205.予想外の状況になって
折角ならとオルビタル・フロンティア・インダストリーのラボなどを見せてもらえることに。
タイトスカート越しに見えるキャサリンさんの尻を眺めながら歩くこと数分、てっきり工場は他所のコロニーにあるのかと思いきや小型の機械はこのラボで製作しているらしくどんどんと加工音が大きくなってきた。
「ここから先はこちらのイヤーマフをご利用ください。マイクを通して会話できますのでどうぞご安心を」
完全に耳を覆うヘッドホンタイプのイヤーマフをしっかりと固定、一瞬にして周りの雑音が無くなり代わりにマイクが拾ったお互いの呼吸音が聞こえてくる。
「こりゃ静かでいいな」
「でも独り言も聞こえてしまいますね」
「ということは余計な事は言えませんよ、マスター」
「いや、そんなこと言わないし」
「では装着出来たようですので早速ラボの中を案内いたします。しかしながら内部は狭くなっているところもあるため、二班に分かれることをご了承ください。私はキャプテンとアリス様、イブ様とローラ様そしてテネス様には別の職員が付きますので今しばらくお待ちください。では早速参りましょう」
お付きが来るよりも先に俺達は出発しなければならないらしい、まぁ最後はここに戻ってくるわけだし特に問題はないだろう。
大きな扉を抜けた先は、ワンフロア全部がラボという小型工場になっており、オートメーション化された装置によって大小様々な部品が製造されている。
「ここにあるのは主に何用なんだ?」
「主に小規模テラフォーミングで使う機械です。陸地が少なく環境整備にそこまでリソースを避けない惑星などでは主にドーム型の住環境を作成し、そこで生活や資源の採掘などを行います。ここではそのドーム内で使用する環境適応資材や生活プラント用の道具が製造されています。本来であればもっと大きな工場で量産することもできるのですが、あまり大量に在庫するわけにもいかずこうして社内のラボで作成することとなっております。なお、フルテラフォーミングともなると機械の大きさもここの比ではなくなりますので、専用コロニーにて製造するというのが流れですね」
「集中製造されていないんですね」
「最初に申し上げましたように弊社は様々な環境に適合できるように複数の選択肢を選べるようにしております。そのため一つの物を大量に製作するという事が出来ないため集中製造には向いていないのです」
「だがそうなるとコストが上がるだろ」
「そこは出来るだけ同じパーツを流用できるように設計部門が頑張っております」
ふむ、その辺は会社としての取り組みというわけか。
ラボでは何人ものエンジニアが働いており、誰もが明るい表情をしている。
働いている以上多少なりとも不満はあるだろうけどそういうのを一切感じさせないさわやかな笑顔、そういう人ばっかりなので逆に不安になってしまうぐらいだ。
職人を大事にするという割に彼女はすっぱりと解雇されてしまったわけで、それが自業自得でも普通は自分もそうなるんじゃないかと怯えるはず。
だがここにいる人たちからはそんな雰囲気を一切感じなかった。
告知されていないからかそれとも別の何かか、ここの設備そのものはすごいかもしれないけれど人の方でなんとも不安が残ってしまった。
「これだけ人が多いと余所者が入ってもわからなさそうだな」
「どういうことですか?」
「このパーツ一つとっても機密みたいなものだろ?ライバル企業が探りに来たりしないのか?」
「その心配には及びません。先ほどのイヤーマフに簡易のスキャナが内蔵されていますので、そこでインプラント情報などを確認しています。また、家屋全体にも様々なセキュリティを施していますので私達の秘密が流出することは決してないでしょう」
「ほぉ、言い切るじゃないか」
「それだけ設備に投資していますので。もしそのようなことがあれば契約会社に損害賠償を請求することになりますね」
つまり万全の環境なので流出などを気にすることなくメカニックたちは仕事に取り掛かれるというわけか。
ラボを回ること一時間程、色々と見せてもらい最初の場所へと戻ってくる。
もっとこうグイグイ来るのかと思ったが、ここはあまり買ってくれっていうしつこい勧誘をしてこなかったなぁ。
「お疲れ様でした、お連れ様が戻られるまでこちらでお待ちください」
「悪い、トイレを借りたいんだが?」
「それでしたら部屋を出てすぐ右の通路を少し進んだところにございます」
「了解、すぐに戻る」
戻ってくるまでにまだ時間がありそうなので漏らす前にすっきりさせてもらおう。
イヤーマフを外しそのまま部屋を出て言われた通り通路を右へ。
これまた大きな通路だが・・・っと、あったあった。
さほど歩かずにトイレを発見、そのまま用をたしてさっさと部屋に戻ろうと思ったのだが振り返るとそこに黒服の男が二人立っていた。
左右の便器は開いているのでどう考えても順番待ちじゃない。
なんだかやな予感がする、とりあえずアリスに連絡をと思った次の瞬間。
「キャプテントウマだな?」
「そうだと言ったら?」
「悪いが一緒に来てもらおう、もっとも断るという選択肢はないがな」
背中越しに感じる金属製の何か。
そういえばついこの間も似たようなことがあったと思うが、どうやらそれとは状況が違うらしい。
そのまま両手をあげさせられ背中を押され洗面所の横を通過する。
「おいおい、手ぐらい洗わせてくれよ」
「くそ、余計な事するなよ」
腕につけたデバイスは取り上げられ、ポケットの中身もすべて漁られてしまった。
確かに何が起きるかわからないから気をつけろとは言われていたけれど、まさか社内のトイレで誘拐に合うなんて誰が想像できるだろうか。
しっかりと手を洗い、エアークリーナーで水滴を飛ばしつつ時間を稼ぐ。
が、向こうも急いでいるんだろう再び銃のような何かを突きつけられてしまった。
「早くしろ!」
「そんなにせかすなよ、この状況で逃げようとは思わないって。ってかお前たちは何者なんだ?オルビタル・フロンティア・インダストリーの関係者ならこんなまどろっこしいことしないだろうし・・・」
「それ以上何も言わずに黙ってついてこい、次に無駄口をたたくと容赦しないぞ」
うーむ、これ以上は限界か。
アリスの事だから随時俺の居場所を監視していたりするかもしれない、今はそれに賭けるしかないだろう。
再び手を挙げてトイレの外へ、明らかにおかしな格好だがそれを見る人が周りに誰もいない。
うーむ、益々やばい感じだ。
背中を押されるがまますぐ近くの非常階段へと移動、本来であれば鍵がかかっているか開ければ非常ベルが鳴り響くはずなのに扉さえも沈黙したままだった。
「降りろ」
これ以上は下手に抵抗しないほうがよさそうだ。
両手を上にあげたまま可能な限りゆっくりと非常階段を下りていく。
ここは地上何階だろうか、中々な段数を降りなければならないんだが前を行く男も後ろで銃を突きつける男も無言のまま。
弱音を吐いたところで止まってくれるはずもなく、仕方なく階段を下りていく。
そしてついに最後の階段を下りた次の瞬間、首の後ろにものすごい衝撃を感じると同時に俺の意識はブラックアウトしていった。




