207.思わぬ人に助けられていて
伸ばされた手を掴もうにもこっちは手も足も縛られてしまいどうにもならない状態。
それに気づいたアリスが俺の後ろに回り強引に縛っていた何かを引きちぎる。
流石ヒューマノイド、常人とは明らかに違う力の使い方に思わず苦笑いを浮かべてしまった。
「やれやれ助かった。それにしても思ったよりも早かったな」
「私達がいなくて寂しいマスターが泣いているのではと思い頑張りました」
「生憎と泣いてなくて申し訳ないが、来てくれるのは分かっていたとはいえ素直に嬉しかった。ありがとう」
「そんなに素直にお礼を言われるとは思いませんでしたが、どういたしまして」
微笑みを浮かべるアリスの後ろではイブさんが例の男たちを縛り上げている。
あの時俺を連れていた男は二人、背格好も含めてこいつらで間違いはないだろう。
ボディチェックの結果どうやら武器は所持していないようだ。
じゃああの時当てられたのは何だったのかという疑問は残るが、とりあえず俺に危害を加えるつもりはなかったのは間違いなさそうだな。
「ローラさんとテネスは?」
「マスターの無事を確認しましたので警備を呼びに行っています」
「ならあとはこいつらを警備に突き出すだけとして・・・殴られて気絶していたからわからないんだが、俺がいなくなってからどのぐらい時間が経っているんだ?」
「マスターがトイレで拘束されてからおよそ二時間が経過しています」
「二時間か・・・結構気を失ってたんだな」
「なかなか戻らないので監視カメラを確認した所誘拐されているのを確認、ちょうど戻ってきたイブ様に急ぎ非常階段から追いかけてもらいましたが輸送用のエアカーゴは逃走した後でした。もっと早く気づけばよかったのですが、本当に申し訳ありません」
アリス的には俺を危険にさらしたことをふがいないと思っているのかもしれないけれど、誘拐からわずか二時間で俺を見つけてくれたんだから十分すぎる結果と言っていいだろう。
「こうやって助けてくれただけで十分だ。しかし、よくここがわかったな」
「誘拐を確認後、速やかにコロニーのスキャンシステムをハッキングしてインプラントデータから大まかな現在地を把握しようとしたものの、誘拐時に入れられていたのがジャミングのかかったエアカーゴだったのか中々反応はありませんでした。しかしながら突然反応を検知したため付近の監視カメラをしらみつぶしに確認、更に現地にて予期せぬ情報提供者に出会ったおかげでこの倉庫の場所を発見、突入し今に至ります」
「息を吸うようにハッキングする辺り流石だな」
「お褒めにあずかり光栄です」
「それで、こいつらの素性は?」
「倉庫の使用者も含めて現在調べています。二人ともインプラントデータもありますし監視カメラの映像とも一致しますのですぐに判明するでしょう」
星間ネットワーク上のすべてのデータを把握できるんだ、物の数分で彼らの性癖から昨日の晩飯のメニューまで丸裸にされるに違いない。
俺はもう慣れてしまったがそれをネタに脅される恐怖と言ったら、雇われとはいえなんともご愁傷様だなぁ・・・って、そうだ!
「もう一人は?」
「もう一人?」
「こいつとい一緒にあと一人いたはずだ。こいつらはそいつに言われて俺を誘拐、監視していたらしい」
「おかしいですね、監視カメラの映像では・・・なるほど、改竄された形跡があります。残念ながら複製は出来そうにありませんがとりあえず出来る限りやってみます」
頭の上の方を見上げて忙しそうに目線を動かしていたアリスが何かを発見したようだ。
もう一人いたのは間違いなさそうだが正体に関しては一切不明、おそらく情報戦に長けた仲間がいるんだろう。
なんにせよこれ以上ここにいる理由はない、ローラさん達を誘導するべく倉庫の外へと移動するとちょうどいいタイミングで正面から走ってくるのが見えてきた。
後はこいつらを引き渡せば後は向こうが何とかしてくれるだろう、と思ったのだがその後も事情聴取やら現場検証やらが続きすぐに解放されることは無かった。
「思ったよりも時間がかかるな」
「そりゃ誘拐だもの当然よ」
「そうなのか?」
「ここに集まっている企業の特性上普通のコロニーと違ってお金持ちが来ることが多いでしょ?そんな所で誘拐なんて起きようものなら治安の悪い場所っていうレッテルを張られてお客が来なくなる可能性も出てくるわけ。そうならないように、しっかりと犯人を突き止めてここは安全ですってアピールしたいんじゃないかしら。おそらくアンタへの口止めもあるだろうからこの後もどこかに連れていかれるんじゃない?」
「めんどくせぇなぁ」
必死に捜査してくれるのは嬉しいけれども、それが俺の為じゃなくコロニーの為ってところが残念過ぎる。
別に言いふらしたりしないから早く帰らせてほしいんだが・・・。
「あれ?あそこにいるのは確か」
「あぁ、ミニマちゃんでしょ。私達がここに来た時にあの子がここにいるって教えてくれたのよ」
「そうなのか?」
「偶然運ばれているのを見つけたんだって。あぁ、ちゃんと監視カメラでその様子も確認してるからあの子が仲間っていう可能性はないわよ」
「先読みどうも、それならちゃんとお礼を言わないとな」
アリスが言っていた情報提供者がまさか彼女だったとは、いったいどんな縁なんだろう。
暇そうにボーっとしている彼女のそばまで行くと、俺に気づき驚いた顔でこちらを見てくる。
「まずは礼を言わせてくれ、君のおかげですぐに俺の場所が見つかったらしい。助けてくれてどうもありがとう」
「別に、ただ運ばれていくところを見つけただけやし」
「それでも助かったことに変わりはない。これで貸し借りなしだな」
「まぁ、そうやね」
「しかしなんでこんなところにいたんだ?見た感じ倉庫しかないみたいだが・・・」
「アンタには関係ないやろ、助かったんやったらさっさとお船に帰ったらどうや?」
俺はただお礼を言いたかっただけなんだが聞き方が悪かったんだろうか、随分とツンツンした返事が返ってきた。
反応もなんかそっけない感じ。
仕事を失いお金もなく、どこにも行く場所がない彼女がこんな場所にいる時点で色々と考えてしまうんだが、下手に手を差し伸べるわけにもいかないわけで。
「そうしたいのは山々なんだが他にも調べないといけないことがあるんでね。俺がここに連れてこられた後、もう一人誰か来なかったか?」
「もう一人?」
「連れ込まれた後三人の男が俺を見に来ているはずなんだ。捕まえたのは二人だけ、だが声は三人分聞こえてきた。おそらくはこいつらの雇い主みたいな感じの男なんだが監視カメラの映像には映っていなくてね、どうしたもんかと思って現地にいた君の話が聞きたいんだ」
「アンタを運んだのは男二人で他には誰も来てへんけど」
「そうか」
監視カメラの映像は偽装できても人間の目を欺くことはできない、だがここにいた彼女が見てないってことはホログラムとかそういうので話をしていたという可能性もある。
でも明らかに肉声だったけどなぁ。
もしかしてと思ったけれども結果は空振り、とりあえずこいつらの素性を確認してから次にどうするかを考えよう。




