184.逃げる準備を整えて
画面に映し出された大男こそ、宙賊たちの目標であり更にナディア中佐が探しているカイロス=ヴェインその人だった。
いや、なんでルスク・ヴェガスにいるはずのこの人がこんなところに?
っていうかどうやってあそこを出た?
その宙賊船はいったいどこから?
色々と考えることはあるけれどとりあえず今はそれをすべて放棄することにした。
「元々こいつらは俺を狙いに来た馬鹿共だ。本来掃除するのはこっちの役目なんだが、お前が数を減らしてくれたおかげで随分と楽させてもらったよ、キャプテントウマ」
「援護には感謝する。とはいえ貸しがあるのにちょっと遅くないか?キャプテンカイロス」
「そう言うなって、奥に怖い姉ちゃんが控えているだろ?こっちもバレないように必死なんだよ。アイツの怖さはお前も知ってるんだろ?」
どうやら彼もナディア中佐の事は知っているようだ。
そりゃそうか、大規模戦闘で何度かやり合っているだろうから嫌でも相手の事は知ることになる。
とはいえそこまでビビるってことは直接やり合っているという事なんだろう。
「知らないこともない、それでいったい何やったんだ?」
「ちょいとこざかしい事をしてきたもんだから、正面から叩き潰してやった」
「そりゃ怒る」
「だろ?だから今回は程々にして引き上げるつもりだ。アイツらの目標はあくまでも俺、目の前にデカい餌があっても本命が来たら嫌でも手放すしかないだろう」
「できるのか?」
「俺を誰だと思ってるんだ?大宙賊カイロス様だぞ?」
お互いにもう正体を隠す必要はない。
宙賊と傭兵、本来敵対する関係ではあるが数奇な運命か貸し借りが存在するし、なにより敵の敵は味方だからな、劣勢なだけにここは素直に喜んでおこう
しっかし、自分で自分を大宙賊というとは・・・いったいどんな自信が彼をそこまで言わせるんだろうか。
「マスター、提案があります」
「なんだ」
「このままカイロス様と共に宙域を離れましょう。そうすればナディア中佐にも戦線離脱の言い訳が立ちますしはたから見れば私達が引っ張っていったように見えるはずです」
「お、賢い姉ちゃんだな!そうすれば俺達もあの怖い姉ちゃんにバレなくて済む、良い作戦だと思うぞ」
「なるほど、お互いを隠れ蓑にするわけか」
向こうもゴーストシップ対策用のレーダーは所持しているだろうけど、この状況でわざわざ使う事はしないはず。
レーダーに映っているのはあくまでも俺達だけ、標的になっていることを伝えてそのまま向こうに引っ張って行っているようにしか見えないというわけだ。
アトランティスがある以上向こうも持ち場を離れることはできないだろうから追いかけてくることは無いだろう。
さすがアリス、いい作戦だ。
「あの銃を見せてもらうまで俺達は協力関係にあるからな、そうだろ?」
「まぁ確かに。だが、そっちが悪さをしてる時は話は別だからな」
「そりゃ仕方ないで諦めるさ。そっちも撃ち落とされて文句言うなよ、残骸はしっかり回収しておいてやる」
「そうならないようにせいぜい気をつけるさ。それじゃあ道案内よろしく」
「おう、しっかりついてこいよ!」
通信終了、メインモニターからあの人の姿が消えると圧迫感が一気になくなる。
「何とかなりましたね」
「まさか宙賊と手を組む日が来るとは思わなかったが、あくまでも利害が一致しただけだしナディア中佐にバレなければ問題はないだろう」
「死んじゃったら意味ないもの、仕方ないわよ」
「宙賊船が移動を開始しました。通信を傍受、どうやら相手を煽っているようです」
「中身は聞かないほうがいいだろうな。とりあえずテネス、今のうちに戻ってこい」
「りょうか~い。はぁ、やっと休めるのね」
あの人が直接自分の存在を伝えれば、餌を放棄してでも追いかけるしかなくなる。
その証拠に母艦から受けていたジャミング関係が一気になくなった。
「それじゃあジャミングもなくなったし、俺達もナディア中佐に連絡を入れておくか」
「了解しました、通信繋ぎます」
メインモニターに目を向けると、真っ黒だった画面が切り替わりナディア中佐と他の軍人達が何やら緊迫した表情で話し合っていた。
「あれ?気づいてない?」
「すみません、急ぎでしたので逆ハッキングで無理やり通信を繋ぎました」
「・・・そういう事するから怒られるんだぞ」
確かに通信しろとは言ったけど、強引につなげとは言ってないんだが?
まぁいいけどさぁ。
「宙賊母艦、再び移動を開始!」
「標的は!?」
「キャプテントウマのソルアレスのようです。強力なジャミングをかけられているのか通信できません」
「そんな、いくらアンティークが乗っていても敵母艦ともなると・・・。救援は?」
「駄目です、我々がここを離れればアトランティスが無防備になります!」
「そんなことは分かっています。しかし、あれほどの傭兵を失う事は避けなければなりません」
「しかし!」
何やら白熱した議論を繰り広げている様子、中佐にそういう評価をしてもらっているのは非常にありがたいことなのだが、そろそろこちらにも気づいてもらえないだろうか。
「あー、ナディア中佐?」
「今忙しいので話しかけないで下さいキャプテントウマ!・・・キャプテントウマ?」
「お、やっと気づいたか」
最初はこちらを見ずに返事をした彼女だったが、すぐに通信に気づきモニターの方に目を向けた。
っていうかいったいどこに繋いでいるんだあいつは。
「ジャミングを受けていると聞いていましたが?」
「私の手にかかればあの程度のジャミングどうという事もありません、と言いたい所ですが通信できるのはこちらからのみ、状況のみお伝えします」
「いいでしょう、どういう作戦をするつもりですか?」
「俺達はこのまま宙賊母艦を連れて宙域を離れる、その隙に雑魚を倒してアトランティスをルスク・ヴェガスまで護衛してくれ」
「何を馬鹿な事を!死ぬつもりですか!?」
「おいおい、俺達は傭兵だぞ?死ぬぐらいならケツをまくってさっさと逃げるさ」
「ですが!」
「中佐の心配はありがたいですが、我々も無策で逃げるのではありません。私の役目はマスターを助ける事、必ずコロニーへお連れしますのでそちらはお任せいたします」
珍しく感情を表に出すナディア中佐、だがアリスの回答を聞き我に返ったのかすぐに呼吸を整えてまっすぐこちらを見てくる。
「・・・わかりました、こちらはお任せください。あなたの代わりに依頼をこなしてあげましょう」
「そりゃ助かる逃げたとなったら罰金ものだからな、ロック船長によろしく伝えてくれ」
「くれぐれも死なないでくださいよ」
「もとよりそのつもりだ」
余り話過ぎるとボロが出るのでそこで通信を切り、一息つく。
これでアトランティスの方は問題ない、あとはこのままカイロスと共に奴らを連れて行きコロニーに帰還するだけだ。
とはいえ一緒に行動する以上追いかけられるのは変わりない、母艦からの攻撃も来るだろうし気を付けないと。
「テネスの収納を完了、いつでもいけます」
「了解、それじゃあ楽しい楽しいドライブといこうじゃないか」
「なんだかんだマスターも楽しんでいますね」
「まぁな、ローラさん母艦の砲撃を避けながらになるが・・・いけるよな?」
「当たり前じゃない誰に聞いてるの?」
こちらを振り返ったローラさんがドヤ顔で俺に向かってウィンクしてくる。
操縦桿を握ると人が変わるけれど、いつもより大胆になるんだよなぁこの人は。
宇宙軍が認める操縦技術、加えてもう一人頼もしい人がいる。
「イブさん、近くに来てるやつは遠慮なく落としてくれ、ただしカイロス側の奴は残してくれよ?」
「わかりやすいように敵宙賊船にはマーカーを付けてありますので、ついている方を攻撃してください」
「ありがとうアリスちゃん!あとは任せてください!」
「攻撃はできないけど私も援護するわ。ジャミングシステム、借りるわよ」
「良いでしょう、一発もかすらせないでくださいね」
「当たり前じゃない、私を誰だと思っているのよ」
テネスがわざとローラさんと同じ返事をして同じようにニヤリと笑った。
頼もしい仲間と行く危険なドライブ、さぁ出発だ。




