202.思いもしない連絡を受けて
次に向かうコロニーの名前は『アースフォージ』
大地を作る工房というなんとも大それた名前だが、コロニーに集まる企業を考えるとあながち間違いでもないんだろう。
テラフォーミングなんて言う大それたことをするんだ、どこも巨大な機械が並びさぞ武骨な感じなのだろうと思いきや実際はかなり小綺麗な感じで最初に思い描いたイメージは一切ないようだ。
そこで働く人たちはどれも職人という感じではなく、どちらかというと営業マンばかりの様で小綺麗な人ばかり。
アリス曰く制作は別の工業用惑星で行っているらしく、ここは上顧客に向けた窓口的な役割なんだとか。
なるほどな、テラフォーミングなんてしようとするのは惑星を変えるような人ばかり、貧乏人を相手にするわけじゃないんだからこういう場所が必要になるわけか。
そして例の彼女はそこに所属する職人、さぞ優秀なんだろうと思いきや事態は思わぬ方向に進みだした。
「は?いない?」
「先程オルビタル・フロンティア・インダストリーより返答がありましたのがこちらになります」
「なになに、該当の社員に関しては確かに弊社に所属していたものの現時点においてその事実はなく、我々とは無関係である・・・。どういうことだ?」
「恐らく書かれている通りかと。つい先ほどオルビタル・フロンティア・インダストリーより本人に向けた解雇通知が出されていましたので・・・どうやら届いたようですね」
客室の方から聞こえてくる悲鳴。
俺も解雇された身なのでその気持ちはよくわかるが・・・うん、どうするかねマジで。
当初の予定では彼女をコロニーに連れて行けばそこで終わり、後は自分達のやるべきことをやるだけという感じだったのに、どうしてこうなってしまうのか。
流石にこの状況で放り出すわけにもいかないし、かといっていつまでもいてもらっても困るわけで。
「マスターの考えていることは分かりますが、イブ様やローラ様と違って我々にはまったく利がありませんよ」
「わかってるっての」
「ご自身の状況と似ているからこそ余計な事をしないほうが本人の為というものです。元々彼女とはそりが合わない、そう仰っていたじゃありませんか」
「だからわかってるって。別に俺もいてもらおうとは思っていない、思っていないんだが・・・」
「そこで考えてしまう事が全てもの答えです。何事もなかったように切り捨てる、それでいいじゃありませんか」
アリスのいう事はもっともだ。
何か出来ることがあればこの船に乗せてもかまわないが、現状で彼女が入る場所はどこにもない。
メカニック?
生憎とソルアレスは自己修復が出来てしまうのでメンテナンスフリーなんだよなぁ。
他に何かないか考えてみたけれどテネスのコンテナそのものもソルアレスの一部に組み込まれているはずなので結果は同じ、つまり彼女が入る場所はどこにもないわけで。
「ここで様子を見に行くと泣きつかれるのがおちですよ。コロニー到着まで後数時間、マスターはそこから動かないでください」
「・・・ういっす」
「テネス、彼女の動きを逐次監視、いざという時は実力行使も厭いません」
「はぁ、人間ってなんであんなに弱いのかしら。実績を見ていたらそこそこ良い感じだし、それを使えば仕事なんて探せばいくらでもありそうなのに」
仮にそうかもしれないけれど一度クビになった人間はそう簡単に気持ちを切り替えられないもんなんだよ。
その後、無言のままソルアレスは目的地付近に到着。
メインモニターに映し出されたのはなんともお綺麗な感じの商業コロニーだった。
「これがアースフォージ、想像とはまた違う感じだな」
「もっと大きなビルがたくさんあると思っていましたか?」
「ラインとかもそうだけど商業コロニーと言えばそういう見栄の張り合いだろ?」
「確かにそれは否定しませんがここに来るのはそういうのを超えた人ばかりですから。現に男爵の名前を使って声をかけた企業からはエアカーを手配するから是非来てほしいという案内がいくつも来ています。もちろん断ってはいますが、かなりの接待が待っていると思ってください。気を強く持たないとマスターごときあっという間に骨抜きにされますよ」
「なんだそれ、怖すぎるんだが」
「商売とはそういう物です。そして予定通り到着後ミニマ様には下船していただきますので」
「さっきのデバイスだけは渡しておいてくれよ」
「そういうと思っていました。安い物ですしまぁいいでしょう」
流石に何も持たずにコロニーへ放り出すのは忍びない。
端末があるのと無いのとでは利便性が違うし、再就職するにも必須と言える。
あとはまぁ本人の頑張り次第なので俺が言う事は何もない・・・っていうか何も言えない。
「こちらソルアレス、アースフォージコントロール着艦許可を願います」
「こちらアースフォージコントロール、ようこそソルアレス。各方面からまだかまだかの確認がすごかったわよ」
「そりゃ悪かった」
「どんなすごい人かと思たら・・・案外普通なのね」
「何を想像していたのか知らないけど普通の方がここじゃ珍しいだろ?」
「ふふ、確かに。それじゃあ五番ハンガーへどうぞ。そこなら邪魔ものは入り込めないからゆっくりできるわよ」
「五番ハンガー了解しました。ローラさん、ナビに従って移動願います」
「随分とおしゃべりな管制官だけど、仕事は悪くないわね」
さすが元管制官、目の付け所が違う。
アリス曰く五番ハンガーは通常じゃ使わない場所らしく、そこへ行くための通路もかなり複雑なのでフライングして俺達に接触しようという連中を防げるんだとか。
色々と迷惑をかけてしまったようだけど、そういう配慮をしてもらえるのは非常にありがたい限りだ。
しばらくして船は無事に着艦、後は粛々と仕事を終わらせるだけだ。
「最後は私が行きますね」
「いいのか?」
「その方が彼女も納得すると思いますから」
「了解、嫌な事をさせて悪いな」
「大丈夫です」
俺が言うよりも自分が伝えた方が彼女のメンタル的にマシだろう、そういう判断してくれたイブさんが静かにコックピットを出ていく。
外に出るハッチは開けたまま、後はそこへ彼女を誘導するだけだ。
「おや、案外素直に下りていきますね」
「ほんとね、もっと騒ぐのかと思ったけど」
メインモニターに移された監視カメラの映像を見る限り、最初にイブさんに抱き着いていたのとは別人の反応。
やはりあの時はやばい薬でもやってたんじゃないか、そんな錯覚すら覚える。
まぁ無事に下りてくれたのならそれでよし、この後彼女がどう生きようが俺には関係のない話だ。
「それじゃあイブさんが戻ってきたら俺達も行く準備するか」
「先方から戻ってきた条件に合わせて訪問先を決定しております。先ほど説明しましたようにかなりの接待攻勢が予想されますのでくれぐれも油断しないように。気を抜けばあっという間に攫われて薬漬けに・・・なんてことも十分あり得ますからね」
「いや、俺そこまで金持ちじゃないし」
「男爵と知り合っていう時点で一般人と違うし、そこにナディア中佐も含まれたら言わなくてもわかるでしょ?先日の大規模襲撃でもそれなりに武勲を立てちゃったんだから、アンタが思っている以上に世間の評価は高いってわけ。薬漬けだってあり得なくもない話なんだから気を付けてよね」
俺を薬漬けにしていったいどうするつもりなのか。
ただ情報収集しに来ただけなのにどうやら世間はそれを許してくれないようだ。




