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35歳バツイチオッサン、アーティファクト(美少女)と共に宇宙(ソラ)を放浪する   作者: エルリア


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81.情報を相手に売り渡して

「なるほど、奴らそんな方法で情報を隠し持っていたのか」


「オフラインストレージから収集したデータはここに、直接回収した会場座標はこちらです。更にコロニー内行方不明になった人の一覧と、実際被害にあった人間の証言もあれば軍が動くことはできますでしょうか」


「これだけあれば偉いさんの重たい腰も上がるだろう。特にコロニー内の情報は民間人の被害を証明する、これで動かないやつは奴らの仲間だと判断しても差し支えない。全く、あれだけ潜り続けても得られなかった情報をこうも簡単に手に入れられたんじゃ俺達の立つ瀬がない、そう思わないか?」


 そう言いながらマクシミリアンさんが後ろを振り向き、控えていた面々が大きく頷く。


 宇宙軍第八部隊、宇宙軍本体とは別に主に諜報活動や潜入活動を行う情報戦のプロ。


 そんな彼らですら手に入れられなかった情報を手に入れられた上に、幾重にも張り巡らされた防壁を潜り抜けて強引に情報を送り付けられたらそりゃ落ち込むにきまっている。


 とはいえ相手はあのアリスだからなぁ、仕方ないといえば仕方ないだろう。


「ともかく、これでこの宙域も安定すると考えていいよな?」


「そうだな、この間別宙域で行われた大規模討伐同様奴らの基地さえ叩けば集まる理由もなくなる。商売相手がいないんじゃわざわざ危険を冒して人を攫う必要もないからそっちも大人しくなるんじゃないか。もっとも、主犯格を逃すつもりもないが」


「それに関係する情報も所有しておりますのでご入用の場合はご連絡ください」


「はぁ、そっちも高くつきそうだ」


「今回の情報をしっかりと評価していただけるのであれば格安でお譲りいたします。もちろん軍が接収するというのであればそれに従いますが」


「俺達もそこまで意地汚くはない。上の連中はそうしろというだろうが、そんな事をしようものなら次の情報提供者がいなくなるからな。とはいえ金額が金額だ、俺達だけでは決済できないから一度持ち帰らせてもらうぞ」


「もちろんです、いいお返事を期待しています」


 そう、今回の情報は軍への提供・・・ではなく、軍への売却という形でやり取りされることになった。


 その額1000万ヴェイル。


 最初アリスがこの金額を出した時は何かの冗談だと思ったんだが、向こうも納得した顔をしたのでそれが冗談でないことをすぐに悟った。


 向こうからすればこの額で宙賊の基地を根絶やしに出来るんだから安いのかもしれないけれど、それでも額が大きすぎる。


 っていうかこういう情報ってのは軍提供して使ってもらうっていう立場なのかと思ったんだが、それをすると次の情報提供者が出なくなってしまうので金銭できっちりと話をつけるらしい。


 世の中知らないことばかりだなぁ。


「話は以上だ、俺達が先導するから後ろについてきてくれ」


「え?俺達も行くのか?」


「当り前だろ、間違っても奴らに俺達が情報を得たことを知られるわけにはいかないんだ。それを防ぐ為にも一時的ではあるがお前たちの身柄を拘束させてもらう、悪く思うなよ」


「問題ありませんが一つお願いが」


「補給だろ?コロニーがあの状態じゃ戻れないからな、それぐらいはしてやるさ」


「ありがとうございます」


 情報提供だけでなく物資や燃料の補充まで取り付けるアリス、軍関係者相手によくまぁ真面に話ができるもんだ。


 あんな交渉俺には絶対に無理だな。


「おい、引き上げるぞ!」


「「「「はっ!」」」」


 マクシミリアンさんの指示に控えていた兵士たちがコックピットを出ていく、それを追いかけるように彼がドアまで移動したその時だ。


 ふと後ろを振り返り、その後ろにいたアリス・・・ではなくイブさんの方をじっと見つめる。


「なにか?」


「あんた名前は?」


「イブです」


「・・・そうか、変なこと聞いて悪かったな」


 それだけ言うと今度こそ振り返ることなく彼らはソルアレスから離脱、お互いのハッチが閉じられる。


 ゴン!という揚船チューブが外れる音を聞き、やっと肩の力が抜けるのを感じた。


「はぁ、緊張した」


「緊張しましたね」


 ホッと胸をなでおろす俺とローラさん、それとは対照的にイブさんとアリスは特に?という感じの顔をしている。


「そんなに緊張しますか?」


「そりゃ緊張するだろ、相手は軍人だぞ?やろうと思えばいつでも俺達を殺せる相手だぞ?」


「流石に五人は無理ですが、それでも二人、いえ三人までなら仕留められますよ?」


「おそらく義体化しているでしょうからそこをいじってやればあと二人は何とか」


「つまり五人はいけると?」


「後はマスターとローラさんでマクシミリアンさんを何とかしてくだされば私達の勝ちです」


 何が勝ちなのかよくわからないが、とりあえずこの二人は軍人だからとビビることはないという事だけはわかった。


 お願いだから下手なことして喧嘩を売らないでもらいたい。


「まぁ、それはさておきまさかあの情報が1000万で売れるとはなぁ」


「本当は2000万といいたいところでしたが今回は時間もありませんので即決できる額にとどめました。ただし、その他の情報は適正価格でしか譲渡しませんし補給の他諸々の経費も負担してもらいます」


「流石にそれはとりすぎじゃないか?」


「2000万ヴェイルで宙賊基地の場所を入手し、殲滅することができるんですよ?彼らからしてみれば第八部隊を投入してなお探しても探しても入手できなかった情報です、今回が格安であることはマクシミリアン様もご理解いただけたようですから別の機会に残りを補填していただきましょう」


 2000万でも安い情報だったのか。


 確かにあのアナログな方法じゃなければ手に入らなかったわけだし、折れたりもそれなりのリスクを負ってそれを手に入れた。


 いい仕事にはいい報酬をっていうからな、たとえ軍相手でもその辺は強気になってもいい所なんだろう。


「それよりも最後のは何だったんでしょう」


「ん?あぁ、名前を聞かれた奴か。知り合い・・・なわけないよなぁ」


「向こうはそれっぽい反応でしたが人違いだったのでしょうか」


「わからん。もしかするとイブさんが美人だから名前を知りたかっただけかもよ」


「あの場でナンパするようなタイプには見えませんでしたが、可能性は否定できませんね」


 確かにあの場でわざわざ振り返って名前を聞くのは不自然だ。


 とはいえイブさんが記憶喪失である以上過去を追求することはできないし、もし知り合いなら逆に教えてほしい所。


 その真相は本人のみぞ知るというやつだ。


「第八部隊動き始めました」


 しばらくして向こうの船が動き出した。


 ここから先はこちらもオフラインでの飛行になる、ただでさえ黒い船なので見失わないか心配になるところだ。


「それではローラ様つかず離れずの距離で追跡をお願いします。レーダーは使えませんので目視になりますが、大丈夫ですか?」


「それぐらい朝飯前さ」


「イブ様念の為警戒を、マスターは・・・」


「おとなしくシートに座ってたらいいんだろ?」


「そういう事です」


 俺に出来るのはただそれだけ、彼女達がそれで問題ないのなら甘んじてその役目を全うしようじゃないか。


「よし、ソルアレス発進」


「発進します」


 これまでと違い緩やかに動き出したソルアレス、付かず離れずの追いかけっこが静かに始まった。

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