23.新しい夢を見つけて
ディジーさんが教えてくれた惑星に住むという夢。
口で言うのは簡単だけど、それには莫大な金額、それこそ何十億ヴェロスという途方もない額が必要になるだろう。
なんせ惑星なんて言うのは資源の宝庫だからな、そこに住めるのはよほどの金持ちかはたまたその宙域を治める貴族ぐらいなもんだ。
「確かにいい夢だな」
「ですよね!空気不足に悩まされることもなく、好きな時に好きなだけ空気を吸える幸せ。そこに素敵な旦那様がいれば最高なんだけどな~」
「なんでそこで俺を見るんだよ」
「とりあえずこのギルドで一番可能性が高そうだから?」
「消去法かよ」
別に彼女に好かれているとも思わないし、好かれたいとも思っていない。
こっちは35を超えたオッサンで向こうはせいぜい20代半ば、俺なんてのはただの金づるでしかないだろう。
もしくはここを出ていくための足?
まぁそんなところだ。
「でも惑星に住むってものすごくお金がかかるんですよね?」
「そりゃなぁ、何十億っているんじゃないか?」
「それで済めばいいけどな」
「何十億!?やっぱ無理だぁ」
ギルドの給料がどのぐらいかは知らないけれど、何十億ってのはどう考えても無理。
じゃあ傭兵なら何とかなるのかなとか考えたりもしたけれど、今回の依頼料だってたかだか知れてるし、燃料費とか経費とか差し引けば決して多く稼いだわけじゃない。
そもそも今回みたいな美味しい依頼はそうそうあるもんじゃないので、やはり非現実的と言わざるを得ないだろう。
「それなら辺境の惑星を買えばいいんじゃありませんか。それでしたらそこまで高くありませんよ」
「惑星を・・・」
「買う?」
はて、突然アリスが良くわからないことを言い出したんだが・・・、惑星を買うだって?
そんな事ができるのか?
「別に夢物語を言っているわけではありません、星間ネットワークに引っ掛かるかどうかの未踏破地域、そこまで行けば惑星を買う事だって可能です。いえ、正確に言えば開拓でしょうか」
「つまり誰も手を出していない惑星を見つけてそこに住めばいいじゃないかってことだな?」
「流石マスター、その通りです」
確かにその方法なら不可能じゃない、不可能じゃないけど可能とも言ってないよなそれって。
「なるほど、確かにその方法なら何十億も出さなくても済みそうだ。まぁ、インフラ整備に同じぐらいの金はかかるだろうけど、少なくとも惑星に住むっていう夢はかなえられるぞ。よかったなディジー」
「えー、私はもっと近いところの方が・・・でもやっぱりそこまでしなきゃダメですかねぇ」
「まぁ何十億って金を用意するよりかは確実ではあるな。治安はともかく実際未開拓地域はまだまだあるし、そこでレアメタルでも見つけようものなら大儲け間違いなしだ。もしそうなったら俺を雇ってくてるんだよな?」
エドガーさんのお願いを全力で拒否するディジーさん。
まぁそんな夢みたいな話が叶うのなら、と言う話ではあるけれど個人的にはアリだと思うけどなぁ。
宙賊相手にドンパチできてさらに傭兵みたいなごろつきも顎で使える、最低限ギルドで働けるだけのコミュニケーション能力があるってのは素晴らしいことだ。
掃除夫時代はそれすらもできない奴がいたから、初対面の相手ともコミュニケーションを取れるってのは実はすごいことなんだとおもっている。
「素敵な夢ですね」
そんなやりとりを見て何故か嬉しそうにイブさんが呟いた。
確かに素敵な夢だと思う。
嫁にも逃げられ身内もいない俺には眩しすぎるほどの夢、でもそれが叶うのならさぞ楽しい余生を過ごせることだろう。
とはいえ現実問題それをするにも金がかかる訳で、いきなり叶えられるような夢ではないな。
「なので〜、トウマさん」
「断る」
「まだ何も言ってないじゃないですか!」
「どうせ連れて行ってくれとか言うんだろ?」
「そんな浅はかなことは言いません。私も大人ですからちゃんとギブ&テイクで行きますよ。ずばり優秀なオペレーターは欲しくないですか?」
「いらんなぁ。」
おもわず即答してしまったがマジで要らなかったんだから仕方ない。
うちにはアリスっていうアーティファクトヒューマノイド、まぁ俗に言うやばい奴がいるだけにそういう事務的なことは全く困っていない。
調べようと思ったら軍のブラックボックス内だって調べ尽くすような奴だぞ?
それと一般ギルド職員を一緒にするのはちょっとなぁ。
「えー、じゃあエンジニア」
「間に合ってる」
「家政婦!」
「生憎と自分のことは自分でやるタイプだ」
「それじゃあ、夜のお供とか」
「そこまでして外に出たいのかよ」
「だって今までで一番可能性が高いんだもん」
だもんってお前なぁ。
その年とそのビジュアルだから許されるのであって30過ぎたらアウトだぞ。
何をそこまで必死になるのかわからないが、なんにせよソルアレスでは必要とされていないのは間違いない。
「マスターの性癖は少し変わってますから、なんせこの私にも手を出さないんですよ?」
「え!こんなに可愛いのに!?ってことはそっちの人?」
「なんだって?」
「なんでもないでーす。ともかく私の夢、忘れないでくださいね!」
磁気嵐のようにやってきては騒ぐだけ騒いでさっていく。
やれやれやっと静かになった。
「気を悪くしないでくれ、あいつはあいつで思うところがありながら仕事をしてくれているんだ」
「別にめんどくさいとは思ってもそれを嫌だとは思ってない。こんな仕事だからな、夢ぐらい見たいだろ」
「お前がどんな仕事を想像しているかはわからないが、まぁそんなところだ。根はいい奴だからな、よかったら可愛がってやってくれ」
まるで子を見守る親のような目で彼女の去った扉を見つめるエドガーさん。
この人にはこの人なりの何かがあるんだろうなぁ。
「そんじゃま話も終わったし俺たちもお暇したいところなんだが・・・。」
「なんだよ含みのある言い方して」
「ぶっちゃけここに来てすぐ依頼を受けたもんだか定宿がないんだよ。一応ここを拠点にしばらく滞在するつもりなんだが、いいところを知らないか?」
「出来ればお風呂とトイレは別、部屋も複数あるようなところが望ましいですね。もちろん調べればすぐわかる話ではありますが、エドガー様なら色々とできるのではと思いまして」
言いつけ通り男爵の名前は使わなかったが、それでも露骨に便宜を図れと言うのがアリスらしい。
あまりにも堂々とした強要に流石のエドガーさんも苦笑いを浮かべている。
「男爵直々にお前達へ便宜を図るよう言われてるから安心しろ。とりあえず今の条件に合う宿をいくつかピックアップしてくれ、そう言うのは得意だろ?」
「そう仰ってくださると思い候補を用意しています」
「仕事がはえぇなぁ。なぁうちで働かないか?ディジーよりいい金出すぞ」
「生憎と仕えたいと思う人以外のところで働く気はございません。ありがたいお誘いですが丁重にお断りさせていただきます」
「へいへい。それじゃああとはこっちでやるから一時間程時間をくれ。宿が決まったら連絡を入れる」
「今度酒でも持ってきてやるよ」
「それなら甘いもので頼む、出来ればこのリストに載っているやつで」
アリスのアリスだがこの人もこの人だ、仕事ができるやつは二つ三つ先の事を考えて行動すると言うけれどまさにそんな感じ。
あながち出世したってのも間違いではないんだろう。
差し出された紙のメモを受け取り中身を確認せずポケットへ。
さて、とりあえず一時間程時間を潰しますか。




