誇りと象徴
空晴れ渡り、大地は隆とし風はたおやかになびいている、
ノーゼンディールが勝利してから二週間が経過していた。
ライツェル王は拠点をノワール城へと移しノーゼンディール城の城主を老臣パウレタへ任命した。
ガーデンレイの民びと達は、弱いものからお金を巻き上げ、豪奢に暮らすサジカジを快くは思っていなかったが、ライツェルの噂も聴いているガーデンレイの民びと達はライツェルに主が変わったとしても何一つ変わらないのではと考えていた、むしろサジカジが治めていた頃よりも酷くなるのはと危惧している、
時代の流れは権力の無いものたちには抗えず、ただただ身を任せることしかできないのだ。
今日はノワール城で祝典が開かれている、盛大で華やかな飾りつけがなされライツェル王はさも意気軒昂な様子を浮かべている。
今ライツェルはガーデンレイの民びと達へ言葉を述べる為 金色の台座へ登った。楽器隊が演奏をすると兵士や民びと達は平伏する。「皆の者よ、我はノーゼンディール七代目ライツェルである。
これからこの国を統治する為、皆の者にも協力してもらいたい」
春の麗らかな風が聳え太陽の優しい光に照らされたライツェルは威厳に満ち溢れていた。
「先ずは内政をしっかりしたものにするのだ、皆が不自由のない世の中を皆が力を合わせてつくっていこうではないか」
ライツェルが話を終えると割れるばかりの盛大な拍手がなされ城は歓喜に沸いていた。
ライツェルの立っている台座の後ろには椅子が三つ並べられていて、左にパウレタ、右にパウレタの娘ラキータ真ん中にはライツェルの一人娘であるフィオナが座っている。
ライツェルの台座の左翼にはアルバ、スナイダー、パゾリーニ、ゾッド、ミスタが立っている、皆パウレタ派だ。そして右翼にはセシウムにシン、ゼマリア、イージナルスにノーゼンディール城でフィオナを護っていたデンガボーンが立っている。皆が歓喜に沸いているなかセシウムやフィオナの表情は暗かった。
「フィオナ様は嬉しく無さそうだな」
シンがセシウムに言った。
「優しいからな、何度となくライツェル様に戦争をしないでと懇願したのに始まってしまったからな、さぞかしお辛いだろう」
「戦は戦だ、フィオナ様にも解っていただかなければ」
デンガボーンが誇らしげに言った。
デンガボーンはノーゼンディール軍の部隊長の中で一番の年長者で誰よりも軍人気質なのである。
かなり頭の堅い男であるがセシウムはこのデンガボーンを信用している。「セシウム、これから又、戦になろう、フィオナ様にも大人の女性になってもらわなければな」デンガボーンは案ずるなとセシウムにいい耳に響くような拍手をしだした。
ダークパープルのウェーブがかかった髪を触りながらゼマリアが言う。
「おっさんは暑苦しいな」
ゼマリアは耳の穴を指で押さえながらシンにそう言うと立ちながら瞳を閉じた、クールガイである。
ゼマリアは今回の戦でノワール城に到達するまでに足に矢を受け離脱を余儀なくされた、今もまだ足に包帯がまかれている。
「今回の失態で格がさがってしまうなあ~」ゼマリアが口惜しく言う。
ノーゼンディール軍は一から十までの隊がある、数字が低くなるにつれ位が上がっていくのだ、一番隊隊長であるセシウムは将軍といったところなのだ。「命があるだけましだ、ゼマリア、また頑張ればいい」
セシウムはゼマリアに優しく言う。
「頑張るったってサウザンベイとチタネンとは不可侵条約を結んだばかりですよ、ねえシンさん」
ライツェルは勝利と終わった次の日にはチタネンにパウレタとアルバを。
サウザンベイにはシン、デンガボーンを向かわせ、攻めいる気は無いことを伝えた。
サウザンベイは遠い昔は親交が深くサジカジを不快に感じていたサウザンベイの王ベジクタシュはこの友好条約を快諾したのである。
この時シンがベジクタシュに聞いた話では薔薇の騎士団がサウザンベイに攻めいり絶望を感じていたベジクタシュだったが突如現れたチタネン兵が横槍をいれ、加勢をしたらしいのである。
それからチタネンから音沙汰もなく、あの強烈な強さのチタネンが敵になったときのことを考えると震えが止まらないらしいのだ。
そして不可侵条約とはいかなくても有効をすこしでも深めれられればと誰もが考えていたチタネンとは、なんと不可侵条約を結べたのである。
これにはライツェルが喜びパウレタに対してノーゼンディール城を与えたのである。
「また平和が訪れるのだ、全て民のためだ。なあゼマリア」
シンがゼマリアの肩を叩くとゼマリアは口元を緩めにこやかに笑った。
そう今度こそは自由なのだ、好きな国にいき好きな国と交易をする、奇跡的な勝利の報酬なのだ。
しかし、今日の祝典にはノーゼンディールの民びと達は一人も来ていない。
物騒な輩が増えたノーゼンディールの民びとは危険と見なされたのである。 これでは民のための戦争とは口ばかりと言われても仕方のないことであった。
セシウムがフィオナをみると丁度フィオナが俯いていた顔をあげセシウムと目があった。
フィオナの目は何かを訴えている、今は亡き母親に似て心が優しいのだ。
セシウムがフィオナの目を受け止めていると唐突に楽器隊のファンファーレがなった。 そして綺麗に鳴り響いたファンファーレが止むとパウレタがラキータを連れてライツェルの横に並び声を発した。
「兵士諸君、この度の戦は素晴らしいものであった、今日は大いに楽しんでくれ。」
「あの狸ジジイがえらそうに」
ゼマリアが髪をいじりながら言った。
「そして今回あの宿敵サジカジを見事天上階へと追い込んだ我が息子スナイダーの隊を格上げしたいと思う。」
ノーゼンディールの兵士達がざわめきたった。
穏やかではいられないゼマリアは言う「おい、おいスナイダーを格上げってことは」シンやデンガボーンは固唾を飲んで立ち尽くしているがガーデンレイの民びと達はノーゼンディールの伝統など露知らずでパウレタの話を聞いている。
パウレタの口が開く、その動作はある特定の者を小馬鹿にしたような態度であった。
「ライツェル様が騎士団をお作りにならて五年の月日が流れた、精鋭された騎士団は難敵を退けたそして一番隊の座が今日変わるのだ、アルバを一番隊におき二番隊にはスナイダーをそして三番隊にセシウムを置くことにする」
「なに」
セシウムは硬直する。
「何をいうパウレタ」普段は冷静なシンが抗議をする。
「ライツェル様、なぜこのような事をお許しに?」
「セシウム、すまないとは思うが今回の戦で功をたてたものに対しては手厚くしてあげたいのだ」
「ならばライツェル様、リュージュを捕虜にした功績は?」
シンがライツェルに言う。
「ふん。あの倅など捕虜にしたばかりにフィオナ様は心を病んでしまったのだ」
パウレタの鋭い目付きがセシウムに突き刺さる。
パウレタがセシウムの事をライツェルから遠ざけている事は誰もが解りきっていることだ、しかし今回のセシウムの活躍は決してアルバやスナイダーにひけをとっていない、しかし今ではパウレタの力がセシウムを圧倒しセシウムの誇りであるノーゼンディール騎士団の最高地位をもぎとったのだ。兵士も皆思い思いにざわめき出す。「皆の者静まれ」
ライツェルが一括する。
「我が前に来いアルバ」
「はっ」
アルバがライツェルの前にいき丁重に挨拶をする。
「これより貴殿を我がノーゼンディール騎士団の一番隊に任命する。」
「はっ有り難きしあわせであります。」 「そしてこれより我が騎士団を黄金騎士団と命名巣する」
パウレタ派が割れるばかりの拍手をしアルバがそれに応えるとセシウムに向かっていった。
「当然の事だよ、セシウム」
アルバが嘲るように言いはなつ。
だがセシウムは今、格が下がった事など考えてもいなかった。
フィオナの心痛を考えるだけで自らも傷心していたのだ。
「ふん、つまらないやつだな~」
アルバはラキータのもとに行き頬に口づけをした。
このパウレタの娘ラキータはすでにライツェルとは婚約をしている間柄だ、戦があったために結婚は先延ばしにされた。ライツェルとラキータが正式に結婚をすればパウレタは王家の親戚になり今の地位を不動のものとするであろう。
アルバはラキータに口づけをするとパウレタに深く礼をした。
まだ祝典の最中だったがパウレタ派以外の者達はないがしろにされているようで居場所に困っている様子だ、そんななかシンがセシウムに席を外そうといい、二人して城を出た、街に向かったのだ。
そこにあとからデンガボーンとフィオナがやってきた。
フィオナが来たことにセシウムとシンは驚いた。
「フィオナ様、まだ祝典は終わってないではありませんか」
「いいのよ祝典なんて、私なんかがいても邪魔なだけだから」 フィオナはセシウムが気落ちしていると思い励ましに来たのだ。
「邪魔なわけがないではありませんか、ライツェル様はフィオナ様の事を心の底より愛しておられますぞ、すぐお戻りになられてください」 セシウムはデンガボーンにフィオナを城に連れていくように言った。
「御父様が戦から帰り私を抱擁したのだけれどなにやら違和感を感じたの、なにか隠している感じ、 それでもしかしたらと思ってリュージュの事を聞いてみたら。」
フィオナの目は涙で溢れている。
「リュージュはどうなるのだ?セシウム」 デンガボーンが言った。
セシウムが言いづらそうにシンをみた、 「パウレタは処刑にしろと言っておりますが、私がそうはさせません、約束をしたのです、命の補償をすると」
フィオナの顔が強張っている。
「あの人がきてから御父様はかわってしまったわ、リュージュを処刑するだなんて許せない」
「だがこれからライツェル様がラキータと結婚をすると奴の力はどんどん強まるな。フィオナ様やセシウムが直訴をしているがいつまでライツェル様がまってくれるか」
シンが鹿爪らしい顔をしながら言った。 セシウムとシンはライツェルがリュージュをいつか処刑するものと思っている、サジカジに対するライツェルの気持ちは悪辣をきわめているのだ、自害したサジカジの首は撥ね、ノワールの街に三日見番晒し首にしたぐらいだ、これには皆が驚愕したほどだ。
それを考えるとリュージュのことも容赦なく処刑にしても不思議ではないのである。
今はフィオナやセシウムが反対していることからライツェルは思いとどまっているがパウレタが早くの処刑をと進言しているのである。
ノワール城に馬に乗った兵士が入っていく。
今は騎士団による催し物が出されているようだ。
ノワール城をでて高原を一キロ程歩くとノワールの街がある、今日は祝典の為に街も賑やかになっている。
「早いうちになんとかしなければ」
セシウムは城を見つめながら呟いた。
「リュージュに会いに行きましょうセシウム」
「なっなんと、フィオナ様それはなりません」 デンガボーンが慌てふためいている、でかく岩のようにごつごつした筋肉をしているが気は弱いのだ。
城で歓声が鳴り響く。それをきくとセシウムは屈辱を思い出す、騎士団結成から一番隊をまかされがむしゃらに兵を鍛え上げた、その誇りを失ってしまったのだ。
シンが察してセシウムに言った。
「共に頑張ろうセシウム」
シンがそういうとセシウムを励まそうと思い来たのだが、励ましては逆に失礼だとおもい言葉にはできずにいた言葉を伝えた。
「私は貴方を一番頼りにしています。」
その言葉をききセシウムは決心する。
「リュージュに会いに行きましょう」
シンとデンガボーンが必死で止めたがセシウムの気持ちは揺るがなかった、後を考えて行動をしたことで後悔の念に苛まれている。消え去ることがない影を背負い続けるセシウムはリュージュの約束を果たすことで吹っ切ろうとしているのだ。
祝典は無事に終わり、静寂の夜を迎える。
ノワール城の地下に通ずる階段の前にセシウムとフィオナがたっていた。
「もし、この事がライツェルの耳に入ったら私に連れてこられたと言ってください」優しい目をしてセシウムは言った。
フィオナはセシウムの決意に水をさしたくはなかったので、はいと凛々しく返事をした。
そのやりとりに二人は笑いだした。
「それをきいて安心しました。では行きますよ。」
セシウムは廻りを見渡し安全を確認するとフィオナを階段に導いた。
階段には蝋が均一に灯っている。
フィオナは初めて入る階段に不気味な印象を受けた。
「こわいですかフィオナ様」
子供に言うようにセシウムは言った。
「子供扱いしないでセシウム。もう二十歳の大人なんだから」 セシウムは微笑んだ、言い返すところがまだ子供っぽくて可愛かったのだ。
「もう、」
フィオナは階段を降りていく、セシウムが付いていなかったらこわくてとてもじゃないが降りられないだろう。
暫く降りていくと牢獄にたどり着いた。 牢獄は縦に続いており階段を降りてすぐに鉄格子が張られている、その前には看守の兵士が一人椅子に座りながら居眠りをしていた。セシウムが看守の兵士の肩を揺すった。 牢獄にしてはあまり汚くはなかったが鼻をつく嫌な匂いがが立ち込めていてもの音ひとつしていなかった。
看守が肩を揺すられたので深い睡眠から目覚めた。
「すいま…セシウム様、そ…それにフィオナさ様、?」
看守は一体全体を把握できないで頭の中がこんがらがっている。
パニックに陥っている看守にフィオナがたいった。
「ご苦労さまです、
あなたのお名前は?」
「はっはい、私はもとは薔薇の騎士団に所属していたペーレンシュバインタイクソン、通称ペレと申します」
「もと薔薇の騎士団にか?」
セシウムはギャロの事を思い出す。
「ギャロは今どこに?」
するとペレは自分が座っていることに気付きすぐさま立ち上がり敬礼をしながら喋った。
「はっ噂ではあの敗戦で眼を負傷したらしく今はどこぞで養生しているようであります、」
ギャロの話を聞きフィオナも心配している。
「ギャロさん、」
セシウムがフィオナを一瞥し喋る。
「ペレも奴がどこにいるかわからないか」 今はライツェルの元に元サジカジの兵も加わっていた、
街に家族が居るものや、ノワール城の近くにある兵舎に家族が居るものもいるのでライツェルは手厚く扱っている。
まあ家族が人質みたいなものだ。
「よしペレ、この扉を開けてくれ」
「へっ?そっそれは無理ですよ、いくらセシウム様やフィオナ様でもライツェル様の委任状なしに面会させたら私は打ち首になってしまいます」
セシウムは手にしていた袋から縄を取り出した。
「後生だペレ、俺に襲われたていになって縛られてくれ」
ペレは後ずさりを開始した。
「お願いしますペレさん、リュージュにあって話がしたいの」 リュージュの名前を聞きペレの眼がうれいた。
「リュージュ様は牢獄に入れられてから食べ物や飲み物をお召しになりません、
どうかフィオナ様からなにか口にするようにおいい下さい」 するとペレはフィオナに鍵をわたし、両手を差し出した。
「わっわたしが?」
「はいどうせならフィオナ様に」
ペレが喋り終えるのと同時にセシウムの手刀がペレの延髄へ。
「はひ~」
ペーレンシュバインタイクソンは気絶した、なにやらぶひぶひいっているが大丈夫だろうか。 セシウムはペレに縄をかけ端っこに移動した。
「セシウム、なにも本当に襲わなくても」 「良いのです、フィオナ様にふざけた事をやらそうとしたのですから、それにこの方がペレの為です」 セシウムはフィオナから鍵をもらい鉄格子の扉をあけた。
セシウムフィオナの顔が強張っているので私がいるから大丈夫といい手を引き下を向いてるように言った。
その細長い牢獄は左側がすべて漆喰の壁で右側に囚人が収容されている。
大部屋や小部屋と不規則に作られている、なかに囚人がいるがセシウムやフィオナをみてもなにも言葉をいわなかった。セシウムは注意深く部屋を見渡す、部屋は灯りがなく眼の不気味な光だけが見える。
「まっまってセシウム、」
丁度真ん中にさしかかった所でフィオナが口を開いた。
セシウムが立ち止まり部屋をみる。
「こっこどもがいる」フィオナが驚愕の事実に慌てふためくとセシウムはフィオナをそっと抱く。
セシウムが部屋をよくみると手に鎖をまかれた子供達が生気のない眼でこちらを凝視していた。
「子供たちに鎖をまくなんて、酷すぎる、」
セシウムはもっとフィオナに気遣って歩くべきだったと後悔した。
「悪いことをしたのでしょう」
服装からみるにノーゼンディールの子供たちだと見てとれる。
「それにしても、まだ子供よセシウム、
父がこんなことを?」
フィオナの眼から涙が滴る。
一人の子供が立ち上がり鉄格子の扉に近づいた。
「父を返せ、母を返せ王を殺せ、権力者を殺せ」
すると中にいるすべての子供が立ち上がり皆が合唱する。
「権力者を殺せ、権力者を殺せ」
フィオナが畏怖し壁にあとずさりする。 騒がれると厄介だと感じたセシウムはフィオナの手をとり足早に先を進んだ。
まだ子供達は合唱している。
先がみえた。そこには銀細工が施された重厚なとびらがある。
セシウムは鍵を開けフィオナと共に中に入った。
そこは小さな天窓から覗く月明かりだけがたよりの部屋、
このフロアは先ほどの縦にはできておらずはいって左にのみ続いている、
その先は漆喰の壁が目視でき部屋の数は十ほどあった。
フィオナの足がすくむ。
「大丈夫ですか?
このどれかにリュージュがいるはずです」
フィオナは無言で相づちをうち壁づたいに歩き出す。
牢獄は所々人がいない、この場所は犯罪者のなかでも特に重罪の者が囚われているとセシウムは感じ取れた。
セシウムがある場所で足を止める、それに合わせてフィオナも立ち止まった。
「リュージュ」
フィオナの問いにリュージュが反応する、リュージュは牢獄の扉に背をつけ仰向けに寝転んでいた。「リュージュ様、」
セシウムが呼ぶとリュージュは力なく振り返っりじっとセシウムを見つめる。「リュージュ、逢いたかったわ、こんな所すぐお父様に言って出してもらうからね」
リュージュは微笑むをフィオナに向ける、二週間飲まず食わずで喋れるのがつらいのだ。 「まずはお水をお飲みください」
セシウムが袋から水を取り出しリュージュに渡そうとするがリュージュは受け取らない。
「お願い、飲んで。
このままじゃ死んでしまうわ、」
フィオナが涙を流し訴える。
「リュージュ様、私が必ずここから解放しますのでどうかお飲みください」
セシウムとフィオナの懇願についにリュージュは水を受け取った。
水を一気に飲み干す、生きる決心をしたのだ。
「ふ~こんなに水がうまいものか」
リュージュはむせながら言った。
フィオナが安堵しセシウムを見つめる。 セシウムもフィオナと眼を合わせるとリュージュに喋りかけた。
「リュージュ様程のお人を処刑なんてさせません、ぜひライツェル様の下でお働き出きるようにライツェル様に懇願しています。」
「父を殺した奴の下にか?」
「それしか生きる道は御座いません、生きて下さいリュージュ様、ギャロもどこかで生きていると言う情報もあります」
「ギャロはノーゼンディールに逃げたらしいな」
セシウムは驚きながら言った。
「誰に聞いたのです?」
リュージュは牢獄の左隣りを指差した。 「ノーゼンディールのレジスタンスの一員らしい、子供を先導してパウレタを暗殺する計画を画策した罪で囚われたのだ。」
「暗殺?」
セシウムは驚きながら呟く。
「もう5日も拷問を受けているのになにも話さない、見上げた根性だろ」
リュージュがセシウムに言った。
「子供を使うなんて」
フィオナは言葉を詰まらせながら言った。
「ノーゼンディールはどうなってしまったの?」
すると隣の部屋から笑い声が起こった。 「セシウムにフィオナ様かすごい人達が来たものだ、リュージュに逢うことをあのパウレタが許すはずがない、忍び込んだなセシウム」
セシウムはフィオナにここにいるように言い笑い声のする方に歩いていった。
暗い牢獄の中央、天窓に繋がれた鎖が手に繋がっている。
月の明かりに照らし出されセシウムに向かってその男は立っていた。「セシウム、俺達はお前を買っているぞ。 いずれパウレタがいやチタネンがガーデンレイ、ノーゼンディール、サウザンベイを制圧するであろう、そうなればチタネンの民族主義により民びと達は今よりももっと辛い立場になる、今が行動を起こすときなのだ。誰かがやらなければならぬ、誰かがな」
「パウレタ?チタネン?パウレタは王家ではないしチタネンとは不可侵を結んだばかりではないか」 男の顔は月明かりに照らされ不気味に笑う。
「パウレタはチタネンと繋がっている。
お前らや国というものはまったく裏が見えていないのだな。」
「チタネンとパウレタが?」
セシウムは胸騒ぎを覚える。
「パウレタはチタネンを追われノーゼンディールにたどり着き財を築いた。
そして今チタネンに返り咲く機会を与えられたのだ。」
「それでライツェル様に近寄ったのか」
セシウムは合点がいく。ライツェルは押さえつけらていた、ノーゼンディールの歴代の王の中で暴力せいという異質を放つ存在、そこを利用しサジカジと戦をさせる、そしてガーデンレイをとった。
「パウレタは何をするつもりだ?」
「知れたこと、いずれこの国をとりチタネンに引き渡すのだ、 チタネンの絶対王ロッキにな」
「ロッキに?」
チタネンのロッキは国々にその悪名が鳴り響いている、絶対的な民族主義、チタネン人以外は無差別に虐げるその性格はチタネンの民びとを恐怖により支配している。
男は笑いながら答える。
「もう時間は迫っているぞ、セシウム」
その時フィオナの悲鳴が牢獄の中に響き渡った。
リュージュが叫ぶ。 「フィオナに手を出すな」
セシウムが振り向くとそこにはフィオナを抱えるスナイダー、ライオンの様な猛々しい顔をしたゾッド、パゾリーニ、ミスタ、そしてセシウムを慕っていたシンがいた。
セシウムはシンが居ることにハラワタが煮え繰り返る思いを押し殺す。
「スナイダー、その手を離せ」
セシウムは用心の為に持ってきていた剣を背中から抜いた。 「おや~、仲間に剣をむけるとはな~」
スナイダーが憎らしげに言った。
その時また人が入ってきた、黄金の鎧がまぶしく牢獄内を照らし出す。
アルバだ。
「ふ~あついあつい」セシウムは握っている手にさらに力を加えた。
「セシウム、話をしよう」
アルバが兜を手に取り前へ出る。
「まあ落ち着け、とりあえずその剣をひけ、さもなくばこちらも容赦はせん」
アルバは兜を被ろうとする。
「剣をしまえ」
シンの大声が響き渡る。
「シン、裏切ったのか?」
「すまないセシウム、お前に家族はいないかも知れないが、私にはいるのだ。
国に背く事など出来ないのだ」
「シン…」
「セシウム、剣をひけ、フィオナが人質になっているのだ」
リュージュがセシウムに言った。
「くっ…」
セシウムは剣を背中に背負っている鞘に収めた。
「怒りっぽい子ねセシウムちゃんは」
パゾリーニがオカマ言葉でいうと皆が笑いだす。
パゾリーニは子供だろうが男だろうが寝る変態気質な男である。
「昔はお前に殺されそうになったな、
あの時は興奮したよ、君の強さにね。
初めて打ち負かされたんだ、
お前にね」
アルバの特徴が浮き出る、感情に嘘をつかないアルバは怒りを露にし出した。
セシウムがそれを察知し態勢を整える。 「おっと今日はお前とは闘わないよセシウムちゃん。
それに前はお互い鎧を着けていなかったからね。
でも今日は違う、僕だけが身に付けるいる、これはフェアじゃないから、
虐めだよ虐め。」
「お兄ちゃん、セシウムを虐めちゃいなよ」
スナイダーがアルバにいうと
「だまれ」
アルバがスナイダーを一喝した。
スナイダーはぶるぶると震えている。
月明かりに照らされている男が喋る。
「話とはなんだ?」
アルバがその男の牢獄の前に歩き出す、 「キルシュタイン、貴様セシウムに喋ったか?」
「パウレタとチタネンの関係は伝えたよ、」キルシュタインは不適に笑みを浮かべた。
「まあいい、どのみちもう止まらないさ、 ライツェルとラキータの結婚を世間が認知すれば計画を実行する。」
「俺もお前に聞きたいことがある。」
キルシュタインは言った。
「どうぞキルシュタイン君」
「お前は何者だ?」
アルバが笑う。
「そのうち、いやでも分かるさ、が、お前は今日ここで死んでもらうぞ、ゾッド」 「はっ」
ゾッドがキルシュタインの扉を開け、天窓に繋げられた鎖を外すとキルシュタインは力なく仰向けに倒れた。
キルシュタインの背中が写し出されると刃物で斬られた傷がいくつも見てとれる。
「剣を渡せ」
アルバがミスタに命令するとミスタは自らが持っていた剣をキルシュタインに持たせた。
「出ろキルシュタイン、仕合おうではないか」
アルバが兜を被り黄金の剣を鞘から抜き出した。
「セシウム、キルシュタインが死んだらここにはお前が入ってもらうぞ、もし断ればフィオナを斬り、その罪をお前にきせ、拷問をかけ殺してくれる。」
「なにを?」
セシウムが剣に手をかけるとシンが剣をぬきフィオナのか細い首に突きつけた。 フィオナは震えている、今までに経験のない出来事に今にも哭き喚きそうになるが、悔しさからか必死で気丈な顔をしている。
「シン、貴様何処まで堕ちる。」
セシウムがシンに憎しみを込めて言いはなつ、しかしそれは自分にも言い聞かせていた、自らの想いを実行せず、ただライツェルの命令通りに生きてきた、民のために兵士に志願したセシウムは孤児であったために試験すら受けさせてもらえなかった、しかし根気よく志願するセシウムをライツェルはえらく気に入ったのだ。
特例で試験を受けさせた、なにもなかった少年は剣の才能を持っていた。生きる糧を得たのだ。それからというもの毎日毎日剣の練習をした、民を護ることそれがセシウムの仕事であった。
しかしパウレタが側近になり総てが狂い始める。
ガーデンレイと戦が続き、国はやせ衰えていったのだ、
何のため?
自分は今生きているのか?
セシウムは大きく息をはくと両手をぶらりとおろした。
「おりこうさんだセシウム」
アルバが皆に手で合図をするとゾッドがアルバの前にキルシュタインを連れていった。
そして皆が二人から離れる。満身創痍のキルシュタインが剣を鞘から抜くとまさに電光石火、キルシュタインは飛び上がり右手を天にあげアルバの脳天に叩き込もうとする。
一同があっけにとられるスピードだった、アルバは咄嗟に左手の籠手で防いだ、 と同時に前方に踏み込みキルシュタインの腹をえぐった。
キルシュタインの腹から血が噴き出す。 フィオナは悲鳴をあげ眼をそらした。
アルバはうつ伏せでうずくまるキルシュタインを足で仰向けにしキルシュタインの胸に刃をおいた。
「さすがはイデマリア副隊長のキルシュタインだな、スナイダーなら脳天がグチャグチャになっていたぞ」
スナイダーがへらへらと笑う。
「やめろアルバ」
セシウムが叫ぶとキルシュタインは言った。
「いいのだセシウム、どのみちこれでは助からん。口惜しいが今ではこいつらに歯がたたん、しかしいずれ、いずれ多くの民びと達がたちあがり貴様らを、貴様らを打ちのめすときが来るのだ」
「喋るなキルシュタイン、」
セシウムがキルシュタインに近づく。
「さがれセシウム、勝負はついたのだ、貴様はおとなしく牢獄へ入るのだ」
「くっ…貴様」
セシウムは剣をぬいた、憎しみがあふれでる、怒りが沸点を越えたのだ。
「シン、フィオナを殺せ、」
アルバがシンに命令するとシンは動揺を隠せないで腕が震える。そこには尊敬をする友を裏切った後悔が窺えた。
「もうよい、パゾリーニ、やれ」
シンの後ろにいたパゾリーニはレイピアを手にとった。
リュージュが叫ぶ
「やめろ~」
シンはフィオナの頸に添えていた剣を自らの脇の下に突き立てた。
「えっ!なぜ?」
シンが突き立てた剣がパゾリーニの胸に突き刺さるとセシウムはアルバに向けて水平に斬撃を放った。
アルバはセシウムの斬撃を黄金の剣で受け止めたが、あまりの衝撃にのけ反り態勢を崩した。
「スナイダー、フィオナを連れていけ。」 スナイダーはアルバに指示されたようにフィオナを引き連れ扉に向かった。
「まてっ」
シンがフィオナを救出しようとスナイダーを追っていくと後ろ足の太ももに強烈な痛みが走った。
「ふん、いかすか」
ミスタが奇妙な飛び道具を投げたのだ。 それは丸く、廻りには刺々しい針が突き出ていた、
スナイダーは扉を越え、笑い声を上げながら扉を閉めた。
ゾッドが段平のように幅の広い刀を抜くとセシウムはアルバを蹴りでゾッドに向けて吹き飛ばした。 アルバにゾッド、ミスタがセシウムを取り囲む、
「シン、大丈夫か、今助けるからな」
セシウムは剣に力を込める。
するとアルバが言葉を発した。
「ふ~、やはり楽しませてくれるな~、
裏切り者の裏切りか。
中途半端な奴だよシン」
「ぬかせアルバ、お前にシンを馬鹿にはさせぬぞ」
ミスタがまたあの飛び道具を手にした。 「セシウム、もう無駄な抵抗はやめろ、これより一週間後にライツェルとラキータの結婚がある、
そしてそのまた一週間後に闘技大会が開かれるのだ。その時だ、その時にライツェルを暗殺する、その役目はお前だセシウム。
やらないとは言わせぬぞ。
お前がやらなければフィオナの命はない、お前はやるしかないのだセシウム。」 セシウムが咆哮をあげ構えた。 「やめろセシウム、」もはや喋るのも辛そうにキルシュタインが言った。
「今は生きるのだ、いずれ時がくる、その時まで生きろ、
生きて、生きて、お前の大切な者を護れ」
(大切な者を護ること。もう後悔などしたくはない己に嘘をつかず生きてやる) セシウムは己の信念に嘘をつかずに生きる決意をした。
まだどうすればよいかわからない、しかし必ず活路を見いだしライツェルやフィオナを救出する、
その決心をしたのだ。セシウムが剣を地面に放った。
金属音が牢獄内に響き渡る。
「ゾッド、セシウムを入れろ」
「はっアルバ様」
ゾッドがセシウムを牢獄に入れ扉の鍵を閉めた。
「ふは、フハハハハこれで俺のものだ、パウレタを出し抜いてやったぞ」
ゾッドとミスタも不気味に笑う。
「リュージュも闘技大会の日に処刑する、それまでいい夢を見ていろよ。
よし、キルシュタインとシンをセシウムの前で殺せ、あとあのレジスタンスのガキどももだ」
セシウムに向けてキルシュタインが正座させられた。
「ようやく生きたなセシウム、俺はお前を買っているのだぞ」 優しい笑みをセシウムに向けると、ゾッドの段平がキルシュタインの首を一息に跳ねあげた。血飛沫があがる、決して現実から逃避知ることなど赦さるわしない、セシウムはしっかりと脳裏に焼き付ける為に眼を開き刮目する。
「おぉぉぉ」
リュージュが彷徨し泣き叫ぶ。
「お前らを決して赦さない」
アルバは鼻で笑いながら喋る。
「リュージュ、王家の息子も血に落ちたな。なんならお前も今ここで殺してくれようか」
「それがいい、アルバ様。」
キルシュタインの血飛沫を顔に付けたゾッドは言った。
「アルバ様。コイツラを闘技大会で闘わせるのはどうでしょう。おもしろい余興になると思いますが。」
ミスタがアルバにいうとアルバはその童顔の顔で無邪気に笑った。
「それはいい、セシウム、ノーゼンディール代表として決してまけるでないぞ、
フハハハ。
「よし、次はシンだ」シンがセシウムの前に運ばれる。
「セシウム。俺は何てことを…」
シンが涙を流しながら悔いている。
「シン、お前の事を責めたりはしないぞ、俺も同罪なのだ。」 「すまない、本当にすまない」
あの冷静沈着、怜利な男が今子供の様に泣きじゃくっている。
「死にたくない、死にたくないよセシウム。」
「フハハハ。おやおやあの4番隊隊長のシンともあろうものがこのあり様か!
所詮人など権力の前にはひれ伏すしかないのだ~」
アルバそう言うと黄金の剣を抜いた。
「シン、お前は俺の真の友だ、それは変わらん、永遠に変わらんからな」
シンの顔は穏やかになった、真の友とセシウムに呼ばれ救われたのだ。
黄金の閃光がシンの頸に放たれる。
吹き飛んだ頸をミスタが髪の毛を掴み拾い上げる。
「脆い者だな、人間なんて。」
そうミスタが呟くと、ゾッドがレジスタンスの子供たちを連れてきた。
その子供たちの眼は恐怖に怯えていたが、一人、真っ先にセシウムとフィオナに噛みついた子供だけは、アルバを睨み付けている。
「ほう、このガキ。
俺に向かって睨むとは。」
アルバは剣先をその子供の眼の前に突き付けた。
「名前は?」
子供は微動だにせず答える。
「ジャスパー」
「そうか、ジャスパーか、気に入った。
コイツは俺が貰うぞ」
ミスタが慌てた様子で言った。
「こ、こいつはレジスタンスの一員ですよ。」
「ふふふ、こいつらはパウレタを殺すように洗脳されたみたいだしな。最初から大人の捨てゴマさ、大人の私利に利用されたにすぎん。俺が使いこなしてやる、この可愛い鬼さんをな」
アルバは言うと、ジャスパー以外の子供たちを次々に撥ねていく。そこにゾッドもくわわり、子供達の四肢、頭はおぞましい光景で飛び散っていく。
「やめろ~アルバ~、」
セシウムとリュージュは騒ぎ散らす、ヨダレが垂れ流れるほどに咆哮し涙を流す。
その咆哮はただ無情に月明かりの牢獄に響き渡っていた。