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35歳バツイチオッサン、アーティファクト(美少女)と共に宇宙(ソラ)を放浪する   作者: エルリア


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10.傭兵ギルドで挨拶をしてみて

「思ったより高く買っていただけましたね、マスター」


「あれを売りつけたといわない当りが流石だな」


「人聞きの悪いことを言わないでください、正しい相場をお伝えして正しい金額で買っていただいただけです」


「最後あのオーナー泣いてたぞ」


「嬉し泣きじゃないですか?」


 飄々とした感じで本人は言うけれどマジで泣いてたからな、あの人。


 宙賊からせしめたバトルシップを事前入札の中で一番低い店にもっていった所、最終的には一番高い所からさらに三割高い値段で買い取ってもらえた。


 相場通りの金額とアリスは言うけれど、向こうからすれば当初の倍以上の値段であの船を買わされたわけだ。


 もちろんただ船を売りつけただけじゃなく、船の装備や奴らから奪った物資なんかも追加でつけたので売れば確実に利益が出る。


 だが、それを出すための手間を考えると同情するしかないよなぁ。


 買取額はずばり100万ヴェロス。


 退職金のズバリ10倍もの値段で売れたわけだが、これだけあっても商売をするとなればまだまだ雀の涙なんだよなぁ。


 なんせ最初のコロニーで退職金の半分を使ったわけだし、今後の事を考えると最低でも数倍は欲しいところだ。


「ま、なんにせよ金があって困ることはないわけだしあいつらの置き土産としてありがたく使わせてもらおう」


「マスター、置き土産であればまだありますよ?」


「ん?そうか、賞金か」


「それとあの宙域の宙賊情報ですね。ネットワークにアップロードされていないような生の情報を売買するにはぴったりの場所です。今後ここを中心に仕事をするのであれば顔を売っておいて損はないでしょう」


「顔を売るって言っても傭兵なんかにはならないぞ?」


「大丈夫です、マスターにそんなことは望んでいませんから」


「いや、大丈夫の意味が分からないんだが」


 馬鹿にされているのか見下されているのかはたまたその両方なのか、普通のヒューマノイドならそんなこと考えるはずもないのにアリス相手だとそれがありえてしまう悲しさ。


 そりゃこの間までしがない掃除夫だったわけだし、そんな奴に喧嘩上等な傭兵が務まるはずがない。


 俺がやりたいのは激しいドンパチなんかではなく自由な宇宙(ソラ)の旅、傭兵業なんてのはその対極にいるようなものだ。


 それでも賞金や情報を手に入れるにはそんな場所へ足を運ばなければならないわけで、何故か楽しそうなアリスに案内されるがまま向かったのは比較的綺麗な商業ビルだった。


「ここなのか?」


「傭兵ギルドだから小汚いという考えはどうかとおもいますよ、マスター。少なからず彼らは宙賊よりも綺麗好きです」


「そもそも比較対象がどうかと思うが、そうだなそういう先入観は良くないよな」


 入り口に立つと自動ドアが静かに開き、高い吹き抜けの受付が見えて来る。


「いらっしゃいませ」


「傭兵ギルドはどこでしょう」


「傭兵?お嬢ちゃんが?」


「なにか?」


「賞金の回収に来たんだ、案内をお願いしてかまわないか?」


「かしこまりました」


 アリスから目線を上げた受付嬢があぁ!という感じで納得した顔をするのと対照的にそれを見て露骨に不機嫌な顔をするアリス。


 うーむ、ここまで表情豊かだと本当にヒューマノイドなのか不安になるけど、そうなんだよなぁ。


 受付から出てきた受付嬢だが、露骨にスカートが短めだったので慌てて目線を別の場所に移す。


 恥ずかしいとかじゃなく単に俺みたいなオッサンに見られると不快だろうし、なにより後で何か言われるのが嫌だからだ。


 これも年を取ってからの処世術、そのまま案内されたのは商業ビル・・・の裏口から出た所にあるなんとも小汚い雑居ビルだった。


「・・・ここ、ですか?」


「受付だけは綺麗にするようにっていう上からのお達しに考慮した結果がこれなんです」


「そりゃ案内するのためらうよなぁ」


「そうなんですよね。あ、お客様をお連れしましたよ~」


 傭兵は宙賊よりは綺麗にしている、そんなことを言っていたアリスだったが情報と現実との乖離に思考が追い付いていないようだ。


 俺は宙賊の船も傭兵の船も両方掃除していたのでわかっているけれど、こいつらも中々やばいぞ。


 館内にごみを捨てるってことは少なくてもやらないわけじゃない、本当に綺麗にしているのは上位ランカーぐらいなもので、下っ端レベルになると宙賊と似たようなものだ。


「お!ディジーじゃねぇか、こっちに来て一杯付き合えよ」


「嫌ですよ、まだ仕事中です」


「いいじゃねぇか、お前の足を見ると酒が美味くなるんだって」


「うわ、サイテー」


「へへ、いいじゃねぇか減るもんじゃないし」


「減るんです~、それじゃあお二人とも頑張って!」


「おぅ、ありがとな」


 クルリと翻るスカートにギルド内にいた傭兵たちからヤジの口笛が飛ぶ中、アリスと共に受付へと向かう。


 こっちの受付はむさるしいおっさん、まぁ傭兵ギルドなんてこんなもんだろう。


「コブ付とは珍しいな、護衛希望か?」


「いや、賞金を貰いに来た」


「こりゃ驚いたそのなりで宙賊を倒したのか」


「こちらがその宙賊のデータです。それとは別に彼らが持っていたとある宙域の宙賊データが手元にありますがご入用ですか?」


「彼女は?」


「うちの頭脳だ、怒らせると怖いぞ」


 自分抜きで話をされたのが癪だったのかアリスが不機嫌な表情のまま会話に混ざってくる。


 マジで怒らせると怖いので先に忠告しておこう。


 彼女の出したIDデータを無言で受け取り、手元のデバイスに読み取らせる。


 俺達とオッサンの間に投影されたモニターには8人分のIDと名前が記載されていた。


「確かに最近話題になってた宙賊で間違いない。まさか二人でやったのか?」


「それが何か?」


「別に何も。それと奴らの持っていたデータがあるって話だが・・・」


「コロニー周辺の宙賊情報と傭兵ギルドの活動範囲それと交換でしたらお渡しできます」


「おいおい、そんなもの渡せるわけないだろ。そんなのが流出したらどうなるかわかってるのか?」


「そもそも流出するような場所に入れるから悪いんです。いいんですよ、そちらが喉から手が出るほど欲しいデータを他の傭兵ギルドにもっていっても」


 アリスの言葉に受付のオッサンの表情が見る見るうちに険しくなる。


 見た目だけで言えば年端も行かないような小娘、そんなやつに露骨な挑発をされたらそりゃ機嫌も悪くなるだろう。


「黙って聞いてたら偉そうに、おい嬢ちゃんここがどこかわかってんのか?」


「傭兵ギルドですよね?それとも腰抜けの集会場でしたか?」


「てめぇ!聞いておけば好きかって言いやがって!」


「お前ら黙ってろ!」


 露骨に挑発するアリスとそれに反応する周りの傭兵たち、確かに顔を売るっていう話はしていたけれどここまでやらなくてもいいんじゃないだろうか。


 仮に殴り合いになったとして俺は何もできないぞ?


 黙ってにらみ合うアリスとオッサン、なんとも非対称な二人をただ見守ることしかできない俺と傭兵達。


「ふん、根性はあるみたいだな。嬢ちゃん名前は?」


「アリスです」


「覚えておこう。要望はそれだけか?」


「そうですね、出来れば美味しい店を教えていただけると助かります。私もマスターも今日来たばかりでそういう場所に疎いので」


「いいだろう、とっておきの店を紹介してやるよ。お前ら!こいつらに余計なちょっかい出すんじゃねぇぞ、こいつらは俺の客だ」


「「「「ういっす!」」」」


 なんだかよくわからないが受付のオッサンに気に入られたらしい。


 急に上機嫌になった二人、宙賊の賞金30万の他にコロニー周辺のオフライン情報とコロニー内の美味しい店を手に入れることができた。


 やれやれどうなることかと思ったけれど無事に顔も売れたし賞金も確保することができた。


 後は船に戻って休憩してからいよいよ救命ポッドの中身とご対面だ。

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