240.特別な仕事を依頼されて
「ようこそお越しくださいましたキャプテントウマ」
「俺の事を知ってるのか?」
「それはもう!品不足のコロニーに大量の荷物を持ってきてくださった救世主ですから。しかも大開拓時代の大型輸送船を利用しているとなれば話題にならないはずがありません!ささ、どうぞこちらへ、今冷たい物をお出ししますので」
傭兵ギルドに続いてやってきたのは輸送ギルド、こっちに関しては到着した時に取引は終わっているので挨拶だけと思っていたのだが、どうやらそれだけでは終わらなさそうな感じだ。
遺跡コロニーで遺跡調査船団でも使われていたノクティルカが有名なのはわかるとして、一体何をさせようというのだろうか。
「イブさん、テネスが来るのはどのぐらいかかる?」
「今向かっているそうですので30分もあれば」
「それまで時間を稼ぐか」
「挨拶だけだと思っていたんですけど・・・」
「俺もそのつもりだったがどうやら向こうはそれで終わらせるつもりはないようだ。となると十中八九仕事の依頼だろう。これで遺跡に降下する仕事だったら最高なんだが、流石にそれはないか」
「わかりませんよ?」
カジノの時に使用した例の人形を使ってテネスに連絡を取りひとまずギルドまで来てもらう手はずは整えた、後は向こうがどう出てくるか、とりあえず案内されるがまま応接室らしき場所へと案内された。
「ささ、どうぞどうぞ」
「どうも」
「すぐに冷たい物をお持ちしますので。あ、アルコールの方が?」
「いや、結構だ」
「そうですか?ご存じの通り遺跡の気候を再現するためにわざとあのような埃っぽく不快な環境になっておりますからアルコールが飛ぶように売れるのです。もちろん毎日のように持ち込まれているはずなのですが、あの日はそのバランスが一気に崩れてしまったものですからキャプテンが寄港してくださらなければ大変なことになっていたでしょう」
「そんなにみなさんアルコールがお好きなんですね」
「この気候だと嫌でも好きになりますよ。っと、申し遅れました私は当輸送ギルドの責任者バッルローグと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
ソファーに座ったまま深々と頭を下げるバッルローグさん。
なんだろう一瞬すごい不快な顔をしたけど、お酒に何か恨みでもあるのだろうか。
見た目はさっきのエドモンドさんよりも若い感じ、ギルド責任者にも色々会ってきたけど最年少に見える。
もちろん義体化している可能性もゼロじゃないけど、見た感じそういうわけではなさそうだ。
「トウマだ、こっちがイブ。後でもう一人来るから来たら通してもらえるか?」
「もちろんです」
「しかし、外にはあれだけの船が待機しているぐらいだしギルドも忙しくて仕方ないだろ」
「実はそうでもないんです。あそこに並んでいる船のほとんどは遺跡物を買いに来たバイヤーばかり、もちろんそれがこのコロニーの売りではありますが、輸送ギルドとしてはあまりうまみはありません」
「確かに小型船ばかりでしたね」
「その割にコロニーに降りれば飲み食いばかりするので物資はいつも枯渇気味、更には地上からあれこれ要求されるものですから・・・っと、愚痴を言って失礼しました」
あったばかりの相手を前に愚痴が出るなんてよっぽど不満がたまっているのか、はたまたそれが罠なのか。
あからさまなボールが飛んできたわけだが・・・とりあえず拾っておくか。
「惑星への搬入もあるのか?」
「我々セリオスステーションは遺跡発掘用コロニー、こうして外部の方に遺跡物を販売する一方で遺跡のある惑星基地の管理も任されています。毎週決まった日に然るべき量を搬入し、代わりに遺跡物を搬出するのが当ギルドの仕事ではありますが最近は遺跡の方から法外な量の物資を要求されて困っているのです」
「要求された所でそれを捻出するのはコロニー運営だろ?」
「もちろんそうですが、その要求された物資を集めるのが我々の役目でして・・・。依頼を出せど荷物は来ず、荷が来てもアルコールばかり。あの時キャプテンがアルコール以外の物資を運んでくださらなければ大変なことになるところでした」
ふむ、アリスの話じゃアルコールとの抱き合わせじゃないと売れないという話だったがどうも様子が違うみたいだな。
遺跡発掘現場からの要望と、それを叶えるための運営からの圧力、依頼をかけても物資は届かず、届いても小型船の運んでくる少量のアルコールと・・・こっちはこっちで苦労しているみたいだな。
「依頼を出しても来ないんですか?」
「えぇ、通常よりも高い金額を提示していますが、やはりアルコールの方が高く売れるものですから」
「そりゃ業者とすれば高く売れるものを運びたくなるだろ。何かしら特別なインセンティブでもなければわざわざ安い物を運ぶことは無いさ」
「インセンティブ、ですか」
「例えばハンガーへの優先入港、買取価格の割り増し、依頼の優先受注券、特別な依頼の打診・・・まぁ色々思いつくことはあるが結局余分な経費が掛かるからなぁ。コロニー運営がその資金を出さなきゃそれを被るのはギルドってことになる」
「なるほど・・・」
相手が投げてきたボールを受け取りながらもそれを打ち返すことはしない。
恐らく何かしらの依頼をしたいんだろうけど、もう少し泳がせて様子を見るべきだ。
「さすがキャプテン、よくお分かりです」
「なんにせよ俺達は俺達の仕事をするだけだ。事情は理解していてもアルコールの方が高く売れる以上俺達はそれを運ぶ。もちろん特別な依頼があるのなら、それに見合う報酬次第で引き受けることもあるだろう。知っていると思うが輸送業以外に傭兵業もやっていてな、ありがたいことにそっちも忙しいんだ。アイツら食料には喰いつかないがアルコールには喰いつくんだよなぁ、そういう理由もあることをわかってくれ」
「もちろんそれを私達が強制することはできません。ですがキャプテンが私共の苦悩をご理解いただいていることが分かっただけでもありがたい限りです」
「そりゃどうも」
「どうでしょう、それを踏まえて一つお願いしたいことがあるのですが・・・」
「失礼します、お連れ様が参られました」
ナイスタイミングで扉がノックされ、テネスが部屋に入ってきた。
髪の毛がぼさぼさになっているあたりかなり急いできたんだろう、可愛い服も所々汚れてしまっている。
「テネス、よく来たな」
「まったくあんな連絡してくるから何事かと思ったじゃない」
「はは、悪い悪い。だがいいタイミングだった」
「何が?」
「ちょうど向こうが依頼したいことがあるらしくてな、一緒に話を聞いてくれ」
彼女がいれば相手が何を言ってきてもすぐに調べることが出来るし、的確なアドバイスを出してくれるだろう。
別にイブさんを頼りにしてないわけじゃないけれど、何事にも適材適所という言葉がある。
こちらは三人、向こうは一人。
突然やってきたヒューマノイドに驚きを隠せないという感じのバッルローグさんだが、すぐに落ち着きを取り戻したようだ。
「それでは改めまして、輸送ギルドとしてお願いしたいことがございます。内容としましては・・・」
セリオスステーション。
遺跡発掘コロニーとしては国内最大級の大きさを持つある種特別なコロニーなわけだが、どうやら色々と問題を抱えているようだ。




