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35歳バツイチオッサン、アーティファクト(美少女)と共に宇宙(ソラ)を放浪する   作者: エルリア


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22.面白い話を耳にして

「ほい、到着っと」


 ラインへの入港手続きを終え、事務所を出て大きく伸びをする。


 前のコロニーと比べると天井が高い、強化ガラスの向こうは漆黒の宇宙だというのに不思議と不安を感じさせないのはなぜだろうか。


「お疲れ様でした」


「なんだか久々に帰ってきたって感じがしますね」


「日数で言うと六日ぐらいでしょうか、ここに居た時間の方が短い筈ですが不思議と同じような感覚になります」


「今の所ここを拠点にしているから心情的にそうなるんじゃないか?いずれここを出て別のコロニーを拠点にすればまた違う感じになるんだろう」


 アリスの言うようにラインに来てすぐあの依頼を受けたので離れている時間の方が長い、にもかかわらず戻ってきたという安心感があるのは心理的な何かが作用しているんだろう。


 定宿があるわけでもなしほんと、なんでなんだろうなぁ。


「しばらくはここを拠点にするんですよね?」


「一応そのつもりだ。」


「よかった」


「ん?何かあるのか?」


「いえ、教えてもらったお店にまだ言ってないなって思っただけで・・・」


「そういえばそうでしたね、エドガー様には色々と教えていただきましたしここにいる間に制覇してしまいましょう」


 初めて傭兵ギルドに顔を出した時に色々と教えてもらったんだっけか。


 かなりの件数があったのでそれ全部回るとなると中々に大変そうだが、別に急いでいる旅でもないしちょくちょく利用していれば制覇する日もそう遠くないだろう。


「今日はどうする?このまま宿を探すか?」


「先方より連絡は入っているようですが一応傭兵ギルドに顔を出しておいた方が良いでしょう」


「うーむ、めんどくさいが報告も大事だしな」


「それに、報酬とは別にいい宿を紹介してもらえるかもしれませんよ」


「む、それは確かに重要だ。ソルアレスのベッドも悪くないがたまにはふかふかのベッドで眠りたい」


「そこにお風呂はあるでしょうか」


「ある場所を紹介していただけばいいんです、渋るようであれば男爵様の名前を出す手もあります」


 このヒューマノイド中々あこぎなことを考えやがる、確かにそれが一番手っ取り早いけど貴族の名前ってそう簡単に使っていい物じゃなかったと思うけどなぁ。


 なんてことを考えながら先に傭兵ギルドへ、受付嬢のディジーさんがヒラヒラと手を振ってくれたので挨拶を返しつつそのまま裏の事務所へ。


 厳つい傭兵に埃っぽい空気、とんだ受付詐欺だよなここは。


「よぉ、戻ったか」


「依頼は完了。向こうの知り合いから伝言だ、『今度美味い酒奢れよ』だとさ」


「ったく、別に俺は出世したわけじゃないしむしろ向こうの方が男爵のおひざ元で安泰の筈なんだが」


「そういう認識の違いは酒を飲みかわしながら解決してくれ」


「機会があればな」


 つまりエドガーさんにその気はないという事らしいが、他人の交友関係に口を出す気も興味もないのでぶっちゃけどっちでもいい。


 一つだけ言えるとしたら俺を伝言板にするなって事だけだ。


 さて、一応義理の報告はこれで終わったわけだし、さっさといい感じの宿を聞いてゆっくりしたいところなのだが・・・。


「も~、トウマさん!無視しなくてもいいじゃないですか!」


 突然後ろから名前を呼ばれたと思ったら、受付にいるはずのディジーさんが不機嫌そうな顔で立っていた。


 ちゃんと挨拶はしたのに何をそんなに怒っているんだろうか。


「ん?ちゃんと手を振り返しただろ?」


「あんなのじゃわかりませんよ。それに、折角来てくれたんだから声ぐらいかけてください」


「急いでたんでな、悪かった」


 こういう場合下手に反論するよりもこっちが悪くなくても謝った方が上手くいく、俺が結婚生活で学んだ数少ないことの一つだ。


 事実謝ったことで怒りが少しマシになったのか、いつもの柔らかい表情に戻っていく。


「なんだディジー、その良い感じの足で新入りを虜にするのか?」


「人聞きの悪いこと言わないでください!少なくともトウマさんは私に対してそんなイヤらしい目を向けてきません!そうですよね、トウマさん!」


 が、横で聞き耳を立てていた傭兵にからかわれまた顔を赤くして怒り始めた。


 そしてその矛先がまっすぐこちらへ向かってくる。


「ん?あぁ、まぁ」


「マスターの好みとは少し違いますから大丈夫ですよ、ディジーさん」


「アリス、余計なことを言うな」


「失礼しました」


 油断したらすぐ人の性癖をバラそうとするのはマジで勘弁してもらいたい。


 俺にもプライバシーってもんがあってだな、確かに素敵なスタイルだと思うけれどもちょっとばかしストライクゾーンからは外れている、なので彼女の事をそういう目で見ることはない。


「それはそれで自信無くすんですけど」


「見てほしいのか見てほしくないのかどっちなんだよ」


「そりゃ~素敵な人にはそういう目で見られたいのが女心ってものですよ。ですよね、イブさん?」


「えっと、たぶん」


「えー!折角みられるなら好きな人とか、そういう人に見られたいじゃないですか。その為に日夜努力してるんです、誰でもいいわけじゃありません!」


 正直その辺の女心的なのがさっぱりわからず嫁に逃げられた奴なので、彼女が力説したところでさっぱりわからない。


「私はわかりますよ、ディジーさん」


「アリスさん!アリスさんならわかってくれるって信じてました!」


「仕えるならやはり認めた人でなければなりません。この人になら全てを捧げられる、そういう気持ちがない相手に自分をさらけ出すことはできませんから」


「そうそう、そうなんです!この人になら抱かれてもいい!そういうがいいですよね!」


「つまり結婚したいってやつか?」


「んー、それとはちょっと違うんですよね~」


「エドガーさん、分かるか?」


「俺に聞くなよ。」


 なるほど、さっぱりわからん。


 エドガーさんに聞いたところでわかるはずもなく、その後はアリスと恋バナ的な話で大盛り上がりするディジーさん達をただただ眺める事しかできなかった。


 ぶっちゃけ俺が一番苦手とする話題、一度結婚しておいてなんだがそういうのは考えたこともなかったなぁ。


 っていうかヒューマノイドなのになんでそういうのが分かるんだろうか。


「ではディジーさんの夢は世間一般で言う素敵な方との結婚、という事になるのでしょうか」


「私ですか?んー正直な話いつか素敵な人と結婚して~なんてのは諦めてるんですけど、代わりにいつかここを出て惑星に住んでみたいって思ってるんです」


「惑星に?」


「だって大地の上に立てるんですよ?別にコロニーが嫌いってわけじゃないですけど、いつかは本当の地面の上に立ちたいじゃないですか。でもそれをしようと思ったら、ものすごくお金がかかりますよね。さすがにここのお給料じゃ無理だなぁ」


「悪かったな、安月給で」


 ふむ、面白い話だ。


 彼女に言われるまでそんなこと考えたこともなかったけれど、本当の地面・・・つまり大地の上に立つっていう夢もありなのか。


 結婚したいとかこういう職業に就きたいというのではなく単純に大地の上に立ちたい、あわよくばそこに住んでしまいたい。


 それを聞いた瞬間、羨ましいと思ってしまった。


 折角自由に過ごせるのだからそんな夢があっても悪くない、なるほどこれはありじゃないだろうか。

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