73.宙賊達を蹴散らす事にして
「状況は?」
「現在傭兵ギルドより頂いた宙賊情報を宙域MAPに当てはめていますが、見ての通りです」
「多いな」
メインモニターに映し出されたのはコロニーを中心とした宙域MAP、右側が俺達が飛んできた方向で左側はこれから向かうつもりだった方向。
その中でも特に左側に赤い点が集まっており、いくつも集まったり単独で飛行したりしている。
前に宙賊の大規模掃討戦をこんな感じでリアルタイムに見ていたが、それと照らし合わせてもかなりの宙賊が集まっているようだ。
「比較的宙賊の多い地域だとは聞いていましたがそれにしても多すぎです。下手に飛ぶと複数の宙賊とバッティングする可能性があるため注意が必要ですね」
「いくらイブさんがいるとはいえ、数で襲われると流石に厳しい・・・よな?」
「ある程度は大丈夫ですけど流石に限度があります。でもアリスさんがいれば大丈夫な気もします」
「と、言ってるが?」
「私に出来るのはせいぜい攪乱程度、通信を邪魔したり中の空気を抜いたりする程度ですよ?」
いや、それが凶悪なんだって。
普通はリアルタイムで相手の船にハッキングするなんてことしないし、しかもそれが複数にわたるなんてのはあり得ない話。
加えてソルアレスを制御しながら、宙賊の通信を遮断したり中の空気を抜いたりなんてのはよほどの実力が無ければできない話だ。
それをその程度、と言ってしまうあたりやっぱりアリスの基準はおかしいよな。
「あの、この中に突っ込むんですか?」
「いきなり宙賊のど真ん中に突っ込むことはしないが、数を減らさないことにはコロニーから出れないから率先して倒していくことにはなる」
ローザさんが指を刺したのは宙域左側の宙賊密集ポイント、さすがにここは近くの宇宙軍から援軍が来てくれないと対処出来ないレベルなので近づくことはしないけれども、あれを全部倒すぐらいの気概が無いといつまでも出航出来ない。
「そして、つい先ほどコロニーより傭兵ギルドへ宙賊の早期の討伐依頼が出されました」
「つまり討伐報酬が美味しくなってるってことか」
「ですね」
「ならやるしかないよな。宙賊を倒して金を稼ぎつつコロニーからの脱出!いいねぇ、ホロムービーみたいだ」
「頑張りましょう!」
宙賊退治を映画見たいと言えるようになるぐらいには俺も宇宙の生活になじんできたんだろうけど、コロニーでの生活が長い人にはそうではないだろう。
信じられないという顔をするローラさん、だが今の自分の状況を考えればこの選択肢しかないのはわかっているはずだ。
とりあえず俺とイブさんで再び傭兵ギルドへと向かい、宙賊討伐の依頼を引き受ける。
ついさっき来た時はそこまで活気のある感じじゃなかったのに、いざ報酬が出るとなると傭兵達のやる気が一気に上がってたようだ。
「早速で悪いがお前たちの腕、期待してるぞ」
「期待してもらえるのはありがたいが、まさかこうなることを見越して宙賊を見逃して来たとかないよな?」
「こいつらはバカだけどそこまで腐った連中じゃないさ」
「それを聞いて安心したよ。獲物は早い者勝ち、横取りは無しだからな」
「それはお互い様だ」
俺達の場合は撃ち落とすよりも空気を抜いて中身を鹵獲することが多いのでその隙にやられる可能性もゼロじゃない。
今回は積み荷よりも数を落とすことが先決なのでそんな暇ないかもしれないけれど、貰える物は貰っておきたいっていうのが貧乏性な俺の考えだ。
「しっかし、なんでまたこんな急に集まってきたんだろうなぁ」
「誰かエサでも撒いたとか?」
「エサねぇ、こんな寂れたコロニーに何の旨味があるのやら」
「結構人の往来もあるし儲かってるんじゃないのか?」
「まともな産業もなければ誇れるような人材もいない、せいぜい補給と少々の娯楽がある程度だぞ?儲かるかってんだ」
「とかいいつつ傭兵は多いよな」
「まぁ見ての通り宙賊は多いからな。ほんと、何しに集まってくるのやら」
どうやら人身売買が行われているという事は知らないらしい、もちろんこの会話全てを信じるというわけではないけれど少なくともそんな雰囲気は感じられなかった。
アリス的にもこの人は白、どこまで入り込まれているかについては鋭意調査中って所だ。
「ま、せいぜい稼がせてもらうさ」
「くれぐれも気をつけろよ、いきなり真っ先に撃ち落とされたとか勘弁してくれ」
「忠告どうも、それじゃあまた後で」
続々と出発する傭兵達を追いかけるように俺達もギルドを出て船へと戻る。
ここにも怪しい人影はなし、どうやらうまく撒けたようだな。
「ただいま」
「おかえりなさいませ、皆様続々と出発されていますよ」
「ギルドも中々の盛り上がりだった、こりゃゆっくりしてられないな。一応ギルド通信でリアルタイムの宙賊情報が送られてくるらしいからそれを見ながら出来るだけ細々とやっていこう。俺達の目的はあくまでも宙賊の数を減らしてコロニーから脱出する事、必要以上に目立つこともない」
「畏まりました。長期間の滞在に備えて物資の積み込みは完了、いつでも出発可能です」
「ローラさんの方は?」
「もちろん対応済みです、前にディジー様にしたのと同じ方法で対処致します」
「了解」
今のところ一番の問題は出航時にインプラント情報を確認されてローラさんの存在がバレる事、それを防ぐ為に出港時のスキャンにノイズを混ぜて一時的にローラさんを認識させない方法を取ることにした。
あまり何回も出来る方法じゃないけれど、とりあえず出航さえできれば後は何とかなるだろう。
「ローラさんには悪いが俺達の仕事に付き合ってもらう、船がかなり揺れるが辛抱してくれ」
「大丈夫です、覚悟はできました」
「まぁ俺も死にたくないからな、そこまで緊張しなくても大丈夫だ」
「その通りです、戦艦に乗ったつもりでおくつろぎください」
くつろげるかどうかはさておき落とされる心配はないだろう。
アリスがへまさえしなければ。
キャプテンシートに座り、正面のメインオペレーションシートにアリスが着席。
ローラさんに関しては戦闘が始まるまでは左右の簡易シートに座ってもらっているが、戦闘が始まると自室に戻ってもらう事になるだろう
イブさんは早くも銃座へ移動、こちらもやる気満々という感じだ。
「こちら傭兵ギルド所属ソルアレス、出航許可願います」
「こちら官制局、出航許可・・・ん?ノイズがあって見えないぞ」
「どうしましたか?」
「いや、なんでもない。キャプテントウマ、他船員一名とヒューマノイド一体を確認。急に宙賊が増えて宙域はかなり不安定な状況だ、働きに期待する」
「了解、やれるだけやらせてもらうさ」
「メインエンジンオールグリーン、ソルアレス発進します」
一瞬のジャミングでローラさんの認証を阻害、再確認されるよりも早くソルアレスは宇宙へと飛び出していく。
一日も経たずに舞い戻った宇宙、本当はもっとゆっくりするはずだったのだが世の中そう上手くはいかないものだ。
しかもその時間にあれやこれやと状況が一変、アリスは俺が原因だというけれど絶対に本人のせいだと思う。
だって捕まったのだってアリスだし。
でもまぁそのおかげでローラさんを救出できたってのはあるけれど、これまでのトラブルを考えてもやっぱりアリスに引き寄せられていると思うんだよなぁ。
「何か?」
「なんでもない。航路は?」
「まずは西側の比較的宙賊の少ないエリアを目指します、そこなら友軍も多いので追いかけられる心配もないでしょう」
「そうなることを祈るよ」
友軍こと傭兵達が次々とコロニーを出発、流れ星がいくつも宇宙に飛び出していくような光景に思わず目を奪われるのだった。