52.珍しい依頼を引き受けて
調査依頼。
指定された宙域を調査し新しい発見や怪しい物が無いかを探す依頼。
依頼料は出るもののそれ以外の実入りは一切なく、ただ何もない宇宙を飛び回るだけなので非常に不人気。
結果、ずっと残り続けているそんな依頼を引き受けたものだからあれから二度も受注を確認されたぐらいだ。
俺だって最初はなんでそんなのを引き受けるのかと思ったけど、アリスがそういうのだから何か理由があるんだろう。
「理由なんてありませんよ?」
「嘘だろ?」
「何故嘘をつく必要が?調査依頼は最新の宙域地図を作る上で非常に重要な仕事、いくら星間ネットワークを掌握していたとしても調査していない場所まで把握することはできません。地図の空白地帯を埋めてこそ安心安全に航海が出来るというもの、これも立派な仕事です」
「アリスの事だからてっきり何かあると思ったんだが・・・」
「この際だから聞いておきますがマスターは私の事を何だと思っているんですか?」
「・・・イベントメーカー?」
もちろん何もない事もあったけれど、割合で言えば何かが起きる方が多いような気がする。
星間ネットワークを把握しているからこそ面倒な事を回避できる、本人はそういうけれど把握しているからこそわざと突っ込んでいる案件もちらほらあるんだよなぁ。
結果それが新たな収入に繋がったりするわけだけど俺からすれば毎回何かトラブルが起きるっていう印象だ。
てっきり今回も宙賊基地をぶち壊しに行くとかそういうイベントなのかと思ったんだが、どうやらそういうわけではないらしい。
何とも冷めた目を向けるアリスをスルーしつつイブさんの方を見ると、なにやら真剣な面持ちでモニターに映された宙域地図を見つめていた。
「今回はこの空白地帯を埋めるんですね」
「その通りです。航路から離れていることもありこれまで一度も調査されたことはないようです。目視では小惑星やそれに準ずるものがあるようには見えませんが、何があるかはわかりませんから」
「仮にあるとしたら何があるんだ?」
「そうですね、目視では確認できないサイズとなると船の残骸や隕石、廃棄物なんてのも考えられます。」
「つまり金にならない物ばかりだと」
「そうとは限りませんよ、残骸の中にレアメタルが眠っているケースは過去に何度も報告されていますし、隕石から希少な鉱石が見つかることもあります。そこにあり続けるという事は何かしらの力が加わっているという事、もちろん何もない空間が広がっているという可能性も十分ありますが」
可能性は限りなく低い、低いがゼロではない以上行ってみる価値はある。
更に言えばアリス的に空白地帯があるのが気持ちが悪いという事だった、なんでも知っておきたい彼女にとってぽっかりとあいた空白地帯は恐怖以外の何物でもないのだとか。
「ま、行けばわかるか」
「目標地点到達まであと三時間、仮眠を推奨します」
「それじゃあお言葉に甘えて休憩させてもらう、予定宙域に到着したら教えてくれ」
「畏まりました」
「おやすみなさい、トウマさん」
現地までまだもう少しありそうなのでお言葉に甘えて仮眠を取らせてもらうとしよう。
前にパトリシア様をお送りした後再度今の形に戻ったソルアレスだったが、その際に少し間取りを変えたようで休憩室が少し広くなっている。
そのおかげでいい感じのベッドが追加され前以上に仮眠しやすい環境へと進化、本当はもう少し居住部を広くしたいところだけど今の大きさではなかなか難しそうだ。
ベッドに横になり目を閉じるとあっという間に眠気が襲ってきてそのまま眠りの世界へ。
特に夢を見たわけではないんだけどなんとも心地いい時間だった気がする。
「マスター、ちょっとよろしいですか?」
「ん・・・時間か?」
「そういうわけではありませんが、調査宙域に予想外の物があるようです」
アリスの呼び出しに体を起こし大きく伸びをする。
時計を見ると二時間ほど眠っていたようだ。
本当は後一時間寝れるはずだったのにわざわざ起こすという事は何かあったという事、やっぱりアリスが絡むと何か起きるじゃないか。
そんな事を思いながらも寝癖を直し急ぎコックピットへと戻る。
「すまん待たせた、状況は?」
「予定宙域突入まであと三十分を予定していますが・・・これを見ていただけますか?」
「んー・・・船、か?」
「やっぱりそう見えますよね」
「その割にはずいぶんと綺麗だな、宙賊に撃ち落とされたわけでもないしまるで新品みたいだ」
「新品は流石に言いすぎですが確かに不審な点は多くあります。もちろん燃料切れのままここに流れ着いたという可能性はありますが、重力が影響するようなものはありませんのでここに留まる理由が分かりません。」
「つまり意図的に停止、そしてここに留まり続けていると」
ソルアレスの望遠レンズに発見されたのは一隻の古ぼけた船、見た感じ民間船的な感じだけどなぜこんなのが動かずにここにあるのか。
本来宇宙空間では一度与えられたベクトルは何かしらの影響を受けない限り減衰することなく作用し続ける。
単純に言えば1の力を与えられれば1の力で進み続けるという事。
もちろんそこに重力を発するものがあればそれに引き寄せられて向きが変わったり、勢いが変わったりするけれど理論上何もなければ延々と進み続けることになる。
そしてこの宙域に作用するものは何もないので、仮に飛行中に燃料が無くなったとしてもここを通り過ぎるはず、つまり意図して与えられたベクトルを殺して停止しなければここに留まり続けることはありえないという事だ。
「年式は?」
「ここからでは遠すぎてなんとも。一応停止を偽装している可能性もありますのでスキャンを試みますが、その可能性は低そうです」
「つまり近づいてみないと分からないってことか。やれやれ、やっぱり何かあったじゃないか」
「私のせいですか?」
「そういう事にしておこう。とりあえず近づいて様子を確認、スキャンして何もなければとりあえず依頼をこなしてからここに戻ってこよう。誰か生きているならすぐに助けるべきだけど、そうでないのなら遅くなっても一緒だろ?」
「それもそうですね」
誰か生きているのならば助けなければならないけれども、死んでいるのなら急ぐ必要はない。
下手に近づいて影響しても面倒なのでスキャンして異常が無ければやるべきことを先に終わらせよう。
ゆっくりと近づきスキャンできる距離まで近づいたところで船の様子を伺うも、中に誰かがいるという様子はないらしい。
電源系統はすべてオフライン、非常電源的な物も全くなさそうな感じだ。
アリス曰くかなり古い年式の船らしいが特定するのは難しいんだとか。
ひとまず状況が分かったので依頼を終わらせるべく船をスルーして暗黒領域こと空白地帯を飛行して宙域地図を作製。
調査結果は速やかに星間ネットワークにアップロードされ、さっきまで真っ黒だった宙域は無事に何もない事が証明された。
残るは例の船だけ。
「さて、どうするか」
モニターではなくソルアレスの窓越しに船が確認できる場所まで近づいてみたけれども、見れば見るほど古臭い。
アリス曰く約60年ほど前の船に似たデザインのものがあるけれど、この時代はオリジナルの船が多く断定するのが難しいらしい。
そんな船がひっそりとこんな場所にとどまり続ける理由は何なのか。
「遠隔で通電は難しそうですね」
「となると船外に出て直接有線するしかないか。場所はわかるか?」
「ハッチの横に通電用のソケットが確認できます、規格が合うかは何とも言えませんがおそらく行けるかと」
「通電できれば中の状況も見えるだろう、はてさて何が出るのやら」
その謎を解き明かすべく俺達は宇宙空間へと身を投じた。




