200.面倒な相手を迎え入れて
再び通信を繋ぐと、そこには涙と鼻水で顔をぼろぼろにした彼女が膝を抱えたまま泣きじゃくっていた。
「通信回復、通信再接続しました」
「悪い、通信機器の調子が悪くてな。もう大丈夫だ・・・って、大丈夫か?」
「大丈夫じゃない!酸素ももう少なくてこのまま死んじゃうんだって思って・・・。僕が何かした?まだ22年しか生きてないのに、やりたいことたくさんあるのに、何にもできないまま死んじゃうって、うわぁぁぁん死にたくないよぉぉぉぉ!」
あー、うん。
今のは俺が悪い、それは分かる。
メインモニターに映る彼女から目を逸らしてイブさん達の方を見ると、静かに首を横に振るだけ。
まぁ状況を考えればこうなってしまうのもわからなくはない。
命からがら宙賊から逃げ出して飛んだのはいいものの、操縦方法もわからず航路を外れて飛び続ける宙賊船。
酸素はどんどんとなくなり近くに船の姿は無し。
救難信号を発したところでもしかしたら別の宙賊に襲われるんじゃないかと思いながら必死に助けを求め、ギリギリの所で見つけた船に通信がつながったと思ったらいきなりそれが切れてしまう。
必死に助けたにもかかわらず宙賊と疑われ、このままどこかに行ってしまうんじゃないかそんな恐怖に押しつぶされたらあの短時間でもこうなってしまうよなぁ。
だがこっちにも事情ってものがある、そこは分かってもらいたい。
「・・・どうするよ」
「なんにせよ助ける以上こちらに誘導するしかないでしょう。揚陸チューブを伸ばしますので助けに行ってください」
「俺が!?」
「マスターがこの船のキャプテンですよね?」
「いやまぁそうなんだが・・・」
「私も一緒に行きましょうか?」
「イブ様は受け入れ後の対応をお願いします、見た目はあのような感じでも立派なレディですから」
なるほど、そういう事か。
泣きじゃくる彼女を見ていると確かに年相応には見えないけれど、宙賊船から移動してもらったとなるとボディチェックやメディカルチェックなど色々としてもらわないといけないことがある。
俺がそれをするわけにはいかないので邪魔者は宙賊船の調査でもしておけってことなんだろう。
未だ泣きじゃくる彼女をそのままにテネスが船をハッキングしてこちらへ誘導し、アリスが受け入れ後の準備をする。
俺はイブさんと一緒にハッチの前で宇宙服を着て待機だ。
「すみませんトウマさん」
「なんでイブさんが謝るんだよ。むしろお礼を言うのは俺の方だ」
「トウマさんが?」
「どうもあぁいうタイプの女性は苦手なんだよ。この見た目だし、いきなりこんなオッサンが来るなら同性に助けてもらった方が向こうも安心するだろ」
「別にトウマさんでも大丈夫だと思いますけど」
「それは慣れているからの話だろ?命からがら船を移ったと思ったら俺みたいなのが目の前にいるんだぞ?わかってても目の前で叫ばれたら俺のメンタルが持たない」
実際画面で泣きじゃくる彼女はまともな状況じゃなかった。
今は助かる喜び満ち溢れているだろうけど、ハッチが開いた瞬間におっさんが待っているとなるとその喜びも恐怖に変わるかもしれない。
「揚陸チューブ接続完了、酸素注入20秒後にハッチを開放します」
「よし、そんじゃま行くか」
「はい!」
簡易宇宙服のヘルメットを装着し、密封されているのを確認。
一応向こうにも酸素は残っているけれど、どんな病原菌が空気中に含まれているかわからないので念のために宇宙服を着ているのだが、これで向こうからは光が反射してぱっと見ではオッサンには見えないだろう。
プシュっという軽いエアー音の後ハッチがゆっくりと開き、半透明の揚陸チューブの向こうに薄汚い宙賊船が見える。
ハッチの両端に手を添えて出来るだけ同じ力で前へ飛び出すと、与えられたベクトルの分だけ自分の体が前に進む。
これが無重力空間、いつもは重力制御された船やコロニーの中で生活しているので何とも思わないけれど、一枚の隔壁を隔てた向こうは自分の意志でまっすぐ進むことも難しい非常な空間が広がっている。
ソルアレスでイブさんの訓練を受けていた最初の頃は、どこに体がいくか制御できずそこら中に体をぶつけて青あざだらけになったものだが、いまではある程度自分の意志でどうにか移動できるようになっている。
予定通りの角度で無事に向こう側へ到着、コンコンとノックをすると向こうのハッチがゆっくりと開き始める。
「わっわ!」
恐らくハッチに手をついていたんだろう、突然開いたハッチにバランスを崩した女性が無重力空間でパタパタと手だけを動かしている。
上下のないこの空間で必死に手を動かしたところで先に進めるわけもなく、仕方なく一度ハッチに手を当ててベクトルを殺し、くるりと後ろへ回ると必死に暴れる彼女の背中を両足で軽く押してやった。
その反動で俺は船の中へ、彼女はまっすぐにソルアレスへと揚陸チューブ内を飛んでいく。
「イブさん後は任せた!」
「わかりました!」
お互いにサムズアップして俺はそのまま宙賊船内へ。
相変わらず中は汚いが、棚などはそこそこ整理されているのでとりあえず金物を物色していく。
私物に関しては今回はスルー、一時間ほどかけて少量のレアメタルや換金できそうな物資をカーゴから回収できたけれどそれ以外に金になりそうなものは見つけられなかった。
「こっちは大方終わったが本当に中身はこのままでいいのか?」
「今回は宙賊を撃退して鹵獲したのではなく、彼女が盗んできたものを回収したまで。残念ながらジャンク屋に売ることもできませんのでそのままで大丈夫です」
「ってことは奴らに返すのか?金になりそうなものは回収したぞ?」
「私達が来た時からこの状態ですが?」
「・・・なるほど」
彼らからすれば大事な船を回収してくれた恩人ですからそれ以上追及することは無いです、とアリスが自信満々に答えているのでそういう事にするんだろう。
やっていることは完全にアウトだが、まぁ相手は宙賊なので警備も追及してくることは無い。
むしろ帰ってくるはずのない船が返ってきたんだから喜んでほしいところだ。
「で、そっちはどんな感じだ?素性は問題なかったか?」
「遠隔スキャンと照らし合わせても問題なしです。一応会社での素行やこれまでの経歴も確認致しましたが、どこに出しても困らない真っ白でした。こんな人生で楽しいんですかね」
「それを俺に聞くなよ」
「その点マスターはいい感じに汚れてますので安心します」
「悪かったな薄汚れた人間で」
別に品行方正で生きてきたと胸を張れるような男じゃない、もちろん人の金に手を出すとか騙すとかそういうことはしてきてないけれども犯罪をしていないかと聞かれると言葉に困る。
ほら、子供の頃に知らずにやったこととか色々あるだろ?
「それはまぁ置いといて、メディカルチェックは?」
「そちらに関しても全くと言っていいほど問題ありませんでした」
「なんだか含みのある言い方だな。別の問題があるのか?」
「それに関しては見ていただければわかるかと」
ありすがここまで言葉を濁すなんて珍しい、とりあえず宙賊船のハッチを蹴ってソルアレスへと帰還。
その場で簡易宇宙服を脱いで用意されていた密封袋へ押しこみ、回収した物資と共にトラッシュダクトへ放り込んでおく。
やれやれ、何が起きているのやら・・・とキッチンへ向かった俺の目に飛び込んできたのは信じられない光景。
「あぁ、お姉様!」
「ちょっと、落ち着きましょう。ね?」
先程モニターに映っていた女性が、抵抗するイブさんに必死に抱き着いていた。




