31.粛々と荷物を運んで
「それじゃあよろしく頼むぞ」
「これを運ぶだけで金を貰えるんだよな?」
「あぁ。ただし・・・」
「コンテナの中は見るな、だろ?そもそも俺の仕事は物を運ぶだけで中身に興味はないから安心してくれ」
ソルアレスで打ち合わせをした翌日、まずはアリスの助言従い例のヤバい物資を運ぶ仕事を引き受ける。
最初はいぶかしそうな顔をしていた男だったが、俺が金に困っているそぶりを見せると当初より安い4万ヴェロスを提示して仕事をちらつかせてきた。
こっちも困っているふりをしているので前金を半分受け取る条件でその値段で引き受け場所へと案内してもらい荷物の場所を把握、それを確認したアリスが輸送ギルドにアクセスして新規で運搬の依頼を作り、それを俺が受注するというわけだ。
依頼内容は所定の場所に置かれたコンテナを運ぶこと。
これで公式的には輸送ギルドの依頼を受けて荷物を運んだという体裁が取れるので、あとはカーゴに運び込んで監視カメラを起動させればアリバイは成立する。
こうすれば奴らからすれば俺が荷物を運んだように見えるし、ギルドからしたら依頼した場所の荷物を運んだようにも見える、誰にも怪しまれず物を運びだした後は所定の場所に物を置くだけで依頼は終了。
輸送ギルドの報酬も貰えるし奴らの報酬も無事にゲット、最高じゃないかとアリスは言うけれど本当にうまくいくんだろうか。
「積み込み完了しました」
「よし、あとはラインに戻るだけだ」
「あの、麻薬で探されている私が麻薬を持って帰って本当に大丈夫でしょうか」
「それに関しては問題ありません。例の件については公安に濡れ衣である証拠を送付しておりますし、コロニー内での新たな取引について情報提供いたしました。今頃向こうは売人を捕まえようと躍起になっている事でしょう」
「だが向こうも公安に狙われていることぐらいわかってるだろ?わざわざ出てくるとは思えないんだが」
「狙われているとわかっていても新しいブツが届けば嫌でも出てきますよ」
なるほど、その新しいブツというのがこいつという事か。
まったく、策士というかなんというか、よくまぁそんなことを思いつくもんだなぁ。
そんなわけでコロニーを離れた俺達はあえてゆっくり航路を進み、二日後にはラインへと到着。
入港手続きを終えてハンガーへと接岸すると、隔壁の向こうから黒服の男たちが大勢向かってくるのが見えた。
「来たな」
「後は予定通りいけば問題ありません。交渉のカードはこちらの方が枚数は上ですし、いざとなれば公安の秘密も握っていますので」
「そういう怖いことサラッと言うなよ」
「公安だ!今回は捜査令状もあるぞ」
「そんなに怒鳴らなくても聞こえてますよ、中へどうぞ」
スピーカーから聞こえてきたのは前のリーダー的な人の声、どうやら令状の件を根に持っていたようでカメラに向かってどや顔でつきつけて来る。
今時紙の令状とか映画の見過ぎじゃないか、とか思いながらもとりあえずハッチを開放。
ハッチが開くと同時に雪崩のように黒服が乗り込み、あっという間にコックピットを占拠されてしまった。
「お前が容疑者ディジーをかくまっているのはわかっている!素直にひきわた・・・あれ?」
「は~い私はここに居まーす!」
「実際入港手続きの時にインプラント情報を提示しただろ?それがなんでかくまうことになるのかよくわからないんだが」
「と、とりあえずお前には麻薬所持ならびに輸送の嫌疑がかけられている、抵抗せず速やかに拘束され情報を提供すれば情状酌量の余地もある。おい、連れていけ!」
元気よく返事をする彼女にリーダーを含めた黒服達があっけにとられた顔しているが、リーダーだけはすぐに我に返り別の令状をディジーに向けて読み始めた。
これもまた紙の令状、おそらくそのほうが偽造されにくいからだろうけど資源の無駄じゃないだろうか。
「ちょっと待て」
「なんだ、邪魔すればお前も拘束するぞ」
「さっきから何を言っているのかわからないが、彼女にいったい何の嫌疑がかけられているんだ?証拠は?」
「この令状が証拠だ、この間は俺達を上手く欺いたようだが今回はそう上手くはいかないからな!」
「欺く?アリス、最新の情報を教えてやれ」
「かしこましました」
今時アナログの令状なんて使ってるからこんなことになるんだぞ、そう言わんばかりにホログラムをリーダーの前に提示する。
「なんだこれは」
「ディジーの対する最新の情報だよ。昨日の時点でこの子への嫌疑は晴れて令状は取り消し、それどころか情報提供のお礼まで言われてるんだが一体何を言ってるんだ?」
「何を馬鹿なことを」
「隊長、データが更新されています。令状は取り消し、なんでしたらこの船への捜査令状も消されてます!」
「どういうことだ!?」
「公安なら常に最新の情報を調べておいたらどうだ?」
部下に見せられた電子データを確認してリーダーが苦虫を噛み潰したような顔をしている。
この前ディジーに逃げられたのがよっぽど悔しかったんだろう、そのリベンジマッチをしようとしたらこのザマだ。
もっと言ってやりたいことはたくさんあるけれど、あまり挑発して変なことになっても困るのでこのぐらいにしておこう。
「ということで令状がない以上全員速やかにこの船から出て行ってくれ。これから荷下ろしと荷運びが待ってるんだ、それとも手伝ってくれるのか?」
「くっ、全員戻るぞ」
「「「「はっ!!」」」」
「またな」
悔しそうに何度もこちらを振り返る黒服リーダー、彼らが全員ハンガーから出て行ったのを確認してやっと肩の力が抜けた。
「はぁ疲れた」
「とりあえず第一関門突破ですね」
「次は荷物の輸入チェック、これも大丈夫なんですよね?」
「そればっかりはなんとも。彼らも馬鹿ではありませんから色々と偽装はしているでしょうけど、それがなかったらおそらく・・・。」
アリスに話を遮るかのように緊急の通信を受信、どうやらバカだった方らしい。
ため息をつきながら通信を繋ぐとメインモニターにキツネ目の女性オペレーターが映し出された。
「こちらソルアレス、なんの用だ?」
「こちら入港検査官です。搬入されたカーゴ内の荷物に不審なものを発見致しました。これより調査員が参りますので彼らの指示に従ってください」
「了解した。カーゴにはまだ誰も入っていない、好きに調査してくれ」
「輸送ギルドの依頼表とカーゴ内の監視カメラデータを転送します、ご確認ください」
「協力感謝します」
俺たちは何も悪く無い、粛々と荷物を運び粛々と仕事をこなしただけ。
少々めんどくさい奴らに絡まれたけど、別に悪いことは何もしていない。
そう理解していても心落ち着かない部分があるわけで。
「大丈夫でしょうか」
「まぁなるようにしかならないだろ、とりあえず自分の嫌疑は晴れたんだからことが終わったらディジーは早くギルドに戻ってやってくれ。そうじゃないとエドガーさんがパンクするからな」
「そうします」
しばらくしてハンガーの向こうからゾロゾロと向かってきたのは防護服を着た一団。
そしてあの黒服軍団がまたも船へと向かってきた。




