232.思わぬ相手に声をかけられて
「よし、これで終わりか」
「注文分はこれで全部です、皆様お疲れ様でした」
ノクティルカの停泊する五番ハンガーへ大量に持ち込まれた買い付け品は、無事に腹の中に納められあとは出発するだけとなった。
ソルアレスの方にも個人で買い付けた品が運び込まれており、こっちもカーゴはパンパン。
因みに各自10万ヴェイルという小遣いはあっという間に使い切られ、なんなら100万を超える金額を払っていたらしいのだが・・・まぁその辺は個人のお金なので俺が口を出すところじゃない。
イブさんが一部ミニマさんの分を立て替えているという話も聞いているけれど、この辺は個人間のやり取りなので何も言うつもりはないが揉めるようなら・・・いや、イブさんに限ってそれはないか。
「あー疲れた!」
「ごくろうさん、よくまぁこれだけ詰め込んだなぁ」
ハンガーの横に立ち、腹いっぱいのノクティルカを全員で見上げる。
最初、船の横に買付けた酒が置かれていた時は本当に入るのか不安だったんだが、なんだかんだ綺麗に入ってしまった。
何なら少し余白があったぐらいだが、まぁ無理やり詰め込むものでもないだろう。
「そりゃ私の腕がいいからに決まってるやんか。それにこれだけ詰め込んでもろてこの子もきっと喜んでるで」
「そういうもんか?」
「輸送船は荷物を運んでなんぼ、仕事が出来無くなったらただの鉄くずやからな。もちろんそうならんように手は入れ取るけど、やっぱりお腹いっぱいの姿は見ている方も嬉しくなるもんや」
「なるほどなぁ」
その辺の感覚は正直よくわからないが、手をかけた船が仕事をしているのはメカニックとして感慨深いものがあるんだろう。
今まではハンガーに止まっているだけだった輸送船がこうやって大量の荷物を運んで金を生み出しているわけだし、この前の鹵獲とはまた違う良さがあるのかもしれない。
「出発は十二時間後、皆さまそれまでゆっくりお休みください」
「了解。俺は船に戻るけど、ミニマさんは?」
「荷物の固定が気になるからこっちに残るわ。適当にするから気にせんといて」
「ほどほどにな」
「りょうか~い」
「んじゃま俺達は帰るか」
後は彼女に任せて俺達はソルアレスへ移動、出発は十二時間後という事なのでもう少しコロニーを見て回るもよし、そのままごろごろするもよしという感じだ。
俺?
もちろんゴロゴロ・・・と言いたいところだが、せっかくここまで来たんだからもう少し酒を楽しむつもりだ。
「で、一緒に来るのか」
「当然です」
ある程度片付けが終わったところで再び繁華街へ・・・と思ったのだが、さりげなくアリスがついてきた。
「まぁこまれて困ることもないけど、飲めないのに楽しいのか?」
「別に飲めないことは無いんですよ?飲んでも味がわからないだけで」
「因みにどういう風に解析されるんだ?」
「そうですね・・・パラメーターと申しますか、酸味やアルコール度数などが数字化されています。ですがそれが美味しいかどうかはわかりません」
なるほど、彼女の中ではそういう風に表示されているのか。
味覚というのは人によっても違うから数字だけでは表せないんだよなぁ。
「基準がなければそうなるか」
「ですがマスターと同じものを摂取し、マスターの感覚を教えていただくことで疑似的にそれを感じる事は可能です」
「とういうと?」
「マスターが美味しいと感じた物をAとしてそれを同時に摂取しパラメーターを記憶。次に美味しいと感じたBという物を同じく記憶・・・という感じでデータを蓄積していくことでマスターが美味しいと感じるものを把握できるようになりますので、仮にマスターが食べなくても私がそれを疑似的に判断することも出来るようになるでしょう」
「ふむ、それは面白い。俺の感覚を具体的に数値化か、考えたことなかったな」
つまりそれを蓄積することで俺が食べなくてもアリスがそれを食べる事で判断できると。
アリス的には数値でしかないが、俺が美味しい思っているから美味しいと感じることが出来るわけだ。
「なのでこれからも美味しいという物を教えてください」
「それは別に構わないんだが・・・それでいいのか?」
「といいますと?」
「この先数年で死ぬつもりは更々ないが、その先でお前が辛くならないか?」
「・・・そういう所ですよマスター」
「なんだよ」
「なんでもありません」
俺はお前を心配してだな・・・と言おうとも思ったその時だ。
突然横から何者かが視界に入ってきたかと思ったら、アリスが強引に俺を後ろに引っ張った。
余りの力に思わず吹き飛ばされそうになる。
「あの!遺跡に興味ありませんか!」
「貴女は・・・こんな所まで来ていたのですか?」
そこにいたのは第五ハンガーにいたあの女。
管制の女性に変わった子がいるけど無視していいって言われていた彼女がこんな町中にいるとは思わなかった。
っていうか間違いなく俺達を追いかけてきたんだろうけど・・・いったい何故だ?
「っていうかなんで俺達を追いかけるんだ?」
「だって遺跡に興味あるんでしょう?」
「なんでそう思うんです?」
「だってセリオス・ステーションの話をしていたもの。あのたくさんの荷物もそこにもっていくのよね?」
「それはまぁそうだが、あくまでも仕事だ」
「違うでしょ?」
「だから何故そう思うんです?」
なんだろうこの微妙にキャッチボールのできない感じ、珍しくアリスがいら立っているような感じだが・・・とりあえず向こうの出方次第だな。
「だって、あの船遺跡から来たんだもの」
「なんだって?」
「真っ黒くて大きな船、前に見たことがあるわ。あの子は遺跡から出て行っちゃったけどちゃんと戻ってきてくれた。だから今からあの場所に戻るのよね?」
「すまん、行っている意味が分からないんだが・・・この船を見たことがあるのか?」
「そうよ」
「それはいつ?」
「わからないけど・・・でもずっと前よ」
この人は一体何を言っているんだろうか。
確かにこの船は親父達遺跡調査隊が使用していた船だけど、ここ最近はずっとハンガーで埃をかぶっていたからここに来たことなんてないはずだ。
それこそ彼女の年齢を鑑みても見たことあるはずがない。
にも拘らず、この船が遺跡から来たと断定する彼女は・・・。
「マスター、彼女はヒューマノイドです」
「なんだって」
「失礼ながら簡易スキャンをさせてもらいました。年式はかなり古く所々不良も起きているようですが、間違いありません。なるほど、だから気にするなとあの方は言ったんですね」
本来人間に対するスキャンは人権的にも違法となっている。
もちろん仲間内で冗談でやったりするやつはいるけれど、見ず知らずの相手にやるのはマナー違反っていうか犯罪だ。
それをマスターである俺の許可なくやってしまうあたりさすがの一言だが・・・まさかヒューマノイドだとはなぁ。
もっとも、この法律は人間に対するものであってヒューマノイドには該当しない。
「つまり親父達が生きていた時代から動いているってことか」
「所有者登録はありません。自立して同じことをパターン化して動いているのでしょう。なるほど、通りで彼女の出生などが発見できなかったわけです」
「そういえば探しておくって言ってたな」
「買い付けですっかり忘れていましたがすべて謎が解けました。しかし、彼女はなぜ追いかけてきたのでしょう」
確かに持ち主がいない自立型のヒューマノイドという事は何かしらのプログラムで動いていることになる。
彼女はなぜあのようなセリフを言いながら近づいてきたのか。
やれやれ、最後にコロニーを楽しもうと思っただけなのに飛んだことになってしまったなぁ。




