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狂人が治癒スキルを獲得しました。  作者: 葉月水
会心の一撃

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第82話 計画修正



 7月も下旬。


 俺は、鈴との交流も程々に、何だか久方振りに感じる拠点へと足を運んでいた。


「最後の報告からなにか進展もしくは成果はあったか?」


「…無いです」


「そうか」


『………』


 レッドの言葉に考え込む俺を見て、カラーズ幹部の5人は気まずそうな表情を浮かべる。


 これまでカラーズ幹部へと出していた指令は、スキルオーブの捜索と俺やテンマ以外の能力者の情報収集の2つ。これ以外にも、護衛動物の捜索なんてのもあったが、それは俺がユンを発見した為に既に撤回済み。


 先の会話でも分かるように、情報開示による人員の増加と報酬の導入から暫しの時間が経過したが、未だ目立った成果は挙げられていない。


 これは、何もカラーズが悪いわけではない。寧ろカラーズは、成果がないのにも関わらずよくここまで頑張ってきたと褒めてやってもいいくらいだろう。


 この事態は、単に俺の考えが甘かった。ただ、それだけの話だ。


 それに、よくよく考えてみれば、これだけの労力を掛けても成果が得られないのも、何らおかしな話ではない。


 スキルの存在が公になって以降、スキルオーブにしても能力者にしても、その目撃情報なんかは全て能管をはじめとする警察や自衛隊等の国の運営する機関へと寄せられている。


 加えて、潤沢な資金による情報に対する対価と報酬制度。そして、その報酬を受け取ろうと積極的に情報を提供する全国各地にいる人々。


 はっきりいって完全にうちの上位互換だ。鬼灯は、その全てで能管に引けを取っている。


 まぁ、ユンを見つけられたという前例もあるし、俺の展開した能管に比べたら雀の涙程の人海戦術も全部が全部無駄ではないというのは分かる。


 だが、如何せん効率が悪過ぎる。移動費やカラーズへの負担を考えると、どう計算したとしても費用対効果が見合わない。


 現在の状況を正確に把握した俺は、やはりこのままでは非効率だと、こういった事態を見越して事前に用意していた策へと計画の修正を行う。


「レッド、俺が以前からしていた話の方はどうなっている」


「えっと、真っ当な収益モデルを作るという話ですか?」


「あぁ、その話だ。馬のかけっこの方でもだいぶ荒稼ぎしたし、資本金くらいなら集まったんじゃないか?進捗はどうなっている」


「はい、そっちの方は概ね順調です。俺らの親の伝手とかも使って、テナントを借りて事務所を作りましたし、試験的にでは有りますが、既に仕事も引き受けています」


 何やらレッド以外の面々も楽しげな表情を浮かべている。


 確かに、進捗具合も当初俺が想定していた以上だ。どうやら金策の方は本当に順調みたいだな。


 にしても、コイツらも伊達にボンボンをやっていないということか。親の影響か、意外と組織の運営が様になっている。


「そうか、それは良かった。ありがとな。それで、試験的に受けたという仕事の方はどうだ…何か問題は起きていないか?」


「はい、問題は特にありません…いや、寧ろ上手く行きすぎて怖いくらいです!正直…探偵事務所なんてはじめは上手くいくなんて思っていなかったんですけど、あのボスの考案したクロウズを情報収集に使うってのは凄い戦略ですよ!」


 レッド以外の面々もその言葉に異論はないのか、ブンブンと頷いて同意を示す。


「好評のようで何よりだ。まぁ、それは手順が逆なんだけどな。俺は、クロウズが居るから探偵事務所に決めたんだ。アイツらなら人件費も掛からなければ、人にも警戒されない。これほど情報収集に適した逸材はそういないだろう」


「なるほど、通りで警戒心の高いと評判の人間の証拠も構わず獲得出来るわけです。カラスが小型カメラを着けてても誰も気付きませんし、もし気付いたとしてもジャンク品だとしか思わないですから」


「人間の欲に近ければ近いほど、その職業の需要は高くなる。飲食店は競争率が高いから論外として、探偵なら個人でやっている所も多い。となれば、浮気調査なんかの依頼を引き受けるにしても、その効率は俺達と比べるまでもないだろう」


『………』


 カラーズ幹部は、俺を露骨に引いたような目で見る。


 そして、各々が好き勝手にとやかく言い始める。


「ボス、本当に人生1周目ですか」


「いや、3周は堅いだろ」


「そうだな、ボスはきっと転生者なんだ。それか回帰したか」


「転生者が現代に生まれたのか」


「まぁ、この世界もファンタジー要素あったし、なくはないかも?」


 テンマと銀次もだが、最近俺の周りの奴らの物言いが、徐々に遠慮が無くなって来てる気がしてならない。


 ちょっと優しくし過ぎたか?まぁ、やる事やってくれれば俺は別に構わないが。


 だが、変な憶測は困るな。そのせいで、勝手にカラーズ内で変な噂が拡散されても困る。


「大変盛り上がってる所に水を差すようで悪いが、生憎、俺は転生者でもなければ、回帰者でもないぞ。ちょっとばかし精神が早熟で…ちょっとばかし才能と運に恵まれただけの小学6年生だ」


「………分かりました。色々とツッコミたいし、納得も出来ませんが、一先ずはそういう事にしておきます」


 間が癪に触るが、形だけでも納得してくれたなら、まぁいいか。


 そんな事より、今は優先すべき大事な業務連絡がある。


「事業が順調なのは何よりだ。それに際して、一つの新たな指令を出す。お前らは今後はその金策の方に集中してくれ。だから一先ず、スキルオーブや能力者の任務のことは考えなくていい」


「え、それはどういう…あ、俺たちが成果を出せなかったから…」


 何やらショックを受けた様子の面々。これまで長いこと取り組んできた分、成果を上げれずに引き下がるのは悔しいのかもしれない。


「まぁ、それも理由の一つだな。だが、何もこれはお前らに失望したわけではない。この事態に陥ったのは単に俺の読みが甘かっただけだ。お前らに責任は無い。俺は単に、事業の運営の方がお前らに適しているから、そっちをお前らに任せようとしているだけだ。幸い、スキルオーブや能力者の事はクロウズを補充すれば、俺たちだけでも微力ではあるが手が回るからな。だから、気にせずそっちの方に集中してくれ」


『はい…』


 返事はするが、面々は未だに肩を落としたままだ。


 んー、そんなにショックだったのか?あ、いや、もしかして担保のことを気にしてるのか?


 そういうことなら…


「お前ら、あの担保の事を気にしてるなら、それはもう心配する必要ないぞ?あの写真は、お前らの献身的な働きに免じて既に削除してこの世には存在していないからな」


『えっ…マジっすか』


「マジだ」


 俺は面々の言葉に、真剣な面持ちで頷く。これなら嘘ではないと伝わってくれるだろう。


「まぁ、とはいえもし裏切ったりしたらお前らがどんなに逃げたとしても、世界の果てまで追いかけて担保を補充しに行くがな」


「はははっ、それはマジで笑えないですね。ボスなら本気でやりそうです」


「そうだろう。まぁ、俺も付き合いの長いお前らを信用したってことだな。だから、事業の方は頼んだぞ。それは、お前らにしか任せられないことだ」


『はい!!』


 面々は、今度こそ声を揃えて明るい声色で返事をする。成果を出せなかった悔しさはあるが、不安も無くなった…と言ったところか。


 カラーズ幹部は定時制だが、確か歳はテンマや銀次の一つ下だから今年度か来年度で卒業だ。となると、もしかしたら今やっている事業の方を本格的に就職先としても視野に入れて考えているのかもしれない。


 担保がなくなったことで、緊張感が無くなり、これまでのようなやる気を見せなくなるのではと少しばかり危惧したが…この生き生きとした様子を見るにその心配も無用の長物となりそうだ。


「よし、カラーズの方には話がついた。となると、次はテンマと銀次の方だな」


 スキルオーブに加えて、能力者の情報…その2つを一気に解消できるプランが既に俺の頭の中にはある。


 となれば、時間を精一杯有効に使わない手はないだろう。このままダラダラと鈴と遊んで過ごすのも悪くないが、夏休みも無限じゃないからな。


 


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カラーズ担保のこと忘れていただろ
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