の事等 露とも知らない…、
やがて工房の玄関脇に横付けされた車から、2人の男女が降りて来た。
一人は、身の丈は170cm位の中肉中背な男、一応それなりに鍛えられた筋骨をしている…と言う事にしておこう。 面持ちは草食系だが そこそこ二枚目の部類には入る…と言う事にしておこう。 一寸オドオドしてると言うか…、挙動ってると言うか…、プライドが感じられ無いと言うか…。
もう一人は、華奢で黄金比なスタイルの女、身長は160cm位。 瑠璃色がかった美しい髪、芯の強そうな眼差し、神の贔屓としか思えない美貌。 一貴曰く、そこそこ胸はフクヨカらしい。 そしてこの女、…人を惹き付けて離さない独特の匂いを発している。
蟋蟀:「来たよ!」
杉林の木陰からミーアキャットの様に「男の娘」がひょっこり顔を出す。
年の頃は16、7? 背丈は155ほどの小柄で とても綺麗な娘?
タータンチェックの半袖ジャケットにサスペンダーで吊った半ズボンを履いている。 長い髪は頭の両サイドでお団子に結ってあった。
蟋蟀No2:「凄い、趣味な車だなぁ。」
驚いた事に! …別の木陰から、
丸っきり同じ顔の 別の「男の娘」が顔を出す…
年の頃は16、7? 背丈は155ほどの小柄で とても綺麗な娘?
タータンチェックの半袖ジャケットにサスペンダーで吊った半ズボンを履いている。 長い髪は頭の両サイドでお団子に結ってある…?
蟋蟀No3:「狙撃しちゃう?」
又、別の一人がひょっこり! やはり、全く同じ顔、同じ姿…
年の頃は16、7? 背丈は155ほどの小柄で… (以下省略)
蟋蟀No4:「駄目だよ、あいつ、鉄砲の弾 避けるもん。」
またまた別の一人が顔を出す、
…もはや驚かない? 驚く所ではない?
気が付くと、何時の間にか辺りには 10人を超える「蟋蟀s」がピーチクパーチク 喋くっている。
蟋蟀No5:「そしたら、毒ガスとか?」
可愛らしい仕草で、物騒な事を相談する 蟋蟀s…
蟋蟀No6:「あの人達 匂いに敏感だから、直ぐに気付かれちゃうよ、」
何処からとも無く、次から次へと集まって来る。
皆ニコヤカに微笑んで、…緊迫感が無い
蟋蟀No7:「またゾンビを繰り出す?」
更に更に更に、…とうとう 蟋蟀s の数は15人を超える。
蟋蟀No8:「駄目だよ、ゾンビはこの前 全部使っちゃったから、もう焦げカスしか残ってないよ。」
蟋蟀No9:「それじゃあ爆弾はどうかな?」
なんだか楽しそうな 蟋蟀s…
蟋蟀No10:「いいね、」
蟋蟀No11:「一発でばらばらにしちゃおう!」
蟋蟀No12:「強力な奴がいいね!」
蟋蟀No13:「誰が持っていく?」
途端に、しーんと静まり返る 蟋蟀s…
蟋蟀No2:「お前が持っていけよ!」
蟋蟀No14:「やだよ、お前が行けよ!」
蟋蟀No6:「お前が行けよ!!」
蟋蟀No12:「お前が行けよ!!!」
収拾が付かない…
蟋蟀No5:「仕方ないな、僕が行くよ。」
蟋蟀No7:「いいよ、僕が行くよ!」
蟋蟀No15:「いいよ、いいよ、僕が行くよ!」
蟋蟀No3:「じゃあ僕が行くよ。」
蟋蟀No2,4,7,9,11:「どうぞ、どうぞ、どうぞ…」
暫し、沈黙…
蟋蟀No8:「べただね…」
蟋蟀No4:「べただね…」
蟋蟀No10:「べただね…」
蟋蟀No3が
コンバースの筒型スポーツバッグに爆弾を入れて、ひょこひょこ歩いて行く。
蟋蟀No9:「行ったね、」
蟋蟀No4:「行ったね、」
蟋蟀No2:「入って行ったね、」
焼き討ちされたと言う工房内は…
かなり早期にハロンガスと炭酸ガスで窒息消火されており、構造材の破損は免れて 建物自体には思った以上に被害が及んでいない。 床や壁も、十分に修繕可能な状態だった。
一方で びっしりと並べられた高価そうな精密機械類や 怪しい道具の類いは、どれも使い物にならない程に粉砕・溶解・破壊されている。 それらの状態は明らかに火災による破損とは異なっており、いざと言う時に機密を漏らさない為の「非常用の自爆装置」が正常に働いた事を示していた。
一貴、しゃがみ込んで残された手がかりを探る。
…床には 焼け死んだ筈の遺体の一つも残っていない。
文華:「誰かが綺麗に片付けたのかしら?」
一貴:「みたいだね。」
ハロンガスの痕跡で多少は紛れて入るが、
確かに…油と髪の毛が燃えた匂いが、部屋中にこびり付いている。
一貴、一つだけ 無傷のまま残っている棚に気付く、
一貴:「これは何だっけ?」
それは、…最期迄 竜二が必死に護ろうとしていた棚。
掛けられたカーテンは焼け落ちているが、…その下にもう一枚の布? 毛布?
不思議な事にその「毛布」は裾が少し煤けているだけで殆ど損壊が無い。
棚の「自爆装置」が働いていない?
毛布を捲ると…
棚一の中には、びっしりと…
一つずつガラスのケースに収納された…フィギュア が、並べられて居た。
完全に無傷。
一貴:「へえ……」
文華:「竜二のお人形ね…、コレのお陰で 危うく焼け死ぬ所だったのよ…」
一貴、しばし凝視、
一貴:「良く出来てるなぁ」
文華:「もしかして、欲しいの?」
文華、ちょっと 残念そうな眼差し…
一貴:「いや、そう言う訳じゃなくて…ほら、この毛布、凄い遮熱性能だなって、」
一貴、苦し紛れに毛布を手に取ってみる。
…キングベッドサイズ?
娘:「こんにちは…」
2人の前に、可愛らしい「娘」が現れる。
年の頃は16、7? 背丈は155ほどの小柄で… (以下省略)
文華:「あなた…」
お団子髪の「娘」が、にっこり笑う。
一貴:「女の子?」
文華:「男よ、…私も「剥く」迄 分らなかったわ、」
文華:「あなた、逃げ出したんじゃなかったの?
…何で、ノコノコ戻って来た訳?」
蟋蟀No3:「この間のお返しに プレゼント持って来たの!」
そう言うと、スポーツバッグを差し出し…
いきなり爆発する!
…アルミニウム粉塵爆弾!!!!!!!
一気に辺りを蹂躙する火炎!
噴上がる粉塵!
吹き飛ばされて…
………耳が ツーんと 何も聞こえなくなる…
杉林にも吹き飛ばされた「なんかしら」の破片がバラバラと降り注ぐ…
蟋蟀:「凄い音だったね…」
蟋蟀No14:「うるさーい、」
蟋蟀No9:「うるさいねー」
蟋蟀No5:「死んだかな、」
蟋蟀No7:「死んだかな?」
蟋蟀No8:「死んだよ!」
蟋蟀No4:「少なくとも、手足くらいは 千切れたんじゃないかな、」
蟋蟀No11:「それか、目が潰れたとか、」
蟋蟀No9:「見に行こうか、」
蟋蟀No13:「見に行こう!」
蟋蟀No15:「見に行こー」
工房の中は、殆どの内装が吹き飛び、
…アラミド繊維で補強されたガラス窓も全部割れて飛び散っている。
当然だが…フィギュアは…全壊、
ばらばらに粉砕して 部屋中に飛び散った蟋蟀No3の「欠片」、
辺り中に血腥い匂いをぶちまけている…
一貴は、…倒れていた。
奇跡的?に五体満足、火傷も裂傷も軽微、
但し…意識は無い。
文華:「一貴! 一貴!」
文華は、無事???
爆発の一瞬前…、
一貴が 毛布=オーセチック繊維の防爆マント!を展開、文華の盾となって衝撃を防いでいた、
…それにしたって、モロに爆発の衝撃を受けた一貴の体は、ボロボロの筈?
文華、動かなくなった一貴を膝に抱き寄せて 呼びかける。
でも文華、実のところ耳は聞こえていない…
蟋蟀:「なんで、生きてるの?」
蟋蟀No7:「どうして?」
蟋蟀No15:「どうしてかな?」
ゾロゾロと姿を見せる 蟋蟀s…
文華:「あんた達、…何者なの?」
文華、歪んだ泣き顔で 蟋蟀s を睨む、
蟋蟀No2:「もう一発 爆発させようか、」
蟋蟀No10:「爆弾、爆弾!」
蟋蟀No8:「もってきて。」
蟋蟀No4:「今度、誰が行く?」
蟋蟀No7、ミニウージーを構える…
…蟋蟀s 文華を取り囲む、
蟋蟀No7:「良いよ、これで殺しちゃおう!」
蟋蟀No12:「一杯撃てば、一発くらい当たるよ。」
蟋蟀No5:「確実に殺さなきゃね!」
蟋蟀No6:「穴だらけにしちゃおう!」
蟋蟀No13:「穴だらけ!」
蟋蟀s、9x19mmパラベラム弾を乱射する。
<直人ターン>
横浜市神奈川区の超高層マンション
その35階、専有面積、略90平米。
メイン7畳 ウォークインクロゼット付き、サブ4.5畳、和室6畳、リビングダイニング 変形21畳、独立した広いキッチンに豊富な収納、エントランスに備え付けの靴箱も矢鱈素晴らしい。
そしてナニよりも高層マンションならではの眺望!
壁一杯の窓からは、ベイブリッジと東京湾が一望出来る。
直人:「凄いな、こんなトコに住んでる人が…本当に居るんだ。」
見下ろすと…
地上では 蟻粒 みたいな人間どもがウロウロしている。
教授:「そう固くならなくても良いよ。」
そしてこの部屋の主が現れる。
…どこからどう見ても小学生低学年。
富士本:「暫くの間 お世話になります。」
教授:「それは良いけど、何処に寝てもらおうかな?」
富士本:「私は居間のソファーで十分ですよ。」
直人:「えっ? 富士本さんも 此処に泊まるんですか?」
窓から離れて 直人が振り返る…
富士本:「ええ、教授や波多サンも、何時狙われるか分らないしね。 皆一緒に行動してくれた方が、護衛する身としては助かるわ。」
教授:「まあ、元はと言えば、私が持ち込んだ依頼が発端だしな。 春日夜クンには色々と迷惑を掛けている身分だから、…そう言う訳で気にしないで寛いでくれて良いよ。」
富士本:「それに、此処に居れば 直人の治療も出来るしね。」
ゴソゴソとサブルームの片付けを住ませて 身長200cmの大女が出て来る。 柳を編んだオーバルバスケット一杯に詰め込んだ 女物の下着類やら衣服やら、枕やらを抱えている。
…敷居に頭をぶつけない様に苦労しているらしい。
波多:「こっちの部屋を使って下さい。」
ガタイはデカいが、結構可愛らしい顔をしている…
それに、やけに低姿勢・遠慮がちで 声も小さい…
直人:「僕がソファで良いですよ。」
富士本:「駄目よ、直人は此処に監禁されるのだから。」
監禁?? 意味不明…
教授:「うん、滅多な事が起きない様に、外から鍵をかけさせてもらうよ。」
直人:「滅多な事って…なんですか?!」
教授:「一応、窓は 嵌め殺し だけどね。」
直人:「窓って?」
直人、ビクビクする…
和室は 研究室? になっていて、所狭しと本やら書類やらが積み重ねられていた。
実際の所、足の踏み場もない。
教授は、滅多に出歩かないで、ほとんどを この自宅で過ごしているらしい。 大学の授業はインターネットを通じたビデオ会議で行われ、その際にも一般生徒に教授の姿が晒される事は無い。 音声は声変わりのしていない実際の声ではなく、機械を通した、年齢相応の渋い声 に変換されている。
ゼミの学生から そのまま助手になった 波多めぐみ は、何故だか 同棲状態で 教授の身の回りの世話をしていた。 炊事・洗濯・掃除など家事全般からボディガード迄こなし、…実際2mの身長と鍛えられた空手の腕前は大抵の暴漢なら退ける事が可能。
直人:「あの2人の関係って、一体何なんでしょうね?」
直人は、ぼそりと富士本にもらす、
教授と波多は、主寝室の模様替えをしているらしい。
…どんな風に寝るのか、少し興味が有ったり…無かったり…、
富士本:「さあね、大人には、色々な形があるのよ。 …その内 直人にも分るわ。」
富士本、リュックから携帯電話を取り出す。
赤いカシオ製の…2、3世代古い機種だ。…見るからに ゴツい、
富士本:「コレ、直人に渡しておくわ、何か有った時はこれで電話して。」
直人:「監禁部屋の中からですか?」
富士本:「そうよ。」
直人:「何かって?」
富士本:「トイレ行きたいとか…、添い寝して欲しいとか…、」
アドレス帳には「よしえ♡」の一件のみ…
この人の正体が…判らない。
富士本:「チョット病院に忘れ物を取りに行って来るわ、…くれぐれもその間に飛び降りたりしないようにね。」
直人:「僕って、そんなに危ない状態なんですか???」
直人、半泣き…
直人、充てがわれたサブルームにトボトボ引きこもる。
何だか、女の子の匂いがする部屋。
…まあ、波多サンが使っていたから当たり前と言えば 当たり前なのだが、
同じ女子でも、仁美の部屋とは全然違う匂い。
もっと、ファンシーな? パッションフルーツな? 匂いだ。
直人:「おっ、漫画発見!」
ベッドの上に寝っころがって、分厚い少女漫画雑誌をパラパラと 捲ってみる。
直人:「あんまし面白く無い…」
渡された携帯電話を開いてみる…
そう言えば、携帯電話なんて持つのは何ヶ月ぶりだろうか?
ポケットから生徒手帳を取り出し、…「何かの連絡用」だと言って仁美に無理矢理書き込まれた 電話番号を眺めてみる。
直人:「どうしてるかな?」
丁度、お昼休み頃? だろうか。
別に用は無いんだけれど、…折角だから、誰かに掛けてみたい。
ただ、それだけの事に過ぎない。
うん、それだけ…
電話番号を打ち込んで…暫し待機、
…親指が、「発信」ボタンの上をウロウロしている。
直人:「やっぱり、変だよな…いきなり電話かけるなんて。」
直人、溜息…
その時、突然!
…2mの大女が部屋を覗き込む。
波多:「あの、…お昼食べますか?」
直人:「は、はい、…いただきます。」
見晴らしの良いリビングダイビング、 大きなガラスのテーブル。
木の器に、涼しげなソーメンが盛られている。
麺つゆに山葵を溶きながら、何時しか話題は教授の専門分野の事になった。
直人:「そもそも洗脳って何なんですか?」
教授:「すごく大雑把に言えば、本人の利害を無視して強制的に異なる価値観を植え付ける事…かな。」
すごく…判り難い、
教授:「君は何かにハマった事は無いかな?」
直人:「ハマる? …ですか??」
教授:「ギャンブル、趣味、勉強、何でも良い、
…そうだな、最近の若い子供の事例で言うと、…カードゲームってやった事有るかい?」
直人:「トランプとかウノとかですか?」
教授:「いや、もうチョット違う、なんて言ったかな、…パソコンやスマホでやるゲームで、戦ってイベントをこなして行くゲームだ。 それでカードを集める奴、」
直人:「あります。」
…実際、かなりハマっていた。
教授:「最初は、自分のカードはとても弱い。
…イベントも最初は簡単だから、少しずつは進んで行くけれど、だんだん難しくなって来る。 イベントをクリアする為には 自分の「攻撃力」と「ヒットポイント」を上げなければならない。 その為に、自分のカードを鍛える「特別イベント」が有ったりする。」
直人:「はい、そんな感じでした。」
波多サンが、無言で冷えた麦茶を注いでくれる。
…まだ5月だと言うのに、今日は25℃を超える暑さだった。
教授:「全てのイベントでは「行動力」とか「体力」とか言う有限のエネルギーみたいなモノが消費される。 この「エネルギー」は一旦消費されると、一定期間を置かないと復活しない。3分で1ポイント…とかだ。」
直人:「詳しいですね、」
と言うか、見た目小学校低学年の男の子が真面目な口調でそんな話をするのだから、やっぱりなんか…滑稽だ。
教授:「そして、戦いをこなして行くと、時々、違う「カード」を手に入れる事が出来る。 「強敵」を倒せば、「強いカード」 を手に入れる事も出来る。」
教授:「強敵を倒す為に、自分のカードを鍛え、体力の限界値を上げ、次々イベントをこなしていく。」
それから、…教授は一回、ソーメンを啜る。
直人もつられて、一口
直人:「ズズズ…、」
教授:「ところがだ、在る時点で限界に達する。 ドンドン敵は強くなり、自分の成長のスピードでは追いつかなくなる。 もっと強力なカードが手っ取り早く欲しくなる。」
教授:「そこに課金制度が登場する。
…お金を支払えば、より強力なカードが手に入る可能性がある、3%位の確率でだ。「ガチャ」とか言ったっけな? …或は、エネルギーを追加する事が出来る。」
教授:「なに、それ程 大した金額ではない。500円とか、そこらだろう。 …そうして強力なカードを手に入れると、イベントは進め易くなる。」
直人:確かに…、
(作者注:「」無しは心の声)
…実際、金に不自由していなかった直人は、あれよあれよと言う間に30万円位をつぎ込んだのだった、そうして めぼしいカードは片っ端から手に入れて行った。 「ガチャ」でしか手に入れられないカードも在る。 特別イベントは「時間との勝負」だ。 「体力」の自然回復を待っていたのでは絶対に上位に食い込む事は出来ない。 「エネルギー」は幾ら有っても足りないくらいだった。
教授:「ところで、…コノ手のゲーム、往々にして自分のランクが判る様になっている。 …ネットでアクセスして対戦している他のプレイヤーに対して、一体自分がどれくらいのランクなのかが一目で表示される。」
教授:「そして、ランクに応じて「運営」からボーナスが支払われる事も在る。 時には、より強力なカードを手に入れる事も出来たりする。」
教授:「「運営」が差し向ける「強敵」は理不尽に強かったりする。 レベル100とか、無限大とか、…こういうのを「チート」って言うんだっけ。」
ちょっと違う…
教授:「そんな「強敵」が現れた場合、とても自分のカードでは勝てないから、より強いカードを持つ「他のプレイヤー」から「協力」を受ける事もできる。 「協力」した「強いプレーヤー」は皆から「羨望」を受け、運営からは「特別ボーナス」が貰える。」
ここで、もう一口、ソーメン:「ズズズ…、」
教授:「さて、こうして、ある少年が このゲームにはまり、一日の大半をこのゲームの為に過ごす様になってしまった。 学校にスマホを持ち運び、体力が回復する度にイベントをクリアし、より強力なカードを手に入れる為に課金し続けた。」
教授:「結果的に費やした金額は20万円に昇る。 そこで親がとうとう専門家に相談に来た、と言う訳だ。」
直人:20万か、…微妙な金額だな…、
教授:「この少年は 何故 其処迄「時間」と「お金」を たかだかカードゲームに費やしてしまったのか。 何故 其処迄「ハマって」しまったのか。 判るかい?」
直人:「面白かったから? …ですか、」
教授:「そう、別の言い方をすると…「それがとても価値のある事」だと思い込んでしまったからだよ。」
教授:「最初は、格好いい、可愛いカードを集める、ちょっとした暇つぶしのゲームの筈だった。 ところが、そのカードの端についている「星」の数や、「攻撃力」、「ヒットポイント」がとても重要な事の様に感じ始めた。 そしてゲームの「ルールに従っている」うちに、その数値を引き上げる事にのめり込んでしまったんだ。」
教授:「人間と言うのは、面白いモノで、…どんな人間でも、「価値を高める事」に執心する習性がある。 勉強でも仕事でも、趣味でも、何でもだ。 これは、自分の価値を高める事で自分を社会に認めさせて、自分の生存確率を上げる為だ。 本能と言っても良い。」
教授:「カードゲームのルールの中に「価値基準」を見つけ出した少年は、本能の侭に価値を高める行動をとり続けた訳だ。」
教授:「しかし、…本当にこんなゲームの中の「価値を高める事」が、実際の自分の生存確率を上げる事にどれくらい貢献するか、少し冷静になれば判る筈だ。」
直人:つまり、30万円をつぎ込んだ僕って…??
直人、甘酸っぱい思い出に、口が毛虫になる…
教授:「ところが、それに気付けない場合が有る。」
教授:「それまで自分が費やした時間、コレ迄に使ったお金、それら自分の行って来た事を 正当化する為には、自分自身で、その価値を意味の有ること、モノだと納得せずにはいられなくなるのだ。 …自分が自分に価値基準の正当性を信じ込ませるんだ。 つまり、自分は間違っていたとは思いたく無い訳だ。」
教授:「改めて客観的に見れば、このカードゲームの中で強くなる事、強力なカードを集める事は、この少年の人生にどれほどプラスになるだろうか、本当に少年の価値をあげているだろうか、往々にして疑問だ。 要するに、…少年は、実際には大して価値の無いモノを手に入れる為に自分の大切な時間と労力を費やしてしまったと言う事だ。」
直人、赤面…
教授:「コレが、洗脳の一例だ。」
教授:「勿論、運営側に明確な悪意は無いだろう。 しかし、人間の「ハマる」という本能を刺激して利益を得ようとしていた事は事実だ。 少年を楽しませようとした事は事実だ、 そしてそれは悪意ではない。」
教授:「危険なのは、人間はハマる事が楽しいと言う事だ。 実際の価値が上がる事が楽しいと言うよりは、価値をあげる為に行動する事が楽しいのだ。 動物は、そうしなければ、価値をあげる為の「面倒くさい行動」を実行しないからね。 結果として、少年は「実際に価値が上がっているかどうか」は二の次になって、「ハマって行動し続ける事」を止められなくなってしまったのだ。」
教授:「この人間の特性を利用して、自分の都合の良い価値観を他人に植え付ける…と言うのが悪意在る洗脳の手口の一つだ。」
直人、麦茶を一口…
直人:「それじゃ、「洗脳」なんて、そこら中に溢れているんですね。」
教授:「そうだよ。 …自分の価値を高める為に他人を有効利用する手段としては「洗脳」はかなり優れたメソッドだと言えるからね。 意識的にせよ、無意識にせよ、多くの人間や団体は「洗脳」をテクニックとして利用している。」
教授:「…だからこそ、人は自分で「価値」を考えないとイケナイんだ。 さもないと、本当に自分にとって大切な事とは全く関係のない事に、自分の「大切なモノ」をつぎ込んでしまう事になってしまう。」
いや、こんな高層ビルの35階に住んでいる大学教授に言われてもな〜
…とは、口が裂けても言えない 直人であった。
登場人物のおさらい
春日夜直人:主人公、現在「洗脳」されてます。
教授:「洗脳」を専門とする先生
波多めぐみ:教授の助手、色々お世話係
北条一貴:草食系ヒーロー、現在失神中
北条文華:一貴の嫁、ツンデレ
蟋蟀s:敵、いっぱい居る。 でもクローンでは無い。 獲物はミニUZI 口径9mm 使用弾薬9x19mmパラベラム弾




