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エピソード10 脅威の前兆

<鼎ターン>


都内に在る 極一般的な公立高校。 通称 南高校。

極一般的な生徒と極一般的な教師が通う、極一般的な進学校である。


H型をした4階建ての鉄筋コンクリートは一般授業棟と専門授業棟に別れており、その中央を渡り廊下で結ぶ、昔ながらの極一般的なスタイルの校舎、専門授業棟は校門に面し、一般授業棟は校庭グラウンドに面している。


しかし、少子化で減った生徒を受け入れるには教室が多すぎる為、文系の専門授業教室は一般授業棟へと統合され、空いた専門授業棟の教室は購買部、職員室、生徒会、それに一部の文化系の部活動に開放されていた。



その一画、普段は予備の什器じゅうき置き場として使用されている筈の教室で、一人の男が何やら怪しげな作業を進めている。



その男、170cmを超える身なりは清潔に整い、落ち着いた物腰と優しそうな眼差し、

歳の頃は40を過ぎた頃だろうか、パッと見は「能のおきな」の面容に似ていなくも無い。 隠密に事を進めている辺り、当然 学校の関係者では無い。


時刻は朝の7時40分、そろそろ生徒達が登校し始める時刻である。 既に隣接する「地学部」の部室からは早朝の太陽黒点観測から戻って来た生徒達の雑談が聞こえている。




やがて、にわかに校門の方が騒がしくなる。

男は作業の手を停めて、4階の窓から眼下の喧騒を確認する。



紳士:「さて、いらっしゃいましたか…。」

女:「あぅ!」


突然!

教室の隅で、女が 頓狂とんきょうな声をあげる。 …ミットモナクよだれを垂らしている辺り、確実に居眠りしていたモノと思われる。



その女、パッと見の「華」は無いが 綺麗な顔立ちで、ちょっとセンスの良い白のブラウスに濃紺の膝丈スカートを合わせた優等生的出立ち。 全身から「皆が幸せなら私の事は良いから」オーラを発散しまくっている。 優しく健気な「少女漫画の主人公」的雰囲気の持ち主。 こんな処で寝ている辺り、当然 学校の関係者では…無い。



紳士:「お嬢様、そろそろ ご出陣のお支度を…、」

女=少女漫画:「はひっ! スミマセン…、」


突然!

廊下を歩く生徒が、女の声に気付いて教室の扉を開けて 中を覗く。

…腕に「風紀委員」の腕章を付けている。


紳士と少女漫画は、慌てふためくでも無く、にこやかに「風紀委員」を見つめ返す。



暫くすると、

…「風紀委員」は自分の「空耳」か「勘違い」だと納得したのだろうか、何事も無かった様に教室の扉を閉めてその場を立ち去って行った。



少女漫画:「さあ、かなえサン、いよいよお仕事の時間ですね。」


少女漫画=度会万絢わたらいまあやは 

…優雅に立ち上がり、上品に微笑む。



鼎:「お嬢様、お口に涎が付いております。」

万絢:「あへぇ……、」







<直人ターン>


改めて繰り返す程の事でもないが、此処 南高校は 極一般的な家庭の生徒が通う、極一般的な進学校である。


だから、朝の通学時間に 黒塗りの高級外車が校門に横付けされていれば、 …普段ならざる事態に 見物人が物珍しさに集まって来たとしても、まあ致し方ない事である。


しかし、パッと見はチョット怖い系の人達が好みそうな 黒いメルセデスベンツ。

… 人垣と言うよりは遠巻きと言った方が近い。



女子1:「なになに、何かの撮影?」

女子2:「どっかの金持ち?」


ただならぬ事態に とうとう教師が駆けつける。

背広姿のチョット男前なシニア、厳しそうな表情をしている。



数学教師=田中:「すみません。 どちら様…ですか?」


でも、どうしても 弱腰な物言いになってしまう…。



左側のドアのウインドウが降りて、

運転していた女が顔を覗かせた途端、「真面目」・「堅物」で通っていた筈の数学教師=田中清、妻子持ち42歳…の 時間が止まる。


富士本:「ごめんなさい。 車、何処に停められますか?」



その女、腰迄伸びた長い黒髪のグラマーな女性、モデル体型。 まるで、西洋のアンティーク人形が日本人形の格好をした様な雰囲気…、清楚、可憐、と 色香が 同居している。


…田中清、妻子持ち42歳、 暫し 見蕩れて 絶句する。



直人:「先生、お早うございます…。」


右側の助手席から男子に声をかけられて、

…田中、ようやく見知った生徒の存在に気付く。



田中:「か、すが夜…君か?」


数学教師、我に帰って 咳払い、



田中:「此の方は、その、君の、ご家族の方? …な訳無いか。」


多少、声が裏返っている。



富士本:「そうですね、特別な関係のお友達…と言う事で宜しいですか?」


モデル体型美女がクスリと微笑む…、



田中:「お、友達?」

田中:「特別な関係??」


田中、自分の眼と耳を…明らかに疑っている。



直人:「富士本さん、余計にややこしくなるって…」


直人、軽く溜息。



直人:「僕、恥ずかしいから 此処で降ります。」

富士本:「そう、じゃあ、直子ちゃんを捕まえて 何処かで合流しましょう。」


右側のドアが開き、

黒の上品な本革シートから 春日夜直人が滑り降りる。


その少年、160cmあるかないかで長身と言う程でもないし、どちらかと言えばメタボ体型、運動神経には全く自信が無いし、顔も平面で一重のつり目、お世辞にも格好良いとは言えない。


最近 怪しい組織に「催眠暗示」を掛けられて、心身共に病んでいる…。




直人:「職員室の前が解り易くて良いと思います。 校舎入って一階の真ん中辺りです。」


富士本:「判ったわ。」


富士本、改めて 立ち尽くす田中清に視線を送る。



富士本:「先生、駐車場まで ご一緒して頂けますか?」

田中:「はひ、…喜んで!」


数学教師の名誉の為に言っておくと、

この時 既に 42歳・妻子持ち は「蠱惑こわく」と呼ばれる 精神支配術 にかかって 自分の意思とは全く無関係に……、(以下省略)







直人:「ふぅ…、」


メタボ体型の平目顔主人公、足を引き摺る様にゆっくりと歩いて行く。


脳のリミッターを外して「100%筋力」で富士本に襲いかかったのが3日前、…全身の筋肉繊維は直人の人生で かつて無い程に損傷し、現在 鋭意再生中… 要するに極度な筋肉痛状態である。


…実の処、歩くのも辛い。



そんな直人の背中を、男子生徒が思い切りひっぱたく!


鏡:「よお! 春日夜、 今の何だよ、誰だよ、すげー車だな、すげー美人だな、」



当然、HPに深刻なダメージを受けてその場にへたり込む直人

…を見下ろす 友人?の瞳は、GWの全ての楽しい出来事が一瞬で払拭された位に「キラキラ」輝いている。



クラスの女子=宮崎:「本当、綺麗な人だったわね。 田中の顔 見た?」

鏡:「見た見た、あいつ 噂通りの「ムッツリ・ダンディ」だよな。」


鏡、手を差し伸べて 何時迄も立ち上がれないでいる直人を助け起こす。



鏡:「悪かったって! 何 ねてんだよ。」


直人:「色々あってさ、今 身体ボロボロなんだよ。」

宮崎:「ボロボロって? …まさか あのお姉さんと!」


少し背の高めな女子クラスメイト、何故だか頬が赤く染まる…



鏡:「それにしても、一体何処で知り合ったんだ? 今度紹介してくれよ。」


友人?、いきなり肩を組んで 直人にかかる!



直人:「あうっ…」


背中の筋肉がビリビリと悲鳴を上げる〜。



直人:「ちょ、ちょっと、シャレになってない…」


鏡:「何だよ、大袈裟だな…」

直人:「いや、マジで 今 全身 肉離れ中なんだ、お願い…赦して、」


宮崎:「全身肉離れって? …貴方達 一体、どんな体位で、」


直人、マシュマロの様に柔らかな感触を思い出して…赤くなる。

女子クラスメイト、口元が緩んで…涎が、



鏡:「マジかよ〜」


友人?、寂しそうに…遠くを見る様な眼で、







そんな「よれよれの体」で 上履きに履き替える 直人の腰に、


いきなり!

女の子が駆け寄ってきて…タックル! する。



直子:「お兄ちゃーん!」


当然、HPを使い果たして、その場に崩れ落ちる 直人

…に騎乗位になって 見下ろす 妹?の瞳は、…何故だか涙で潤んでる??



直子:「聞いて! お兄ちゃん、仁美が! 直子を酔わせてエッチな事したんだよ。」


その美少女、身長128cm、華奢で中性的な肢体。 傷一つ無い端正な小顔は透き通る様に白く、長い睫毛に大きくて深い瞳、ウェーブした艶やかな髪は腰まで届く豊かな長髪、 そして潤った唇。 まるで造り物の様に一点の欠陥も無い美少女。


バスト65(本人申告値)と判明…、



直人:「襲うって…何?」


仁美:「ああっ、馬鹿直人! 一体 今迄何してたのよ。」


突然、体育会系女子が駆け寄って来る。


その女子、身長は155〜160cmくらい。 トランジスタグラマーなボディからは 大人になりかけた女の色香が匂い立っている。 地味目な顔は ふちい眼鏡と左右に束ねたお下げの所為せい、でも 大人しそうな雰囲気に隠された うるんだ瞳とうるおった唇には 男子のハートを一撃で射止めるのに十分すぎる威力が秘められている。



直子:「お兄ちゃん! 助けてぇ、」


直子、満身創痍の兄をトーチカ代わりにして、隠れる…



仁美:「直子ちゃ〜ん! そんなぁ、何にもしないってばぁ、…こっちおいでよ。」

直子:「嘘、直子に悪戯したくせに!」


直子、濡れた子猫の様にブルブル震えている。



直人:「仁美、お前一体何したんだよ。」

仁美:「アンタが居ない間、私が代わりに構ってあげてただけよ。」


直子:「私を抱き枕にしたんだよ。 それで、色々…擦り付けて…無理矢理…」



鏡:「森口って、後輩女子の面倒見良いって思ってたけど、…そう言う事だったのか。」

宮崎:「委員長って、百合だったんだ?」


クラスメイト達、異質なモノを見る様な眼差しで。

…かなり、ひいてる?



仁美:「ば、馬鹿、違うって、 そんな訳ない、って…」


仁美、言いつつも…自信無さそうな視線で直子を見つめる…

直子、再び貝の様に兄の背中にしがみ付く…



仁美:「…かく! 直人、全部アンタの責任だからね、後でキッチリ借りは返してもらうわよ。」


直人:「ええぇ…、何か意味不明に理不尽なんですけど…」


仁美:「直子ちゃん、又ね〜」

直子:「やだぁ、もう行かない! 絶対仁美ん泊まんないから!」


仁美、逃げる様にその場を立ち去る…

直子、直人に隠れながら、べーっと舌を出す…







特別授業棟一階 応接室

通常は校長や教頭が外部の人間と面会する為に使われている  その部屋に、 富士本佳枝、春日夜直人、朝比奈直子の三人が集っていた。


既に、一時限目の授業は始まっている時刻だった。



富士本:「どう、何か変わった「モノ」は見える?」


僕は、上半身裸の状態でソファーに腰掛けた直子の前に立っている。 …直子は、華奢な指先で僕の素肌に触れながら、心配そうに僕の顔を見つめていた。


GW中、僕が傷つけた直子の指の傷は、まだ痛々しく包帯に包まれたままだった。



直子:「はい、胸の、 多分心臓の辺りから、小さな、紅い水晶ミタイナモノがえていて、そこから血液みたいなモノが沁み出して来ています。」


直人:「生えてるって…」

富士本:「下半身の方はどうかしら?」


僕は、胸から何かが生えていると言う重大事をスルーされた以上に 2人の女性の話題が下半身に移って行った事に慌慌パニックする…



直子:「お兄ちゃん、早くズボン脱いで。」

直人:「ええっ! 恥ずかしいよ。」

直子:「しょうが無いでしょ。」


何故だか、妹が「お姉さん目線」で僕を睨みつける。



富士本:「恥ずかしければ私は外に出てましょうか?」

直子:「平気です。 …お兄ちゃん 今更ナニを恥ずかしがってるのよ。」


確かに、今更この2人に隠すモノ等…何も無かったのだ。

僕は、渋々トランクス一丁になる。



直人:「うう、何だか 苛められてるみたいだ。」

直子:「本当は嬉しいくせに…。」


直子、ちょっと不機嫌そうに 富士本をチラ見する。



直子は僕をその場でぐるり一回転させて、両足の隅々を観察する。

直子、何だか顔が赤い。


一瞬、躊躇する様な「間」を置いて、



それから、直子は僕のトランクスを引っ張って中身を覗き込む。


直子:「あっ!」

直人:「何、何か変?」


直子、生唾を飲み込む。



直子:「ううん、特には変な所は無いみたい…だけど。」


直子、顔が火照っている。



直子:「裏側も…調べとこっか、」


直子、トランクスの中に手を突っ込んで…



直人:「へっ? …あっ…、」


直子、冷たい指で 僕のナニをナニしながら… 上目遣いに 僕を見つめる。



直人:「な、お…駄目だって…、」


僕の切なそうな顔を見て 征服感を感じたのか、

直子、意地悪く クスリ と笑う。



直子:「はい、もう御仕舞おしまい。」


いきなりトランクスから手を抜いて、

それから、粘液で濡れた指先を …ぺろりと舐めた。


直子、ほおけた 顔で、…ラリッてる?




僕の妹=直子は、つい数週間前迄、強烈な呪縛に捕われていた。

実の母親の死の不憫を自分の責任だと感じ、産みの母親の不実の遺産を自分が引き継いでいると感じ、そんな酷い事が出来る自分は「壊れている」、「穢れている」のだと思い込んでいた。 生きていない人間が見えるのも、気のれた人間の様な事が出来るのも、そんな呪われた生い立ちの所為せいだと信じ込んでいた。


今から5年前、

直子の父親は、直子がマトモな生活が送れる事を願い、「陰陽師」と呼ばれるモノ達の力を借りて あるがままの直子自身を「封印」した。 他人から押し付けられた直子の「人格ペルソナ」は、心の奥底から叫び続ける「本来の自分」に怯えながら暮らし続けて来た。


そんな時に僕たちは出会った。

同じ産みの母親を持つ僕たち兄妹の出会いは 拘束され続けた「本来の直子」を活性化させ、「封印」を壊してしまった。 直子は僕の「血を連想させるモノ」を摂取する事で、安堵し、開放され、エクスタシーに達する様になって行った。


その後、

僕は 富士本佳枝 の呪法の力を借りて、「穢れ」て「壊れ」たままの直子の存在を承認し、産みの母親に実際に会う事で 直子は「2人の母親」に対する「誤解」を払拭する事ができた。 



それで、直子は「ありのままの自分」を赦し、普通の生活が送れる様になった筈なのだが…


相変わらず、

僕の体液に対する依存性は失われていなかったらしい…。




直子は 枯渇していた成分を補給して うっとりと、幸福感の余韻に浸っている。

僕はそんな妹の火照った顔を眺めながら、やるせない気分で 深く嘆息たんそくする。


中途半端に放置された「健康男子」は…どうすれば良いと言うのだ。



富士本はそんな2人の複雑な状況を知ってか知らないでか …教室の隅から 一回「咳払い」した。



富士本:「そろそろ行きましょうか。」







<万絢ターン>

お人形さんの様な美少女が、下駄箱の前でお兄さんを見送っている。

その仲睦まじい光景を、 私は、こっそりと物陰から覗く。


万絢:可愛い娘…



直子:「お兄ちゃん、早く良くなって下さいね。」

直人:「ありがとう。 何だか色々物騒だから、直子も気をつけるんだよ。」


直子:「直子の最大の危険は仁美だよ。もう「風町」に行かなくても良い?」

直人:「しょうが無いな。」


すらりと姿勢の良いシルエットの女性が2人の会話に割って入る。


万絢:相変わらず美人ね…



富士本:「ごめんなさい直子さん。 私達の所為で貴方達兄妹は、何時襲われるか判らない危険な状態にあるの。 付きっきりで護衛してあげられれば良いのだけれど、こちらにも手数に限界がある。 不便をかけて申し訳ないのだけれど、暫くは「風町」に身を寄せて貰えないかしら。」


直人:「直子、僕からもお願いするよ。 直子に何か有ったら、僕だって暢気のんきに治療なんてやってられないからな。」


直子、不満そうな顔で上目遣いする…



直子:「判ったぁ。 何とか貞操は護り通すよ…」

富士本:「それじゃあ、又3日後にお願いするわね。」


直子:「お兄ちゃん、早く帰って来てね…。」




学校を後にしたお兄さんと富士本さんを見送り、

…美少女が振り返って廊下を歩き始める。


直子:「あ〜あ、今日はもう帰っちゃおうかなぁ…」



万絢:「よし!」


私は…、一回だけ大きく深呼吸して、「せいの」で、廊下に飛び出した!



直子:「あっ!」


慣れないスリッパが何かに引っかかって?

…私は 思いっきり廊下にスライディングする。



万絢:「いたたた、」


シコタマ胸を打撲した。

無い胸がこれ以上凹んだらどうするんだぁ〜!



直子:「大丈夫ですか?」


美少女、近づいて来て、私に手を差し伸べてくれる。

…優しい。



万絢:「ウン、大丈夫〜。 ありがとう。」


私は半べそをかきながら、起き上がる。

よし、仕切り直し!



万絢:「朝比奈直子さんですね、」

直子:「はい、」


美少女、キョトン顔。



万絢:「初めまして、私は今日から貴方が暮らす寮の、管理人さんです。」

万絢:「わたらいまあや…って言います。 宜しくね!」


私は、元気よく握手の手を差し出した。



美少女、キョトン顔。


直子:「はい?」













<蟷螂ターン>


誰かが、優しく俺の手足を支えてくれている。

俺の頭の中では、相変わらずお気に入りのジャズがリズムを刻んでいた…。


なんて、心地よい一時なのだろう。

俺は涎を垂らしながら、虚ろに闇を見つめている…。


全身を包み込む痛みが、俺の生存を伝えていた。


一体どれ位の間、こうして安らいで居られたのだろう…

やがて世界のふたが開き、ギラギラした感覚が俺を現世うつつよへと引き戻す…。



俺の脳に埋め込まれた「SHARE-WC」が、俺の意識をリスタートさせる。

前回のセーブポイントまでの状況を確認する。



下衆な男:「仕事だ…」


何時か、何処かで見た様な下衆げすな男が、見下す様な視線を俺に投げ掛ける。

実際には 俺はベッドに拘束されており、手も足も、首も動かせない有様だった。 特殊なプラスチック製の猿ぐつわを噛まされ、目隠しをされているので、そんな男の表情を見る事等出来る筈が無い。


でも、俺には その下衆な男の行動、仕草、表情、言葉、思いの全てが手に取るように判る。 そもそも この男は、俺の脳に投影された「幻覚」に過ぎないからだ。



下衆な男:「手子摺てこずっている様だな。 加茂の名を侮るからだ。」

蟷螂かまきり:「なに、コレくらいの事態は想定の範囲だ。」

蟷螂:「全員の顔は覚えた、後はやり返すだけだ。 なんて事は無い。」


下衆な男:「何か必要なモノは有るか?」

蟷螂:「いい、持ってる。」


男は、一刻も早くコノ場を立ち去りたい…と言った風に息を殺して目を背け とうとう我慢出来なくなって後退あとずさる。



下衆な男:「それでは健闘を祈る。 期限を忘れるな。」

蟷螂:「分っている…。」




それから、おもむろに目隠しが外される。

次第にはっきりとして来る視点の先に、一人の「男の娘」が居て、俺の事を覗き込んでいた。


蟋蟀こおろぎ:「お待たせしましたー。」


程無く、俺の拘束は外されて、

俺は全身の稼働状況を確かめる…。



蟋蟀:「「北条一貴」と「北条文華」は 香坂の工房を確かめに行ってまーす。 「富士本佳枝」は春日夜直人の護衛で学校に向かいましたー。 現在この建物に残っているのは「加茂理夜」と「香坂竜二」でーす。」


俺は、全身に巻かれた包帯を外し、彼方此方あちこちに付けられた切開、縫合跡を眺める。



蟷螂:「あいつ等、俺の身体にナニをしやがったんだ?」

蟋蟀:「全身くまなく調べられたみたいですねー。 向こうの部屋に摘出された自爆装置が置いてありましたー。」


蟋蟀:「あのまま殺してくれていれば お腹に仕込んだ毒ガス爆弾を破裂させて一網打尽に出来たのにね。」


男の娘は綺麗な顔でクスクスと笑う。




蟋蟀:「この施設の監視カメラの記録映像から「富士本佳枝との戦闘履歴」をチェックしましたー。」


蟷螂:「「幻影の巫女」か、何故奴にはピストルの弾が当たらない?」

蟋蟀:「現実の位置と実際に見えている位置にはおよそ120度のズレがありましたー、…彼女は斜め後ろで踊っていたんでーす。」


蟷螂:「ふーん、」


俺は、蟋蟀が用意して来た服と武装を身につけて、

手に馴染む「ルガーLCP」の感触と匂いを確かめる…。



蟋蟀:「毒針を仕掛けていたのは「北条一貴」でしたー、完全に存在を意識させないように隠れて居たようでーす。」


蟷螂:「ステルスか、奴は。 そう言えば、あいつは何で俺の狙撃を避けられたんだ?」

蟋蟀:「簡単でーす。 鉄砲の弾はまっすぐにしか飛ばないからでーす。」




蟋蟀:「さてと、第2ラウンドと行きましょー。」


「男の娘」は和やかな顔で握りこぶしを突き上げる。



蟷螂:「今度は罠を仕掛けてみるか。 先ずは、餌を捕まえるぞ。」

蟋蟀:「了解でーす!」




俺は、ティンバーランドの紐をキツく結び、

ゲル状の栄養食品を一気に腹に飲み下しながら、立ち上がる…。





登場人物のおさらい

春日夜直人:主人公

森口仁美:ヒロイン

その他大勢:脇役…の筈、、

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