93.新しい旅路を共に進んで
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引き続きお楽しみください
宙賊基地掃討作戦から二日。
ひとまず落ち着きを取り戻したローラさんだったが、やはり元通りというわけにはいかず時々思い出したかのように暗い顔に戻ってしまう。
幸いにも家に残っていた荷物なんかは回収できたので旦那の物以外はすべて手元にある状態、だが保管するべき家がないのでひとまずソルアレスに運び込んで一時保管することになった。
だが、あくまでもこれは一時保管。
近いうちにコロニーから出発する予定なので、それまでに荷物を何とかしてもらわないといけない。
アリス曰くコンテナに詰めて保管する方法もあるらしいので、次の家が見つかるまではそうしてもらうしかないだろうなぁ。
「それでは行ってまいります」
「いってらっしゃい!」
この二日、軍関係者が大挙してコロニーに押し寄せ色々と大変なことになったそうだけど、後片付けが終わったのか軍がやっと居なくなった。
相当数の関係者がしょっ引かれたという話だが、庶民生活にあまり変化はなくいつもと変わらない日常が続いている。
イブさんにはローラさんと留守番をしてもらい、アリスと二人でコロニーの繁華街を歩き回る。
今日の目的は物資の買い付け、次のコロニーに向かうにあたりカーゴが空っぽというのはもったいない。
とはいえここは中継コロニーなのでコレ!という名産品はないけれども、代わりに色々な宙域の品が運ばれてくるのでその中からよさげなものを買い付けていく。
工業製品、本物の木材を使った加工品、あとは嗜好品としての酒なんかもそれなりの数見つけることができた。
前に来た時はこういう物をあまり見つけられなかったんだが、アリス曰く宙域で幅を利かせていた宙賊がいなくなったことで安心して移動できるようになったかららしい。
今後はもっと多くの船が通過するようになり、コロニーますます栄えていくに違いない。
それこそラインのように大きくなる可能性だってゼロじゃない。
「これでよしっと、残りはどのぐらいだ?」
「カーゴ容量は残り四分の一というところでしょうか、ですが私達の分を詰め込むことを考えるとあまり余裕があるとは言えません。鹵獲した品がまだ残っていますのでそれを売ればもう少しスペースは空きますが、そこまでして売る必要はないかと」
「俺もその意見には賛成だ、わざわざ安いところで売るぐらいならカーゴを圧迫してでも高いところに持っていきたい。ここでも後半年もすれば価格も落ち着くってことだが、ぶっちゃけそこまで居続ける理由もないしな」
宙賊基地襲撃後、役目を終えた船はソルアレスへと姿を戻した。
前の形も嫌いじゃないけれどやはり今の形がしっくりくる。
欲を言えばもう少しカーゴが大きければいいんだが、そのためにはいろいろと準備が必要なので今のところは現状維持ということになった。
それでもいずれは大きくする予定なので、それを実現するためにもしっかり金をためなければならない。
次の宙域には確かシップメーカーが集まる工業コロニーがあったはず、そこで色々と情報収集するのもいいだろう。
「それに、下手にここに残るとナディア中佐がよからぬ事をはじめそうなので早めに移動することをお勧めします」
「よからぬこと?」
「作戦後、私たちを宇宙軍に招聘するという話が出ているようです。イブさんの格闘センスとローラさんの操縦スキルは喉から手が出るぐらい欲しいもの。加えて私を手元に置くためにマスターを軍幹部に推薦するという意見も出ていることが確認できました。収入はかなり上がりますが、今までのような自由はなくなると思っていただければ」
「俺が軍に?冗談だろ?」
「収入は増えますよ?」
「収入が増えても自由が無くなったんじゃ意味がない。俺達の夢は辺境惑星に降り立つことだし、そんな事考えられているんならますますゆっくりする理由がなくなったな。はぁマジで勘弁してくれよな」
ローラさんの件もあるしもう少しぐらいゆっくりしてもいいかなと思っていたのだが、その考えは一気に吹き飛んだ。
できるだけ早くコロニーを出てこの宙域から離れないといつ何時軍が追いかけてこないとも限らない。
ただでさえ目をつけられているんだ、長居は無用っってね。
「かしこまりました、では急ぎ荷物を詰め込み明日には出航できるよう準備を進めてまいります」
「よろしく頼む。それと並行してローラさんの住む家も探してやってくれ」
「それに関しては善処するとしか。いっそのこと別コロニーに移動したほうが可能性は高いと思いますが、どうされますか?」
「んー、それに関しては一度話を聞いてからだなぁ。別のところでも構わないというのなら明日にでも出発してしまって、移動中に荷物の整理をしてくれれば次のコロニーでスムーズに引き渡せる」
コロニーに愛着があるのか、それとも別のコロニーでも問題ないのか。
その答え次第で動きが大きく変わってくる。
ぶっちゃけたことを言えば船に残ってほしい気持ちもある。
あれだけの操縦技術がある人は中々いないし、ローラさんがいればアリスはより情報戦に注力することができるし、実際に今回の作戦であれだけの情報を収集できたのもそっちに注力したおかげであって、ここに操舵も含まれてしまうと半分も成果を出すことができなかっただろう。
とはいえイブさんのように行くあてがないというわけでもないし、これまでの実績を考えればよそのコロニーに映っての再就職は容易だろう。
わざわざ俺たちのような危険かつ不安定な仕事につかなくても安定した生活を選ぶことができる。
加えて今回の報酬は山分けなので1000万近い金額を受け入れることになるだろう。
それだけあれば細々と暮らせば一生安泰、普通の仕事をすればかなり裕福な生活ができるのは間違いない。
そんな人を不安定な仕事に誘うのはさすがに・・・と思ってしまうわけだ。
なんにせよ本人の意向を聞かないことには話は始まらない、早目にコロニーを出るためにもサクッと買い付けを終わらせて船に戻るとしよう。
そんな感じで早めに買い付けを終えてソルアレスへ、個人的に買ってきた荷物を自室に放り込んでからキッチンへと向かった。
「手伝うか?」
「もうすぐ終わりますので大丈夫です。先に明日の出発についてお二人にお伝えしてもらっていいでしょうか」
「了解」
「私もすぐに戻ります」
アリスと別れてそのままコックピットへ、エアロックを開けて中に入るとキャプテンシートの横にローラさんが立っていた。
近くにイブさんの姿はなし、心なしか落ち込んだような印象を受けるけれどもそれを確認するすべがない。
「ただいま」
「あ、お帰りなさい」
「イブさんは?」
「カーゴで荷物の整理をしています」
あの重たいコンテナを素手で移動させられるのはイブさんだけ、そんなに買い付けていないのである程度余裕はあると思うんだが、まぁ整理しておくに越したことはない。
キャプテンシートに座るとローラさんがコックピットへ移動・・・することはなく、なにか言いたいことがある感じでチラチラとこちらを見てくる。
「どうかしたのか?」
「え?」
「何か言いたそうな顔してるから・・・勘違いだったらすまない」
「いえ、お話したいことがあるんです。お時間いいでしょうか」
「大丈夫だ、俺も聞きたいことがあったから一緒に聞かせてくれ。で、話ってのは?」
向こうも何かあるようなのでついでにこっちも話をさせてもらおう。
胸に手を当てて何度か深呼吸、それからしっかりと俺の目を見てからローラさんは口を開いた。
「私をここで雇ってもらえませんか?」
「んん?」
「都合のいい話だってのは分かっています。でも、ここではもう暮らしたくないですし、別のコロニーに行ってまた管制で仕事をするのはちょっと違うなって思ったんです。でも、ここなら本当の私を出して嫌な顔されませんし、自分の腕を求めてもらえる。私には船を操縦することしかできませんけど、それでも何かの役には立てると思います。もしトウマさんがそれ以外を求めたとしても、私は大丈夫です。むしろこんな私でいいのかっていう不安はありますけど・・・」
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
話が変な方向に行き始めたので慌ててストップをかける。
つまりローラさんは俺たちの船に残りたいらしい。
もともとそのつもりだったとはいえ、他にも色々と選択肢はある中でそれでも俺達を選んでもらえたのは素直にありがたいことだ。
そうなったらいいなとは思っていたけれど、実際のところどこまでの本気度なんだろうか。
「正直な話、来てもらえるのは非常にありがたい。ローラさんの操縦技術がいればこの前みたいに宙賊相手にも立ち回れるし、より安心安全な航海ができることだろう。でも本当にいいのか?俺達と一緒に来るとなると安定した生活ができなくなるかもしれないぞ?今回はどうにかなったけれど、もしかしたら宙賊に撃墜されるかもしれないし、そうなれば慰み者にされる可能性だってある。そんなことになっても大丈夫なのか?」
ここでお互いの考えに齟齬があると後々揉めるのは間違いないのでしっかりと確認しておかなければ。
来てもらえるのはすごくうれしいが、デメリットはかなりある。
こちらのカードはすべて見せたわけだし、あとは彼女がどう考えるかだ。
「むしろここから出れるのなら喜んでついていきます。皆さんと一緒なら私も怖くありませんし、なにより私も惑星を見てみたいんです」
「見るだけになるかもしれないぞ?」
「それはそれです。どうですか、少しは役に立つと思いますけど、雇ってみませんか?」
こっちのカードを見たうえでそれを受け入れるというのであればこれ以上は何も言うまい。
「うちは給料も安いし危険も多い、クルーは優秀だけどキャプテンはこんな感じだ。そんな奴に人生をかけて本当に大丈夫か?」
「トウマさんはそういいますけど、アリスさんもイブさんもそんな風に思ってませんよね?」
「はい!とっても素敵なキャプテンです」
「うちのマスターに間違いがあるとは思えません。ローラ様は最良の選択をしたと思います」
いつの間にか戻ってきていた二人がローラさんの質問に答えていく。
そう言ってくれるならこれ以上何も言うまい。
「こっちとしても優秀なパイロットが仲間にいるのは非常にありがたいことだ。給料は安いし仕事は多い、本当にそれでもいいんだな?」
「はい!よろしくお願いします!」
そんな感じで新たな旅路を共に歩むにふさわしい新たな仲間が加わることになった。
とはいえそれに合わせて新たな問題も浮上、それに関してはまだ答えが出ていないので追々考えていくとしよう。
とにもかくにも今は急ぎコロニーを出発することが最優先、みなに事情を説明して大急ぎで準備を始めるのだった。




