103.諸々の交渉を終えて
「改めましてこの度は弊社の不手際により大変なものを紛失、放置してしまい誠に申し訳ありませんでした。皆様に回収して頂けなかったら今頃大変なことになっていたのは間違いございません。今後はこのようなことがないよう管理徹底して参りますのでどうかこちらでお許しいただけませんでしょうか」
エドさんが応接を出てきっかり5分後、げっそりとした表情のエドさんと一緒に入ってきたのは子供かというぐらいに小さな男性だった。
見た目は子供でも雰囲気は完全に大人というかこんな状況にも関わらず落ち着き払っている。
普通は大袈裟なぐらいにお詫びしたりするもんだと勝手に思っていたんだが、うーく大物感がすごい。
「貴方は?」
「ゼルファス・インダストリー副社長の任を拝命していますオルドと申します」
「このような状況ですから社長自ら説明にくるのかと思っていましたが、違うのですね」
「本来であればそうするのが筋だとは思っておりますが、何分弊社社長忙しい方でして、どうか私でお許しいただけないでしょうか」
「ふむ、こちらとしては御社が今後どうされるのかが分かれば結構です」
若干不満はありそうな感じだが、副社長が出てきただけでも十分だろう。
因みに先程までのソファーの後ろに立っていたアリスだが、イブさん申し出により場所を交代。
俺の横で笑顔を浮かべている。
見た目は幼い二人だが、やっていることはバチバチの喧嘩、果たしてどうなることやら。
「お許しいただきありがとうございます。改めまして今回の件につきましてはそちらの要望を全面的に受け入れ、1000万ヴェイルにて改修工事を含めました諸々の依頼をお受けさせていただきます。滞在中は引き続き弊社ハンガーを利用していただいて問題ありません。工期はおよそ二週間、その間代替えの船が必要でしたらご準備させていただきます」
「まずはこちらの要望を叶えていただきありがとうございます。また、代替え船の提供も非常に助かりますが、それではこちらが利を獲すぎていませんか?」
「それだけのご迷惑をおかけしている気持ちと思っていただければ。その代わりと言ってはなんですが今回の件はくれぐれも内密にお願いいたします。皆様は私の友人という事で話を進めますので社長を含め口裏を合わせてください」
今回の件をその他社員には内密にというのはまぁわかる。
だが、社長にも友人で通せとはどういう事だ?
「つまり社長はこの件を知らないのですね?」
「どういうことだ?」
「例の無人機の件は社長の耳には一切入らず極秘に行われていたのでしょう。廃棄した理由は存じませんがこれが再び戻ってきたと知れればイヤでも社長に知られてしまいます。加えて利益を度外視しさらには通常納期の半分という期間で修繕・改造を行うとなればイヤでも社員の耳に入るもの、それを友人という理由にすることで誤魔化そうというわけです」
「今回の報酬は口止め料も含まれているということか」
「さすがマスター、満点です」
社長も知らないとなればそりゃ無理やりにでも隠蔽する必要がある。
今回の損失なんてばれた時のリスクに比べれば安いものだと判断されたわけか。
こっちとすれば値段が安くなり、更には工期も短くなるとなれば文句はない。
代替えの船があれば待機中も仕事ができるし、暇を持て余すということはなさそうだ。
しかしあれだな、悪いことはするもんじゃないな。
「ご理解いただき感謝致します」
「マスター、この条件で問題ないですか?」
「これだけの好条件なら文句はない。が、あのコンテナはどうするんだ?」
「それに関しては申し訳ありません」
「そこを含めての口止め料ですよ。データも全て渡しますので本来であれば全て無料にしてくださってもいいぐらいですが、それでは諸々の言い訳ができませんので致し方ありません」
「つまりデータ分の代金は回収できてないと。ならこういうのはどうだ?手配してもらう船は中古でも構わないから荷運びができる大きいのを用意してくれ。修繕しているはその船を使って仕事をさせてもらうが、何分初めてのコロニーだから勝手がわからない。そこで、俺たちができそうな仕事があったら優先的に回してもらえなか?これだけでかい企業なんだから細々とした仕事はいくらでもあるだろ、それこそ廃棄物の処理とかな」
そう言ってニヤリと笑うとアリスの方ばかり見ていた副社長とこの日初めて目があった。
確かにこの船のブレインはアリスで間違いないが船長はあくまでも俺、いつまでも無視されるのは悲しすぎる。
「仕事を、ですか」
「もちろん自分達でも探しに行くが、近いところで荷物のやり取りをした方が効率がいい。そっちは業者を探す手間が省けるし、こっちは確実に仕事が入る。船を修繕・改造するには色々と材料も必要だろうからそういったものをすぐに取りに行けたら効率的だと思わないか?」
「例え廃棄するコンテナの中身がどんなものか説明する必要もないと、さすがマスターです」
「そして我々はそれに適正な対価を払えばいいと。随分と強引な話ではありますが・・・いえ、それしかありませんね。エドワード、貴方を友人の専属担当者に命名します。今回の件が終わるまでしっかり対応するように」
「かしこまりました」
これにて取引は成立。
向こうからすればかなりの代償を支払ったことになるが、トップに悪事がバレることはなく更には本来手に入れることができない各種データを入手することができるのだから悪くない取引だと思うけどなぁ。
小さくため息をついた副社長は静かに立ち上がり軽く頭を下げてから一度も振り返ることなく応接室を出て行った。
残されたエドワードさんが慌てて頭を下げてそれを見送る。
「やれやれ、やっと終わった」
「お疲れ様でした、いい取引ができたと思います。そうですよねエドワードさん」
「私の口からはなんとも。しかしあの副社長からあそこまで譲歩を引き出すなんて皆様何者ですか?」
「ただの輸送業者だが?」
「ただの輸送業者があのコンテナを解放し更には中身を運用するなんてあり得ませんよ」
「こいつがちょっと特殊なだけだ。ともかく、話にあったように今回の件はこれで手打ち。ソルアレスの改良が終わるまでの間世話になる」
かくして例のコンテナは2200万ヴェイルもの高額で引き取られ、更には混雑する工業コロニーにおいて専用ハンガーを手に入れ、新しい仕事を斡旋してもらえることになった。
まさに順風満帆、やっていることはかなりアレだが元を正せばあんなものを廃棄するのが悪い。
コンテナを廃棄しただけなのに。
そんな言葉が聞こえてきそうだが、世の中何がどうなるかわかったもんじゃない。
それは俺たちにも言えること、くれぐれも気をつけて仕事をしよう。
「こちらこそどうぞよろしくお願い致します。それでは早速ではありますが皆様の今後について打ち合わせをしたいと思いますので移動をお願いできますでしょうか。皆様は副社長の大事なご友人ですから、それに相応しい宿へご案内させていただきます」
「お、そんなところ使わせてもらっていいのか?」
「これも乗り掛かった船です。どうせ払うのは会社ですから、とことんやってやりますよ」
何かが吹っ切れたような晴々とした顔をするエドさん。
まぁ向こうがそんな感じでやってくれるならこっちも色々と動きやすい。
かくして工業コロニーノヴァドッグでの新しい生活が始まったのだった。




