203.想像以上の歓待を受けて
「ようこそアースフォージへ!」
「ようこそお越しくださいました!」
「おい!勝手に前に出るな!」
「うるせぇ!お前が割り込んできたんだろ!?」
到着した五番ハンガーは確かに辺鄙な場所にあり静かなものだった。
物凄い圧力で来るからと言われていただけに拍子抜けしてしまったのだが、念のためにと案内された社員用通用炉から出た途端御覧の通りだ。
恐らく案内してくれた職員、もしくは別の誰かが情報をリークしたんだろうそうじゃないとこんな場所で待機しているはずがない。
集まっていたのは優に10人を超えており、全員がカチッとしたスーツ姿から営業マンだという事が一目でわかる。
きわどい長さのタイトミニを履いた女性が多いのは露骨に俺対策なんだろうなぁ。
我先に話を聞いてもらいたいと喧嘩まで始まる阿鼻叫喚の中、群がってくる営業マンをイブさんとアリスががっちりを排除しながら進んでいくと、一番奥で待機していた男性の前で立ち止まった。
人目で高いとわかる上等なスーツを着こなしたスキンヘッドのその男性は優雅に一礼をして素晴らしい営業スマイルを向けてくる。
「ようこそお越しくださいましたキャプテントウマ、そして皆さま」
「随分と賑やかですが今日は何かあるのですか?」
「さぁ、私どもにはさっぱり。向こうに車を用意しておりますのでどうぞこちらへ」
恐らくこの人が連絡をしていたという相手なんだろう、他の営業マンが相手にされないことをいいことに静かに待機していたようだ。
悔しそうな視線を背中に浴びながらスキンヘッドを目印に少し歩くと、巨大なエアカーが待機していた。
「どうぞ中へ、足元にお気を付けください」
「ありがとうございます」
レディファーストということで先にアリスとローラさんが、その後に俺とテネス最後にイブさんが乗車する。
リムジンなんて生れて初めてなんだが、ぶっちゃけこんなに広い必要があるのだろうか。
「すごい、ふわふわです」
「アースフォージでもこれだけの車を用意できるのは私どもぐらいなものでしょう、この度は我々をお選びいただき誠にありがとうございます。精一杯ご案内させていただきますので、どうぞよろしくお願いいたします」
「あー、まぁ、よろしく頼む」
「時間もありませんので早速話を聞かせてください、この後まだ5社回らないといけないんです。色々とご準備いただいていると思いますが予定通りのスケジュールで移動しますのでご理解をお願いします」
「存じております。では早速こちらの資料をご覧ください、弊社が得意としておりますフルテラフォーミング、そちらを行った星々の資料となります」
てっきりこの車で会社まで行って巨大な会議室で話を聞くのかと思いきや、まさかのリムジン内での商談。
確かに今回は情報収集と言っていたけれど、ここまで徹底しているとは思わなかった。
各社持ち時間は二時間弱、そりゃ移動中にも話を聞いてほしいよなぁ。
一応会社には案内されたけれども、向こうが余計な事をしてこないうちに時間が来たらさっさと撤退。
外に出れば別のエアカーが待機しており、次の会社が迎えてくれるようだ。
「まさかこれを繰り返すのか?」
「その通りです。一社一社時間をかけて話を聞くことも可能ですが、まずはどういうメリットデメリットがあるかを確認したうえで興味があれば改めて話を聞く、それで問題ないのでは?」
「それに一つずつ回ってたらよからぬ歓迎を受けてまともに判断できなくなるでしょ?綺麗な女性に囲まれてサインさせられましたなんて笑えないんだからね」
「うーむ、そこまでしてくるとは思えないんだが」
「話を聞くだけでライバル企業の前にエアカーを横付け、この時点で異常です」
そんなもんなのか。
正直その辺の凄さが庶民はよくわからないけれども、とりあえず二時間ごとに一社ずつ話を聞くというなんとも忙しい時間を過ごし最後の一社ともなるとかなりグロッキーな状態になっていた。
キャプテンシートに座っていただけとはいえ、長旅を終えてすぐのこれは流石にきつい。
はぁ、早くベッドで休みたいなぁ。
さっきまでは常にエアカーの迎えが来ていたのだが、次の場所は徒歩すぐらしいので今回は歩いての移動になる。
「この次で最後ですので頑張ってください」
「へいへい、それでなんていう所だ?」
「オルビタル・フロンティア・インダストリーです」
「ん?聞いたことあるな」
「例のあの子を雇ってた会社じゃない、忘れたの?」
「あー・・・そういえばそんな名前だったな」
彼女と別れてまだ12時間も経っていないのに、ここに来てからの時間があまりにも濃すぎて頭からすっかりと抜けてしまった。
イブさんに見送られて外へと出たはずだけど、一体どこで何をしているのやら。
「フルテラフォーミングとまではいきませんが、それに近しいレベルまでが得意なようですね。良い言い方をすればどのような環境でも柔軟に対応できるようです」
「悪く言えば中途半端ね、それなりの規模で採用されているけれど実績としてはどれも中途半端。どっちかに振っちゃえば企業イメージもよくなるのに、変な感じ」
「様々な規模に対応するために取り扱う機械も豊富に用意しているみたいだが・・・これ、メカニックもかなりの人数必要だよな?」
「そうですね、ベースは同じですが規模が大きくなればなるほど扱うメカニックの人数も増えていきます。一応どの規模でも自動修復機能を有しているようですのでメンテナンス回数は少なくて済みますが、常駐で整備するメカニックは必要になるでしょう」
「そしてその一人が彼女だったというわけか」
企業としても扱う商品の規模感を統一すればより効率的に運用できるので必要なメカニックの数などをある程度見極めることが出来るけれども、サイズ感が違うと場所によってメカニックが必要になったり不要になったりと需要のコントロールが難しくなるんだとか。
そんな中で彼女は解雇されたという感じなんだろうなぁ。
職人としての腕前は悪くないそうなのでどこかで仕事を見つけるだろう。
「さぁつきましたよ」
「ここがオルビタル・フロンティア・インダストリー・・・今までで一番デカいな」
「仕事の割にね、それってどういうことかわかる?」
「利益率がものすごくいいのか、もしくは別の所で経費を削減しているのか。まぁ手っ取り早いのは人件費だな」
「理解が早くて助かります。とはいえ仕事はしっかりしていますし保守やサポートも万全。少々癖のある会社ですが費用面で考えても悪くはないでしょう。後はある程度の規模間にも対応できますので、仮に手に入れた惑星が中途半端でもここなら何とかしてくれる、そういう安心感はあります」
話を聞く場所によっていい印象にも悪い印象にもなる何とも微妙な感じ、まさに中途半端。
だが、どういう惑星が手に入るかわからないという中途半端な状況にいる俺達にとっては一番ぴったりと言えるかもしれない。
巨大な入り口を抜けると、受付前にいた一人の女性がこちらに気づきコツコツとハイヒールを鳴らしながら近づいてくる。
「お待ちしておりましたキャプテントウマ、ようこそオルビタル・フロンティア・インダストリーへ」
露骨にボディラインの出ているワインレッドのスーツを身にまとったその女性は、吊り上がったメガネをクイッと上げて最高の営業スマイルで出迎えてくれたのだった。




