216.大きな囮を有効に使って
船を購入して三日。
熟練飛行も無事に終わり、ノクティルカはローラさんの手足となって宇宙を飛び回れるようになった。
まぁ、最初から乗り回してはいたけれど回数を重ねるごとにその精度が増してくる。
ほんとこの人の飛行センスは半端ないよなぁ。
それにより一時的にソルアレスの飛行能力が低下するものの、宙賊とやり合ったりする以外はアリスやテネスでも問題なく操縦することが出来るので大きな問題はない・・・という話だ。
「ノクティルカを囮にする?」
「以前からお話ししていましたように宙賊からすればノクティルカは格好の的です、あえて宙賊の多いエリアを飛行しておびき寄せ隠れていたソルアレスを使って迎撃、特に今回は実際に鹵獲してみてオペレーションが正しく機能するかどうか確認したいと思ってます」
「大きな獲物がいると思って近づいたら隠れていたソルアレスに襲撃されるわけか。確かにいい案だと思うが、その間誰がソルアレスを操縦するんだ?あいつらとチキンレースするとしても俺には絶対に無理だぞ」
「その時は私が操縦しますよ?」
「ローラさんが?じゃあ向こうは?」
「周りに何もない状態であれば遠隔操縦でも問題ありません。と言いますか、囮ですのでむやみやたらに動く必要がないんです。中身を求めているわけですから奴らもわざわざ船を沈めたりはしません、無防備に近づいてきた所をズドンと行くわけです」
言いたいことは分かる、どうせ向こうにはレアメタルか何かが入っているように見せかけておびき寄せるつもりなんだろう。
一隻だけならハッキングでどうにでもなるけれど仮に複数で出てきた場合は戦闘になるのは避けられない。
そんな時ローラさんがこっちにいるのならばありがたい話だが、普段航行している時に襲われた場合はどうなるんだろうか。
基本はこっちにいるのか、それとも向こうにいるのか。
何とかなると思っていたら早速問題が出てきてしまった。
「まぁ今回はおびき寄せるのが目的なんだしこっちにいてくれるのなら心強い。で、鹵獲する本当の狙いは例のドローンを使いたいからか?」
「へへ、わかる?」
「自分達で稼いだ金で買ったんだから俺が文句を言うことは無いが、そんなに楽しいのか?」
最初は船内のコンテナを動かすための大型ドローンを買ったのかと思ったら、宙賊船から物資を強奪する為というじゃないか。
確かにそういう使い方もできるけれども、目的と手段が逆ってのはヒューマノイドとしてなんだろうなぁ。
「マスターにはわからないかもしれませんが、自分の手足が複数増えるというのはなんとも言えない高揚感を得られます。これを使って宙賊船を鹵獲、物資だけでなく船そのものをトラクタービームでけん引することなく手に入れられるというのは非常にありがたいことです」
「そのためにわざわざ船を空っぽにしたわけか」
「だって荷物があったら船ごと収納できないじゃない」
「そりゃまぁそうなんだが・・・マジでやる気かよ」
やろうとしていることは完全に宙賊、まぁ向こうから先に手を出してきたんだから自己防衛と言えるかもしれないけれど、端から宙賊船の鹵獲が目的だからなぁ。
話を聞いていたミニマさんの顔が引きつっているけれど、それが正しい反応だと思うぞ。
そんなわけで中身を空っぽにしたノクティルカはコロニーを出てとある宙域へと飛行を開始、傭兵ギルドで手に入れた宙賊注意エリアにわざわざ向かっていく一般人は俺達ぐらいなもんだろう。
「目的宙域に到着、テネブリス射出します」
「それじゃあ行ってくるね」
「気をつけてな」
「そんな心配そうな顔しなくても大丈夫よ、基本隠れてるだけだし」
「宙賊船のスキャンは任せました、最高の獲物を見つけてきてください」
ソルアレスからテネブリスが射出され、真っ黒い機体があっという間に漆黒の海に溶けるように消える。
彼女の仕事はこの宙域にいる宙賊船をスキャンする事。
撃ち落とすのではない、あくまでもスキャンだけだ。
周りに何もいないのにいきなり船体スキャン警報が鳴る宙賊はかわいそうだが、これも最高の獲物を持ち帰るため。
別に近くに来た奴だけ捕まえたらいいのにそういうわけにはいかないらしい。
金にならないやつは撃ち落とすのみ、それなりの物資を積み込んでいたり宙賊船の性能がいい場合にはそのまま鹵獲して持ち帰るつもりなんだとか。
いや、場合によってはミニマさんにその場で解体してもらって必要なパーツだけ回収するとかいう鬼な事も言っていたような気もするが、聞き間違いだろう。
「さて、俺達も囮の近くで待機するか」
「ゴーストシップシステム起動します」
ノクティルカから少し離れた場所で光学迷彩を使ってテネスのように宇宙に溶け込みその時を待つ。
メインモニターに映し出された宙域マップにはまだ何も映っていないが、テネスが宙賊船をスキャンする度にそれが画面に表示されることになっている。
倒していいやつは赤、持ち帰るのは青、パーツ取りは緑で表示されるんだとか。
流石に救難信号は出さないけれども、なにかトラブルが起きてその場に停止しているような感じでポツンと浮かぶ夜のクジラ。
こう見るとやっぱでかいよなぁ。
「お、反応あり」
「赤ですね」
「いきなりこっちには来ないのか」
「あくまでもテネスが発見しただけですから、動揺はしていると思いますがそれをきっかけに広域スキャンをかけて・・・こんな感じで近づいてきます」
「なるほど」
最初は関係ない方向に飛んでいた宙賊船だが、突然急旋回してまっすぐこちらへ向かってくる。
しばらくしてやってきたのはおなじみの汚らしい小型バトルシップ、賞金も・・・まぁ小者だな。
「宙賊船がスキャン開始しました」
「アイツらにはどんな風に映るんだ?」
「大量の工業用品とレアメタルが載せられている事になっています。通信を受信、BOTにて対応します」
「・・・まともに相手もしてもらえないのか」
「御覧の通り、ドンドン宙賊が寄ってきますからいちいち相手にしていられません」
「なるほどなぁ・・・お、青色もいるぞ」
「比較的新しいバトルシップですね、奮発して購入したんでしょう」
必死にお金を貯めて買った船をいとも容易く奪われる哀れな宙賊、でもまぁそもそも宙賊になった時点で人権は無いんだ。
真面に稼いだ金でもないだろうし、俺達が有効に使わせてもらうとしよう。
「イブ様、ある程度集まってきたら迎撃を開始します。準備はよろしいですね」
「いつでもいけます!」
「ミニマ様、初めての戦闘で不安だとは思いますが戦闘中は席をお立ちになられないようにお願いします、それと声も抑えてください」
「本当に大丈夫なん?いっぱい来とるで?」
「心配には及びません、ついこの間この数倍の宙賊と戦って帰還しておりますので」
数倍どころか十数倍の宙賊と戦って帰還しているけれども、彼女からすれば1も10も同じこと。
ノクティルカの周りに群がってくる宙賊たち、その無線を傍受しながらタイミングをうかがっていく。
その数7、一隻一隻の賞金はそれほどでもないけれどこの数になればそれなりの額になる。
加えて奴らが持っている物資と新しいバトルシップを売ればまとまった資金を得られるはずだ。
なんせ金欠だからな、もらえるものはしっかりと貰っていかないと。
「鹵獲予定宙賊船のハッキング完了、いつでもいけます」
「よし、戦闘開始だ!」
ゴーストシップシステムを解除し奴らの後ろからイブさんが狙撃を開始、蜘蛛の子を散らすように逃げ出す宙賊船をローラさんが追い回していく。
「撃たれとる撃たれとる!」
「シールドがあるから問題ありません。何度も申しますがあまり声を出しますと舌を噛みますよ、お静かにお願いします」
「流石に初陣でそれは無理だろ」
まぁこの程度であれば物の数分で決着はつくだろう、これが終われば場所を変えてまた宙賊をおびき出すことになる。
帰る頃には彼女も慣れているはず、必死に口を押えて悲鳴を我慢するミニマさんをチラ見しつつメインモニターに咲く汚い花火に目を向けるのだった。




