234.そう上手くはいかなくて
「なぁ・・・」
「なんでしょう」
「なんか遅くないか?」
アステラル・ディスティラリーコロニーを出発し半日。
最初は特に気にならなかったんだが、時間が経つにつれその違和感はどんどんと大きくなり、ついに口からあふれ出してしまった。
いや、急いでいるわけじゃないんだし別にいいんだけどさ。
こう、見慣れた感じと違うとどうもしっくりこなくて。
「ノクティルカにアレだけの荷物を入れてるんだもの当然よ」
「そうなんだけどさ、前に宙賊から鹵獲した時はもっと早くなかったか?」
「あれはカーゴ内部にそれなりに隙間がありましたから。鹵獲した物資の大きさは様々、コンテナに入っていたものもあればそうでないものもありましたから結果総積載量の六割程しか詰め込めませんでした。その点今回はしっかりとコンテナに入っていますし、それをパズルのようにしっかりとくみ上げて九割五分までしっかり積み込みましたからね、遅くなるのも仕方ありません」
「それに関してはまぁなんとなく理解はしてる。液体かぁ、そうなるよなぁ」
「そういう事ですね」
実際のところ搬入作業もかなり大変だったんだよなぁ。
重たい液体だけを後ろ半分に積み込むわけにはいかず、先に買付けてあった中身を一度全部出して今回仕入れた酒をそこの方に敷き詰め、それから重量ごとにバランスを取りながら何とか今の形に押し込んだ。
ただ積み込めばいいってもんじゃない、どこに何を入れるかを計算するのも輸送船に大事な事。
それをしていてこれだもんなぁ・・・。
まぁ仕方ないな。
「別に急ぐ理由もないんだしのんびり行けばいいんじゃないの?」
「それはそうなんだが、これだけ遅いと・・・」
「遅いと?」
答えを言うよりも早くコックピット内が一気に赤くなり、アラーム音が響き渡った。
ほら、やっぱり。
「船体スキャン警報、どうやら獲物が来たようですね」
「なんだ、宙賊に襲われるのが心配だったの?」
「そりゃそうだろう。この遅さ、腹いっぱいに荷物を積んでますって言ってるようなもんじゃないか」
「確かにこの先の宙域は宙賊も多いとお話ししていましたから。よく覚えておられましたね、偉いですよ」
「・・・この状態で褒められてもなぁ」
スキャン警報が止まり、代わりにメインモニターの宙域MAPに宙賊機の反応が表示される。
相手は五機、まぁノクティルカ程のデカい船を狙うのならばこのぐらいは必要か。
「宙賊機、まっすぐに向かってきます」
「そりゃアレだけ腹いっぱいなのを見たら突っ込んでくるだろ」
「こちらソルアレス、ノクティルカ応答願います」
「こちらノクティルカ、お客様が来たみたいね」
「お客はこちらで対応しますので安定飛行をお願いします。下手に動いたことでバランスが崩れて大事なお酒が割れてしまっても困りますし」
「りょうか~い、ミニマちゃんが怯えてるから早く何とかしてあげてね」
速度を出せず振り切ることもできないというのになんとも落ち着いた反応。
まぁ何度も死線を潜り抜けているからこの程度じゃビビらないのかもしれないけど、ミニマさんはまだ慣れていないだろうから彼女の為にもさっさと片付けるとしよう。
「という事なんだが、どうする?」
「ソルアレスもそれなりに重量がありますのでいつものような派手な動きはできませんが・・・私が2貴女が2イブ様が1で問題ないでしょう。できますよね?」
「当たり前じゃない!むしろ私が4でもいいんだけど?」
「そこは5と言う所だと思いますが、まぁいいでしょう。とりあえず私達だけで対処しますのでイブ様は念のため警戒だけお願いします」
「わかりました、準備しておきますね」
向こうから見れば輸送船に護衛が一隻のみと格好的と思っているかもしれないが、こちらからすれば懸賞金が自分から突っ込んできたようなもの。
これまではイブさんの狙撃とハッキングにのみ頼っていた俺達だが、今では戦闘用の大型ドローンを複数所持し小型戦艦並みの戦力を有している。
そこにハッキングが加われば・・・並みの宙賊では全く相手にならないだろう。
見た目とは対照的な過剰戦力、まぁ無事に航行できるのならば文句はない。
「アインスとツヴァイ、貰うわよ」
「良いでしょう、ドライは私が使います。テネブリスはどうするんです?」
「もちろん出るに決まってるじゃない」
「この先も襲撃が予想されます、実弾の使用はくれぐれも控えるように」
「はいはい、わかってるわよ」
まるで玩具の取り合いのように戦闘用ドローンを選び、更には実弾の使用すら禁止してでも倒せてしまうらしい。
相変わらずやることがおかしいんだよなぁうちの二人は。
「一時的に戦闘に集中します、マスターは広域警戒をお願いできますか?」
「今回は鹵獲するスペースもないからな、それぐらいは任せろ」
「よろしくお願いします」
あくまでも遠隔操作なのでアリスもテネスもコックピットに残っているけれど、さっきまでのようにアクティブに動くようなことは無くなった。
人形のように動きを止め、前だけを見つめている。
今悪戯したら反応するんだろうか・・・なんてことを考えていると、ソルアレスのカーゴがゆっくりと開き戦闘用ドローンとテネブリスの入ったコンテナが射出された。
「お、わざわざ挨拶してくるなんて律儀な奴じゃないか」
しばらくするとコックピット内に強制通信が届き、画面に宙賊のドアップが表示される。
「よぉ、こんなデカい船を一隻で警護とは随分と不用心だな。半分譲ってくれるってんなら目的地まで護衛してやるぜ」
「生憎とそういうのは間に合ってるんでね。そうそう、おたくらも俺らみたいなのに気を取られてると痛い目を見るぞ」
「はっ、お前一隻でなにが・・・」
「高速で接近する敵機!戦闘用ドローンだ!」
「くそ、なんで気づかなかった!」
「そんなの俺が知るか!うわ、やめr・・・」
そこで通信は終了、メインモニター横に表示された宙域マップから赤い光点が一つ消える。
「さて、後何秒持つのやら」
さっきまで規則正しく向かってきていた宙賊機が不規則な動きに変化、その後も一機また一機と減っていきついに最後の一機になってしまった。
「ちゃんと四機仕留めたわよ!」
「一分四十五秒まぁ、及第点でしょう」
「なんでよ!」
「二機目から三機目に移る時、わざと逃がしましたね」
「ギクッ!」
「そういう無駄を省けばあと十秒は短縮できたはず、その慢心がいずれ自分に帰ってくると認識しなさい」
「そんなの良いから残りを・・・」
「残りが何か?」
「なんでもないです」
アリスとテネスがコックピットに戻りはしゃいでいる中、最後の一機が汚い花火となって消えてしまった。
話をしながらでも撃墜できるという事なんだろうけど、相変わらずやることがえぐい。
テネスが慢心するのを見越してわざとギリギリまで待機、そしてタイミングを見計らっての攻撃。
恐らくずっと相手の腹の下に隠れてその時を伺っていたのだろう。
相手からしたら絶望の一分四十五秒だっただろうなぁ。
「あー、盛り上がっているところ申し訳ないが追加だ」
「おや、今度は六機ですか」
メインモニターには新たな赤い光点、さっきの奴らが仲間を呼んだかはわからないけれどノクティルカと言う格好の的がいるんじゃこうなるのも仕方がない。
いや、むしろアリスの狙いはそれか。
折角コロニーに行くのなら荷物の輸送だけでなく傭兵としても稼ぎを上げる、まったく仲間を囮に使うとはなんてやつだ。
「じゃあ今度は半分ずつ、どっちが早く倒せるか競争よ!」
「良いでしょう。折角やるんですから負けた方がマスターのいう事を聞くというのはどうですか?やっぱりバツがないと盛り上がりませんからね」
「おい」
「マスター、合図をお願いします」
「色々と突っ込みたいところはあるが・・・まぁいいだろう。それじゃあよーい、スタート!」
合図とともにオレンジ色の光点が三つ、獲物に向かって突撃する。
セリオス・ステーションまで後半日、それまでにどれだけの獲物が引っかかるか楽しみだ。




