211.予想外の状況になっていて
「はぁ!?だから金なんて借りるなっていったやんか!」
「仕方ないだろ、俺しかいないとはいえ食っていくには金がかかるんだ。今まではそれとなくやっていけたが、懐にも限界があるからなぁ」
オッサンの話では食うに困ってこの船を担保に金を借りたんだとか。
本来の予定では直近で金が入ってくるはずがアテが外れ支払期限が明日に迫っているらしい。
支払金額はズバリ5000万ヴェイル、一個人が負担するには明らかにおかしな金額。
っていうか、それを支払えるだけのアテっていったい何なんだろうか。
「アリス」
「情報確認完了、確かに5000万ヴェイルの抵当に入っています。支払先は・・・オルビタル・フロンティア・インダストリーですね」
「またあそこか」
「おっちゃん、何したらそんな金が要るねん」
「俺も年だからな、あいつらが持ってたこのハンガーを買ったんだよ。コロニー内じゃ端の端、倉庫は近いが機構の関係で大口の荷物を運ぶこともできない厄介な場所だが、こいつを置いておくにはここしかない。今後は細々と小型船の荷受けをすれば食うに困らない程度に稼ごうと思ったのさ」
「確かに倉庫には一番近い場所ですが・・・なるほど、入植初期に違法増築された場所なのですね」
アリスの話によるとコロニー入植時にはよくある話らしく、人目の付かない場所を作業員が休憩所のような形で増築することが多いんだとか。
大抵は撤去されるらしいけれども、ここのように忘れられた場所も少なからずあるらしい。
「違法増築された場所なんて本来所有者はないし、所有権も存在しないから1ヴェイルでも売れない場所なのに、そんなのに5000万も出すなんて、騙されてるって思わなかったの?」
「もちろんわかってたさ。だが大企業の契約書があれば少なくとも俺が生きている間は住み続けることが出来る。いまさらその金で狭い別の部屋に住むぐらいなら、宇宙がよく見える場所でのんびりしたいのさ」
「気持ちはわからなくはない。でだ、仮に俺がこの船を買うとしていくら支払えばいいんだ?」
「どういうことだ?」
「借金さえ払えば抵当が外れこの船はアンタの物になる。でもそれだけじゃ食っていけないだろ?となれば追加の資金がいるはずだ、それも含めて俺はいくら支払えばいい?」
「本気で買うつもりなのか?」
「最初は下見だけと思ったんだがな、親父の話も聞けたしアリスの出自も確認できた。その情報料も含めたら安いもんだろ。とはいえ無限に金があるわけじゃない、7000万までなら出せるが・・・どうだ?」
こういう交渉は先にカードを切った方が強い。
もちろん向こうの希望価格額がもっと上なら話は別だが、近しい場合はこれで決まることもある。
もちろんもっと安い可能性もあるけれど借金を払ってゼロじゃ生活も大変だし、その辺は考慮しておく方がいいだろう。
テネスの話じゃ新品で1億は必要、中古ならもっと安いだろうけどこれだけの大きさともなるとなかなか出回ることは無い。
まぁ見た目はボロボロだし中身を見たわけじゃないけれど、なんとなく親父が乗っていたと思うと欲しくなってしまった。
「本当にいいのか?」
「ぶっちゃけ親父の知り合いじゃなかったら5000万も出さなかっただろうけど、これに乗っていたと聞けば話は別だ。ちゃんとメンテしてあるんだろ?」
「あぁ、それは俺が保証する。こいつが隅々まで見てくれているからな」
「私が言うのもなんやけど見た目の割にしっかりしてると思う。でもホンマに空っぽやで?荷物を運ぶのに特化したせいでまともな制御機能なんてないし、ついていてもせいぜいオートパイロットぐらいやけどそれもないよりましな程度や。正直こんなのを飛ばせる人なんておっちゃん以外に想像できひんねんけど」
まぁミニマさんの指摘ももっともだ。
今の船はどれも自動制御がついているので少し練習すれば小さい船ならだれでも飛ばせるぐらいに簡単になっている。
だがこいつらにはそれが無い、姿勢制御や距離感をはじめ繊細な部分を自分の感覚とセンスで動かす必要がある。
少し間違えばコロニーに衝突、そんなことになれば多額の賠償金を請求されるのは日の目を見るより明らかだ。
「その点については心配ない、ローラさんがつい最近似たような船を操縦したところでね。名前は確か・・・白鯨だったか?」
「おぉ!懐かしい名前だな、確か仲間が乗っていったはずだ。どこでそいつを?」
「ノヴァドッグの知り合いに借りたんだ。なるほど、ここでもつながるのか」
「そうか、あいつまだそこにいるのか」
「借金を払えば自由の身なんだろ?たまには顔を見せに行ったらどうだ?正直親父の知り合いとは思わなくて挨拶してないんだ、よろしく言っといてくれ」
とりあえず交渉は成立という事でいいだろうか。
まさかとんとん拍子に船を買うことになるとは思っていなかったけれど、色々話を聞けたので結果オーライ。
早速許可をもらって船内を案内してもらうことにした。
船の分類で行くと大型船だが、こいつはそれよりも上の超大型船レベルといってもいいだろう。
「おぉ!これは想像以上に広いな」
「やから言うたやんか空っぽやって」
「でも、これだけ広いとソルアレスがすっぽり入れそうですね」
「サイズ的に問題はないかと。もちろん大量の荷物を搬入している場合は別ですが空荷の場合は中に格納してこの船だけでの移動もいいかもしれません。もっとも、入港時の操縦はローラさんしかできませんのでお願いすることになりますが」
「そういやローラさんは?」
「さっきコックピットを見に行ったわよ」
「居ても立っても居られないって感じだな」
白鯨も中々デカかったがこいつを見るとあれが小さく見えてしまうぐらいにデカい。
後部ハッチが上下に大きく開くのでソルアレスがすっぽりと収まるぐらいの空間がある。
ということは宙賊船をそのまま運ぶこともできるという事、これは鹵獲するのが楽しみになってきたぞ。
今後を考えてコンテナの固定具などを設置する必要はあるが、その辺はミニマさんが出来るらしいので俺達からの依頼という事でお金を払いやってもらうことになった。
ローラさんはコックピットに張り付いてテネスと一緒に動かし方を確認、俺とアリス、それとイブさんの三人でそれぞれ居住スペースを確認していく。
船室は全部で10、決して広くはないけれどベッドと小さな机が完備されているので客が来たらこっちに乗ってもらうという手もある。
その為には色々と整備も必要だけど・・・、まぁ普段はソルアレスで生活することになるんだし特に問題はないか。
「思っている以上に綺麗だな」
「遺跡調査船と聞いていたので何か面白い物があるのかと思ったのですが、残念です」
「まぁ金目の物は売ってるだろうし、むしろこの船が残っていることがすごいだろ」
「それも一日遅かったら売られちゃってたわけですよね」
「それもオルビタル・フロンティア・インダストリーにな。まったく、どんな会社なんだよ」
「あれから色々と調べていますが、調べれば調べるほど黒い物が出てきます。まぁ、大企業と呼ばれる所は多かれ少なかれそういう物があるものですが、ここは少し多すぎます」
アリスが言うってことはよっぽどの状況なんだろう。
もちろんそれを告発するつもりはないけれど、案内してくれたキャサリンさんには申し訳ないがマジで契約しなくてよかった。
「っと、最後はここか」
一番奥の部屋も他と同様こじんまりした感じ、残念ながらここも机の中は空っぽだったが手を入れると指先に何かが触れる。
ゆっくりと引っ張り出すと出てきたのは一枚の写真、そこには赤子を抱く女性と先ほど見た男性が映し出されていた。
「これはマスターのお父様ですね」
「ということはこのお子さんがトウマさん!?」
「うーむ、母親の顔なんて一度も見せてもらえなかったんだが・・・こんな顔してたんだなぁ」
俺と同じく嫁に逃げられたという話だったのだが、もしかするとそれも嘘だったのかもしれない。
何故なら彼らの後ろにはこの船があり、女性は白衣のようなものを身に着けている。
俗にいう職場結婚をというのをしたんだろう、その後俺を生んで・・・そして、何かあった。
親父だけでなくお袋の姿まで目にすることになるとは、ナディア中佐じゃないけれどこの船を買うのはある意味運命だったのかもしれない。
写真をそっと胸ポケットにしまい大きく息を吐く。
「さぁそろそろ戻るか。金の支払いもあるし、なにより相手がオルビタル・フロンティア・インダストリーともなるとそのまま借金を返して終わりって感じにならなさそうだしな」
「マスターの指摘はもっともです。少し時間はかかると思いますが、明日までにこのエリアを含めて情報を調べておきます」
「よろしく頼む」
「早くこの子が手に入るといいですね」
「だな」
もしこいつを手に入れたら何て名前を付けようか。
まだ買ったわけじゃないのに早くもそんなことを考えてしまっている自分がいた。




