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狂人が治癒スキルを獲得しました。  作者: 葉月水
会心の一撃

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第88話 到着


 ——快が能管施設内部に潜入した頃の鬼灯一行


「ふぅ、取り敢えずはひと段落って所かな!銀ちゃんもクロも怪我してない?」


「あぁ、テンマがはじめに武器を取り上げてくれたお陰で、今の所ポーションも消費せずにいられている。流石に武器を持たれると厄介だが、それさえなければ徒手格闘で負ける気はせんな」


「ガァゥ!」


 テンマの言葉に、疲労感を感じさせない態度で返す銀次とクロ。


 3人の周りには、既に多くの屍…ではなく、気絶した自衛隊や警察の服に身を包んだ人間が転がっていた。


「ふふ、なら良かった!でも、まだまだ敵の主戦力は来てないみたいだね。まぁ、僕らもクロウズを温存できてるし、全体的に見ればここまでは結構順調な感じかな?」


「そうだな。だが、自衛隊や警察の組織力を考えればまだまだ先遣隊と言った所だろう。ここから追加で戦力を送られる可能性は十分にある。なにより、未だに能力者を率いる能管の戦力が姿を見せてない。油断は大敵だ」


「もう相変わらずお堅いな〜、それくらいは僕も分かってるって!銀ちゃん、もしかしてまだ緊張してる?」


「いや、まぁ少しも無いとは言わないが、身体を動かしたおかげで大分ほぐれてきたところだ。何ならまだ動き足りないくらいだな」


「お〜言うね〜!ま、僕も全然動き足りないんだけどね!」


 そう言って、自分と張り合うようにピョンピョンと跳ねて力が有り余って居ることをアピールするテンマを見て、銀次は軽く笑う。


 そして、今一度辺りに転がっている人達を見渡して思う。


 自分はまだまだだと…。


 敵を制圧する最中、銀次は口々に化け物だの怪物だのと言われた。


 まぁ、長年昼夜問わず厳しい訓練を続けてきたであろう人間達を相手に、大した苦戦もしなかった事を思えば、確かに自分も化け物染みてきたなと思わなくもない。


 だが、本物の化け物達を常日頃間近で見ている身からすると、自分は全くもってその領域に届きはしない、過ぎた表現であると分かる。


 テンマが疲れていないのは当たり前だ。なんせ最初に敵陣の武器を取り上げて以降、殆どスキルを使用しなかったのだから。それどころかその場から殆ど動かずに敵を制圧した。


 そして、それはマナや体力的な話だけでなく、精神的な面でも同じことが言える。


 考えてみれば当然だ。普段から快という格上に殺されるのを覚悟で勝負を挑んでいるのだから、今回の相手を思えば精神的な疲労は皆無と言っていいだろう。


 きっと、テンマからしたら自分の身の危険よりも加減を間違えて殺してしまわないかという心配の方が余程大きかったのではないだろうか。


 一方、銀次やクロは苦戦はしなかったといえど、精神的な疲労が全くない訳ではなかった。


 テンマが武器を取り上げたと言っても、隠し持っていたり、身に付けていたりした場合はその限りではない。


 近接戦でナイフを使われればそれに気を取られもするし、至近距離で拳銃を使われれば驚きもする。そして、それらが直撃すれば当然怪我もするし、当たりどころが悪ければ死ぬ。


 故に油断は無かった。


 普段、銀次やクロも快やテンマのような格上を相手に戦う経験を積んでいる為、それに対する心構えはあるつもりだ。


 だが、それはあくまで手合わせであり、半ば勝てるわけない、死ぬことはないというある種の諦めと安心が混じっているから気が楽なのも事実なのだ。


 その為、今回の敵とは根本の話が違う。ある程度実力が近いからこそ生まれる緊張感というのも事実あるのだ。


 それで言うと、銀次はまだテンマや快より今現在地面に転がっている人間との実力と近いと言える。


 快やテンマ…本物の化け物とはそれだけの開きがある。


 現代武器を携えた敵に対して終始遊び感覚で圧倒したテンマと、ある程度の緊張感を持って制圧した銀次とクロ。こと戦闘に関していうなら後者の方が正しいのだろう。それは銀次自身もよく分かっている。


 だが、その実力差を思えばテンマと同格に扱われるのは、よく知らないといえど銀次にとっては到底納得できないものだった。


 きっと敵方も何となくの雰囲気で察していた。テンマは次元が違うと。その証拠に、散々化け物と言いながらも敵は専らテンマの方ではなく、銀次やクロの方へと集まっていた。


「ふぅ…」


 銀次は、もう幾許の猶予も無く来るであろう能管を思い、深呼吸をして気合いを入れ直す。


 ここまでは前哨戦。


 言ってしまえば緊張をほぐす為の時間だ。


 ——ウーウーウー!


 遠くから微かに聞こえてくるパトカーでも救急車でもない、聞き馴染みのないサイレン音。


「ははっ、来たみたい!」


『!』


 テンマは、その音に待ち侘びていたとでも言うような笑顔を浮かべて、その方向をジッと見つめる。それに釣られて銀次とクロもその方向を見る。


 そして、テンマが視界の先にその車両の姿を捉えた時、事態は動いた。


「ふふっ、来るよ。2人とも」


 唐突なテンマのその呟きに、銀次とクロはより一層警戒を強め身構える。


 能管の車両が来るのはサイレン音で既に分かっていた。となると、テンマが今呟いたのには理由がある。


 銀次がそう判断した時、その理由がその後直ぐに明らかとなった。


 車両が着々と近付いてくる中、先行してナニカが建物の側面や電柱を蹴って、物凄いスピードで接近してきている。


 そして、そのナニカはあっという間に銀次達の前へと降り立つと、体幹の強さが垣間見える隙のない立ち方を維持したまま口を開いた。


「見覚えのない方もいらっしゃいますが…あなたには見覚えがあるので分かります。やはり、この騒ぎはあなた達によるものでしたか。鬼灯」


「ふふっ、久しぶり〜!その名称覚えてくれてたんだね!僕もそれ気に入ってるから嬉しいよ!」


 銀次は、目の前でテンマと顔見知りだと思われる会話を繰り広げる女を警戒を怠らずに見据える。


 四肢を獣の姿へと変化させている細身のショートカットの女。


 銀次はこの人物を知っていた。いや、実際に会った事がある訳でも、話した事がある訳でもない。ただ、情報として知っているだけだ。


 銀次は、この作戦を行う前に、殺人ピエロの一件の時の話を含め、現在分かっている能管の情報を改めて快とテンマから事細かに聞いていた。


 その情報の幅としては広く、スキルといった重要な情報から僅かな接触の間に知り得た容姿や気性等といった表面的な情報まで。


 故に知っている。


 この人物は、森尾一冴。


 殺人ピエロの一件の時は、快と戦い、身のこなしやスピードでは当時のテンマと同程度の実力を有していたという実力者。獣化のスキル所持者で、快の推測では等級は上級程度だという。


 快曰く、『森尾一冴が出て来たらテンマ以外は相手するな』


「鬼灯…私が能管に身を置く以上、決してこの名前を忘れることはないでしょう」


「ふふっ、随分と気に入られちゃったなー!…で、君が先行して僕たちの所に来たのは、先に攻撃を仕掛けられないように牽制するため?」


「…お見通しのようですね。通報の時点で鬼灯の仕業だという当たりはついていました。そして、風という能力からあなたがいる事も。それなら、機動力に優れた私が先行し牽制するのは当然の判断でしょう。こういった事態を避ける為にも…」


 森尾は、辺りに転がる沢山の先行隊の人々を悲痛な表情で見渡す。


「安心しなよ。まだ殺してないから。何なら、安全なところに運ぶまで待ってあげようか?どうしてもって言うなら手伝ってもあげるけど」


「結構です。その間に急襲されないとも限りませんから」


「え〜〜、本当に待ってあげるのに……あぁ、なるほど!遅れていた人たちが到着したみたいだし、救助はその人達に任せるのかな?」


 テンマの言葉に、銀次とクロは森尾を視界に入れたまま、更にその奥を見通す。


 そして確認されるのは…森尾の背後数十メートル先に、一定の距離を保ちながらズラリと並ぶ十数台もの大型車両。そして、そこから続々と出てくる武装集団。


「うわー、本当に前とは段違いな組織力だね。ビックリだね?」


「いや、ビックリだねってそんな悠長にしてる場合か。楽しむのも良いが、今にも撃たれそうだぞ」


「ガ、ガウゥ!」


 悪役ムーブが思った以上に楽しいのか、敵前で余裕をかましまくるテンマに銀次とクロは少し冷静になれとばかりに声を掛ける。


「…警告します。このような騒ぎを起こす正当な理由があるなら今話して下さい。無いのであれば、このまま投降して下さい。少しでも抵抗するようであれば危険性を加味して、一斉射撃を行います」


 森尾は片手を挙げて、程よい距離を保ったまま銃を構える能管の武装集団を御しながら、鬼灯一行へと最後通告を行う。


「一斉射撃したら君も僕ら諸共蜂の巣にされちゃうと思うけど?」


「ご心配なさらず。私は避けられますので」


 先の戦いで、森尾も自分が避けられるのなら、テンマに避けられることは承知の上だ。だが、テンマが避けられたとしてもその仲間は違うだろうと、銀次とクロへと視線を向ける。


 しかし、そんな森尾の思惑を前にも、テンマに焦る素振りは微塵もない。それどころか、この期に及んで挑発するような笑みまで浮かべている。


「そう、なら遠慮しないで良いよ。正当な理由って言っても遊びでやったようなもんだし、こっちにも策はあるからね」


 通告をして尚、余裕の態度を崩さないテンマに、森尾は不審に思う。だが、この間合いなら相手がどんな行動を起こそうとも対応出来ると判断し、即座に射撃許可を出そうと腕を振り下ろす。


 しかし、その瞬間…テンマはタイミングを窺っていたとばかりに上を見上げて呼びかけるように口を開く。


「みんな出番だよ!」


「何を…」


 みんな…という言葉に、森尾の動きが一瞬止まる。


 自分の感知しない伏兵が紛れ込んでいたのか、それならどれだけの戦闘力を有しているのか、甚大な被害を出す前に部隊を今すぐ撤退させるべきか……。


 立場ある者の責任故か、鬼灯という強大な敵というイメージ故か、同時に様々な考えが浮かび、動きに迷いが…隙が生じる。


 ——バサッバサッ


 そして、その隙を狙うように耳朶を打つ複数の羽音に、森尾を含めた能管部隊は思わず視線を空へと向けてしまう。


「標的は現代武器を持つ能管部隊。お披露目だから暴れちゃって!」


『カァー!カァー!!』


 テンマの声に反応したクロウズは、一斉に能管部隊へと襲い掛かった。




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全面戦争だー!
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