15.思わぬ才能を見出して
「で、具体的にどうやって依頼を達成するんだ?」
「もちろん目的地まで我々が行きますよ?」
傭兵ギルドで初仕事を手引き受けた後、具体的にどうやって達成するのかを聞いたんだが全く答えになってない答えが返ってきた。
いや、俺たちがいくのはわかるぞ
わかるんだが具体的にどうやって宙族の跋扈する小惑星群を抜けるんだっていう具体的な方法を聞きたかったんだが、聞き方が悪かっただろうか。
「何度もいうが俺たちは輸送業者で傭兵じゃない。この年でドンパチやり合うような気力に体力もないぞ」
「もちろんマスターには期待してませんのでご安心を」
「だから言い方」
「なのでイブさんに頑張ってもらおうと思っています」
「え、私ですか!?」
突然名前を呼ばれてハッとした顔をするイブさん。
つい先日目覚めたばかりの彼女にいったい何をやらせるつもりなんだ?
「今回の依頼達成の鍵はすべてイブさんにかかっています。具体的にどうするのかについては、実際見ていただく方が早いでしょう。」
「私なんかで役に立つんでしょうか」
「もちろん、マスターに比べれば何倍も役に立つことを保証いたします」
さも当たり前のように俺をディスるアリスに先導されて向かったのは傭兵ギルドの一角、大きなホールの天井からは丸い物体が吊り下げられていた。
「ここは?」
「傭兵用のシュミレーションルームです、手前が白兵用で奥がコックピットになっています。まずは奥のコックピットから行きましょう」
「あの、船の操縦なんて私やった事ないです」
「心配には及びません、コックピットと言っても操縦用ではなく迎撃用ですので」
「銃座か」
「まぁまずは座ってみてください、使い方はアナウンスが流れますのでそれに従って動かせばいいだけです。ゲームですから気軽に行きましょう。
動揺するイブさんを言いくるめてアリスがコックピットへ誘導、カプセル型のコックピットとではあるけれどヘッドセットをつける事で360°全方向の映像を視認できる。
無理やり座らされたイブさんだが、なんだかんだ言いながら自然と操縦桿を握っていた。
「ではまずは初心者用から、スコアが9割以上で次に進みます。イブさん好きなように動かしていいですからね」
「なんだかよくわからないけど頑張ります!」
ムン!と腕の前で気合を入れるイブさん、たわわな果実が腕に挟まれ想像以上の膨らみを作り出す。
うーむ、ダメだとわかっているのについつい見ちゃうんだよなぁ。
イブさんが見ている映像はモニタールームにも投影されており、広大な宇宙空間が目の前に広がっているようだ。
「対宙賊用迎撃戦闘シュミレーション起動します」
「本当に彼女にできるのか?」
「まぁ見ていてください」
出会ってまだ二日、インプラントがない以外には特に変わった部分はないけれどもアリスには思うところがあるんだろう。
シュミレーションを開始してすぐ、画面の奥から白い物体が姿を現す。
まだまだ距離は離れているけれどあれが仮想敵のようだ。
『操縦桿をを動かしターゲットを中心に入れトリガーを引くと模擬弾が発射されます。自動で補充されますがリロード中攻撃できませんので残数にはご注意ください』
ご丁寧に使い方まで説明してくれているのでおそらくは大丈夫だろう。
段々と近づいてくる仮想的、それでもかなりの距離があるのでもう少し近づいてから・・・と思った次の瞬間イブさんがトリガーを引く。
「ヒット!」
「マジか、この距離で当てるのかよ」
「次、行きます」
続いてフェイズ2が開始、先ほどよりも近い距離で複数の標的が姿を現すもこれまた瞬殺。
フェイズ3は先ほどの倍の敵に加えて上下左右に動き始めるもあっという間に仕留めてしまった。
まるで経験者のような動き、アリスの方を見るとこれでもかというドヤ顔をしている。
うーむ、何かあると思っていたけどまさかここまでとは。
結局上位ランカーと呼ばれる人たちのレベルまで行った所で終了してしまったが、あまりの実力に開いた口がふさがらなかった。
「お疲れ様でした、中々の腕前でしたよ」
「いや、マジですごかった。最後のなんてどう考えても人間が追えるような速度じゃなかったのにバンバン当ててるし、全部見えてたのか?」
「全部ではありませんけど大体は、まさか私にこんな技術があったなんて・・・」
信じられないという感じで自分の手を見るイブさん。
そりゃ出来ないと思ってあんな結果を出したらそうなるよなぁ。
「驚くのはまだ早いですよ。次は白兵シミュレーションです、奥の部屋に専用のボディスーツがあるのでそちらに着替えてからヘッドセットをつけてください」
「わかりました」
今度は白兵戦のシミュレーションを行うらしい。
奥の部屋に入っていったイブさんがボディラインのばっちり出るなんともセクシーなスーツを着て登場、アリスの目線がかなり痛いがあれを見ずにいられるわけがない。
「ヘッドセットを起動すると仮想敵が姿を現します、後は思い通りに動いて撃退してください」
「はい!」
元気いっぱいに返事をするイブさん、起動すると同時にモニターにはいかにもチンピラという感じの人物が姿を現した。
「ここまでやる必要あるのか?」
「マスターが戦えない以上、他の人に戦っていただく必要があります。前回は偶然全員生身でしたけどサイボーグ化していた場合はあの方法で倒すことが出来ません。出来る限りソルアレスに侵入されないように努めますが、最悪を想定するのも大事なことです」
「で、それを彼女にやらせると。さっきのもそうだけど、そういう訓練か何かを受けているのか?」
「インプラントがないので定かではありませんが、スキャンをした際に明らかにそういう訓練を受けたような痕跡を発見しました。本人は出来ないとおしゃっていましたがおそらく操縦も出来るかと」
「うーむ、ますます出自がやばくなるなぁ」
イブは星間ネットワーク上のどこにも情報がなくどの防犯カメラにもその姿は映っていない。
それでいて上位ランカー顔負けの迎撃技術を持ち、更にはご白兵戦でもあっという間に敵を倒してしまう実力がある。
そこから導き出されるのは軍関係者か、はたまたどこかしらで非合法の改造を受けたのか。
一人倒しては倒されてはより強い相手が出て来るが、それすらワンパンで倒していく。
信じられない身のこなし、その度に胸が大きく揺れて・・・って見るべきはそこじゃない。
いや、そこも見ないといけないけれど、気づけば軍人レベルの実力者とダンスをするような組手を披露していた。
「まさかイブさんにこんな才能があるとはなぁ」
「おそらくどこかで戦闘訓練を受けていたのでしょう、スキャンした時にはそこまで気になりませんでしたが、この間マスターが投げそこなったものをキャッチするのを見て確信しました。彼女がいれば宙賊への対処も可能、仕事を受けた理由をご納得いただけましたか?」
「納得するしかないだろう。確かに彼女の腕があれば近づく前に迎撃できそうだし乗り込まれても十分対処できる、そしてソルアレスにはそれを行える機能が備えられていると」
「その通りです。いくらマスターが自由を望んでも丸腰で旅はできませんので、ソルアレスの最上部には銃座が設置してあります」
ボロ船を引き継いだ時にはそんなもの付いていなかったはずなのに、なんでこんなことになったんだろうか。
自己進化システムだっけ?
こんなものが他の船にもついていたら今頃大変なことになっているに違いない。
これもまたアリスと同じくアーティファクト的な機能なんだろうなぁ。
「ただのショップシップの筈なのにおかしな話だ」
「今時何も対策していない船なんてありません。とはいえ、我々の目的はあくまでも荷物の輸送ですから銃座はあくまでも飾り、どうしてもという場合以外は使用しませんよ」
「そうであることを祈る。お、終わったみたいだな」
視線を戻すとシミュレーションを終えたイブさんがヘッドセットを外し、爽やかな笑顔を向けて来る。
彼女の出自がどうであれ、あの技術と実力そしてアリスがいれば問題なく小惑星群を抜けることが出来るだろう。
元気に手を振る彼女に手を振り返し、労うべくシミュレーションルームへと向かうのだった。




