178.予想以上の大物と遭遇していて
オークション後半戦も無事に進行、あとは目的の二重結合水晶を残すだけとなった。
因みにテネスの欲しがっていたカバンは無事に落札、どこぞのお貴族様の奥様と壮絶なデッドヒートを繰り広げたせいもアリ落札価格はまさかの770万ヴェイル。
一体あのカバンのどこにその価値があるのかと思ったのだが、話を聞いて目を丸くしてしまった。
「あのカバンは世界に一つしかない特注品で王家の人間しか購入できない特別な奴なの。定価ってものは存在してないけど、仮に同じ品質で同じものを作ろうとすれば1000万ヴェイルはくだらないはずよ。そもそもそんなのがここに出ている時点でおかしいんだけど、そこは気にしちゃダメなんでしょうね」
「王家の一員のうちどこぞから流出したか、それとも売却したかそんな所か」
「これを持っているだけで王家の人間だと言い張ることもできます。それだけの力があのカバンにはあると思っていいでしょう」
「王家を偽るってそれって犯罪じゃないか?」
「王家の人間だと言わなければいいんです。誤解したのは向こうであってこちらが何も言わなければ罪には問われません」
なんという暴論、確かに間違いではないけれどもそれを利用しようと思った時点で罪ではないのだろうか。
『知らずに使ってました!』が言い訳として成立すればいいけれども・・・っていうか、なんつう高いカバンをねだるんだうちの違法AIは。
マジで頭おかしいんじゃないか?
「それでは物品最後の品です!商品番号41番、大開拓自体に通信端末として使用されていた二重結合水晶、それをふんだんに使い加工されたオブジェです。この技術すらもはや失われたもの、これだけの大きさともなるとこの機を逃すと二度と手に入ることはないでしょう。100万ヴェイルから、それではどうぞ!」
「200万」
「300万」
「おぉっと!ここにきて一気に値段が上がっていきます、早くも落札者は二人に絞られました!」
お互いに何を落札するかがわかっているからこそ、遠慮のない値上げ合戦。
とはいえテネスのカバンが予想以上に高く、更には昨日の銃でも予定外の出費をしてしまったためうちの予算は残り500万。
まぁ、出そうと思ったら後2000万は出せるけれども、ここで全額使う理由もないし惑星を購入する費用を考えるとできるだけプールしておきたい。
最悪買わなければならないものでもないので難しい場合は素直にあきらめるつもりだ。
「400万!」
「くっ、450万でどうだ」
「ふふ、500万!」
まるでこっちの予算を見越しているかのように、こっちの予算を超えてしまった。
例の宙賊が勝ち誇ったかのようにこちらを向きにやりと笑う。
「マスター、どうしますか?ご入用でしたら予算を超えてでも・・・」
「これ以上戦う必要はない、無理に買う物でもないし目的の物は手に入れたからな」
「本当によろしいのですか?」
「あぁ、大丈夫だ」
これ以上戦う必要はない、そう心に決めて手を下した。
「おっと、ここで25番様が手を下しました!それでは二重水晶結晶は13番様500万ヴェイルで落札です!それでは次のオークションに入る前に会場セットを変更いたします、今しばらくお待ちください」
割れんばかりの拍手を受けながら例の宙賊がこちらへ向かって拳を突き出してきたので、俺もそれに合わせて拳を突き出す。
ここから先は人のオークションなので俺達の番はこれで終了、あとは商品を受け取って船に戻るだけだ。
向こうはまだオークションに残るようなのでさくっと荷物をまとめて席を立った。
エントランスの人はまばら、この時点で席を立つ人はある意味まともと言えるだろう。
「マスター、先程の方は?」
「休憩時間にちょっとな。後日また会うからどこかで連絡先を・・・」
「お!やっぱりここにいたか」
どうしたもんかと思っていると、会場の入り口から例の宙賊が大きな声で声をかけてきた。
体もデカければ声もデカい、とりあえずこちらも手を挙げて反応しておく。
「もう帰るのか?」
「あぁ、生憎と人を買うつもりはない」
「優秀な人材を引き入れるには後腐れもないいい方法だと思うが、まぁ考え方は人それぞれだ。それで、例の件はどうする?」
「そっちはまだオークションに残るみたいだし、また後日でも構わないか?」
「そうしてもらえるとこちらも助かる。明日は大事な打ち合わせを予定している・・・明後日はどうだ?」
「明後日だな。アリス、連絡先を交換しておいてくれ」
「それではこちらのアドレスに連絡をお願いいたします。私、マスターのお世話をしておりますアリスと申します、以後お見知りおきを」
「ほぉお世話と来たか、お前も中々面白いな」
「恐れ入ります」
全員を一瞥したその人は、アリスの出したホログラムデータを腕時計型のデバイスで受取り、再びオークション会場へと戻っていく。
その背中を見送り小さく息を吐いた。
本人にそのつもりはなくてもあの迫力はなかなか来るものがある、それこそ見えない力的な物があるんじゃないだろうか。
「あの、今日落札した商品はどうなるんですか?」
「オークションが終わり次第厳重に運んできてくれるから、船で待っていれば大丈夫みたいよ。今日中には持ってきてくれるんじゃない?」
「楽しみですね!」
「到着したらさっそく香茶を淹れてみます」
商品の到着が待ちきれない様子の女性陣、だが先程の宙賊と連絡先を交換したアリスがピクリとも動かなくなってしまった。
まるでハッキングされたヒューマノイドのよう、そんなまさかな、
「アリス?」
「アリスさん?」
声をかけても反応なし、テネスが前に回って顔の前で手を振っても目で追いかける様子はない。
何かあったのか心配になっていると、ゆっくりと顔を上げ俺の方をじっと見つめる。
「なんだよ」
「マスター、先程の方との関係をもう一度教えていただけますか?」
「関係って・・・別に、中座の際にトイレで会って落札した銃を見せる代わりに向こうが落札した大開拓時代の本を見せてもらう約束をしただけだ。そうそう、見せてもらう本だが撮影してもいいってことだから、全ページ記録してもらえるか?手元にはなくても映像で読めればそれで十分だから」
「それは構いませんが・・・あの、先ほどの方が何者か本当にわかって約束されましたか?」
「何者かって俺が知るわけないだろ?まぁ見た感じ宙賊なのは間違いないだろうけど、ルスク・ヴェガスじゃ相手の身分は関係ないし、向こうが言い出さない限りそれを知る方法もない。たとえ犯罪者でもここでは対等だってのがここのルールじゃなかったか?」
「それはそうなんですが・・・はぁ、これをナディア中佐が知ったらとんでもないことになりますね」
さっきまで固まっていたかと思ったら盛大なため息をつかれてしまった。
なんだよ、別に相手が宙賊とは言えここではそれを気にしないルールだろ?
そりゃコロニーの外に出たら命を取り合うことになるだろうけど、それはそれだ。
「なんでナディア中佐の名前が出てくるんだよ」
「なんでって、あの人こそナディア中佐が探している宙賊の大ボスの一人、カイロス=ヴェインに他ならないからですよ。あの見た目でありながら神出鬼没、彼が出てきた宙域は宙賊で溢れ大変なことになってしまうと言われています。パトリシア様をお送りする際に発生していた大規模討伐作戦も元は彼が指揮していたと言われているんです。そんな大物の連絡先を入手し、直接会話をするどころか物品のやり取りをするなんて・・・もうどうなっても知りませんからね」
いや、どうなっても知りませんって言われたってそんなすごい人だなんて知るはずないじゃないか。
今ならまだ約束を無かった事に・・・いや、そんな事にしようものなら確実に殺される。
思いもよらない状況に思わず皆の顔を見回してしまうのだった。




