174.事前に色々と調べて
満足げな顔で去っていく支配人を外で見送り、ひとまずキッチンへと戻る。
まさかこういう形の賠償をしてくるとは思わなかったが、興味があるかと聞かれたら答えはもちろんYesだ。
「極秘オークションか、まさかアリスがまいたエサにこういう形で食いついてくるとはな」
「ネットワーク上に噂としては存在していますが、まさか実際に参加できることになるとは思いませんでした」
アリスもまさかこういう手法で来るとは、という感じの顔をしている。
向こうからすれば500万ヴェイルもの出費がそれで賄えるんだから安いもんだろう。
参加チケットの原価なんてたかが知れてる、しかもそこで金を落とせばある程度のキックマージンがあのカジノにも入るって感じなんだろう。
負けを取り返すためにも俺達にたくさん買い物をしてもらいたいってのが先方の思惑なんだろうけど、果たしてどんな感じのオークションなんだろうか。
「どんな人が来るんでしょうね」
「参加費100万ヴェイルがしはらえるとなると貴族や豪商、宙賊団のトップとかじゃない?」
「さっきも宙賊らしき人がいたからなぁ。まぁ、ここでは身分なんてあってないようなもんだし気にせず堂々としてればいいんじゃないか?」
「マスターの言う通りです、ここではお金が全て。チケットを見る限り時間は明後日の夕刻、場所はチケット所有者に直接送られてくるそうです」
「明後日か」
「せめてどんな品物が出品されるかが分かれば色々と準備できそうですけ・・・」
確かにローラさんのいう事には一理ある、欲しい物が無いんじゃ参加する意味はないし値段がわからなければ準備することも難しい。
さっきの話じゃ俺が好きそうなものが出品されるってことだったけど、ぶっちゃけ餌として使っただけなので絶対にそれが欲しいわけじゃないんだよなぁ。
「出品リストは・・・あ!ありますね、モニターに出しますので少しお待ちください」
「いきなり卑猥な画像とか出てこないでしょうね」
「データを見る限りそういうのは・・・まぁ、大丈夫でしょう」
「なんだよその間は」
「直接的でなければ大丈夫だと判断します、なるほど確かにこれは極秘ですね」
どうやらチケットの中にそういうデータが入っていたようで、それを抽出してモニターへ転送。
映し出されたのは複数の写真とその説明文、上から見ると宝石とか非合法の薬とか想定の範囲内のものが続いていたが、半分を過ぎた所から斜め上の物が増えてきた。
「あるよなと思ってたけど、ここまで露骨に出すのか」
「あの・・・人ですよね?」
「人ですね。おそらくは大半が借金か何かで売られた人でしょう。大切な商品ですから雑には扱われていませんが、ここで買われた後はどうなるかわかりません」
「そんな、人身売買って私のコロニーだけじゃないんですか?」
「こちらに関しては非合法に連れていかれたわけではなく正当な理由があっての売買になるようです。とはいえ法律上は違反ですから、これを告発すればすぐにナディア中佐が飛んでくることでしょう。とはいえ今回が中止になるだけでこういった売買が無くなるわけではありません」
「それを買うのが宙賊だけじゃなく貴族や商人ってところに社会の闇を感じるなぁ」
今回のオークションを潰しても大本をどうにかしなければ何の改善にもならない。
それに、参加するメンバー次第では余裕でそれももみ消されてしまうんだろう。
俺だって人を売買することにいい感情はないけれども、致し方ない部分もあるような気もするとリストに載っていた一人の女性を見て考えてしまった。
そこに載っていたのはこの前カジノにいたあのハッキング女、あのあと多額の罰金を支払うように言われてそれが叶わずこういう形で売られることになったんだろう。
払えないのなら体で払えを文字通り実行させられているわけだが、彼女を助けた所で何のプラスもないわけだしそれだけのことをした賠償はするべきだ。
「あとは接収したスペースシップやアンドロイド、ヒューマノイドなんてのもあるな。アンティークは・・・なさそうだ」
「欲しいんですか?」
「これ以上面倒なのが増えるのは勘弁してくれ」
「面倒という部分に色々思うところはありますが、望んでいないことが分かっただけでも良しとしましょう。では、この中で何を狙います?」
「そうだなぁ・・・とりあえずこの辺か?」
リストを上に戻し改めて確認をしていく中で気になったのは三つ、一つは大開拓時代のパーツや蛍光カプセルなんかのアンティーク雑貨、次いで船でも使えそうな高級調理器、最後にどこかで見覚えのある古びた本。
「この本ですか?」
「余り状態は良さそうにないですけど・・・」
「マスターは本当に古い物がお好きですね」
「良いんじゃない?下手に女とか薬に手を出すぐらいなら健全な趣味だと私は思うわよ。まぁ、これだけの美女に囲まれて手を出さないことには若干不安を感じるけど・・・でもまぁ、履歴を見る限り大丈夫そうね」
「だからそういうプライベートな情報を勝手に把握するなっての!」
このアンティークありてこの違法AIあり。
アリスの事をアイツとか言いながらやってることは全く同じじゃないか。
別に人の趣味に対してとやかく言われる筋合いはないし、手を出す出さないってのもクルーをそういう目で見ないのがキャプテンってもんだろう。
え、違う?
「俺はともかくみんなは何か気になるの無いのか?例えばこの香茶の茶葉セットとか、イブさんだったらこっちのレーザーガンとかはどうなんだ?」
「市場に出回らないモデルですね、そういうのが一丁あってもいいなとは思いますけど・・・」
「私達も買っていいんですか?」
「そりゃそうだろ、折角五人分貰ったんだし軍資金もあるんだから使わなきゃもったいない」
「え、もしかして私達も?」
「マスターはそのつもりのようですね。いきなり欲しい物と言われても困りますが・・・少しお時間をいただいても?」
「軍資金があるとはいえ何でもかんでも買えるわけじゃない、その辺は加減してくれよ?」
アリスの事だから突拍子のないことを言い出しかねない。
まぁ、足りなければまた稼げばいいだけなのでその時はその時だけど、生物系は勘弁してほしいところだ。
マスターの好みでしたのでとか言って、誰か知らない人を買われたところで俺にどうしろというのだろうか。
そういう事がしたいのならどこかのコロニーでサクッと楽しませてもらうし、そういう事に気を回してほしくない。
最初の頃はアリス自身がそういうネタでちょっかい出してきたこともあったけど、最近は大人しくなってたのであきらめたのかと思ったのだがこの前の一件以降こいつの言動や行動が心配で仕方がない。
アンティークってやつらはやることが極端だからなぁ、マジで心配だ。
「とりあえず今日中にリストアップして、もし費用が足りないようなら明日稼ぎに行くって感じでいいか?」
「それでいいかと思います」
「あ、あの!一つだけですか?」
「とりあえず候補は何個でもいいぞ。その中で取捨選択する必要はあるけどオークションだからどう転ぶかもわからないから候補は多い方がいいだろう」
「わかりました!」
人身売買の件もあり最初は遠慮がちだったイブさんとローラさんだが、選び出すと止まらなくなったようだ。
こんなことでもないとこういう世界を経験することもないだろうし、楽しめる時に楽しまないとな。
なんせここはルスク・ヴェガス、非日常を楽しむためのコロニーだ。
偶にはこういう事があっても悪くはないだろう。




