第10話:真実
穏やかな風景、爽やかな風の中で一と剛だけがまた真冬の中に投げ出されたような感覚だった。混乱している二人だが、フェンリルはまったく気にする様子はない。
『魔法は魔法使い達やその血を引くもの達だけが使える力、本来なら自分のため出はなく人のために使うものだ。』
「……」
『この場所に来られるのもその者達だけ。つまり……』
さらに話をすすめようとするフェンリルをさえぎったのは一だった。
「まっ、待って!フェンリル!話がよくわからないよ。つまり僕と剛は魔法使いの血を引く者なの!?そんな話し聞いたことないよ!魔法も使えないし、使ったことない!」
「お兄ちゃん!」
「剛もそうでしょう??聞いてないよね?!それとも……」
「ううん、僕もお兄ちゃんと一緒だよ。何にも聞いてないよ。」
フェンリルは黙って二人の様子をうかがっていた。
『……』
「父さんも母さんも普通の人だよフェンリル。」
『しかし……そうではない。遠い過去にそなた達の先祖の中に魔法使いがいたことはたしか。そなた達が知らないだけかもしれん。ここは普通の人間には辿り着けられないのだ。』
フェンリルは強い口調で言った。
一と剛は顔を見合わせた。 考えてみればありえない話ではない。親戚は近くにいない。両親は駆け落ち結婚だったからだ……
しかし、そうでもなさそうだ。
父は普通のサラリーマンだが会社が外資系のため単身赴任で海外にいる、母はスーパのパート店員、けして裕福な生活している訳ではない。それでも家族は仲がいい方だ。
父は半年に一回日本に帰って来るしお土産もたくさん買ってきてくれる。魔法使いなら一度はその力に気が付き使ってしまうものではないかと思った。その力に気が付いていても好意に隠し通せるほど父や母は器用ではないし、その様子はまったくない。 フェンリルは深くため息をついた。そして今までとはまったく違う雰囲気を漂わせながら真剣な眼差しで一を見つめた。
『リースディローズをよみがえさせなければそなたは死ぬ。そのブレスレットについて少し話そう…』
言い終わるとフェンリルは俯き目を閉じた。
一はフェンリルの言葉に驚き、何もすることができなかった。
「ウソだ!お兄ちゃんが死ぬなんて!どうしてだよ!フェンリル!ちゃんと説明して!」
剛は大好きな兄が死の危険にあるとわかった瞬間、我を忘れフェンリルに食って掛かった。一は足がガクガクしてきたのがわかったがどうしょうもなく立ちすくんでいた。