83.軍の偉い人とやり合って
マクシミリアンさんに連れられてやってきたのは基地内のとある一室。
薄暗い部屋の奥には大きなテーブルが横に並べられており、スクリーンを背にするような形で三人並んで座っているのがわかる。
部屋が暗いのにスクリーンが明るすぎて表情まではわからないけれど、とりあえず横にデカい人が両脇にいることだけはわかった。
「中佐、今回の情報主をお連れしました」
「よく来たな、まぁ座り給え」
「・・・失礼します」
そのうちの一人に促され、とりあえず俺を挟むようにアリスとイブさんが座り、イブさんの横にローラさんが並んで座る。
マクシミリアンさんは入り口の横で姿勢を正したまま立っているようだ。
着席したものの話が始まらず重たい空気が部屋を支配する。
無言の圧力で俺達をビビらせようとしているのかもしれないが、生憎とこの程度でビビる俺達ではない。
「お前がキャプテントウマか?」
「はい」
「今回は素晴らしい情報を良く持ってきてくれた。これさえあれば近年この宙域を悩ませていた宙賊達を一網打尽にすることができるだろう。我々もそこにいるマクシミリアン中尉を筆頭に独立部隊を作って探っていたのだがね、残念ながら中々成果を上げられなかったのだ。なんでも君達は宙賊達の船に乗り込み直接情報を収集していたそうだね、撃墜を華とする我々には思いつかないやり方だ、感服するよ」
「うむ、奴らの汚い船から物資を回収する傭兵だからこそ出来たことだな。我々がそのような事をするわけにはいかないが、今後は君達のような者を上手く使っていくべきなのだろう」
「違いない」
「「アッハッハッハ!」」
両サイドのデブ二人が好き放題に話始め、勝手に大笑いをする。
最初は素直に褒めるのかと思いきや、マクシミリアンさんが言っていた通りいい感じにディスってくるじゃないか。
まぁアリスに言わせれば聞き流せば済むだけの話なのでこの程度で怒る俺ではない。
「そういえば今回の情報は有能なヒューマノイドが見つけて来たそうだな、どっちだ?」
「トウマ様付ヒューマノイドのアリスと申します」
「ほぉ、これは見事なヒューマノイドだ。その姿、もしやアンティークではないか?」
「今の世ではそう呼ばれているそうですが、あくまでも私はヒューマノイドです」
「うーむ、これほど原形をとどめたアンティークが現存しているだけでも素晴らしいというのに、ましてや稼働しているとは」
「見れば見るほど美しい、今の機械共と随分違うな」
ひとしきり笑った後、今度はアリスを標的にして勝手に盛り上がり始める。
舐めるような目つきでアリスを上から下まで眺める姿は・・・いや、これ以上は何も言うまい。
俺達を無視して勝手に盛り上がる男二人、そんな状況にもかかわらず真ん中の人は何も言わず静かに座ったままだ。
男性か女性かもわからないが、とりあえず両脇の二人より細いのだけは良くわかる。
どのメーカーのヒューマノイドがエロいだのなんだの適当な話をした後、やっと話が終わり本題へと入ってくれた。
「さて、一応来てもらっているわけだしこちらの話もしておこう。中尉から聞いていると思うが、そちらが要求する金額についてこちらでも検討した結果、受け入れられないこととなった。理由は簡単だ、情報のわりに値段が高すぎる。宙賊共の住処を知らせるだけで1000万もの金額を払っていてはきりがない、せいぜい500、出せて700万という所だろう」
「もちろん君たちの努力には感謝しているが、この後動くのは我々だ。その金を手に後は好きなようにしたまえ」
「あぁ、そこのヒューマノイドを置いていくのであれば希望通りの額を出してもいいだろう」
「それはいい、優秀なヒューマノイドをたかだか傭兵の所に置いておく理由はない、我々が有効に使ってやろうではないか」
なんだこいつら。
先に色々言われるであろうことは覚悟していたので9割がた聞き流していたけれど、報酬の話になった途端露骨に見下してきやがった。
たかだか傭兵だ?
確かに俺達は輸送業もしている中途半端な立場だが、それでも宙賊の撃墜数ではエースと呼ばれるだけの実績を上げてきた。
更に言えば独立部隊ですら入手し得なかった情報を手にここまで来てやったのに、買い叩くだけでなくアリスまで置いていけだったて?
調子に乗ってんじゃねぇぞこのデブ共が!
「・・・」
「ふむ、不服そうな顔だな」
「えぇ、まぁ」
「傭兵の分際で随分と偉そうではないか、貴様は自分は置かれている立場をわかっているのか?ここは宇宙軍前線基地、お前らのような身分でいていい場所ではないのだぞ」
バン!と机を叩き怒りをあらわにするデブ一号。
なにが軍人だ、軍人だからって偉そうにできると思ったら大間違いだぞ。
怒りが沸点に達しようかとしたその時だ、アリスが俺を制するように体の前に手を伸ばして反対の手を上にあげた。
「一つよろしいですか?」
「ふむ、一つだけなら許してやろう」
「では失礼して・・・、よくまぁそんなくだらない理由であの情報を買い叩けますね。宙賊の場所を知らせるだけ?御冗談でしょう?虎の子の第八部隊を使ってすら入手しきれず、更にはコロニーをけしかけて傭兵を動員し、宙賊の数を減らしても居場所を突き止められなかった無能な宇宙軍の代わりに私達が見つけてきた情報です。これをもってすればコロニー内で広がっていた人身売買の拠点を潰せるだけでなく、宙域全体の平和を獲得できるまたとない機会、普通であれば2000万はくだらない情報をマクシミリアン中尉の誠意をもって半分だけ請求したのです。それをそのように評価されるのであればそもそも軍に売る必要などありません、逆に宙賊にでも流した方がまともな報酬を得られるでしょう。この程度の軍人が上にのさばって仕事をしている、人間とはなんと非効率で無駄が多いんでしょうか。体を大きくする暇があったら脳を大きくされてはいかがですか?」
うーん、よくまぁこれだけスムーズに話せるものだ。
まさかヒューマノイドに馬鹿にされるとは思っていなかったんだろう、あまりの状況に声も出ないデブ一号と二号。
マクシミリアンさんに至っては俺達を制するどころか笑いを堪えているかのように横に顔をそらしている。
流石アリス、良く言った。
「き、き、貴様!ヒューマノイドの分際でよくも私を侮辱したな!」
「不敬だぞ!私達を誰だと思っている!」
「まともな武勲も上げず、適当な功績をあたかも素晴らしい物かのように報告して上り詰めた地位に何の価値があるのでしょう。偉そうに言うのであればイブ様のように宙賊船を20隻ほどご自身の手で鎮められては如何ですか?」
「中尉!こやつらを国家反逆罪で拘束しろ!」
「いや、今すぐ処刑だ!我々を馬鹿にしてタダで済むと・・・」
馬鹿の一つ覚えのように何度も机を叩き声を荒げるデブ二人。
そっちがその気ならこっちにも考えがあるぞと思いながら、ふと横を見るとイブさんが必死に怒りを抑えているのが分かった。
それを見た瞬間に怒りがスッとなくなり、冷静に状況を見ることが出来るようになった。
アリスが啖呵を切った以上タダで帰れないのは確実、俺に大人しくしとけと言ったのは最悪自分だけが犠牲になればいいという事なんだろう。
だが、アリスの所有者としてそんなこと許せるはずがない。
死さば諸共、アリスさんと俺がいればデブ二人ぐらい殴り飛ばせるだろう。
「そこまでです」
その時だ、良く通る凛とした声が部屋に響きデブ1号と2号を制する。
シルエットが随分と細いなぁとは思っていたがまさか女性だったとは思いもしなかった。
好き放題言いまくっていた二人だが、その声を聴きピタリと止まる。
いったい彼女は何者なんだろうか。




