172.イカサマを逆に利用して
結論だけ言うと俺の博才ではこの戦場で戦うことはできなかったようだ。
当初予定していた二回ではなく最後にもう一回アリスの手を借りずにやってみたけれど惨敗、たった数分の間に150万ヴェイルも失っていた。
奥の宙賊はちょい勝ち、カップルのうち女は負けているけれど男がかなり勝っているのでプラス推移、負けているのは俺だけという感じだ。
これが俺の限界、もともとそっちの才能はないとわかっていたのであまりショックはない。
「さて、ここからが本番だ」
「今まではウォーミングアップでしたか?」
「まぁそんな感じだな」
「ふふ、楽しみにしています。それではベットをどうぞ」
ここからはアリスにも入ってもらっての勝負になる。
ここまでの状況はドローンのカメラを通じて確認済み、果たしてどうなるのやら。
「それでは手始めに100万行きましょう」
「ベット」
言われるがまま100万ヴェイルのチップをテーブルに出す。
俺の負けをこれで取り返せるのかはアリスにかかっている。
「残り札を考えるとかなり絵柄が残っています、もしプレイヤー側に多く配られればディーラーの負けは確実でしょう。となるとあとは運勝負ですが、気になるのは横のカップルです。監視カメラへのハッキングを継続しています。中々成功していないようですが私と同じく遠隔で挑戦しているようですね。今は私が使用していますが、どうします?」
「もちろんヒット」
「わかりました、回線を解除して誘ってみます」
配られたのは4と6の二枚。
当たり前のようにヒットをコールしつつアリスにも指示を出す。
なるほど、あのカップルはイカサマをしようとしているのか。
俺達と同じく監視カメラの映像を通じて配布されたカードを確認、記録して残数を把握しようっていう事だろう。
見た感じディーラーが手を組んでいる感じはない、ということは俺達と同じくあくまでも統計学的なイカサマということのようだ。
因みにその男のカードは11、絵柄が来ればブラックジャック確定だ。
「ダブルダウン」
「マジか」
「確かにいいカードが来てるが、確率はどうなんだ?」
そこで男がダブルダウンを宣言、次の一枚しか引けないものの掛け金を倍に出来るのでこれで勝てたらかなりデカい。
確かに確率はかなり高いけど・・・どうなんだ?
「マスターもダブルダウンでどうぞ」
「は?」
「仮に絵札で負けても今回は大丈夫です、むしろ図に乗らせた方が扱いやすそうなのでこのゲームを捨てましょう」
「・・・俺もダブルダウンだ」
「え、また?」
「それで勝てると思うのか?」
絵柄が出れば20,普通に考えれば勝つ可能性はそれなりに高い。
「では参ります」
ヒットを宣言した人へひっくり返されたカードが順に流されてくる。
俺の手札はハートのジャック、これで20は確定だが・・・。
「はは!やっぱりお前は幸運の女神だよ!」
横の女を抱きしめて頬にキスをしなながら男が札を返すとスペードのキングが姿を現した。
これで21、ディーラーが20だったので奴の勝ちだ。
その後もカメラ映像を駆使しながら使用されるカードを把握し、スレンダーを駆使しながら確実に勝ちを積み上げていく男。
宙賊が嫌そうな顔をし始め、10度目のゲームでついに席を離れた。
「どうされますか?」
「別に継続でいいぞ、横の彼はまだまだやりたいみたいだしな」
「こんなに勝ってて引き下がるわけにはいかないだろ。ほら、次のカードをくれ」
「それではベットをお願いします」
現時点で700万の負け、今日勝った金額を考えるとまだまだプラスだがやっている方の胃は非常に痛い。
「さて、そろそろ裏どりも終わりましたので回収に入りましょうか」
「ん?」
「横のカップルですが監視カメラの映像だけでは飽き足らずシャッフル機も弄っていたようです。ダブルダウンが続き随分と偏りがあるなと調べましたら遠隔操作された形跡を発見しました。中々の腕前ですが、所詮はこの程度ですか」
「よし、それじゃあ200万」
「おいおい、そんなにかけて大丈夫なのか?」
「もちろん、そろそろ俺にも女神が下りてくるはずだからな」
「生憎と女神は俺の隣だぜ、なぁ」
「え?え、うん・・・」
明らかに動揺する女、それはそうだろう今頃ハッキングしていたカメラは奪われ、シャッフル機も確認できなくなっているはずだ。
アリスにかかればこの程度朝飯前、11回目のゲームで俺に運ばれてきたのはエースが二枚、相手は二人とも8と7という明らかにコントロールされた結果だった。
「スプリット」
ディーラーはキングとホールドカード、俺がエースを二枚使っている以上彼女にエースが渡る可能性は非常に低い。
ブラックジャックのルールでは、同じカードが運ばれてきたらそれを二つに分けて二倍の掛け金で勝負ができる。
エース二枚を二つに分けて配られたのは・・・キングとクイーンの二枚だった。
「もちろんステイ、そっちはどうするんだ?」
「くそ!イカサマだ!」
「まだ勝負は決まってないぞ?」
「そんなのやる前から分かってる、こんなのあり得るはずがない!だってこいつは・・・」
「こいつは何だって?」
「いや・・・」
「さぁ続けるのか?それとも降りるのか?」
「くそ・・・ヒットだ」
明らかに動揺する男と女、それとは対照的に余裕の顔で盤面を見つめる俺。
結局女はバースト、男は17を作ったところでステイ。
「私は・・・20ですので貴方の勝ちですね」
「どうやら女神はこっちにつき始めたらしい」
「どうでしょう、もしかしたら次は私かもしれませんよ」
「はは、それはどうだろうな」
その後もゲームは続いたがカップルが勝つことはなく、ディーラーと俺が交互に勝ち続ける形になった。
負ける時は意図的に掛け金を少なくし勝つときはがっつりと賭ける、カップルは何か言いたげな感じだが証拠がない以上俺を告発することはできない。
悔しいなら席を離れたらいいのにそれを認めたくないのか女が止めるのも聞かず男は賭けを継続、そんなことを続けていると怪しまれるのは俺の方だが、それがアリスの作戦だった。
あえて怪しげな動きを見せてカジノの目をこちらに向け、そのタイミングでハッキングされている旨を通報して、強引にカジノに介入させてカメラを調べさせて女のハッキング履歴を白日の下にさらすらしい。
本人は巧妙に隠したつもりだろうけど、アリスが小細工をして一目でわかるようにしたのだとか。
17回目のゲームで俺がまたブラックジャックを出した時、テーブルの周りを黒服の男たちが取り囲んだ。
その真ん中にいたのは、あのイケメン支配人グレインさんだった。
「少しよろしいですか?」
「ん?」
「先程、ここの監視カメラとシャッフル機がハッキングされているとの匿名の通報がありました。申し訳ありませんが容疑が晴れるまで皆さんを拘束させていただきます」
「ハッキング!?そうだ、こいつが急に勝ちだしたのはそれに決まってる!」
バンとテーブルを叩きながら立ち上がる男の方、だが女の方は自分のハッキングがばれたのかと気が気ではないようだ。
隠している自信はある、でももしかしたら・・・世の中悪いことをしているとどうしてもそんな感情が出てしまう物だ。
俺の場合は直接何かしているわけじゃないのでどこにも痕跡はなし、仮にアリスの痕跡が判明してもそれを直接俺に繋げることはできないだろう。
むしろこれは好都合、ここでこの人に貸しを作っておけば大勝ちしたまま帰っても文句を言われないだろう。
「疑うのはそっちの勝手だが今日はこれで二度目だぞ?もし違った場合どうしてくれるんだ?」
「それは調べてからお答えします」
「まぁ好きにしてくれ」
「おい、連れていけ!」
ディーラーも含めた全員が黒服に囲まれ、それぞれが別室へと連れていかれたのだった。




