25.輸送ギルドに登録してみて
「これは輸送ギルドに登録する方への義務です、船体登録をお願いします」
「いや、だからそれは・・・」
「これは輸送ギルドに登録する方への義務です、船体登録をお願いします」
まるで機械のように同じセリフを繰り返す受付イケメン、いやよく見たら機械だった。
こんなイケメンに同じセリフを言わせる気がしれないんだが、旧型のヒューマノイドでもう少しまともな受け答えができると思うぞ。
とはいえ登録するなとアリスにも言われているので助言通りここは堪えるしかなさそうだ。
「どうされましたか?」
堪えること数分、だんだん飽きてきた時受付の奥からやっと人間が顔を出した。
「個人で輸送ギルドに登録したいんだが、先に進めないんだ」
「船体登録はギルド登録者の義務となっていますが、登録されないからでは?」
「まだ始めたばかりで持ってない」
「契約は?」
「コレからだ」
「それでしたら先に船を契約してそこから来ていただけますでしょうか」
出てきたのは背の小さな男性、顔も童顔なので子供なのかと思ってしまうが雰囲気がやはり違う。
一応人間っぽいけど感情が希薄っていうか機械みたいな暗示に人だな。
「そうしたいのは山々なんだが先立つものがないし、船体を購入するにもギルド会員だと安くなるだろ?」
「どこでそれを?」
「ネットワークを探していたらそう書かれていたんだが」
「・・・チッ、後で消しとかなきゃ」
いま舌打ちしたよなこの人。
しかも何やら不穏なこと言ってるんだが本当に大丈夫か?
「小型の荷物を運ぶ仕事だってあるはずだし個人での登録はできるよな?」
「まぁ」
「じゃあそれで頼む」
「このこと誰かに言ったりしてませんよね?」
「今のところは」
「絶対に言いふらさない、ネットワークに書き込まないって約束するなら登録してあげます。出来ますか。出来ますよね?っていうかしろ!」
「おいおい落ち着け、キャラが変わってるぞ」
突然何かに取り憑かれたように目を大きく見開いて捲し立ててくる職員。
子供みたいな見た目だから中々に迫力があるんだが本当に大丈夫かこの人。
俺の指摘にハッと我に帰りまた最初にテンションへと戻っていく。
「すみません取り乱しました」
「それはまぁいいんだが、何か事情があるのか?」
「まぁ色々とあるんです、色々と」
「色々ねぇ、ぶっちゃけ溜め込むぐらいなら吐き出したほうがいいぞ」
「じゃあ聞いてくれるんですか?」
「聞くだけで登録してくれるならな」
そう言ったことを後悔するのは少ししてから、アリスが耐えろと言っていた通り怒涛の愚痴を聞かされることになってしまった。
聞けば同情するようなところもあり、何だか可哀想になってしまうが、ここでそれの流されたら後で何を言われるかわかったもんじゃない。
それから約一時間、耐えて耐えて耐えまくって、やっと彼も落ち着いたようだ。
「落ち着いたか?」
「すみませんでした」
「今後は一人でため込まないことだ、金を払えば話を聞いてくれる奴もいるだろうからそう言った所で発散するんだな」
苦行のような時間を終え、何とか落ち着いた彼を宥めつつため息をつく。
吐き出されたのは輸送ギルドへの不満っていうか理不尽な状況への鬱憤だった。
例えば、船体登録を先にさせたのはギルドへの登録を先にすると購入するのにギルド割引が適用されその分をメーカーから請求されてしまうかららしい。
これに関しては、先に船を買っていればそれを請求されることはないのでギルドの運営資金が安定するのだとか。
更に、折角ギルドへ登録をしてもその殆どが企業と直接契約してしまうため再度ギルドに現れることはなく、そのせいでギルドへの依頼が達成されず客にもギルド本部にも文句を言われる始末。
「登録してちゃんとギルドに足を運んでくれれば船の規模感に見合った仕事を斡旋できるのに、やれ無理な仕事を押し付けられるだの、受けたものの報酬が安いだの文句ばっかりで。そのくせすぐに別の宙域に行くものだから依頼は増える一方なんです。はぁ、もう辞めたい」
という感じで本人もギルドの仕事に不満を持っている状況、そりゃ繁盛しないわけだ。
そういう不満とか不平ってのは案外相手にも伝わってしまうものだから、最初のようなぶっきらぼうな対応をすると誰も登録には来てくれない。
特に同じことを延々とやらせるなんてのは言語道断、登録を先にさせたいのであれば理由を説明するなりメリットをちゃんと説明するなりしてやる気にさせないといつまでもこのままだ。
「気を付けます」
「で、とりあえず話は聞いたんだし登録はしてくれるんだよなポーターさん?」
「約束ですから。でも、こっちの約束も守ってくださいね」
「ギルド登録値引きだろ?本来喜ばれる施策なのに条件とか変えてもらえないのか?どっちにせよ仕事をするには船がいるわけだし先か後かの違いだけ。どっちかだけが損をするのなら折半するなりなんなりして登録者に不利益を出さないのが一番だろ」
「それが出来るだけの資産があればいいですけど、誰も依頼をしてくれないのでギルドも火の車なんです」
「援助は?」
「あればこんなに苦労していません」
何とも世知辛い世の中だなぁ。
いい仕事がしたいのにそれをするだけの金がない、金が無いからいい仕事をする土台すら作れない。
ギルドなんて儲かって儲かって仕方ないだろうと勝手に思っていたけれど世の中分からないもんだ。
「はぁ、仕方がない。アリス聞こえるか?」
「登録は完了しましたか?」
「あぁ、輸送ギルドへの個人登録は完了した。次は仕事を受けたいんだが・・・どれがいい?」
「どれ?」
「登録した以上ギルドを介してギルドに依頼された仕事をする。とりあえずいい感じのを見繕って教えてくれ」
「畏まりました、今アクセスしますので少しお待ちください」
誰も依頼をやらないのなら、誰かがやらなければならない。
幸いここにはそれが出来る人間がいて、それを達成するだけの道具もある。
突然の流れにあっけにとられたような顔をする彼をよそに、同じセリフを吐き続けたイケメン機械が突然天井を見つめ小刻みに首を振り始めた。
まるで壊れかけの人形のよう、だがそれもすぐに収まり首を180度回転させてこちらを見つめてきた。
「アリスか?」
「接続完了しました。依頼内容を確認・・・なるほど、あまり儲けはありませんが実績を上げるには悪くないですね。カーゴの容量も問題なし、向こうの需要状況を調べてついでに運べばそれなりの形にはなるでしょう。マスター、これとこれとこれの三つをお願いします」
「了解。ってことで、今回はこの三つを引き受けるから手続きをしてくれ」
「あの、今のは?」
「企業秘密だ。とにかく依頼を達成すればそっちは資金が増えるし、資金が増えれば先に個人登録しても問題はないだろ。ここに来る人は仕事をしたくて来るんだから、それを理不尽な理由で断るのはやめた方がいいぞ」
俺みたいなやつに助言されるのは癪だと思うがともかく今の状況を変えなければ未来はない。
まずは依頼をこなして資金を増やし、俺は実績と報酬を稼ぐ。どちらもwin-winの結果なんだし、文句はない筈だ。
彼も色々と言いたいことはあるみたいだけど、自分の置かれている状況を理解しているからかそれ以上は何も言ってこなかった。
やれやれ、ただ仕事を受けるだけなのに面倒な事になったもんだなぁ。




