27.事情を聴いてみて
険しい顔で銃を向ける黒服の男達。
俺が両手を上げるよりも早くズシンという音と共に船が揺れ、思わずバランスを崩して横のコンテナに手をついてしまった。
「動くなと言っただろう!」
「無茶言うなっての、っていうか俺の船に勝手に乗り込んできて銃を向けるとか令状とか持ってるんだよな」
その動きに黒服が声を荒げるが不可抗力なんだから仕方がないだろう。
因みに銃を向けられるのはこれが初めてじゃない。
掃除夫時代に傭兵から何度も向けられているし、黒服とも何度かやりあっている。
コロニー公正安全機構、別名公安。
主にコロニー内の犯罪や不正の取り締まりを行っている一般警備とは別の実働部隊。
やることは無茶苦茶だし偉そうにしているので嫌われているけれど、彼らがいるからある程度の治安が守られているのもまた事実。
因みに何度かやり合ったのは俺じゃなくて掃除をしていた船を勝手に荒そうとしたので持ち主が戻るまで文句を言って時間を稼いでいた程度、じゃないと後で傭兵に文句を言われてこっちが悪者にされてしまうのであの時は必死だったなぁ。
向こうも持ち主以外に捜査礼状を出したところで効果がないのでものすごい顔で睨まれていたっけ。
「公安の強制捜査特権だ、お前がこの船の持ち主だな?」
「あぁ。」
「その女は?」
「イブ、うちのクルーだ。っていうかインプラントで個人情報も確認できるし船体登録もしてるんだからそれでわかるだろ?」
「・・・間違いありません。」
銃を構えたままのリーダー的な男に別の黒服が返事をする。
にらみ合う事数十秒、やっとリーダーが銃を下した。
「ここに麻薬密売に関与した女が逃げ込んだ可能性がある、調べさせてもらうぞ」
「どうぞお好きに」
「おい、こいつらをコックピットに連れてけ。確かもう一人のクルーがいただろ、そいつと一緒に監視しろ」
「畏まりました!」
「捜索するのは構わないが商品にはくれぐれも疵をつけないでくれよ、客の所に運ぶ大事な商品なんだ。それと出航は一時間後、もし遅くなるようならハンガーの遅延占有代は公安に請求するからな」
「持ち主の許可は得た、全員隅々まで探せ!」
「「「「はい!」」」」
リーダーの号令で他の黒服たちが一斉にカーゴ内へと散らばり、コンテナを開けて中身を確認し始める。
流石に中身をぶちまけるようなことはしないはず、ディジーが隠れている場所も天井近くまでコンテナが積まれているからさすがにあの上に登ったりはしないはずだ。
コックピットへ移動する際イブさんをみると、こちらの意図に気づき小さく頷いてくれた。
どうやらカーゴハッチが閉まるさっきの振動の際に隙間を埋めることが出来たんだろう。
しかし、軽量金属とはいえあのコンテナを一人で動かせるとか半端ないパワーだな。
「ここで静かにしてろ」
「さっさと終わらせてくれよ」
「良いから黙ってろ!」
コックピットではイブが行儀よくオペレーター用の椅子に座って静かに待機していた。
何も言わなかったらお姫様みたいな感じなのに口を開くとアレだもんなぁ。
「なにか?」
「別に、特に何もなかったか?」
「問題ありません」
必要以上に話をすると扉前の男が睨んでくるのでとりあえず静かに待つことに。
時々アリスが上を見ながら首を左右に動かしている当り、遠隔で中の状況を確認しているのかもしれない。
それから30分後、黒服達がカーゴから戻ってきた。
「お探しの人は見つかったか?」
「捜査協力に感謝する、以上だ」
「次からは正しい令状を持ってきてくれよ」
「・・・」
リーダーがものすごい目でにらみつけて来るけれど、目的を達成できなかった以上令状のない彼らにこれ以上滞在する権限はない。
ここにいると思い込んでいた当てが外れイラついているのはわかるがそれを俺達にぶつけるのはおかしな話だ。
まぁ、匿ったのは間違いないけれどバレなければ問題ない。
黒服達が外へ出ていくのを見送り、すぐにハッチを閉める。
「やれやれ、何とかなったな」
「あの状態でよくまともに話せましたね」
「公安とやり合ったのはこれが初めてじゃないしな。やることは強引だが令状が無かったら必要以上の事は出来ないってわかってるし、ぶっちゃけコロニーの外に出ればこっちのもんだ。おそらく今回ので目はつけられただろうけど、自分達であれだけ探し回って見つけられないんだから文句を言われる筋合いはない。とはいえ、一応奴らの報告書とかには目を通しておいてくれ、出来るよな?」
「もちろんです」
「奴が余計なもの仕込んたりは?」
「遠隔で確認していましたが問題ありませんでした。それらしい機械反応もありませんし、仮にありましても偽造データを流せば済むだけの話です。出港時のスキャン対策としてディジーさんのインプラントデータを一時的に阻害しておきます」
入港時のスキャンデータだけでなく公安の機械すら当たり前のようにハッキングするといえるのがアリスの凄い所、普通は足が付く可能性を恐れてそんなことできないはずなんだけどアーティファクトである彼女の手にかかれば公安のセキュリティなど赤子の手をひねるよりも簡単なんだろう。
「よし、それじゃああいつらが余計な手を回すよりも先にさっさとコロニーを出てしまおう。イブさん、出航してコロニーを離れたらディジーを連れてきてくれ」
「わかりました」
コロニーを離れれば彼らの管轄外、仮に警備に連絡をしたとしても令状の準備だなんだとしている間にコロニーから離れることができる。
やれやれ、面倒な事になったもんだ。
そんなわけでハンガーの向こうから俺達を睨みつけて来る黒服達に見送られ?ながら急ぎコロニーを出発、ある程度飛行したところで彼女をハンガーから救出した。
「ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」
乱れた制服を直したディジーが申し訳なさそうな顔でうつむいている。
横の二人を見るもアリスはいつもとおんなじ感じだし、イブさんは心配そう。
やれやれ、そんな顔されたら強く言えないじゃないか。
「傭兵ギルドの受付嬢がまさか公安に追われているとはなぁ。マジで麻薬に手を出したっていうのならすぐにでも船を降りてもらうが・・・」
「そんなことしてません!」
「でも何かあったから追われてたんだろ?じゃないと黒服が令状なしで無理やり強制捜査特権を使ってくるはずがない、あれって確か確実な場合じゃないと使わないんだよな?」
「世間一般にはそういわれているようですね。令状を取る間に逃げられてしまわないよう、無理やり捜査するときに使用するようです。もし見つからなかった場合、相手に訴えられたら負けるのは間違いありませんから」
実際見つからなかったからこそ、リーダーがあんな顔をしていたわけで。
不法侵入だけでなく荷物の棄損なんかで公安を訴えれば100%俺が勝ててしまう状況、とはいえズルをしてこの状況を作ったので今のところ訴えるつもりはない。
とはいえディジーが何かをやらかしたのは事実、それ次第では俺達の身の振り方が変わってくる。
「で?なにがあった」
「私はハメられただけです!そりゃ、ちょっとお金が欲しくて変なところには行っちゃいましたけど、麻薬には一切手を出してません!」
「って、言ってるがどんな感じだ?」
「スキャンした結果それらしいものは見つかりませんでした。後は医療用ポッドで体内の検査をすれば手を出したかどうかはすぐにわかります」
「そういう事だから悪いが彼女についていって調べてもらってくれ。これも俺達の潔白を証明するため、職員なら麻薬使用者をかくまったらどうなるかわかってるだろ?」
「もちろんわかってます」
麻薬使用はコロニーの即日追放と専用刑務惑星への収監という重罪さらに、使用者を匿っても多額の罰金の他様々な罰が与えられる。
ひとまず俺達は依頼をこなさなければならないわけだし、出先で面倒な事になっても困るのでここでしっかり検査しておかなければならない。
アリスに連れられて居住スペースへ移動するディジーの背中を見つめながら俺は大きなため息をつくのだった。




