182.いつも以上に暴れまわって
アトランティスの救助要請を受託して二時間。
予定通り現地に到着した俺達を待っていたのは、予想以上に激しい戦場だった。
「派手にやってんなぁ」
「てっきり逃げると思ってましたけど、案外頑張っていますね」
「まぁ逃げれば違約金も大きいし、それに思わぬ援軍もいるからじゃない?」
アトランティスを取り囲む無数の宙賊船とその母艦達、てっきり雑魚が群れているのかと思ったら戦艦級まで出てきているとは思わなかった。
その周りでは羽虫のようにバトルシップが飛び回り、アトランティスを守る傭兵と壮絶な戦いを繰り広げている。
最初に聞いていた護衛は四隻、それだけだったらとっくの昔に撃墜されているか逃走していただろうけど、その後ろに思わぬ援軍が鎮座している。
真っ黒い戦艦、大きさはそこまでではないが宙賊相手としてはデカすぎる。
「援軍の正体は?」
「それがスキャンを受け付けなくて・・・いえ、ゴーストスキャンが成功、宇宙軍の特別艦のようです。船長はナディア中佐ですね」
「は?」
「ですからナディア中佐が指揮官として登録してあります」
「今バックドアから宇宙軍の内部ネットワークを見てるけど、間違いないみたいよ」
あまり聞きたくない単語はスルーしつつ想定外の援軍に思わずモニターを凝視する。
通常のスキャンを受け付けないってことは例のゴーストシップの技術を応用しているんだろう。
それはわかる、技術は先方にも教えているしそれを応用して実装しても何ら不思議はない。
だが驚くべきは彼女だ。
宇宙軍には明確な管理宙域がありそれを超えて出てくることはよっぽどの有事か特別な任務がなければ許されていない。
ってことは今回はそれに当てはまるのか?
「マスター、宇宙軍特別艦より通信が入っています。どうしますか?」
「はぁ、繋ぐしかないだろ」
「かしこまりました、メインモニターに繋ぎます」
うーむまさかナディア中佐がここまで出てくるとは思わなかった。
ノヴァドッグ以来か?
てっきり管理宙域に戻ったと思ったけど、まさかこんな玩具を手に入れていたとはなぁ。
「おや、随分すんなり繋ぎましたね」
「スルーしたら敵艦とみなしてぶっ放してくるだろ?」
「よくお分かりで。改めましてお久しぶりですねキャプテントウマ、そして皆さん。あら?新しいオモチャが増えていますね。その子がバックドアから入り込んで覗き込んでいた子でしょうか」
「やば、わかっててわざと残してたの?」
「貴女方の手の内はわかっています。しかしそれに関しては不問としましょう。そもそもこのゴーストシップシステムをかい潜ってスキャンできるのは現時点で貴方達だけですから。それで、ここにきた理由は?まさか宙賊に鞍替えを?」
「冗談はよしてくれ、俺達はアトランティスから正式な救援依頼を受けて来ただけだ。まさか宇宙軍が護衛についているとは思わなかったけどな。それで、俺たちは仕事をさせてもらえそうなのか?」
最初に聞いていた状況だととっくの昔に拿捕されていたはずだが、援軍のおかげで戦況は若干悪い程度で済んでいる。
お互い主力は温存中、これらが出てしまうと大変なことになるのはお互いわかっているので様子見という感じだ。
だが状況が悪くなれば宇宙軍が出るしかなかった、という所で俺たちが登場、こちらもゴーストシップシステムを使用しているので宙賊のレーダーにはまだ気づかれていない。
つまり後ろから攻撃するにはぴったりの状況とも言える。
だがそこまでしてしまうと全面戦闘は避けられないので、この辺は中佐の出方次第だろう。
「現状は膠着状態。先方も馬鹿ではないみたいですわね、自分たちが出たらどうなるかよくわかっているようです」
「とはいえお互いこのままってわけにはいかないだろ?」
「
これ以上の損害が出るならばいずれは我々がと思っていましたが、先方から直接依頼を受けているのであれば仕事を奪うのは良くありませんね。こちらも航行中に今回の襲撃を発見しただけですから、後はお任せして宜しくて?」
「もとよりそのつもりだが少しは手伝ってくれよ」
「仕方ありませんわね、程々にお手伝いして差し上げます」
流石にあの母艦も含めて全ての宙賊を俺達で倒すのには無理がある。
その点ナディア中佐に出てきてもらえればそれなりの戦いはできるだろう。
向こうとしても金にならない戦いはしないはず、ある程度損失を出したら大人しく戻るに違いない。
通信が切れた所でキャプテンシートに深く背中を預け、大きく息を吐いた。
はぁ、なんでこんなことになったのやら。
でもまぁ倒せば倒すだけ金になるしそもそもこっちが受けた依頼だ、しっかり役目を果たすとしよう。
「お疲れ様でした」
「本当に疲れるのは今からだが・・・確かに疲れた。ってか、なんてもん残してんだよ」
「因みにバックドアをわかる場所に残していたのはわざとです。どうやら中佐のオフライン個人サーバーに残した方には気づいていないようですね」
「頼むから火に燃料を注がないでくれ。前みたいになったら炎上どころじゃ済まないぞ」
「その心配には及びません、前の教訓を活かして二重三重の隠蔽を施してありますので。あそこは私にとっても色々と勉強になる場所ですから」
一体何を勉強しているんだと突っ込みたくなったが、これ以上はナディア中佐の為にもよろしくないだろうからあえて何も言わなかった。
世の中には知らなくていいことがたくさんある、特に人の性癖に関しては触れるべからず。
もっとも、俺の性癖は安売りされ過ぎてもう文句を言う事すらしなくなった。
別に見るなら見ればいいさ、何にせよ俺がお前たちを抱くことはない。
とりあえず今は。
「マジで頼むぞ。バレたら中佐に売り飛ばすからな」
「そうならないよう努力いたします。さて、無駄話はこれぐらいにして仕事をこなすとしましょう。テネスはすぐに出撃、背後から近づき連中のお尻に火をつけてやりなさい。ローラ様は最大船速で戦闘宙域に突入後飛び回る羽虫を追いかけてください。イブ様、火器管制はそちらに回しますので後はお好きにお願いします。獲物は選び放題ですよ」
「戦艦はどうするの?落としていいの?」
「落とせるものならと言いたいところですが、あまり派手にやりすぎて戦線が拡大しすぎても困りますのでちょっかいを出す程度にしなさい。その代わり、逃げ出す奴は容赦なく落としていいですよ」
「オッケー、任せといて」
うーむ、戦艦を落としていいのかを聞くこと自体がそもそもおかしな話なのだが、アリスとテネスの二人が本気を出せばマジで落とせてしまうんだよなぁ。
戦艦とは言えそのほとんどは電子制御、彼女達が本気を出せばその全てを掌握することも不可能ではない。
全ての隔壁ならびに出口を封鎖して中の空気を抜けばあっという間に巨大な棺桶が出来上がる、それがマジでできるんだから・・・やばいよなぁ。
「それじゃあ私は好きに飛ばせてもらうわ。イブちゃん、落としたいのがいたらそっちに飛ぶから遠慮なく言ってね」
「わかりました!」
「それじゃあ俺はのんびりさせてもらおうかな」
「残念ながらマスターには別のお仕事がありますからゆっくりできませんよ」
「仕事?」
「撃破した宙賊の集計です、羽虫ですらそれなりの懸賞金がかかっていますからしっかり計算してくださいね」
それは単に雑用を押し付けただけと言わないだろうか。
まぁそれで納得するのならそれでいいんだけど。
かくしてアトランティスを襲う宙賊との戦闘はなんとも緩い感じで始まったのだった。




