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狂人が治癒スキルを獲得しました。  作者: 葉月水
会心の一撃

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第84話 ポーション



 テンマへの説教と仕置きが終わると、俺は早速本題へと話を戻す。


「さて、ここからがようやく本題な訳だが…はじめに一つ質問がある。お前達は、最近の鬼灯の活動についてどう思う。率直な意見が聞きたい」


「え、急にどう思うって言われても…」


「なら、お前の意見は聞かない。銀次は…」


「あー、うそうそ言うよ!言うってば!!率直な意見、率直な意見ね!僕、正直者だから得意だよそういうの!」


 そうして、テンマは特に考えたりするわけでもなく、仕置きでボコボコとなったアホ面で直ぐに答え始める。


「最近は何といっても楽しかったよね!僕と快ちゃんと銀ちゃんの3人で遠くまで動物探しに行ってクロ見つけて帰ってきたのも楽しかったし、競馬場で沢山お金稼いだのも楽しかった!…それと、これは鬼灯とは関係ないかもだけど、鈴ちゃんと遊んだのもすごい楽しかったな…まぁ、悲しいことに全然懐かれてはないんだけど…」


 相変わらず小学生みたいな感性と感想だが…まぁ、テンマの回答は大方予想通りだな。


 して、銀次の方は。


「俺も気持ちとしては大方テンマと同じだな。だが、組織の活動ということに関して言うと…俺はまずまず順調といったところだと思う」


「ふむ」


 よかった。こっちはまだまともそうだ。


 俺は頷いて、銀次に話の先を促す。


「現状、クロやユン等の強力な戦力を新しく獲得し、組織の活動資金となる金を稼げるようになったりと順調な面がある一方で、スキルオーブ等といった長いこと目立った成果が上げられていない事案もある…」


「なるほど。よくわかった」


 スキルオーブ…そこは常日頃、俺やテンマと比較し、一際力不足を痛感している銀次だ。やはりそこが1番に気になる所だろう。


「それで、なんで急にそんな事を聞いたの?快ちゃんの事だから、これにも何か意味があるんでしょ!」


「いや、これには特に質問以上の意味はない。強いて言うなら、お前らが現状をどんな風に認識しているのかを把握する為だな」


「あれ、そうなの?」


「あぁ…だが、おかげで今後の動きも明確になった」


 銀次の言葉通り、現状、長いこと成果の出ていない問題がいくつかある。となれば、そろそろその現状を打開する為に解決に向けて動き出してもいい頃合いだろう。


 それらの問題もこのまま活動を続ければ、近々解消することになるかもしれない…だがそれは言ってしまえば問題の先送りでしかない。


 いずれ…いずれ…と思っていて、成果が出ていないのだ。


 作戦の見切りをつけるにしても、十分な期間はあった…となれば、ここらで思い切ってその方法を変えてみるのも一つの手だろう。


 それに、やはり銀次の事もあるし、俺としてもこれ以上スキルオーブの事を先延ばしにしたくない。


 で、差し当たっての問題としては、それらの問題をどう解決するのかなのだが…それついては既に俺に考えがあるからいい。


 で、本当の本当の問題はその解決策を実行するにあたって、解決しなければならないことがもう一つあることなんだが…実はそれについても既に当てがあったりする。


「全く、自分の用意周到さが恐ろしいな」


 俺はそう自分を褒め称えながら、ズボンのポケットの中に手を入れ、一つの液体の入った小瓶を手に取る。


 そして、それを未だ顔を腫らしているテンマへと投げる。


「ほら、アンポンタン。新しい顔よ」


 ——ポイッ


「おっと…って誰がアンポンタンよ!!…で、なにこれ」


「新しい顔代わりだ」


「いや、真面目に!」


 俺としては、結構大真面目だったりするのだが…まぁいい。せっかくだし、ファンタジー流に分かりやすく教えてやるとするか。


 そして俺は、興奮するテンマへその小瓶の正体を告げる。


「ポーションだ」


「へー、ポーションかー。ってポーション!?」


「!?」


「ガゥゥ?」


 おー、流石のコイツらも中々にいい反応をするな。これでこそ苦労した甲斐があるというものだ。まぁ、クロだけはよく分かってないみたいだが。


「ポ、ポーションってあのポーション?!ファンタジーものでよくある?!あの??」


「あぁ、効果の方は言うまでもないことだとは思うが治癒だ」


「す、すっご。快ちゃん、こんなの作れたの?!」


「まぁな。ほら、そんな事よりアンポンタン。この際、折角だし飲んで効果の程を確かめてみろよ」


「え、あ、うん!!」


 俺は、テンマの賞賛を程々に受け止め、テンマでその効果の程を確かめようと試飲を勧める。


 既に俺自身は勿論、そこらの虫やなんやで効果は確認済みだ。だが、本来薬というのは、様々なサンプルに試してこそ、その効果を正しく把握できるというものだろう。


 そして、今回に至っては丁度いい実験体がいて良かった。仕置きで殴ったのがまさかこんな形で役に立つとはな。さすが俺、行動に無駄がない。


「んむ?!…ん!うわぁなにこれ…激マズなんだけど…」


 小瓶の中の液体を勧められるがまま一口で飲み干したテンマは、顔を顰めて文句を垂れる。


「誰も美味いなんて言ってないだろ」


「いや、まぁそうだけどさ…綺麗なピンク色だったし、美味しいと思うじゃん。いちご味なのかなとか思うじゃん。ねぇ、銀ちゃん」


「あ、あぁ、そうかもな。だが、マズイだけの効果はしっかりあったみたいだぞ」


 銀次は、グチグチと不満を言い続けるテンマの顔を見て目を見開く。


 その様子に、テンマも自身の顔を確認するようにペタペタと触り始める。


「うそ、痛くない!!それに腫れてもない!!本当に治ってる?!」


 どうやら、俺以外の人間にも問題なく作用するみたいだな。テンマの様子からしても、特に目立った異常は見られない。どっからどう見てもいつも通りの元気100倍アンポンタンだ。成功だ。


「すごい!これすごいよ、快ちゃん!めっちゃマズイけど、効果は本物だよ!!こんなのどうやって作ったのさ!」


「そんなに気になるなら、別に教えてやっても良いが…後悔するなよ?」


「……え、なにそれ。これそんなにやばいもので作ってるの。既にその言葉で後悔しそうなんだけど…んー、でもやっぱり気になるから教えて!」


 全く、世の中には知らない方が良いこともあると言うのに…これだから好奇心旺盛な子供は。


 まぁ、これを飲んだのが銀次あたりだったなら、味で直ぐに気付きそうなもんだしな。ここで教えなかったとしても、結局は時間の問題か。


 そうして、俺はテンマのリクエストに応え、端的に主成分を口にする。


「原材料は俺の血だ」


「え…嘘でしょ」


「嘘じゃない。まぁ、厳密に言えば多少は飲みやすくなるように血を経口補水液で割ってるんだがな」


 体外だと霧散しやすいという俺の治癒のマナの特性を考え、遠隔でも随時治癒できる方法がないかと考えた末の成果がこれだ。


 理屈は至って単純。


 原材料を血とする事で、マナが留まりやすい体内に近い環境を擬似的に作り出す。そして、そのマナには事前に身体を治癒するという俺の意思を込めておく。これだけだ。


 未だ味等と言った改善の余地はある。だが、現状はこれがベストだ。


 飲みにくさを考慮して、水で割ったりもしてみたが、それだと効果が半減してしまった。おそらく、水で割ると血の濃度が薄くなって、体内に近いという条件を満たせなくなるのだろう。


 その点、体液とほぼ同じ浸透圧を持つ経口補水液は優秀だった。血、単体で飲むよりは効果が落ちるものの、暫くの間はその効果を持続させる事ができる。


「僕…今、快ちゃんの血飲んだんだ」


「改まって言うな気持ち悪い」


「気持ち悪いとは何だ!!気持ち悪いとは!!元はと言えば飲ませたの快ちゃんでしょ!!」


「あー、うるさいな。仕方ないだろう。遠隔で治癒を施す方法がこれしか思い付かなかったんだから」


 遠隔…それは即ち俺以外の回復手段の獲得だ。


 これは、今後の計画を実行する上で必要な最低条件だ。


「このポーションは、近々俺達が実行するある作戦の成功の鍵となる」


「ん、作戦だと?」


「僕も初耳だけど…」


「ガゥ??」


 俺の言葉に、面々は互いに顔を見合わせ困惑する。


「詳しい作戦の内容は面倒くさいからまた後日とするが…その作戦の中で、俺は意図してお前らと別行動を取るつもりだ」


 治癒のポーションが作戦の成功の鍵となる。


 これだけの情報があれば、既に身の危険がある作戦なのは言わずもがな皆理解していることだろう。


 そして、続けて俺の口から出た別行動という言葉。それの示す所は、戦力の大幅な欠落と回復手段の喪失だ。


「別行動…か」


 今し方、バカの軽率な行動でクロ共々殺されかけたのが影響しているのだろう。銀次は、普段よりも一層不安げな表情をして呟く。


「銀ちゃん…」


 そして、テンマはテンマの方で…銀次とクロを殺しかけた手前、思うところがあるのか、何やら気合いの入った表情で銀次とクロを見ていた。


 心なしか…その瞳には、いざとなれば僕が守る!…と、そんな覚悟めいたものが宿っているように見えた。


 いや、やっぱりよく見ると少し頬が緩んでいるから気のせいかもしれない。


 まぁ、ここで楽しみという感情を隠しきれていないのが何ともテンマらしい残念さだな。


 だが、それでいい。楽しむことこそ俺達鬼灯の本懐だ。


 とはいえ、テンマはこれで良くても銀次の方は、色々と考え過ぎる癖があるから、今の時点でこの手段を取る狙いくらいは明確にしておいた方がいいだろう。


 でなければ、後々…自分は足を引っ張っているだの何だのと要らない責任を感じるかもしれない。


「この別行動は、何も未だ俺やテンマ以外との能力者との戦闘経験がない銀次やクロに経験を積ませるという狙いだけで行うものではない。この手段を取るのは、この方法が単に作戦を遂行する上で最も効率がいいからだ」


「効率?」


 銀次は、俺の言葉に分かりやすく反応する。


 別行動をするのには、自分に経験を積ませる以外の別の理由がある。


 この事実は、何かと力不足を理由に引け目を感じている銀次にとっては嬉しい情報だろう。


 きっとこれを銀次は、俺に鬼灯の仲間としてテンマと同等の扱いをされている、認められていると感じるはずだ。


「あぁ。この作戦の肝は、なんといっても相手の戦力を分断することにある。その点、随時単独で回復のできる俺とお前らとの別行動は至極合理的な判断だろう」


「なるほど」


「っ!!!」


 俺の言葉に、ようやく得心したように頷く銀次…と、戦力という言葉に露骨に目を輝かせるテンマ。


「チーム分けは、先も伝えた通り俺1人と俺以外の全戦力。ユンは家族の護衛があるから置いていくのは当然として、クロはもちろん念の為クロウズもありったけ連れて行け」


「そ、そんなに大規模な戦闘になるのか…?!」


 ポーションの事といい、戦力の注ぎ方といい…俺の備え方に本気を感じたのか、銀次は露骨に顔を緊張に染める。


「現時点では断言は出来ない。だが、その可能性は極めて高いとだけ言っておこう。おそらく相手は場合によっては能力者だけでなく、自衛隊や警察なんかの戦力も導入してくるはずだ」


「ま、まさか…、その相手ってのは…!」


「ワクワクッ!ワクワクッ!」


「ガゥゥ???」


 俺の口ぶりから敵の予想がついたのか…2人は理由は違えど大きく体を震わせる。


 クロは終始何が何やらって感じだが…ま、そのうち分かるだろ。


 そして、続けて作戦の概要を伝える。


「作戦の概要を簡単に言うと、お前らが敵戦力を引き付けている間に、俺が敵組織の施設内部に侵入して情報やなんやを奪い取るって所だ」


「…ハァ、全くお前はまたとんでもない事を…いや…まぁ、それなら確かに収穫はあるだろうが…あぁ、でも…くっ…ハァ」


「ワクワクッ!ワクワクッ!ワクワクッ!」


「ガ、ガゥゥ…???」


 作戦を聞き、参ったとでもいうように額を抑える銀次と増して嬉しそうな笑みを浮かべるテンマ。


 クロも2人の様子からようやく只事ではないと感じ取ったのか、キョロキョロと視線を2人と俺との間を行き来させる。


「ねぇ!快ちゃん!その敵組織ってさ!やっぱりさ!!」


「あぁ、察しの通りだ」


 俺はテンマの期待のこもった言葉を短く肯定する。


 そして、更に本作戦の意義…鼓舞とも取れる言葉をこの場にいる鬼灯の主戦力全員に向け続ける。


「あの殺人ピエロの一件から一年。奴等はその存在を世間に周知され、大きく変わったことだろう。豊富な資源と人材、その両方を兼ね備えた今、その脅威は以前の比ではない。しかし、だからこそ仕掛ける価値がある。どれだけの物を持っているか、そしてどれだけの力をつけたのか、それを確かめに行くとしよう……どうだ、お前ら。この際、危険なのは言うまでもないが覚悟はいいか。断るなら今のうちだぞ」


「ふふっ!!何言ってるの快ちゃん!!僕は絶対に行くよ!!覚悟なんてそんなのとっくの昔に出来てるしね!!」


「…あぁ、俺も問題ない。俺は…こんな時の為に今まで備えてきたんだ!」


「ガウゥ!!」


 元より好戦的なテンマはともかく、銀次やクロは不安が無いわけで無いだろう。だが、見る限り迷いはないように見える。となれば、もう俺からは何も言う事はない。


 ここから俺がやることは簡単だ。


 最良の結果を目指しつつ、その過程を最高に楽しむ。それだけだ。


 久しぶりの戦闘。久しぶりの大規模イベント。これは、否が応でも興奮する。


 故に、俺は心の奥底から込み上げる笑いを抑えきれない。


「ははっ…やっぱり夏休みはこうでなくちゃな」





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― 新着の感想 ―
物語りが動きだした!これからがもっと楽しみです。とにかく楽しみ!
やるんだな 今から カチコミじゃー 治癒スキルの影響があるとしても他人の血を直接飲むことってどうなのかな?
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