180.無事船に帰還して
オークション会場を出た俺たちは、宇宙軍に護衛・・・という名の監視を受けながら無事ソルアレスに帰還、余りにも色々ありすぎて疲れたのでその日は早々に部屋に戻り眠りについた。
迎えた翌日。
いつもと変わらない時間に目を覚まし、気づけば全員がキッチンに集まっていた。
「おはよう」
「おはようございます、マスター」
「みんな早起きだな」
「むしろアンタが寝過ぎなのよ、あんなことがあったのによく眠れるわね」
「疲れてたんだよ」
「歳をとると眠れなくなるといいますが、マスターはそうじゃなかったようですね」
暗に年取ってるくせにみたいな感じで言われた気もするけど気にしないでおこう。
とりあえず定位置になった椅子に座るとローラさんがいつものように香茶を淹れてくれる。
本当はこれがどこぞの高級品になるはずだったけど、しばらくはお預けのようだ。
「ありがとう。それで昨日からの進展は?」
「特にありません。オークション側も事態の収集に忙しいようですし宇宙軍からもコンタクトはありません」
「参加者が参加者なだけに事を荒立てられないんでしょうね。ほら、あのカバンあったでしょ?どうやらそれ目当てに王族が参加してたらしいのよ」
「どうやらってあの競い合ってたおばさまじゃないのか?」
「どさくさに紛れて調べてみましたが、貴族ではあるものの王族ではありませんでした」
てっきり買い戻しに来たのかと思ったんだが、どうやらそうではないらしい。
となると競り合った理由は別にあるわけか。
「ということは例の目的で?」
「それに関してはなんとも言えませんが、少なくとも普通の理由ではないでしょう。そして王族がなんのために参加していたかは正直わかりません」
「入札履歴は?」
「物品を購入した方々は配送の為に情報がアップデートされていますが、その中にはありませんでした」
「物品で買わないとなると参加の目的は人間の方か」
「その可能性はゼロじゃないけど、あのリストに王族らしき人はいなかったわよ?」
そりゃ王族が売りに出されることはないだろう。
じゃあ何を買いに来るんだと言われると返事に困るが、少なくとも物品じゃなかったのは間違いない。
「なんにせよ、その人のおかげで俺たちもお咎めなしだ。いずれ物も手に入るわけだししばらくは静かにしていよう。監視されてるんだろ?」
「マスターがあんなに堂々とされていたものですから注意リストに入ってしまいました」
「しまいましたって、悪いことしてないんだから堂々としていて何が悪い」
「その発想がそもそも普通じゃないんです。普通の一般人なら銃を突きつけられたら怯えて命を乞うものですよ」
人を普通じゃないみたいに言ってくれるが、俺は至って普通の善良な一般市民・・・ん?輸送業者はともかく傭兵は一般市民扱いされるのか?
なんにせよ宇宙軍に怪しまれている以上静かにしていよう。
「因みに監視方法は?」
「主に通信の傍受、それと行動観察ですね。あそこでカルロスを取り逃してしまいましたから、なんとしてでもその尻尾を掴みたいのでしょう。それ以外には出港制限と臨時立入検査を強化しているようです」
「なんとも面倒なことになったもんだ」
「原因を作ったのはマスターでは?」
「まぁまぁ、起きたことを今更言っても仕方ありませんしこれからのことを考えましょう」
「ローラさんはコイツに甘すぎるのよ。たまにはガツンと言ってやらなきゃ」
普段からガツンと言われている気もしないが、彼女たちからすればそうでもないらしい。
なんにせよ今動くのは得策じゃないが、今後については考えておくべきだろう。
ここに来てあまり時間は経ってないけど、ぶっちゃけやるべきことはやってしまってるわけで。
「今後で言えばここに滞在し続けるのかってところがポイントだな。色々と楽しませてもらったしそれなりに稼いだから、これ以上ここにいる理由があまり思いつかない」
「確かに普通じゃ考えられないぐらい稼ぎましたよね」
「ですがそれを使って大きな買い物もしましたから、今後のために補填するべきでは?」
「宇宙軍とカジノに監視されながらってのはちょっと無理があるだろ」
「そうでもないわよ?」
「テネスのいうように別に難しいことではありませんが、怪しまれるのは確実。となるとやることは一つです」
俺たちの本業は輸送業、宇宙軍がきたってことは宙賊もどこかに行ってしまっただろうからそっちでしっかり稼ぐべきだ。
「出港は制限されているが、いつまでも蓋をしたままってのは無理だろうから解放されるのは時間の問題、その場ですぐ他の宙域に行くと目立つからいくつか仕事をしてそのついでってほうが自然だな」
「マスター、60点です」
「なんでだよ」
「このタイミングで出される依頼など必要物資の輸送ぐらいなものでお金になりません。それならばせっかく助けた大物を狙いに来た哀れな連中を倒すべきかと」
「宇宙軍がいるのにか?」
「彼らも一枚岩ではありませんから、そこにいると分かれば狙わない理由がありません。わざわざ向こうから来てくれるんです、撃ち落とし放題ですよ」
ふむ、つまり宇宙軍に狙われて派手な動きが出来ない彼を狙う別の宙賊を喰った方が金になるという事か。
確かに輸送業よりも儲かるのは確実、それでいて別の思惑も達成できるとアリスは考えているんだろう。
相変わらず先を見るのが上手いというかあざといというか。
「宇宙軍に宙賊の仲間じゃないかと疑われている状況を打破しつつ、カルロスに恩を売ってwin-winの状況を作りたいわけか」
「そいつの後釜を狙うってことはそれなりに懸賞金が高い連中なわけでしょ?せっかく懐が温かくなるのに狙わない手はないわよね」
「そんなのを倒したらまたナディア中佐に喜んでもらえるんじゃないですか?」
「別に喜ばれたいわけじゃないんだがなぁ」
「むしろ狙っていた宙賊がいると向こうから来るかもしれませんよ」
「頼むからローラさんもそういう怖いこと言うのは止めてくれ、折角振り切ったのにまた遭遇するとか胃が痛すぎる」
アリスが余計な事をしただけで俺個人が狙われているわけではないけれども、それでもあの人に目をつけられているのは変わりない。
宇宙軍も出てきているし宙賊を狩る以上何かしらの関係はあり続けるわけだけど、本人が登場するのはマジで勘弁してほしい。
「とりあえず次の方針はそれでよろしいですか?」
「そうだな、出港制限が開けてからにはなるがまっとうなやり方で懐を温かくするとしよう。ついでに恩を売っておけば、また別の形で何か貰えるかもしれない」
「例の本とかですか?」
「それに限らずだな。どうやら向こうのクルーに俺と同じ趣味の奴がいるらしい、一度会ってみたいものだ」
「相手は宙賊だけど?」
「ルスク・ヴェガス内であれば問題ないだろ?」
「それもそうですね。では私とテネスは宙賊の情報を収集いたします。皆様は出港準備をしながらゆっくりとお待ちください。ただし、外出はできるだけ避けるようにお願いいたします」
とりあえずは向こうの出方次第だし、今はゆっくりさせてもらおう。
アリスの読み通りになるかどうかしばし様子見だ。




