209.思いもしない提案を受けて
「美味しい!」
「お口に合ってよかったです」
「いや、ホンマに美味しい。前に飲んだ時から思ってたけど、本当に香茶なん?別もんやないの?」
前回の大騒ぎがあったのでどうなることやらと心配しながら食堂に向かったのだが、随分と和やかな雰囲気で満たされていた。
ローラさんの淹れた香茶を口に運んで目を見開くミニマさん、そりゃ合成機で作られているような奴と比べたら別ものだろう。
「お、良い香りだな」
「皆さんの分も入っていますよ」
「いただこう」
盛り上がっているところにスッと入り、ローラさんの淹れてくれた香茶をありがたく頂戴する。
結構な頻度で飲んでいるけれど、茶葉のストックは大丈夫なんだろうか。
「今日も美味いなぁ」
「ありがとうございます」
「結構な頻度で飲んでるが・・・茶葉はまだあるのか?」
「まだ半分ぐらいは残っています。そろそろ新しいのをと思っているんですけど、この味を知ってしまうとなかなか」
「確かにそうなんだよなぁ。この間案内してもらったテラフォーミングメーカーで出された奴もそれなりにいい茶葉を使っていたんだろうけど、これと比べたら全然だし」
別に不味いわけじゃないので普通に美味しくいただけたけど、どうしてもこの味と比べてしまうので満足感が少ないんだよな。
かといってこればっかり買ってるとものすごい出費になるわけで、全員で飲むものだけにローラさんのポケットマネーというわけにもいかないしかといってこれを毎回買えるだけの懐があるわけでも・・・いや、あるのか?
「必要であればここで手配できますよ?」
「そうなのか?」
「ここには名だたるお金持ちが来訪しますから、そういったものも少なからず用意してあります。如何しますか?」
「買います!」
「いや、みんなで飲むなら共有資産から出すべきだろう。アリス、相場は?」
「そうですね・・・販売店は何件かありますが一番お安い所で250万ヴェイルでしょうか」
「250万!?」
値段を聞いたミニマさんが俺よりも大きな声を出す。
さも当たり前みたいに話をしているが、これが普通の感覚だよなぁ。
一般人の感覚で飲むような飲み物じゃない、人間一度でも上を知ってしまうと下に落とすのは大変というけれどその典型的な例と言っていいだろう。
それでもここから得られる安心感や多幸感は何物にも代えられないわけで。
「ま、後はそこからどれぐらい値下げできるかだな。テネス、頼めるか?」
「まぁやってみるけど半値は期待しないでよ?」
「出来る限りでいい、無理はするなよ」
「期待しないで待ってなさい」
いや、期待させてくれよと思わずツッコミたくなってしまったがなんだかんだ言いながらも結果を出すのがテネスだからな、楽しみにしておこう。
その時だ、ふと彼女の方に目を向けると信じられないというような顔で俺達を見ていた。
「助けてもらった時から思ってたけど、本当にお金持ちなんやね」
「金持ち?いやいや、俺達なんて本物に比べれば全然だ」
「そうなん?」
「何を基準にお金持ちとするかは難しい所ですが、少なくともここに来訪する方々の中では下から数えた方が早いでしょう。本当のお金持ちは値切ることなどしませんし、なんなら値段すら気にしません」
「そうそう、本物は値段を気にして買い物なんてしない。ほしければ買う、それだけだ」
その点俺達はどんなものでも値段を気にするし、何なら一番安い場所を探して遠くてもそこで飼う事を徹底している。
商売の基本は安く買って高く売ること、輸送業者としては至極当然の考えだと思うが金持ちの考え方じゃないよな。
「でも、テラフォーミングするためにここに来たんやろ?」
「最初はそのつもりだったんだが、じっくり聞いて回った結果金が足りないことがよく分かった。どのような規模感でするにせよ最低でも後二億は必要、問題はそれをどう稼ぐかだ。知っての通り傭兵業もしているからそっちで稼ぐ手もあるけれども、やっぱり真っ当な仕事で稼ぎたいよなぁ」
「傭兵は真っ当じゃないってこと?」
「稼ぎとしては申し分ないが安定した仕事ではないな。その点輸送業はどこに行っても仕事があるし、やればやるだけ儲かる仕事、とはいえこの船では限界があるのもまた事実だ」
「確かにカーゴには限界がありますよね」
「いくら高価な物を積んでも得られる金額には限界があるし、それならばいっそ安定した価格の物を大量に運ぶ方が儲かるんじゃないかって思ってる」
今のやり方としては、まずアリスの情報収集能力を活かして次に立ち寄るコロニーで高く売れるものを事前に確認し、それを仕入れてから移動するというのがいつもの流れ。
稀に大量の物資を必要としている場合もあるけれど、ソルアレスのカーゴには限界があるので泣く泣くあきらめた事もあった。
また、物流の加減で大量の物資がだぶついており破格値で売られているものを見つけることがあるけれど、同じくカーゴの空き容量の関係でスルー。
アリスという最高の情報源を生かせばやり方次第ではいくらでも稼ぐことが出来るのにそれを生かすだけの容量が無いんだよなぁ。
そこが今のボトルネック、マジでもったいない。
「つまりトウマさんは大型の輸送船を運用したいわけですね?」
「極論を言えばそうなるな。実際、前に大型輸送船を使って仕事をしたけどあの時の儲けはかなりものだっただろ?誰が操縦するんだっていう問題ももちろんあるけれど、追走させるだけならオートパイロットでもどうにかなる」
「確かに」
「ソルアレスは住居兼護衛で荷物の運搬は大型船。こういう運用が出来れば輸送業としての儲けもかなり増えるから目標も達成しやすくなるだろう。そもそも今のやり方じゃ限界が来てるのは事実、真剣に稼ぎを増やさないと惑星を買ったものの開発できませんでしたってなりかねない、っていうかそうなる未来しか見えない」
惑星を買うだけでもかなりの金がかかるのに、その上テラフォーミングもとなれば天文学的な金額が必要になる。
いくらソルアレスが優秀でも傭兵業だけでそれを稼ぐのには限界がある、となれば別の方法で稼いでいかないといつまでたっても夢は夢のままだ。
「なるほど、輸送量を大幅に増加させて収入を増やしつつ、その大型船を囮にして宙賊を誘うわけですか。さすがマスターそこまで考えておられるとは」
「いや、そこまでは考えてなかったが・・・アリだな」
「向こうからすれば大型船が単機で飛んでいるようにしかみえないから何もしなくても賞金が寄ってきてくれる、最高じゃない」
「問題はどこでその船を買うかですね。ここはあくまでもテラフォーミング企業の集まるコロニーですし、ノヴァドッグに戻りますか?」
「せっかくここまで来てまた戻るのもなぁ・・・」
ルスク・ヴェガスを経由して更にその先まで行かなければならない。
まぁ急ぐ旅でもないし、安く買付けるのであればまたオルドさんにお願いするという手もあるんだけど・・・ルークさんがいるので近づきたくないというのが本音だ。
行けば確実に何かされるのは分かっている、わざわざ事を荒立てるぐらいならこのままフェードアウトするのが一番だろう。
かといってここでその船を探すのは難しいわけで。
「アリスさん、この先にシップメーカーの集まるコロニーはありますか?」
「あるにはありますが辺境からは随分と離れてしまいますね」
「でも必要なら行くしかないんじゃないですか?」
「そうだとしても大型輸送船ってなったら億は出さないと買えないわよ?中古なら別だけど、そういうのも案外需要が高いからいい出玉はすぐに買われちゃうのよね」
「うーむ、どうしたもんか・・・」
Aという目標の為にはBが必要で、Bを買うためにはCが・・・みたいにドンドンと別の方向に話がズレていく。
でもそのズレが無ければゴールにはたどり着かないとなれば、やる以外の選択肢はないわけで。
やれやれ世の中そう上手くはいかないもんだなぁ。
「なぁ、大型船が欲しいん?」
その時だ、蚊帳の外だった彼女が静かに質問をしてきた。
「っと、俺達だけで盛り上がって悪かった」
「それはええんやけど、大型船やったらどんなんでもええの?」
「といいますと?」
「ウチの知り合いに大型船を持ってる人がいるんやけど・・・紹介しよか?」
予想外の所から出てきた思わぬ提案、それを聞いた全員の目が丸くなったのは言うまでもない。




