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エピソード4 最弱の式神

<直子ターン>


GW連休再開、憲法記念日

小田原駅9番ホーム、お昼ちょっと前の眩しい日差しから逃れる様に、白い車両が日陰に滑り込んで来る。


どやどやと電車から零れ出す乗客の群れの最後尾に…見るからに疲れ気味の男女が続く。

一人は、数日前に野良犬に襲われて全身包帯だらけの高校生男子。

一人は、理由はトモアレ寝不足の高校生女子、こっちが私 朝比奈直子。


私達は「恋人」且つ「兄妹」なのだけど…残念ながら今日はGWデートでは無い。


ほんの一週間程前迄、私は有る病気?体質?の所為せい洒落しゃれにナラナイ位 落ち目な人生を送っていた。 それを見事解決してくれた「とあるコンサルタント」に会うのが今回の目的だった。 主にコンサルタント代金の請求書を受け取りに来た訳だけど…



お兄ちゃんは最初一人で来るつもりだったらしい。 でもフラフラの怪我人を一人で行かせる訳には行かない…言って見れば私は付き添いみたいなモノだ。


ワザワザ少し早目に家を出て、プラプラ小田原の街をデートしようなんて事は…お兄ちゃんには言っていない。


つまり…この全身包帯男子が私のお兄ちゃん、春日夜直人クンなのである。



兄妹なのに何故苗字が違っているか???

それには色々と複雑な事情が有るのだけれど、話すと長くなるのでまた別の機会…、







小田急線の改札を出て直ぐに、私は奇妙なモノを発見する。

JR改札口の上空5メートル?に巨大な蛇腹の筒?看板?が浮かんでいる。

…巨大な文字で「小田原」と書いてある。



直子:「お兄ちゃん! あれ何?」

直人:「ああ、小田原提灯って奴だね、…駅の名物なのかな?」


成る程、浅草寺の雷門にある提灯の親戚みたいな奴だ…。

まあ、大体予想は付いていたのだけれど、こう言う小忠実こまめな話題の振り出しがデートには重要なのである…モノの本によると。




直子:「面白—い。 大っきいね…お兄ちゃん。」


お兄ちゃんはチラリと時計を確認する。

私は、お兄ちゃんに悟られない様に「にやり」と笑う。



直人:「お腹空いたか?待ち合わせ迄少し時間有るし、どっかでお昼食べて行こうか。」

直子:「うん! 何が良いかな。」


その通り!

…時刻表を元に綿密に計算された私の行動計画(マル秘)通り!


今やまさにお昼 一寸ちょっと前の11時30分位。 今ならどの店も未だ混んでないし、コンサルタントとの打ち合わせの後だとお昼には遅くなりすぎるし、 丁度お腹が空く様に今日の朝ご飯は早めのニューメンにしたし!


…さあ、お兄ちゃん!

…デートの基本中の基本…「ご飯」を食べに行きましょう!



直子:「小田原で美味しいものって言えば…」

直人:「あっ、彼処あそこにフードコートっぽいのが有るよ。」


…って、可愛い妹の話聞いてませんね、お兄ちゃん!

…折角のデートなのに、フードコートですか!



直人:「見て、美味しそうなウドンが有るよ。 なんか本格的っぽい?」


…本格に「的」に「ぽい」ですか? どんだけへりくだってるんですか?

…というか、朝「ニューメン」で昼「ウドン」ですか?

…まあ、そういうお子様っぽい所も可愛くて好きだから、許してあげますけど!



直子:「本当ほんとだ、…ねえねえ、私 彼処の焼きそば食べても良い? 」

直人:「うん、あれも美味しそうだね。 はい、コレでお金…足りるかな?」


お兄ちゃんが財布から千円札を取り出して私にくれる。

4月分のお給料が入ったらしい。

あの、忌忌いまいましい淫乱女もりぐちひとみのバイトだけど…一応 ありがとう。



直子:「じゃあ 後でね。」



と言う訳で、私はお兄ちゃんと別れて…先ずは自販機で食券を購入。

「ぼっかけオムそば」の「中」。



おばちゃんに食券を渡すと、その場から鉄板で焼き始める。


先ずは、煮込んだ牛すじ肉とコンニャクを鉄板でジュージュー、

香ばしいドロソースをキャベツと太めの焼きそば麺に絡めてジュージュー、

仕上げはフワフワの卵焼きをオムレツスタイルにトッピング、

「中」なのに結構ボリューム大きい、



おばちゃん:「ソースとマヨネーズはお好みでかけてね、」

直子:「ありがとう。 美味しそう…。」




お水はセルフサービス。

当然 お兄ちゃんの分も持って行ってあげるのが「彼女」の役目。


お兄ちゃんが、先に席を取って待ってくれている。



直子:「お待たせ、早かったね。 …天ぷらウドンにしたんだ。」

直人:「うん、竹輪ちくわ天ぷら 美味しそうだったから、」


直子:「ねえ、焼きそばも美味しそうだよ、食べてみる?」

直人:「良いの? じゃあ、一口だけ。」


おもむろに「オムそば」に箸を突っ込もうとするお兄ちゃんを、

当然、私は制止する。



直子:「駄目だーめ、私が食べさせてあげる。」


オムレツごと焼きそばを取り分けて、

ワザとらしくフーフーする。 これ、きっと重要。



直人:「何だか、恥ずかしいよ…こんな処だと。」

直子:「はい、あーん。」


…お兄ちゃん! こんな処を選んだのは貴方ですよ!



直人:「あーん。」


ゆっくりとお兄ちゃんの口から箸を抜き取り、

そのままダイレクトに私の舌の上に関節キッス!

かすかに箸に残る、お兄ちゃんの匂いを愛おしむ。



直子:「どう?」

直人:「美味しい! なんて言うのかな、濃厚! 優しくて濃厚な味。」


直人:「ウドンも食べてみる?」

直子:「うん、でも お兄ちゃん先に食べて、冷めない内に。」


そして、お兄ちゃんの唾液まみれになったウドンのつゆを、頂戴!




何だかお兄ちゃん、幸せそう、

良かった、私の「思い過ごし」なら、それが一番!


…この焼きそば、マジで美味い!







駅ビルを出て直ぐ、再び私は奇妙なモノを発見する。



直子:「どうしてこんな所に? 小便小僧?」


しばし立ち止まる二人、

因にこの小便小僧は昔、大名行列の前で立ち小便をしていたと言う子供が居て、如何に大名様と言えども天真爛漫な子供の前では何の威厳も無いのだ…という故事に基づいて 本場ベルギーで製作されたモノを小田原に持って来たらしい…と言う所迄は予習済み。


重要なのは…



直子:「お兄ちゃんのと同じくらい?」

直人:「ば、馬鹿! もっと大きいって!」

直子:「いい子いい子すると おっきするんだよね、」


…そう言って私は可愛らしくニヤニヤする。



そう! デートにおいて何よりも重要なのは…この様に取りこぼし無く「フラグ」を立てる事!…の筈、


モノの乙女ゲーによれば…だけど。



その後も私は綿密な計算通りの道順で「フラグ」を拾い続ける…




東口交差点近く

調剤薬局??


直子:「ウイローって小田原が発祥なんだ。 しかもクスリ屋さん。」

直人:「名古屋の名物だから名古屋かと思ってたな、」


直子:「私ウイロー結構好き、…特に甘くてニチャニチャするとこが。」

直人:「買っていく?」

直子:「うん。」

直人:「じゃあ、帰りにね。」


直子:「妹としては、一度で良いからお兄ちゃんがニチャニチャした後の奴を食べてみたいと思うのですよ。」

直人:「いや、それはもはや「どろどろの何か」じゃないのか?」

直子:「「ぬるぬるの何か」ネ、」




小田原城のお堀端、

橋の上から群がる鯉を見下ろす。


直子:「見てみて! お兄ちゃん、ほら、あんなにパクパクしてるよ。」

直人:「何を想像してるのかは、…敢えて聞かない事にする。」

直子:「今晩試してみよっか!」




そしてようや城址じょうし公園に到着する。

当然、私はお兄ちゃんの手を繋いで歩く。



直子:「見て、葉桜…すっかり葉っぱだね。」

直人:「ああ、春も終わりだな。」


直人:「結構階段登るんだな、」

直子:「お兄ちゃん、運動しなさ過ぎ! ほら見て、お城だよ。」


大きな黒い門をくぐると、お城の庭に出る。



直子:「見て! お猿さんが居るよ、動物園になってるんだぁ!」


勿論、当然予習済み!

昔は此処に象やライオンも居たらしい。




直子:「お兄ちゃん、お城の裏に遊園地があるよ。」

直人:「直子くらいの子が遊ぶ奴ね…」

直子:「酷—い、直子これでも大人なんだからね。」


私の身長は大体130cm、高校生としてはチョットだけ小さい。

…いや、結構小さい。


コレは、私にとっては結構コンプレックス。

胸の次位にコンプレックス。


まあ、お兄ちゃんの発言に悪気は無い。

むしろ悪気が有ったとしたら、それはそれで苛められてるミタイで何だかゾクゾクするかも…



直子:「でも…、」

直人:「ミニ汽車に乗りたいんだろう?」

直子:「一周だけしよっか! ねえ〜折角せっかく来たんだから〜」


当然、演技。

…妹は何時でも 可愛く素振そぶら無ければならないモノなのだ、きっと。




お兄ちゃんが時計を確認する。


直人:「もう、待ち合わせの時間だ、そろそろ行かないと。」

直子:「何処で待ち合わせなの?」


直人:「お城の階段の下…、」



何時からだろう、何時の間にか?

…其処には、一人の女性が立っていた。


瑠璃るり色がかった長い髪、芯の強そうな眼差し、華奢スレンダーで黄金比なスタイル、神の贔屓としか思えない美貌…そして人を惹き付けて離さない独特の匂い。


北条文華、「加茂・萬祓いモノ相談室」の敏腕コンサルタント。


彼女は もう、ずっと前から…

…私達を見ていた? 見張っていた??











突然!

お兄ちゃんの身体から、湧き出すように無数の蛇たちが現れる!


当然、これは本当の蛇ではない。 …只の「幻覚」だ。


私の特別な「体質」、これまでの私の人生を滅茶苦茶めちゃくちゃにしていた特殊な「能力」、それが この「幻覚」を見る力。 



私には、普通の人に見えないモノが見える。

生きていないヒトや、動物、妖怪、お化け、悪魔、幽霊…


まるで普通に其処にいるかの様に見えるのだけれども、それは「実在する生き物」ではない。 不安、期待、そう言った「ヒトの心の欲求」が、「霊的なモノ」として私には知覚出来る。


怨念、後悔、既に其処には居ないヒトの残留思念の様な「説明のつかない不吉さ」ですら、私には形有るモノとして捉える事が出来た。



時折、人形が喋り出す。

時折、巨大な昆虫が目の前を横切って行く。

時折、実在する筈の無い死者が屋内外を徘徊する。


そうした幻覚達は、コレ迄の私の生活をままならぬモノにして来た。

自分は、きっと壊れているのだと ずっとそう思っていた。



北条文華は、私のこの力は、大昔の人間が持っていて今は失われてしまったコミュニケーション能力だと説明してくれた。 決して、恐ろしいモノではないのだと教えてくれた。


そして、お兄ちゃんが、そんな私を受け入れてくれた。

私は、今のままで生きていても構わないのだと、納得させてくれた。


私は、だからお兄ちゃんの為なら どんな事だって出来る。

身体も、心も、この命ごと 私の全てはお兄ちゃんのモノなのだ。




直子:「お兄ちゃん?」


何か、様子が…変だ。

お兄ちゃんは無言のまま、北条文華に近づいて行く。


いつの間にかその手にナイフを握っている。

…どうして? 一体何処から?



直子:「お兄ちゃん! 何するの?」


北条文華は、微動だにしない…



直子:「先生! 逃げて…」


私は、お兄ちゃんを停めようと飛びかかる。

一瞬!早く、お兄ちゃんが北条文華に向かってダッシュする!

北条文華は、お兄ちゃんが突き出したナイフを迎え入れる様に手を差し伸べる!!



直子:危ない!


叫び声は口の中で行き場を失う。


お兄ちゃんの身体は何かにち当たったかの様にそれ以上 前には進めず…

…そのまま、ナイフをこぼして その場にしゃがみ込んだ。



お兄ちゃんの掌を何かが貫通している!

…黒い、ボールペン?



私は一足遅れでお兄ちゃんに取りすがる。

お兄ちゃんは、無言のまま 北条文華を見上げていた。

その表情には憎しみも、恐怖すら感じられない。


ただ、機械的に? 刺そうとした? 殺そうとした?



直子:「お兄ちゃん、一体どうしたって言うの?」


北条文華も又、冷たい視線でお兄ちゃんを見下ろしている。

その手には、もう一本のボールペン?


お兄ちゃんは、再びナイフを拾う。



直子:「駄目、止めて!」

直子:「北条さん、逃げて! 早く!」


私は、お兄ちゃんに覆い被さろうとする。

お兄ちゃんは、何の遠慮も手加減もなく 私を思いっきり払いのけた。



文華:「直子さん、危ないから退いて居なさい。 直人君は操られているのよ。」


…操る? 誰に?



ナイフを拾ったお兄ちゃんは、 立ち上がりざまに北条文華に挑みかかる!

私は、躊躇ためらいもせず、その刃に飛びついて…素手で掴む。


かぶせる様ににぎりこんだ私の指から、したたか血がこぼれれ出す。


直子:お兄ちゃんに刺されるなら、別に構わない。



直子:「お兄ちゃん、しっかりしなさい!」


私の血を見て、お兄ちゃんがひるむ。 思わずナイフを手放して後退あとずさる、



直人:「なお、こ!」


お兄ちゃんが 一瞬我に返る?

その全身に、蟲が取り付いてうごめいている! 蠅? 百足ムカデ? 蜘蛛クモ? 



直子:何なの! これは!!


包帯の隙間から、後から後から …蟲達が這い出して来る。

お兄ちゃんは、思わず包帯を外そうとする。




次の瞬間!

北条文華が私をかわして前に出た!


間髪居れず、一気呵成いっきかせいに…

…お兄ちゃんの指の又に、ボールペンを突き刺し…立てる、…深く、




直人:「がああぅううっ…」


北条文華は、スミス&ウェッソン製の護身用タクティカルペンを そのままお兄ちゃんの指の又から…手首近くまで、ませた。


そうして今度は反対側の手でイヤリングを外すと、指先で押し潰して…

…それをお兄ちゃんの口に押し込んだ。




お兄ちゃんは翻筋斗打もんどりうって地べたに倒れ込み、口から泡を吹き白目を剥いて…痙攣する。


もはや、意識は無い…



直子:「何したの!」


私はお兄ちゃんが痙攣で頭を打ち付けない様に必死に抱き抱える。



文華:「大丈夫よ、一寸 気を失ってもらっただけ。」


北条文華が、おもむろにスマホを取り出して…誰かと通信する。



文華:「5分で来なさい。 …言い訳は聞かないわよ。 …いい?10分以上掛かったらわかれるわよ。」




辺りの人々が、事態の異常さに気付き始める。


人々:「警察!」

人々:「誰か刺された見たいよ、」


人垣が出来始める。

お兄ちゃんは…息をしていない?



直子:なんで? なんでこんな事になってるの?

直子:嘘、死んじゃヤダ、お兄ちゃん、死んじゃヤダよ!


私は、力なく動かなくなったお兄ちゃんの身体を抱きしめる。

今も尚、糸ミミズのようなモノが 外れかけた包帯の隙間からどんどんあふれ出してくる。



そう、あの夜から…

お兄ちゃんが野良犬に襲われたと言うあの夜から、お兄ちゃんの身体から「おかしなモノ」がしたたりり出てくる事に、私は気付いていた。 お兄ちゃんの身体と心の「不協和音?」 何かが反発しあい、葛藤しあい、苦しめあっていた。


それは蟲や蛇の姿でお兄ちゃんの身体からにじみ出て来ていた。 心の歪みが魑魅魍魎の姿で私には認識出来ていたのだ。


最初、私にはそれが何なのか、分からなかった。

だから私はアレ以来ずっと不安で、一睡もせずに ずっとお兄ちゃんを見張っていたのだ。

何か、禍禍まがまがしいモノがお兄ちゃんを苦しめたりしないだろうかと…


そして今、私は「憑依」を確信した。



直子:「大丈夫だよ、今度は私がお兄ちゃんを助けてあげるから…。」


私は、お兄ちゃんの身体を抱きしめる。






やがて不思議な事が起き始める。

少しずつ人垣が薄くなっていく。 人々が、この場を立ち去り始めている? 無関心に、まるで何も無かったかのように。


やがて、私たちの事に気付かないかの様に、普通に行き交い始める。

警備員が巡回してくる。 それなのに、まるで私達の事を気にしていない。


…未だ、少年は地べたに転がったままだと言うのに。

…未だ、少女の指からは深く切った傷口から血が流れ出し続けていると言うのに。




直子:「何なの、何か変!」


ふと見た文華の身体から、…何かが、噴出している?

細い電流の様なモノを 周りに撒き散らしている?



直子:「何なの、それ?」

文華:「貴方、もしかして 何か見えてるの?」


今度は北条文華が不思議そうに私の事を見つめる。



文華:「そんなに長くはたないけれど、皆が私たちの事を気にならなくなる。 そういうモノ。 私達を意識の外に追い出す。 特殊な電波っぽい何か…かな、」



この人達オンミョウジは、何時もこうやってヒトをたぶらかす。 不思議な道具、不思議なクスリ、不思議な匂いでヒトの心を操り、思い通りにしようとする。


私は、この人達を心の底から信用する事は…きっと出来ない。



直子:「お兄ちゃんは、どうしちゃったの? 何を飲ませたの?」

文華:「ちょっとキツメの睡眠薬、後遺症はないから安心して。」


直子:「でも、息してないよ。」


北条文華の顔が少し不安そうに陰る…



文華:「ちょっと不味まずったかな?」



直子:「どうしてこんな事したの?

…私が押さえてる間に逃げれば良かったじゃない!」


文華:「その包帯に、…何か仕掛けがある。」

文華:「ちょっと、移動するわよ。 直人君を立たせられる?」


二人がかりで硬直したお兄ちゃんに肩を貸して…チケット売り場の裏に座らせる。


ノース・フェイスの巨大なリュックザックを肩がけした男の人が近づいて来て、

バッグから大きな蓋付きデュアー瓶を取り出した。



直子:「誰なの?」

文華:「安心して、味方よ。」


男のヒトはお兄ちゃんの包帯を、指先で触診し…

お尻のポケットからレザーマンウェイブを取り出して、ナイフを展開する。


そうして慎重に、手探りしながら少しずつ包帯を切り裂いていく。 それから剥ぎ取った包帯の塊りを、そっとデュアー瓶に漬ける。


いきなり、瓶の中身が湯気を噴き散らかして膜沸騰する!



直子:「コレは、何なんですか?」

男:「液体窒素が入ってるんだ。 爆発物を起爆装置ごと冷却しているトコロ。」


直子:「爆発…物?」


…意味が分からない。

…何で、包帯が爆発物なの?

…このヒト、何か変??



「変な男」は、更にお兄ちゃんの腕を調べている。

何かで切られたかのような一直線の切り傷と、その縫合跡。



文華:「何なの、その傷。」

直子:「お兄ちゃん、犬に噛まれたって…言ってた。」

文華:「とてもそうは見えないわね。」


変な男:「コレは刃物で切られた傷だ。 腕の中に、何か埋め込まれている。」

直子:「埋め込むって、何が?」



「変な男」は、縫合糸を外して、傷口を押し開く!

中から黒い血がこぼれ出す!


「変な男」はピンセットを傷口に突っ込んで、…中を探っている?

ピンセットが神経に触れる度に、意識の無いお兄ちゃんの身体がビクンビクンと反応する。


そうして「変な男」は、お兄ちゃんの腕の中から…

…幾つもの「カプセル」と、それらにワイヤーで繋がれた「ボタン電池」の様なものを引き摺り出した。



変な男:「取り敢えず、危なそうなモノは取り除いたが、他にも未だ有りそうだ。

帰ってから ちゃんと調べた方が良さそうだな。」


それから、スプレーで大量の薬を吹き付けて、即席に縫合していく。



直子:「これ、何なんですか?」


私は、お兄ちゃんの腕から出て来た怪しい道具を指差した。



変な男:「多分、爆弾と、神経毒のカプセル。 遠隔操作で毒ガスを散撒ばらまける様に出来ている。」


「変な男」は、取り出した爆弾と毒ガスのカプセルを、そっと液体窒素の中に漬けて蓋をする。



文華:「逆に言うと、今、そうしようと思えば出来たって事ね。

…どうしてしなかったのかしら?」


変な男:「無関係な人間を巻き込まない主義なんじゃないか?」


直ぐそばを小さな女の子がボールを追いかけて走って行く。




変な男:「いや、奴の目的は、…恐らく、俺の姿を確認する事だな。」


「変な男」=「北条一貴」の視線の先、

公園の反対側に一人の男が立っていた。



その男、白いロングコートに身を包んだ長身。

痩せた体躯に一切無駄の無い筋肉を纏い、腰までかかる銀の長髪と超絶美麗なルックス。 シルバーの十字架ピアスをしている。


まるで一昔前の少女漫画から抜け出してきたみたいな男。



そして、そんな異様な出立いでたちにも関わらず、やはり、誰一人としてその男の事を気に留めようとしない。 まるで、そんな男は存在していないかの様に。




50mの距離で、「白い美青年イケメン」と「北条一貴」が対峙する。

二人の間には何十人もの無関係な人間達が自由に行き交っていたが、

そんな人間達モノ等 まるで空気か何かの様に素通りして、

二人の気配が 互いを探り合う。



文華:「何者なの?」

一貴:「室戸達也。 噂には聞いた事がある…」


一貴:「…最強フリーの土蜘蛛だ。」




やがて、十字架ピアスは、…ゆっくりと公園を後にした。




登場人物のおさらい

春日夜直人:一応主人公

朝比奈直子:直人の妹、且つ恋人

北条文華:「加茂・萬祓いモノ相談室」の敏腕コンサルタント、且つ一貴の「奴隷」

北条一貴:「最弱の式神」、且つ文華の「マスター」

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