238.遺跡について勉強して
「綺麗ですね」
とあるレストランの中。
窓の向こうには土埃の舞う大通りが見えるけれども、ここは空調も聞いており空気清浄機がしっかりと稼働していることもあって埃っぽさは一切感じられなかった。
あの後買い物を続けようかとも思ったのだが、時間も時間だったので一度昼食を取りながら休憩することにした。
アリスがテネス達に連絡をしたけれど、ここで合流するのは難しそうなので向こうは向こうで昼食をとるそうだ。
まぁ、この先も買い物は続くし向こうは向こうで適当に何とかするだろう。
「確かに綺麗だが、何かはさっぱりわからないけどな」
「これだけ綺麗ですし、遺跡の物ですよきっと」
「と思いながらもよくできた偽物ってのがよくある話、実際こんな綺麗な球体が出て来るとも思えないし・・・まぁ偽物だろう」
「と、トウマさんは仰っていますがアリスさんはどう思いますか?」
「そうですね・・・まずはスキャンしてから考えましょうか」
とりあえず困った時のスキャン、飯が来るまでまだもう少しあるので十分こたえは出るはずだ。
アリスが透明な玉を手にしながらそれを頭上高く掲げて、透かしたり回したりしている。
あれで何をどうスキャンしているかは知らないけれど、少なくとも何かはしているのだろう。
「どうだ?」
「・・・わかりません」
「は?」
「てっきりガラスのような何かで作られていると思ったのですが、成分的には違うんです。かといって特定の何かと言うわけでもありませんし・・・これはもしかしてもしかするかもしれませんよ?」
「つまり遺跡物ということですか?」
「そう考えるのが妥当でしょう」
あの中で一番偽物っぽいやつがまさかの遺跡産の品物だなんて誰が思うだろうか。
アリスが興味なさげに片手でガラス球を返してくるのを両手で受取、改めてそれを透かして見る。
うーむ、これがねぇ・・・。
確かにそれっぽいと言えばそれっぽいが、露骨すぎて逆に偽物に見えてしまう不思議。
なんにせよあたりを引いたのならそれで満足だ。
「お待たせしました!遺跡風パスタと遺跡風ドリアです!」
「わ!ミートボールたっぷり!」
「美味しいですからたくさん食べていってくださいね!」
ツナギ風の服を着た女性店員が大盛のパスタとドリアを運んでくる。
何が同遺跡風なのかはさっぱりだが、とりあえず合成機から出てきたものではないのは間違いなさそうだ。
ここで何の肉かを聞くのは野暮ってもの、栄養があって食えれば何の問題もない。
とりあえずローラさんと半分ずつ分けて口に運ぶ。
「ん!美味い!」
「見た目はけっこう重そうな感じですけど、でもトマトソースがすごい効いてて美味しいです!」
「ふむ、これが美味しいわけですか。参考になります」
「ボリュームもそうだし、ここは当たりだな」
「さすがアリスさんですね」
正直グルメサイトの評価はそこまで高くなかったんだが、星間ネットの書き込みなどでは評価が高いというなんとも不思議な店だったのだがどうやら後者が正解だったらしい。
しばし無言で料理を口に運び、空腹を癒していく。
うーむ、美味い。
「なぁ聞いたか?」
「あれだろ?遺跡の中で今までにない物が見つかったって話だろ?誰でも知ってる話じゃねぇか」
「それは一カ月前の話だ、今回はもっとヤバいやつだって」
「なんだよヤバいって」
「遺跡の発掘中に隠し部屋が見つかったって話だ。中には破損してない調度品とかヒューマノイドがいたって話だぞ」
「は?ヒューマノイド?アンティークの間違いじゃないのか?」
夢中になって飯を食っていると隣の席に座った商人らしき男二人が、何やら興奮した感じで話をしている。
ふむ、何やら面白い話じゃないか。
アリスに目配せするとすぐに頷き、会話の録音を開始した。
しっかし、遺跡からそんなものが見つかるとはなぁ。
俺が知っている遺跡ってのは星間ネットワーク以前の人類、もしくはそれに類似した何者かが生活した後だということ。
遺跡と呼ばれるだけあってそのほとんどが痕跡、部品や生活品は多数見つかっていても調度品などの複雑な物が完全体で見つかったという話はあまり聞かない。
ましてやヒューマノイドが見つかったとなれば、それはもう学術的にも歴史的にも大騒ぎになってもおかしくない話だ。
俺達が宇宙に進出する以前から存在していた正体不明の存在、その痕跡こそが遺跡。
はたして彼らは何者なんだろうか。
「と、いう感じらしいがどうだ?」
「今の所そう言う報告書は上がっていませんね。守秘義務の関連でまだアップロードされていない、もしくはオフライン端末の中に保管されているという可能性が高いかと」
「アリス的にはどう思う?」
「ヒューマノイドが見つかったという事に関してはなんとも。確かにヒューマノイドらしきものが遺跡から見つかったという話はたくさんありますが、そのほとんどが壊れていて稼働したという話は聞いたことがありません。あくまでもそれらしき物であり、パーツでしか存在していないというのが一般的な解釈です」
「アンティークとは違うんですか?」
「私がそういった類かという質問であれば答えはノーです。我々が作られたのは大開拓時代よりも前ですが、遺跡が作られたのはそれよりもはるか前の話。時系列的につじつまが合いません」
「だがお前は遺跡から見つかったんだろう?」
「それに関してはなんとも。私が前回起動したのは290年前、その頃にはもう星間歴が存在していますし遺跡はそれよりもはるか前に存在した存在です。何らかの理由で遺跡で保管されていたところをマスターのお父様が発見したというのがスムーズな考察かと。誰がなんのためにという部分に関してはデータが存在しませんのであくまでも推測になります」
アリスを作った開発者がこいつがあまりにも優秀だからという理由ですぐに封印・・・と言う名の機能停止させたというのは本人から聞いた話。
本来であれば開発した本人以外誰も目覚めさせることはできないはずが、偶然俺の遺伝子が合致し今に至る。
アリスが何故ソルアレスに隠されていたかについてはまだわからないけれど、紆余曲折ありながら偶然が重なり親父の手に渡り、今こうしてここにいるというのが全て。
今更それを掘り返したところでもう終わった話だからなぁ。
「詳しい話を聞こうにも本人は死んでるし、色々調べてみても自分の出生は分からないんだろ?」
「そうですね、どこで作られたのかすらわかりません」
「ま、出自がどうであれアリスはアリスだ。今後ともよろしく」
「こちらこそよろしくお願いします、マスター」
あまり深く考えた所で何も生まれないし、本人が気にしていないのならばそれ以上追及する理由もない。
アリスはアリスだ。
世の中知らないほうがいい頃もたくさんあるしな。
「でも遺跡から見つかったヒューマノイドっていうのは気になりますね」
「気にはなるが情報が少なすぎる。もう少しこの遺跡について勉強したほうがよさそうだな」
「では昼食後は残り半分の露店を見て回りそれから勉強会を開きましょう。遺跡がどういう物か、改めてレクチャーさせていただきます」
「よろしくお願いします、アリスさん」
「わかりやすい感じで頼む」
「それはマスター次第です」
俺だって理解しようとはしているけれど、あまりに難しいと脳みそがついてこないんだよなぁ。
かくして飯屋で聞いたとっておきの噂を確認するべく、残りの露店を見て回るのだった。




