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狂人が治癒スキルを獲得しました。  作者: 葉月水
会心の一撃

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第90話 テンマvs森尾・火焚(1)


「風系統術『空歩』」


『!?』


 テンマは作戦の開始と共に、足場に形成していた空気の塊を踏みつけ一瞬で森尾と火焚の背後へと移動する。


 2人は突然姿を消したテンマに驚愕するが、既に戦闘態勢をとっていた森尾は、敏感に気配を察知しすぐさま背後へと意識を向ける。


「悪いけどちょっと場所を移させてもらうよ!」


「なっ!」


「ッ!」


 しかし、背後に移動したことに気が付いたのも束の間、既に大きく脚を振りかぶっているテンマに、未だ態勢を整えられていなかった火焚は驚愕の声を上げ、森尾は避けられない事を察して衝撃に備えるように腕を構える。


 ——ゴオォォォッ


 テンマの放った蹴りは振り抜くスピードと風による相乗効果で、物凄い風音を奏でながら森尾と火焚の2人をまとめてふっ飛ばした。


「おぉ、相変わらず凄い威力だな…」


「ガ、ガゥゥ…」


 銀次とクロは、その光景に仲間でありながら引いたような表情を浮かべる。


「ふふっ、まぁね!まぁ、これは物理じゃなくて殆ど風の力だけでふっ飛ばしただけだから、見た目ほど威力はないんだけどね」


「そ、そうか…まぁ、頑張れよ」


「うん、銀ちゃん達もね!…あ、そうだ。多分、銀ちゃん達の相手は、クロウズを攻撃している部隊と同じところにいると思うから、僕があの2人のところに向かうついでに分断しとくよ。幸い、去年やりあって顔は知ってるしね!」


「分かった。何から何まですまないな」


「そんなの全然いいよ!僕がやるのはあくまでセッティングだけだからね。大した手間じゃないよ…じゃ、また後でね!」


 そう言い残し、テンマは再び高速移動をして銀次とクロの前から姿を消す。


「また後でね…か。全く…」


 銀次は、当然のように勝った後のことしか考えていないテンマの言葉に拳を強く握り締め笑う。そして、テンマがセッティングしてくれたであろう場所へとクロと共に足を進める。


 銀次は不思議な気持ちだった。これから能力者と戦うことに恐怖がないわけではない。だが、おかしな事に今はそれ以上に高揚していた。


 自分が能力者相手にどれだけ通用するのか試してみたい…戦いは本来嫌いな筈なのに、脳内にはそんな思いばかりが溢れてくる。


「朱に交われば…か。仕方ない、俺たちも勝ちに行くか、クロ」


「ガウ!」



 ——クソッ


 火焚は、悪態を吐きながら車のフロント部分に埋もれる体を起こす。


「火焚さん。無事ですか」


「あーー、アンタが空中で車に投げ捨ててくれたお陰で、背中が痛い事以外は無事ですよ」


「それなら良かったです」


「チッ…」


 火焚は相変わらず皮肉の通じない森尾に苛立ちを露にする。そして、自分が無様な着地をしたのに対し、ちゃっかりと綺麗な着地をしているのにもその苛立ちに拍車をかける。


「それにしても随分と飛ばされてしまいましたね…この辺りの避難が済んでいて良かったです」


 森尾は、自分達の元いた場所の方向を見つめながら呟く。


「ふん…そんな悠長なこと言ってる場合かね。早く戻らないとあのカス共がやられるよ…何よりあのチビをぶっ飛ばさなきゃアタシの気が済まない」


「そうですね、その意見には私も同意です。ですが、何度も言いますが、仲間をカス共なんて言わないでください。私の奴隷さん」


「…奴隷呼びはいいのかよ」


「それは事実ですから…それより、戻るのは少し難しそうですね…」


「あ…?」


 森尾が、見据える先に物凄いスピードで近づいてくる飛行物体を捉えると、火焚もそれに釣られるようにその方向へと目を向ける。


 そして、その物体はあっという間に森尾と火焚の前へと降り立った。


「お待たせ〜〜〜!ふふっ、さっきの逆バージョンみたいな登場になっちゃったね!急だったけど空の旅は楽しんでくれたかな?」


 先程の事もあり、おちゃらけた態度を取るテンマ相手にも、森尾と火焚の2人が戦闘態勢を解くことはない。


「もー、つまんないなー。少しくらい話し相手になってくれてもいいじゃん。まぁ…すぐにでも戦いたいって事なら、僕も臨むところだけどね」


『…』


 テンマの言葉に、森尾と火焚の2人は無意識に一歩後ろに下がり距離を取る。


 面の男の醸し出す雰囲気は終始柔らかい…だがそれが逆に薄気味の悪さを際立たせる。


「ねぇ、やらないの?」


 警戒しているのか、一向に待ちの姿勢を崩さない2人に、テンマは痺れを切らしたように首を傾げる。


「はっ、やってやるよ」


「火焚さん…」


「分かってるって…油断せずに、協力してだろ。来る前に散々聞いたっての。いい加減、耳タコだわ」


 敵の挑発とも取れる言葉に、好戦的な笑みを浮かべて応える火焚を心配して声を掛けるが、存外冷静な火焚に森尾は安堵して敵を見据える。


「おー、いいねいいね!2対1ってテンション上がるよ!どうする?先行譲ってあげようか?」


「なら、とっとと焼け死ね『焦熱波』」


「ん?…!?」


 火焚が手を伸ばし何かを繰り出してから数瞬遅れて感じる熱に、テンマは慌てて距離を取りその軌道上から外れる。


 へー、火だけじゃなく熱も生み出せるんだ。火よりは威力が落ちるだろうけど、見え難いのはちょっと厄介だな。


「ん、おぉ!?」


 テンマが火焚の攻撃を避けたのも束の間。


「『舞跳歩ぶとうほ』」


 森尾は隙ありとばかりに距離を詰めにいく。それも直線的に詰めるのではなく、右へ左へと獣化で得た敏捷性と機動力を駆使して、移動の際にも隙を出さないようにしている。


 森尾は、テンマを射程にとらえると、ギリギリまで狙いを悟らせないよう到達するまでの数メートルの間にいくつものフェイントを混ぜ込みながら肉薄する。


「あっぶな…でも、残念!」


 確実に死角から繰り出したであろう鋭い爪での攻撃は、風の障壁で威力を殺され、その腕を掴まれることで、難なく無効化される。


 しかし、森尾はそれで止まることはなく、腕を掴まれたのを利用し、身体を弓のようにしならせて威力を増大させて顔面へと蹴りを放つ。


「ッ!」


「おっと!」


 だが、それでも届かない。テンマは蹴りが直撃するより早く距離をとって回避していた。


「あっははは!熱いし、疾いしで大変だよ!でも、楽しいね!!」


『……』


 森尾と火焚は、それなりに本気の攻撃を仕掛けた後なのにも構わず、宙に浮き純粋な笑い声を上げて喜ぶテンマの姿に今一度気合を入れ直す。


「…森尾ちゃんが危険って言ってた意味が少しは分かってきたよ」


「それなら良かったです。ですが、きっとまだまだ本気を見せてないので注意してください」


「んなのは、あのふざけた態度を見れば誰だって分かるっての。てか、きっとってなんだよ。アンタ、前もこのチビに負けたんじゃないの?なら、どんな攻撃があるかくらい分かってるでしょ」


「はぁ…本当にあなたはこれまで何を聞いてたんですか。以前、この人と戦ったのは郷田さん達です。私が負けたのは鬼灯の首領だという子供です…まぁ、チビという表現は間違っていませんが、それで言うともっとチビでしたよ」


「コイツが首領じゃないのか…?で、もっとチビだったって?」


 森尾の言葉に、火焚は信じられないといった表情をしてテンマを見る。


「ん?なになに、僕等のボスの話?」


「…そうですね……この際、気になっていたのでお聞きします。先程からそのボスの姿が見えないようですが、今はどちらにいらっしゃるんですか?少なからず因縁がある私としては気になるのですが…」


 森尾は、テンマが興味を示した事を丁度良い機会だと思ったのか、この場に駆けつけてからずっと気になっていた事を口に出す。


「あー、それやっぱり気になる?気になるよねー。僕も逆の立場だったら絶対気になってると思うもん……でも、ごめんねー。教えられない!!ってか、ボスから…お前は余計な事を喋りそうだから質問されたら極力喋るなって言われててさー」


「そうですか」


「うんー、まぁ夏休み期間だしさ。宿題でもやってると思っててよ」


「宿題…」


 森尾は、これまで終始余裕の態度を貫いてきていた鬼灯が、ここに来て隠そうとする素振りに僅かに嫌な予感を抱く。


 だが、面の男がそれ以上を口にする事は無く、その予感の正体までは辿り着くことは出来ない。


「ま、そういう訳だからさ。残念ながら僕から情報を引き出そうとしても無駄なわけ!だから、そういう駆け引きはやめて、この際思いっきり戦おうよ!それに裏にどんな事情があるにしろ…どうせ、君たちが僕たちをどうにかしなきゃならないのは変わらないでしょ?」


「…そうですね」


 森尾は、テンマの言葉を短く肯定し、嫌な予感を払拭するように体に力を込める。


「火焚さん。接近戦は私が、遠距離からの攻撃はお任せします」


「はっ、別に良いけど、一緒に燃やされても文句言わないでよ」


「構いません。それくらいで無ければ当たりそうにありませんから」


「ははっ!気に入った。思いっきりやってやるよ!」


 森尾のある種の奴隷解放宣言に分かりやすくやる気を漲らせる火焚。


 しかし、厄介な事にそのやる気に敵であるテンマまで感化される。


「あっははっ!!いいね、いいね!せっかくだし殺す気でおいでよ!こういうのは本気でやらなきゃつまらないんだから!絶対に遠慮なんかしないでね!!」




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― 新着の感想 ―
能管側の連携しっかりしていて、頑張っていたんだなぁって思う
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