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35歳バツイチオッサン、アーティファクト(美少女)と共に宇宙(ソラ)を放浪する   作者: エルリア


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94.問題を一つずつ解決して

「ふぁ、おはよう」


 あくびをしながらキッチンへ移動、昨日はアリスから押し付け垂れた大量の資料とにらめっこしながら寝落ちしたせいで、あまりゆっくり眠れなかった気がする。


 頭がぼんやりしていて思考がうまく回らない。


 こういう時はやはり香茶に限る。


「おはようございます、マスター」


「ん?アリスだけか、二人は?」


「イブさんはカーゴでトレーニングを、ローラさんはパイロットシートに座っておいでです」


「パイロットシート?まさか寝てないのか?」


「いえ、先ほど私と交代したばかりですので」


 よかった、寝不足でされたらどうしようかと思った。


 それに、次のコロニーまではまだ二日あるのでしばらくはオートパイロットでの航行になる、あそこに座るのは単純に自分の場所だからだろう。


 合成機で出された香茶・・・ではなく、手を介して淹れられた天然物を贅沢に使用したソレはキッチン内に柔らかな香りを広げている。


「アリスも淹れられるようになったんだな」


「ローラさんに教えていただきました。ネットワーク上の情報と比べて工程と考え方に違いがありましたので、そこを修正しております」


「工程はともかく考え方?」


「美味しくなるようにと祈り、飲む相手の顔を思い浮かべながら注ぐと美味しくなるのだとか。事実それを行った結果がこれです」


「うーむ、科学とは」


「時に科学は答えにはなりえません」


 ヒューマノイドが科学を全肯定しないのはなんだかおもしろい感じだが、まぁ時として説明できないことが起きるのもまた事実。


 その辺を深く考えすぎると深淵をのぞき込んでしまうことになるので気にしないでおこう。


「どうぞ」


「ありがとう」


 アリスの淹れた香茶をいただきつつ、明日以降の予定を確認。


 コロニーで買い付けた荷物は次の中継地点で半数を販売、そこでまた新たなのを買い付けてその次のコロニーですべて放出。


 それを繰り返しながらコツコツと稼ぎつつ、宙賊が襲ってきたら返り討ちにする感じを予定している。


 急ぐ旅でもないので面白いものを見つけたらそっちをメインで活動するのもありだ。


「しかし、やっぱり三人ともなるとどうにかしないとまずいな」


「今はイブさんのご厚意で部屋を分割した感じですが、今後を考えるともう少し大きくてもいいでしょう。とはいえ、ただ大きくするというわけにも参りません。いくら自己進化機構があるとはいえ質量を増やすことはできませんのでまずは根本的に大型化する必要があります」


「大型化、つまり改造だな?」


「横に材料を置いて大きくすればいいというわけではありませんので、まずはしっかりと増床しつつ別途自己進化を行って形を変えるという流れになるでしょう。それを達成するためにも次の目的地は工業用コロニーがよろしいかと」


 工業用コロニー、産業コロニーと違って販売ではなく製造に特化したコロニーのことを指す。


 多いのは各種建築資材や高エネルギー受容体、ほかにも食器や日用品関係に特化したコロニーも存在する。


 その中でも俺たちが目指すべきはシップカンパニーが運営するコロニーだろう。


 俺達も含め船乗りが使う船の99%がシップカンパニーで作られている。


 汎用型のにもオーダーメイドに特化した企業もあり、自分がどんな船に乗りたいかによってどこにいくかがきまってくる。


 俺たちの場合は新調ではなくどちらかというと改造、修理ということもできるだろうけどとりあえず今の船を生かしなながら大きくしてもらわなければならない。


 アリスが言うにはデザインなんかにこだわらなければそこまで高くないらしいけど、それでも数千万という金額が飛んでいくのは間違いない。


 せっかくここまで稼いできたのに・・・いや、今後のためにも必要といえば必要か。


「なるほど、なんだかすみません私のために」


「今後輸送業で稼ごうと思ったら船を大きくするのは避けては通れない話だし、それが早いか遅いかの話だから気にしないでくれ。それに、これだけの金額を出せるのもローラさんが活躍してくれたおかげだからな。それを受ける十分な理由がある」


 イブさんとローラさんが戻ってきてから事情を説明、もともと大きくしようとしていたのでローラさんが悪いわけじゃない。


 いずれやろうと思っていたことが早いか遅いかの違いだけだ。


「具体的にはどこのコロニーに行くんですか?」


「今のところ候補は三つ、まずは新造シップメーカーの集まるノヴァドッグ、続いて中古シップの取り扱いが多いオールドスパイン、最後に修理や補修を専門としているスパナ・リムこの三つのどれかに伺うつもりです。それぞれに特色がありますので、目的に応じてという感じになりますがお二人はどれがいいですか?」


「今回の目的があくまでも増床なのであればスパナ・リムでいいかなと思います」


「私もイブさんに同意ですけど、増床だけが目的ならオールドスパインで中古船を買い付けてそれをくっつけるだけでも行けそうな気がしました」


 ローラさんの案は中々にワイルドな感じだが、自己進化を考えると質量と空間占有率さえあればいいので完璧にくっつける必要はないんだよなぁ。


 とりあえず結合して穴さえあけてしまえばあとは一晩でいい感じに仕上げてくれるはず、となると下手に修理するよりも安い中古船を探すほうが早い気もする。


 もっとも、それなら買わなくても宙賊から奪った船でもいい気はするが、汚い船とくっつけるのが生理的にちょっと嫌なんだよな。


 贅沢といえば贅沢だが、これまで掃除してきた経験からするとマジであいつらの船は汚い。


 乗り込んでみてもわかるがよくあんな空間でやっていけるよなぁ。


「個人的にはノヴァドッグも気になりましたが、皆さんの意見に合わせましょう」


「ん?なんで新品がいいんだ?」


「データで見るのと実際に見るのとでは感覚が違いますから」


「わかります!実際に手に取ると想像以上に小さかったり、逆に大きすぎて困ったりしますしね」


「そういうことです」


 なるほど、アリスの言うことももっともだ。


 買うからには現物の確認は必須、後々になってやっぱり違いましたというわけにもいかないのでその辺はしっかりと把握しておきたい。


 とはいえ新品を調査したところで今回はあまり関係がなさそうなので、残りの二つに絞って考えていこう。


「では、次なる目標を・・・おや?」


「どうした?」


「マスター、ナディア中佐から通信が入っておりますがどうしますか?」


「どうしますも受けるしかないだろう」


「十中八九あの件ですよ?」


「それでも中佐の通信を無視すると後々面倒なことになりそうだからな、出してくれ」


 アリスから例の件を聞いてすぐコロニーを出発、何も音沙汰がないので大丈夫だと思いきやどうもそういうわけにはいかなかったらしい。


 メインモニターに映し出されたのはなんとも不服そうな顔をしたナディア中佐だった。


「ナディア中佐、どうかされましたか?」


「随分と早くに出発、いえ逃げたみたいですね」


「逃げた?何のことでしょう」


「昨日軍のオフラインシステムに侵入者の痕跡を発見いたしました。いくつものシステム端末を経由して巧妙に隠された痕跡は最終的に私の端末で終了していたようです。内部の人間でそんなことができるほど優秀な人はいませんし、世界広しといえどにそんなことができるのは一人しかいないんですよね」


「はて?そんなすごい人に知り合いが?」


「悪いことは言いません。今すぐ引き返すのであれば今回の件は不問といたします、ですがこのまま逃げるというのであればそれ相応の報いを受けていただきましょう。私のプライベートフォルダを見た罪は万死に値します」


 は?


 万死に値する?


 思わずアリスのほうを向きたくなるが、それをしてしまうと犯人を知っていることになってしまうのでそれをぐっとこらえて前を向き続ける。


 明らかに怒り心頭という感じのナディア中佐、普段あそこまで感情をあらわにしないだけに余計にやばいということがよくわかる。


 この人を怒らせるとか、マジ何考えてんだようちのヒューマノイドは。


「仰っていることがよくわかりませんが」


「あくまでもシラを切るつもりですね?いいでしょう、私達宇宙軍の本当の恐ろしさを教えて差し上げます」


「・・・撃ち落とすおつもりで?」


「そっちがその気ならそれもやむをえません」


「あ、何やら通信に妨害が!これ以上は持ちません!」


 その時だ、わざとらしい演技でアリスが騒ぎ出し強制的に通信を遮断する。


 即座に再通信の通知が出るけれども、それを受けることはなかった。


「・・・アリス」


「おかしいですね、履歴は消したはずですが」


「はずじゃねぇよ!いったいなんて人に喧嘩売ってんだお前は、今すぐ謝ってこい!」


「謝るとそのまま接収されますがよろしいですか?」


「クソ!」


「今できるのは宇宙軍の管轄宙域から逃げることだけです、幸いここからは一日もかからず通過できるはず、ローラ様最大船速でこの座標までお願いします」


「なんだかよくわかりませんがわかりました!」


 わからないんだったらわかるまで話を聞けばいいのにと思いながらも、追い付かれて色々尋問されることを考えると非常にめんどくさい。


 はぁ、最後の最後にやらかしてくれるぜ全く。


 ローラさんがパイロットシートに着席、俺も盛大なため息をつきながらキャプテンシートに腰掛ける。


「ソルアレス最大船速、まじで撃ち落とされるかもしれないからもしもの時はイブさんよろしく頼むぞ」


「はい!」


「アリスは後でお仕置きな、最近ちょっとやりすぎだぞお前」


「お仕置き、確かマスターの好きなホロムービ・・・」


「ちったぁだまってろ!」


 まったく、これ以上しゃべらせるとろくなことにならない。


 ドン!という衝撃の後ソルアレスはエンジンを急回転させながら一気に加速、かくして宇宙軍との壮絶な?鬼ごっこが始まったのだった。

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― 新着の感想 ―
もうアリス接収してもらった方が良いんじゃないだろうか?いやマジで。
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