218.先方の悪だくみを潰して
「マスター、獲物が来ました」
「了解」
「テネス、くれぐれも頼みますよ」
「任せときなさいって、こいつには指一本触れさせないから」
アリスが例の連中をおびき出そうと画策し始めて一週間が経過、ついにその日はやってきた。
ここはアースフォージコロニー内のとある場所、大量の資材が積まれた倉庫の一角に俺とテネスの姿はあった。
まわりは薄暗くうずたかく積まれた資材によって視界は悪い。
そんな中、コツコツという靴音が聞こえてくる。
そいつは資材の積まれた角を曲がる前にピタリと止まった。
「随分と埃っぽい場所だな、それに何かの声もする」
「スペースマウスがいるからじゃないか?」
「へぇ、そいつは美味いのか?」
「揚げればうまいらしいぞ」
因みにこれはお互いの事を確認する合言葉、あの厄介ものを食べようだなんて奴は一人もいないはずなのでこの返事をするのは間違いなく取引相手だ。
それを確認したのでそれぞれが角から姿を出した。
黒服を着たデータグラスをつけた男、もちろんオルビタル・フロンティア・インダストリーの社員だ。
社員と言っても例の男の下っ端、例のハンガー多重売買事件で多額の賠償金を支払わされた上にいくつもの取引をアリスに妨害され尻に火がついている状況の彼らからすれば、なんとしてでもこの取引は成功させなければならない。
「ブツは持ってきたか?」
「もちろんだ、確認してくれ」
提出したのはデータ端末。
中に入っているのは小型テラフォーミングを行いたいという企業のリストと購入希望商材の一覧。
ここに載っているメーカーに行けば商品が売れるという素晴らしい物で、売り上げのない彼らがのどから手が欲しいほどに求めているとっておきの情報だ。
因みに半分は本当の情報でもう半分は嘘、この端末でしか情報を確認できない完全オフライン仕様のとっておき・・・という事になっているけれど、実際はテネスが常時ハッキングをして表示しているだけなのでそれを止めればデータはどこかに消えてしまう。
恐らく奴らも遠隔でログインして中身をコピーしようとするだろうけど、中身は空っぽだし画面に表示しているだけなのでアクセスしたところで中身を見る事は出来ないだろう。
もちろんアリスが俺を遠隔で監視、アクセスがあれば即時ハッキングすることになっている。
受け取った男が端末を起動、中に入っていたデータを素早く確認していく。
「この情報確かなんだろうな」
「おたくらだって本業だろ?これが嘘かどうか見ればわかるんじゃないか?」
「これだけの情報ともなれば自分で大儲けできるはずだ、なぜこれを俺達に?」
「情報を抜くのは得意でもそれを売る先を持ってないからな。それにあくせく働いて稼ぐよりも定期的にこうやって金が入ればそれでいい、俺は金を手に入れてそっちは情報を手に入れる。悪い話じゃないだろ?」
「・・・そうか」
「こっちは出すもん出したんだ、そっちは?
「まぁまて、まだ情報を確認中だ。本当にこの端末からしか接続できないのかチェックさせてもらう」
「はいはい、ご自由に」
向こうからすれば1000万ヴェイルを超える大きな取引だ。
データ上ここに書かれている業者に商材を売りこめれば1億ヴェイル以上になるのは間違いない、そうなればこのぐらいの経費すぐにでも取り返せるけれども、資金力の乏しい彼らからすれば何とかしてひねり出したんだろう。
だからこそ失敗は許されない。
しばらくインカム越しに話をしていた男が静かに端末の画面を消してこちらを見た。
「確かに間違いないようだ」
「言っただろ?」
「これさえあればあの人も・・・いや、なんでもない」
「色々大変なんだろうけど、俺の知ったこっちゃない。さぁ、早く出すもん出してくれ」
「忙しないやつだ。これが依頼されたブツ、確認してくれ」
男が自分の後ろに置いていた黒いアタッシュケースを前にだすとそのまま二歩後ろに下がる。
それを確認してから横にいたテネスに合図を出し、彼女にそれを回収してもらった。
一応攻撃の意思はないと後ろに下がってくれたようだけど、周りに別の黒服が待機しているのを俺達が見逃すはずがない。
虎の子の1000万ヴェイル、それをただで渡すような男じゃない。
いくらテネスが近接戦闘のデータを入れているとしても戦闘用アンドロイドじゃないので動きには限界があるし、仮にあったとしても五人を相手に俺を守りながら戦うのは不可能だ。
もちろんイブさんがいれば話は別だが、奴らを警戒させないように待機してもらっている。
じゃあどうするのか。
「スキャン完了、純度100%のレアメタルで間違いないわ」
「交渉成立、だな。さて、さっさと帰って飯にしようぜ」
「道中気をつけてな」
「そっちこそ、落としたらデータ吹っ飛ぶから気をつけろよ」
「マスター、奴らが動き出しました。警備への通報完了、あと30秒だけ耐えてください」
まぁ元々入っていない端末なのでテネスのリアルタイムハッキングから外れれば空っぽに戻るだけだけど、なんて考えていたら耳の中に入れた小型インカムからアリスの指示が飛んでくる。
助けに来られないのなら別の力で助けてもらえばいい。
ということで、残り30秒なんとしてでも時間を稼がなければ。
「そうだ、思い出した」
「なんだ?」
「俺がいない場所でその端末を開けるとロックがかかる仕様になっているんだ。パスワードを教えるからメモしてくれ」
「なんだって!まったく、この場だったからよかったものの終わってからだとどうするつもりだったんだ」
「いやー、いつも勝手に空くから何とも思ってなくてな。悪い悪い」
「この端末に頼む」
「了解、転送しておいてくれ」
「端末スキャンを開始、転送します」
アドリブではあるけれどテネスがそれに反応して適当な暗号キーを作成、もちろん使う事は出来ないけれど時間を稼げたらそれでいい。
男がまだかまだかと靴を鳴らすのを聞きながら静かに待っていたその時だ。
「貴様ら!何をしている!」
赤いランプを点滅させながら警備が走ってくる音が聞こえてくる。
よし、何とか間に合ったな。
「おい!」
「後二秒・・・終わりました」
「それじゃあまたな、俺は未だ隠居するつもりはないんだくれぐれも捕まるなよ」
「くそ!」
端末をひったくるようにして黒服の男は逃走、俺も逃げるそぶりを見せつつも実際は事前に用意しておいた偽装用コンテナに先程のレアメタルを入れてその場で待機する。
もちろん逃げなければ警備に見つかり連行されるのは間違いないが、それこそが今回の狙いだ。
警備の突入によって奴らの俺のレアメタルを強奪するという作戦は頓挫、捕まえたくても捕まえる事は出来ずレアメタルもどこにあるかわからないままだ。
因みに隠したレアメタルには発信器をつけてあるので後でイブさんが回収する手はずになっている。
「おいお前!・・・って何してるんだ?」
「何って見たらわかるだろ、俺のとしっぽりしてるんだよ」
やってきたのはまだ若い男女の警備員、ちなみに今の格好は床に座り込むテネスが俺の上にまたがっている。
スカートが長い事もあってパッと見ではそういう事をしているように見えるかもしれないが、断じてそんなことは無い。
「先輩、絶対こいつじゃないですよ」
「だが通報受けて誰もしょっ引けなかったってなったら都合が悪い。とりあえず連れていくぞ」
「マジっすか」
「お前には密売の容疑が欠けられている、おそらく違うとは思うがとりあえず来てもらうぞ」
「ったく、これからがいい所だったのに。テネス、行くぞ」
「はい」
今回はまともなヒューマノイドという設定なので反論することもなく静かに立ち上がり身を正す。
立ち上がった瞬間、女の方が慌てて目をそらしたがもちろんブツが出てくることは無い。
そんなわけで警備に護衛されながら無事に奴らの包囲網から脱出、悪だくみを阻止したのだった。




