314.巨額の金を動かして
テーブルの上に置かれた2000万ヴェイル分のチップ。
通常のカジノであれば各テーブルに上限ベット額が設けられているので高額過ぎるとディーラーの権限で拒否をすることが出来るのだが、上限なしのカジノではそれを断る理由がない。
そして彼女達からすれば勝てば給与に、負ければ借金に直結してくる。
現在彼女の負けは500万ヴェイル。
これだけの額を取り返そうと思ったら大口の勝負を受けるしかないのだが、負けてしまえばもっと悲惨なことになってしまう。
それこそ、この間テルマ・オルビスタで宿を買い上げたのと変わらないぐらいの額を背負う事になれば彼女に残っているのは身売りだけ。
比較的若く見た目もいいのでそれなりの値段はつくだろうけど、それでも4000万という額には届かないだろうなぁ。
「「「「「うぉぉぉぉぉぉ!!」」」」」」
「・・・おめでとう、ございます」
「ありがとうございます」
相手の絶望したような表情とは対照的に、アリスはにこりと微笑みテーブルの上に置かれた4000万ヴェイルのチップを受け取った。
大歓声が卓の周りで巻き起こり、もはやスロットの方を見ている人なんて一人もいない。
彼らの興味は俺達がこのまま獲得した4000万をフルベットするかどうかだけ。
もしまた負ければカジノから請求される彼女の負債は一億を超え、もはや真っ当な人が扱う額を大きく超えてしまう。
もちろん俺だってそこまでの額となると手が震えてしまうわけだが、アリスからすれば所詮はデータのやり取りだけだろ?とかその程度にしか思っていないんだろう。
いやー怖いなぁ。
向こうはイカサマが使えず運任せ、片やこっちはカードの配列すら手に取るようにわかるのだろう。
アリスはその件について何も言わないが、機械化されている時点で丸裸も同然だ。
「な、何事だ!」
そんな盛り上がりの中、人混みをかき分けるようにやってきたのは小柄な男性。
その人を見て例の美人ディーラーが助けを乞うような目をしている。
もはや客はVIP席にしかいないことを考えるとこの人が支配人なんだろう。
「お前がここの支配人か?」
「いかにも、うちのカジノで一体何のバカ騒ぎをしているんだ?」
「バカ騒ぎ?俺達はただ賭けを楽しんでいるだけなんだが?」
「賭け?な、ななな、なんだこのチップは!?」
『なんだこの客は』と言わんばかりに蔑んだ感じで見てきた支配人だが、テーブルの上に積み上がったチップを見て大きく目を見開いた。
「さっき賭けたのが2000万、勝ったから次はそれを賭けるつもりだ」
「4000万だと!?そんなバカげた勝負受けるはずが・・・」
「ここの売りは上限なし、それとも向こうのVIPには楽しませて俺達にはしないってことか?」
「そ、そんなわけでは・・・」
俺だけでなく周りの客の圧を受けて支配人がたじろいでしまう。
ここで拒否すればカジノの信用はがた落ち、だが受ければ大損する可能性が高くなる。
もちろんそうならないように向こうもあの手この手は使ってくるだろうけど、アリスを前にしてそれをするのは不可能だろう。
「さぁどうする、折角これだけの額を賭けるんだからやっぱりしかるべき人と勝負したいよなぁ。みんなもそう思わないか?」
「そうだそうだ!」
「金持ちばかり相手しやがって、たまには俺達の前でも見せてみろよ!」
「よ!ちょっといいとこみてみたい!」
「「「「やーれ!やーれ!やーれ!」」」
周りの宙賊共が一気に騒ぎ出し、カジノ内は異様な雰囲気に包まれている。
流石に先程の彼女にこれ以上借金を背負わせるのは可哀そうだからな、ここはオーナーにケツを持ってもらうのが筋ってもんだろう。
「くっ・・・」
「それとも、出来ない理由があるのか?勝てば4000万、負ければ8000万、あぁ、俺がブラックジャックを出せば一億もあり得るのか。アリス、ここの財務状況は?」
「そうですね、負債は5000万程ですがキャッシュフローが悪いようで支払いが滞ることもあるようです。これだけの現金が動いているのにこれしかないってことは・・・どこかでよからぬお金の動きがあるのでしょう」
「ふむ、ならこういうのはどうだ?そっちが勝ったら追加で1000万出してやる。そうすれば負債は完済、負けても追加した分は計算しない。悪い話じゃないだろ?」
一瞬で財務状況まで把握され顔面蒼白の支配人、客を失えば収入は激減、かといって負ければ一億の支払い。
唯一の希望は勝つことだけ、こうなった場合大抵の人間は一縷の望みに賭けるものだ。
一見すると勝率は五割、だがアリスを前にすれば圧倒的ゼロが並ぶことになる。
絶対にゼロではないのは運命数的な何かがあるからだと前にアリスに教えてもらった。
世の中に絶対はないのはそのせいらしい。
「・・・受けよう」
「そう来なくっちゃ!さぁ支配人一世一代の大勝負だ、勝てば借金帳消し負ければこのカジノを失う事になる。人生こういうスパイスがないと面白くないだろ?」
「おのれ・・・覚えておけよ」
怒りに燃える目で俺をにらみつける支配人がディーラー卓につく。
カードを一度全部出し、新しいカードを客の前で開封する。
次に、そのカードの任意の場所を指定してからカードの場所を入れ替えてから機械に設置すれば準備は完了。
慣れた手つきでカードを取り出し、四枚のカードを配っていく。
俺の前に並んだのは・・・。
「なっ!」
「おっと、神は俺を見放さなかったらしい。ブラックジャックだ」
スペードのエースとキングのブラックジャック。
これで相手は自分もブラックジャックを出さないと負けてしまう。
明らかに予想外と言う反応、それはまるで自分の手札がこっちに来てしまったような感じだ。
間違いなくアリスが手を加えたんだろう、まったく涼しい顔して恐ろしいやつだ。
「さぁ、さっさとめくってくれ」
ちなみに支配人の手札は6、仮に10が出ても基本ルールでもう一枚引かなければならない。
隠れた二枚目はクイーン、そして三枚目が・・・。
「あーあ、バーストか。残念だったな」
三枚目はハートのキング、これで俺の勝利が確定した。
「い、いかさまだ!」
「何を根拠に?っていうかここでそれを言うのはご法度だろ」
「そうだそうだ!さっさと金払え!」
「い~ちおく!い~ちおく!」
「さっさと払えよ!」
宙賊たちに煽られて顔を真っ赤にする支配人、ここで大人しく引き下がるとは思えないがイブさん達はもう撤退しているので荒事になっても巻き込まれることはないだろう。
どう出てくるのか、と思っていたら支配人が手を上にあげると同時に四方八方からレーザー銃を手にした私兵がなだれ込んで来た。
「なんだ、負けたら武力行使か。子供だな」
「なんとでも言え。ここで手を引けば命だけは助けてやる、掛け金を置いてさっさと失せろ」
「断ったら?」
「金も命も失ってそこで終わりだ。お前ら!文句があるならかかってこい!」
どうやら店の威厳よりも金をとったらしい。
流石に完全武装の私兵相手に文句を言える宙賊はおらず、ギャラリーは一斉に沈黙。
まったく、こんな奴がカジノの支配人とは残念な限りだ。
コイツはうちのカジノに相応しくない、さっさとご退場願うとしよう。
「まったく、次の支配人はもう少し頭を使える奴にしないとな」
「なんだと!」
「そのまんまの意味だよ。一時の感情でカジノの信頼を落とすぐらいならそれぐらいの負債、直ぐに回収してやりますよ!という意気込みを見せてほしかった。つまりお前は最低な支配人てことだよ」
「くっ、言わせておけば・・・。どうやら痛い目を見たいらしいな!」
「これを見ても同じことを言えるのか?」
銃を持った支配人の私兵達に見えるように例のコインをテーブルの上に置く。
もちろん周りの宙賊もそれを見た瞬間に全員が息を飲むのがわかった。
流石カイロス、その影響力は絶大だ。
俺は全く偉くないけどこれを見せるだけでみんなが驚くので、俺自体が偉くなったように感じてしまうので気を付けないとなぁ。
「な、そのコインは!」
「文句があるのならあの人に言え。俺はトウマ=ヴェイロン、この名前の意味が分かるよな」
「くっ・・・」
「ともかくこれでこのカジノは俺の物だ。二日待ってやる、それまでに荷物をまとめてさっさと出ていくんだな。もちろん希望があればこのまま雇ってやらんこともないが、まずは便所掃除から始めてもらおう。どうする?カジノ一つで命を失うか?それとも、尻尾巻いて逃げるか?借金は俺が払っておいてやるから安心していいぞ」
形勢逆転。
かくして一世一代の大勝負は、アリスの手によって見事勝利で終わったのだった。




