201.よくわからない状況の頭を悩ませて
「・・・なんだこれ」
目にハートマークを浮かべたその女性はイブさんに押し返されても必死に抵抗しながらその体に抱き着こうと手を伸ばしている。
「ミニマ様がこちらに映って来てからこの調子なんです」
「なんですって、初対面だよな?何かヤバい薬とかやってるのか?」
「メディカルチェックでは何も検出されませんでした。精神的な何かによるものも推測されますが、今の所そう言う兆候は見られません。しいて言えば小動物の発情期、という感じでしょうか」
「まぁ言いたい事はよくわかるが例えがどうかと思うぞ」
「だってそうじゃない?あの体格差、あの反応。一方的にアプローチをかけて失敗する典型的な例よね」
イブさんが必死に助けを求めているのに、あえてなんもせずキッチンの入り口で待機する女性陣。
いや、何もできないというのが正しいだろうか。
なんにせよこのままじゃ仕事に差し支えが出るのでここはひとつキャプテンとしての威厳をだな・・・。
「あー、お取込みのところ申し訳ないがこれからについて打ち合わせしたいんだが」
「ちょっと、オッサンは黙ってて!」
「・・・ういっす」
「マスター?」
「いや、黙っとけって言われたから」
「まったく、それでよく宙賊とやり合えますね。相手はたった22の小娘ですよ?」
「小娘って、まぁそうなんだけどさぁ」
見た目も小さくスタイルもそれ相応、こっちは年上なんだからもっと威厳をもって対処すればいいだけなんだが、どうも相性が悪いんだよなぁ。
恐らく世のオッサンは皆共感してくれるだろうけど、残念ながら彼女達には理解されないらしい。
「あの、ミニマさん。イブさんが随分と嫌がっておられますからそのぐらいにしておいた方がいいですよ。じゃないと、初対面の印象ってとっても大事ですし、ずっと嫌われたままの可能性も出てきます」
どうしたもんかと思っていると、ローラさんがゆっくりと近づきイブさんに抱き着く彼女にそっと声をかける。
すると、『嫌われる』という単語にピタリと動かなくなり、そのままゆっくりを手を落とした。
やっと解放されたイブさんが静かに息を吐きゆっくりとこちらへ向かって来たかと思うと、まさかの俺の後ろに隠れてしまった。
「落ち着いたか?」
「・・・・・・」
「とりあえず今後について話をしよう。俺はトウマ、この船の船長だ。他の面々は一応挨拶をしていると思うけど、改めて自己紹介をしていこう。ローラさん、香茶を淹れてもらえるか?」
「わかりました、すぐに用意しますね」
「テネス、手伝ってくれ」
「りょうか~い」
とりあえず最初の状況あらは無事脱することが出来たようだ。
イブさんとローラさんは俺の横、アリスとテネスの二人で彼女をはさんでもらうような感じでテーブルに着く。
さっきまでの勢いはどこへやら、今度は怯える小動物のように動かなくなってしまった。
目の前に置かれた香茶からは爽やかな香りが広がっている。
「やっぱり本場の物は違うな」
「いつものも嫌いじゃないですけど、折角なので」
「アリス、この星は予定航路の途中にあるのか?」
「残念ながら反対方向ですね」
「それは残念だ。まぁ、大きなコロニーに行けば手に入るだろうしまた無くなりそうになったら教えてくれ」
この一杯が俺の退職金ぐらいの価値があることを考えると、金銭感覚が随分とおかしなことになってきているのがよくわかる。
とはいえ良い物は高い、それを享受しようと思ったらそれだけ稼げばいいだけの話だ。
「それで、少しは落ち着いたか?」
「・・・はい」
「ここは俺の船、そして彼女は俺の仲間、その彼女に狼藉を働く不届き者には今すぐにでもご退場いただいてもかまわないと思っている。エンジニアなら宇宙船のルールは知っているだろう?ここでは俺が法であり全てだ。そこは間違えないでくれ」
「ごめんなさい」
「もう大丈夫ですよ。大変な状況に少し冷静じゃいられなくなっただけでしょうから」
イブさんの優しい声にハッと顔を上げ、安堵の笑みを浮かべる。
こう見ると年相応な感じだなぁ、背が低いのもあって向こうに並んだ三人が子供みたいに見えてくる。
まぁついているパーツで言うとアリスに軍配が上がるけれども、なんにせよこれでまともに話が出来そうだ。
改めて自己紹介を済ませ、今後について話し合う。
彼女が宙賊にさらわれたという中身に関しては証拠を押さえているので、船を盗んだことについてはおとがめはないだろう。
本人から聞いた話では休暇を終えて職場に戻ろうとコロニーで次の定期便を待っていたところで被害にあったんだとか。
見た目が幼いから子供と思われたようだけど実際は大人、彼らもどうしたもんかと悩んでいた隙に逃げ出したという流れらしい。
何故大人じゃダメなのかという部分に関してはあえてスルーして、後は俺達が知っている通りというわけだ。
「とりあえず俺達の目的地と同じだからこのまま乗っていけばいいだろう。広くはないが来客用の部屋もあるしそこでしばらくゆっくりするといい。それでいいよな?」
「異論ありません。オルビタル・フロンティア・インダストリーへは私から連絡を入れていますので、後で連絡が入るでしょう。ミニマ様、何かデバイスはお持ちですか?」
「全部取られてもうたから・・・」
「それでしたらこちらの簡易デバイスをご利用ください。インプラントをかざせばすぐに同期できます」
「ええのん?」
「降りる時に返してくれたらいいさ。ただし、コックピットより奥には立ち入らないでくれ。」
「わかった」
「よし、それじゃあ解散!十分後に打ち合わせをするからコックピットに集合でよろしく」
やれやれ、最初はどうなることかと思ったが何とか綺麗にまとまったな。
幸いにも俺達が目指すコロニーにある会社に所属しているようだから、後はそこまで運んで解散するだけ。
別方向のコロニーとかだったらどうしようかと思ったのだが、まぁ結果オーライってことだろう。
「コロニーへの到着予定時間は?」
「宙賊機を曳航していますが明日には到着できるかと」
「それでも半日のズレか、まぁ問題ないな」
「先程のプレゼンが途中で終了してしまいましたが、とりあえずどこを見て回りますか?」
「んー、正直紹介してもらえる惑星がどんな状態かもわからない以上固定で見るのは危険すぎる。時間もあるし、勉強を兼ねて色々と見せてもらえばいいんじゃないか?」
仮にフルテラフォーミングをしっかり見たとして、行ったら到底できませんじゃ話にならない。
今回立ち寄るのはあくまでも情報収集、そこを間違えてはいけない。
「では大手を含め何社かに声をかけさせていただきます。その際、男爵のお名前をお借りしますが構いませんね?」
「どうして男爵の名前がいるんだ?」
「あのね、普通買いもしない客相手にまともな説明してくれると思う?無理でしょ?でも、男爵の名前を出せば下手な事は出来ないはずだからそういう客でもまともに相手してくれるってわけ。まぁもとはというと男爵からの話なんだし堂々と使えばいいのよ」
「なるほどな」
「因みにミニマ様の所属するオルビタル・フロンティア・インダストリー社もフルテラフォーミング部門で名前が挙がっておりますので、何かからのアクションを期待できるでしょう」
何かしらのアクションねぇ。
偶然とはいえ社員の命を助けたんだから何か返してくれるかも、と期待するのは普通の事だが世の中そううまくいくだろうか。




