210.意外な接点を見つけて
「なるほど、その人に会うためにここにいたわけですか」
「その途中でまさか誘拐の現場に遭遇するとは思わへんかったけどな」
「しかもそれが自分を助けてくれた人だなんて、天文学的な確率よね」
美味しい香茶に美味しいお菓子が加われば必然的に話は弾む、特に女性同士であれば尚の事だろう。
そのおかげで面白い話が出てきたわけだが、善は急げという事で紹介してもらうべく現地へと向かっている。
場所はこの前誘拐された場所をもう少し奥に行った荷受け用ハンガーの近く。
主に工業製品を輸送するために作られたハンガーらしいのだが、今はほとんど稼働していないらしい。
「それで、その人とはどういう関係なんだ?」
「昔のよしみでメンテナンスを依頼してくれんねん」
「昔のよしみ?」
「父親が知り合いでよく遊んでもらったんやけどな、偶然ここにいるって知ってからはちょくちょく通って船をメンテナンスさせてもらってるんよ。見た目はボロボロやけど中はしっかりしてるし、かなり大きいから探してる条件には合うと思うで」
「具体的にどんな船なんですか?」
「大開拓時代に使われてた船なんやって、必要な機能をそぎ落として荷物の運搬にのみに特化した化け物みたいな船やけど、不思議と壊れてへんのよなぁ」
大開拓時代の船と言えばこの前借りた白鯨もその時代の船だったな。
確かにオートパイロットとか重力制御とか、一般的な船についていいる機能は何もなかったけれど輸送能力の一点に関してはかなりの物だった。
白鯨の場合は大型船だけど分類は中型船、でも彼女の話を聞く限りはそれよりも大きい船という事になる。
「見えてきた、あそこや」
薄暗い倉庫街を抜けると、巨大な強化ガラスの向こうに漆黒の宇宙が広がっていた。
ぽっかりと開けた先にあったのは大型輸送船の名にふさわしい巨大な船、だが塗装は剥がれているし錆びている部分も多く決して綺麗とはいいがたい。
まぁ、人が乗るわけじゃないんで見てくれはどうでもいいと言えばどうでもいいが・・・まぁ、それは追々考えるか。
「おっちゃん、いる~?」
大型輸送船の横にあったちっぽけな建物にアニスさんが声をかけると二階の窓が開き、初老の男性が顔を出した。
「アニスじゃねぇか、よく来たなぁ。すぐ行くからちょっと待ってろ」
なんともローカルな会話、普通は事前に連絡をしておくものだと思うんだがなんでもここにはそんなハイテク機器?は存在していないらしい。
今時あって当たり前の物をハイテクと呼ぶ当たりどうかと思うんだが・・・なんて考えていると、建物から先程の男性が出てきた。
年は俺のおやじぐらいか、頭頂部がつるつるのわりに側面はふさふさ。
ここまで来たらスキンヘッドにすればいいのにと思うのだが、男にはどうしても譲れないプライドってものがあるのであえて何も言わないことにした。
「おっちゃんも元気そうやね」
「こいつとおんなじで見た目はボロいが中身は元気だぞ、さっきちょうど一発やってきた所だ」
「それ、セクハラやで?」
「おむつを替えてたやつに言われたくねぇなぁ。それで、こっちのお客は?」
「あのな、前にこの船を売りたいって言ってたやんか?もちろん条件があるのは分かってるんやけど、話だけでも聞いてもらわれへんやろか」
「前にも言ったがこの船は誰にでも売るわけじゃないんだぞ・・・ん?お前、どこかで見たことあるな」
あきれ顔の男が急に俺の顔をじっと見てくる。
いや、見つめてる?
「ナンパか?」
「お前みたいな野郎には興味ねぇよ。そんなんじゃねぇ、そのふてくされたような顔・・・お前、トウマか?」
「確かに俺はトウマだが、なんで俺の名前を?」
「やっぱり!いやーこんなところで会うとはなぁ、こんな綺麗な姉ちゃん達を侍らせて立派になったもんだ。それで、親父さんは?あいつは元気してるのか?」
怪訝そうな顔をしていたオッサンが急に笑顔になり、俺の背中をバシバシと叩く。
俺にはさっぱりわからないのに向こうはおやじのことまで知っているような口ぶりだ。
立ち話もなんだからという事で家の方に案内されたので、とりあえず全員でお邪魔することにした。
「そうか、死んだか」
「俺も死に目にはあってないが、聞いた話じゃぽっくり逝ったらしい」
「アイツらしいと言えばアイツらしいか。死ぬなら苦しくないほうがいいって言ってたからなぁ・・・と、あったぞ。これがアイツの写真だ」
今時ホログラムではない写真で保存しているなんてどれだけ時代遅れなんだよ、と思いながらも父親の仕事を知れば納得してしまった。
その写真に写っていたのは大勢の男達と、例の巨大輸送船。
その男たちの中心にいたのが若かりし頃の父親だった。
なんでも辺境の遺跡調査団の一員だったらしく、若いころから辺境を飛び回ってはまだ誰も手を付けていない大開拓時代以前の遺跡を調査・・・という名の発掘をしていたらしい。
大開拓時代を経て人類が一気に宇宙中に勢力を拡大できたのは一説によるとこの遺跡から見つかったオーパーツが原因なんだとか。
もちろん眉唾物の話ではあるけれど、色々と考察が出ているし俺もそういうのを読んだこともある。
そもそも星間ネットワークとかいうとんでもない規模の情報網が存在するのも実はこのオーパーツによるものっていうのはよく聞く話だが・・・まさかなぁ。
「似てねぇなぁ」
「だろ?俺もそう思う」
「でも俺が息子だってわかったんだろ?」
「そりゃあの店の周りを走り回っているガキがいたら嫌でも記憶に残るさ、あのちっこいのがまさかこんなにデカくなるとは仲間が知ったら大騒ぎになるぞ」
「ほかにも生きてる人がいるのか?」
「正確には分からないが半分ぐらいは生きてるだろ。残りは死んだか消息不明か、まぁそんな所だ」
なんでも定期的に親父の店にやってきていたのはこの時代の仲間なんだとか。
大企業の社長から名のある宙賊まで、あの時代の調査員は破天荒な人が多かったらしいが、まさかそんな人が家に来ていたとは知らなかった。
親父は自分の事は何も話さなかったから昔のことなんて知らないまま、それなのにまさかこんな場所で親父について知ることになるとは。
それにしてもあの親父が大開拓時代以前の遺跡調査とか・・・似合わねぇなぁ。
「もし縁があったら死んだって伝えておいてくれ」
「そうするよ。そういや、親父さん自分の船に遺跡で見つけたお宝を隠してたんだが・・・知らないか?」
「あー、それなら・・・」
「それは私ですね。色々ありまして、今はマスターの補佐をさせていただいておりますヒューマノイドのアリスと申します」
「嘘だろ、あいつアンティークなんてのを隠してやがったのか!」
「俺もその辺を詳しく知らないんだが、こいつは遺跡から見つかったのか?」
「俺も現場を見たわけじゃないがとある辺境遺跡を調査している時にとっておきを見つけたって自慢していたのはよく覚えてる。そりゃアンティークなんて見つけたら自慢したくもなるだろう」
何故親父のぼろ船にアリスが隠されていたのか謎のままだったのだが、まさかそんな理由だったとは。
ただアリスの入ったポッドを発見したものの開けることが出来ずずっと隠したままだったのを、偶然的性のあった俺が開封。
なるほど、それがここにつながるわけか。
「なんにせよアイツの息子があの船を継いでくれるっていうのなら文句はねぇ。見た目はあんなだが、中はしっかりしているし、何よりこいつが整備しているから安心だ。口は悪いが腕は確かだぞ」
「口が悪いとか余計な事言わんでええねん」
「はは、悪い悪い。だがなぁ、一つだけ問題があるんだ」
てっきりこのまま譲ってもらえると思ったんだが、どうやらそういうわけにもいかないらしい。




