114.順調に仕事を消化して
白鯨のポテンシャルはすさまじく、輸送ギルドから持ち込まれる仕事を順調に消化。
中型船ながらほぼほぼ大型船のような働きができるので、多少の値上げをしても価格は大型船安くそれでいて仕事は早いと早速リピーターがついたぐらいだ。
コロニーからわずか1日の超近距離で大量に荷物を運んでくれる船はほとんどなく、それもあり仕事が集中したんだろう。
こちらとしても相場以上の報酬をもらえるのでありがたい話、向こうの経費で勝手に傭兵が護衛についてくれることもあり安全に仕事をこなせている。
気付けば一週間が経過。
ここまでノンストップで働き続けたのでこの辺でそろそろ休みにしようと久方ぶりの休暇を取ることにした。
「ご一緒してはいけないのですか?」
「そっちはソリアレスの進捗確認に行くんだろ?わざわざ合わせる必要もないし折角の休暇なんだからゆっくりさせてくれ」
「それでしたらせめてキャロルさんを同行させてください」
「あの人は昨日下ろした荷物の警備をしてくれているし、彼女こそ働きすぎだ。いくら加害者とはいえたまには休ませてやらないとぶっ倒れるぞ」
「マスターにそれだけのことをしたのですから当然の報いかと。優しすぎるのも良くありませんよ」
彼女からしてみれば職務を全うしただけだしそこまで強く当たる必要はないと思うんだがなぁ。
実際この一週間は到着した荷物の搬入補助やら手続きやらでふらふらになるまで働いてくれている。
俺からすればもう終わった話なのだが、アリスはまだ根に持っているようだ。
「ともかく今日は俺もフリーにさせてもらう、くれぐれも監視カメラで追いかけてくれるなよ」
「それは見られては困ることをするという前振りですね」
「んなわけないだろが」
「まぁいいでしょう、マスターも秘密の一つや二つ作りたいでしょうしこちらはこちらで動かせていただきます。進捗状況はメッセージを入れておきますのでまた確認しておいてください」
「了解、それじゃあ明日の朝8時に集合な」
「どうぞ楽しんできてくださいね」
まるでどこに行こうとしているかわかっているような感じだったが、まぁ釘は刺しておいたしたまにはのんびりさせてもらおう。
そんなわけで久々のオフ、うきうき気分で向かったのは留置所で出会ったあの人に紹介してもらったスペースバニーというお店だ。
第二ブロックと言えば歓楽街の名所、その中でもひと際にぎやかな店舗のようにも見える。
うーむ、まさかこんなに大きな店だとは思わなかった。
事前に調べようにもアリスに筒抜けになってしまうのでできなかったんだよなぁ。
まぁいいか、行って無理ならあきらめればいいし。
入り口の左右に立つガチムチがにらんでくるけれど何食わぬ顔で扉を開けて中へと入った。
こちとら無駄に35年も生きてないんだ、この程度でビビるようなことはない。
店内の装飾もまた素晴らしく、きょろきょろと見まわしているとスーツを着こなした黒服の男性がゆっくりと近づいてきた。
「いらっしゃいませ、ようこそスペースバニーへ。どなた様のご紹介でしょうか」
「ん?ここは紹介がないとだめなのか?」
「えぇ、当店はコロニー随一の女の子を集めたお店ですので信頼を置ける方以外にはご利用いただけないようにしているんです。ご紹介者様がおられないのであればお引き取りいただく決まりですが、如何しましょう」
後ろを振り向くと先ほどのガチムチサイボーグが拳を叩きながら気かづいてくる、何も知らなければさすがの俺もビビっていただろうけど一応紹介されてきたのでそこまでビビる必要もなかった。
「ルークさんの紹介と言えばわかるのか?」
「・・・その名前をどちらで?」
「どちらも何も本人だが?」
「それはあの方のツケでという事でしょうか。先ほども申しましたように当店はコロニー随一の店舗です。それなりの金額がかかりますが・・・」
「残念ながらツケは勘弁してくれと言われているんだ。だが、人を見た目で判断するような店ならルークさんには悪いがここで帰らせてもらう。そこまで馬鹿にされて遊びたいわけじゃない」
遊びたくて来たけれどもプライドをつぶされてまで絶対遊びたいわけじゃない。
ため息をつきながら引き返そうとすると黒服が慌てた様子で引き留めてきた。
「お気を悪くさせてしまい申し訳ありません。最近あの方のお名前を悪用されるケースが増えておりましてわざとこのような対応をさせていただきました。どうぞ中へ、とびきりの子をご紹介させていただきます」
「そりゃありがたいが・・・あの人何者なんだ?」
「おや、お聞きになっていないんですか?」
「とある場所で一緒になったときに紹介してもらったんだ、お礼を言う前にどこかに行ってしまったんで詳しく聞けてないんだよ」
「なるほどそういう事でしたか。ルーク様こそ、このスペースバニーのオーナーであり第二ブロックを統治する責任者でもあります。あの方が初対面の相手にここを紹介するとは、よほど気が合ったのでしょう。先ほどは大変ご無礼致しました、ささどうぞ奥へ」
最初から普通の人じゃないと思っていたけれどまさかそんなにすごい人とは思っていなかった。
その後のことは割愛させてもらうが、こんな世界があるのかと改めて勉強になったぐらいだ。
うーむ、軽い気持ちで行ったのにまさかこんないい思いをさせてもらえるなんて・・・もし次にあの人に会うことがあったら感謝しないといけないな。
そんな浮かれた気持ちで来た道を戻り大通りを歩いていると、ふと見覚えのある人物が路地に入っていくのが見えた。
場違いな白いローブにのっぺりした顔、間違いない前に見たカオナシヒューマノイドだ。
「アリス!」
「どうしましたマスター、先ほどまでジャミングががかけられておりましたが無事ですか?」
「こっちは問題ない。だが前に見た例のカオナシヒューマノイドをまた見つけたんだ、この近くにマシンオイルを売ってる店はないか?」
「マシンオイル?なんでそんなものを・・・」
「いいから早く教えてくれ」
「それでしたらすぐ横の路地を曲がったところにジャンク屋がありますから、声をかければ何か譲ってもらえると思います」
「了解!監視カメラあるよな?さっきの奴を追跡しといてくれ」
ここであったのも何かの縁、彼から聞いた情報が確かならば今度こそあの闇商人から何か得られるかもしれない。
最初はただの噂だと思っていたけれど、アリスと共に見つけた時から本物だと確信。
あの時は取り逃したけれど今度こそ見つけて見せる。
いきなり飛び込んできた客に対して最初こそ驚いた感じのジャンク屋だったが、現金を突き付けると二つ返事でマシンオイルを譲ってくれた。
相場?そんなのはしらん。
「その角を左へ、そのまままっすぐ行くと前と同じ排気エリアです。前も見つけられませんでしたが今回は何か策が?」
「面白い噂を耳にしたんで試してみたい。ダメだったら笑ってくれ」
「どこでその情報を仕入れたのかはあえて聞きませんが、私もあと十分ほどで到着しますので怖かったら待っててください」
「子供かっての」
監視カメラを追跡した結果、例のヒューマノイドは前の排気エリアへと向かったようだ。
少し遅れて到着するも奴の姿はなし、ここまでは想定内なので後は彼から聞いたお酒の置かれたテーブルを探す。
こんな雑多なところにテーブルなんて・・・あるやないかい。
奥の奥まで歩くと確かに空っぽの酒瓶が置かれた机があった。
この前もあったかもしれないが、言われなければこれがカギになっているなんて気づけるはずがない。
言われた通りマシンオイルを置いてそのまま待機、振り返るとだめらしいので物音が聞こえても静かに待ち続ける。
でもここでアリスが飛び込んできたらどうなるんだろうか。
まさか失敗?それなら到着を少し遅らせるように知らせた方が・・・と思った次の瞬間、後ろから白い手がニュッと伸びてきて優しくマシンオイルを回収していった。
マジか、本当に来た。
でも出てきた後どうするかまではきいていなかったな。
闇商人っていうぐらいなんだから何か取引するんだと思うけど、こんな後ろ向きじゃ話もできない。
どうすればいいんだ?と悩んでいると、再び手が伸びてきてマシンオイルが置かれていた場所に何かを置いた。
これは・・・データチップ?
「おい、これ・・・っていないし!」
慌ててそれを取って後ろを振り向くも時すでに遅くヒューマノイドの姿はどこにもなかった。
「マスター!」
「アリス!今ヒューマノイドとすれ違わなかったか!?」
「例のカオナシですか?すれ違いませんでしたけど・・・」
「嘘だろ?ついさっきまで俺の後ろにいたんだぞ?そこ以外に出入り口はないし・・・いったいどこに行ったんだ?」
排気エリアの入り口はアリスが来た道だけ、あの一瞬でどこかに飛んでいくわけもなく慌てて上を見ても周りを見てもヒューマノイドの姿はどこにもなかった。
残されたのはこのデータチップだけ、いったい何がどうなっているのか。
まるで幽霊にでも遭遇したようなそんな不気味な状態に思わず寒気を覚えるのだった。




