表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狂人が治癒スキルを獲得しました。  作者: 葉月水
変わり目

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

73/146

第73話 新生活


 短かくも色々と密度の濃い体験をした春休みも呆気なく終わりを告げ、俺たち鬼灯は新生活へと突入した。


 とは言っても、俺の方は6年生に進級しただけで、特に5年時との変化はないのだが。


 正直なところ、鶏あたりは成長して多少の変化を見せてくれても良かったのだが、そこは残酷な程にそのままだった。いや、それなりの休みを挟んだ分、相乗効果で以前の倍、喧しく感じたくらいだ。


 まぁ、とはいえこれもある意味日常だ。不快ではあるが想定内ではある。心構えが出来る分、幾分マシ…と無理やり思うことにしている。


 メガネ女児が気を遣い、程々のところで鶏の興味を逸らして負担を減らしてくれるのが唯一の救いだ。


 そして、目新しい変化としては、やはりテンマや銀次が大学へ通学するようになった事だろう。


 これは碌に高校に通っていなかった影響か、2人は何かと自由度が高い大学生活を楽しんでいるようだ。


 しかし、だからといって2人も何も遊んでばかりというわけでもなく、テンマは高校教師もとい俺の担任になる…という馬鹿みたいな夢の為に意欲的に学業に取り組んでいる。


 銀次の方は、まぁ、特に目標はないらしいが、学費を無駄にしない為にと、持ち前の真面目さと根性で暇さえあれば色々な分野の講義に顔を出しているのだとか。曰く、身につけた知識がいつか鬼灯の助けになればとのこと。ご苦労なことだ。


 まぁ、この通り、2人はほんの1年前のことを思えば、問題が無さすぎて逆に不気味なくらいに環境に順応している。


 この事実は、側から見れば完全に裏口入学に映るだろう。もはや、受験時に不備があったのではと疑うほどである。


 事実、俺と同様、周囲もそう思っているのか、テンマ達の母校である不良高校の方でも名門大学に現役合格が出た事を、一種のバグだと判断しているらしい。


 聞くところの情報によれば、中学生へ向けた学校説明会では、これらの進学実績を創立以来、前人未到の偉業である…と、大々的に奇跡を主張し、学校側が積極的に入学希望者を減らそうとするなんとも摩訶不思議な説明会が行われたとか。


 これは未来を見据えれば、仕方のない処置だったのだろう。万が一にもこの実績を見て、この学校は受験に強い学校なんだ…なんて勘違いをされれば、後々苦しくなるのは目に見えているのだから。教員の判断は紛れもなく英断だ。


 不良学校側からすれば、底辺高校で変な進学実績を作ったテンマと銀次は、ある意味不良生徒以上の厄介な問題児なのかもしれない。


 教員達には同情する。卒業しても迷惑をかけられるなんて、全くかわいそうに。


 そして、第1回護衛動物捜索の日より、テンマの強い要望もといわがままによって、鬼灯のペット兼戦闘要員として迎えられたクマは、白熱した協議の末『クロ』と名付けられた。


 白熱した割にクロかよなんてお叱りをどこからか受けそうだが、白熱したのは専らあろうことか『くま◯ン』なんて色々とまずい名前を付けようとしたテンマを止めるという点についてだ。


 駄々を捏ねるテンマを抑えるのに、それはもう苦労した。


 ちなみにクロという名前に至った経緯としては、テンマの案以外に他に代案がある訳でも無かったので、俺が呼び易いかつ連想しやすいという2点だけを踏まえて、2秒で考えた結果だ。


 何処ぞの著作権も考慮しないバカからは、クロウズと名前が被るだのなんだの、色々と取るに足らないクレームを入れられたが、最終的に決闘という神聖な真剣勝負で、正々堂々と命名権を勝ち取ったので文句は言わせなかった。


 まぁ、散々渋っていたテンマも今では、「クロ〜、クロ〜」と撫で付け愛でている為、結果オーライというやつだろう。


 クロも、拠点に運ばれて数日は、強者のプライド故か懲りずに多少の反抗を見せていたのだが、クロウズの中の精鋭カラスと一騎打ちをして瞬殺された事で心が折れたのか、今では従順も従順になっている。


 もはや俺たちとは、完全な主従関係を築いていると言ってもいい。


 はじめの登場を思い返すと、それで良いのかとツッコミたくもなるが、周りは自分よりも強いものばかり…となると、従順になるのもまた本能なのかもしれない。


 だが、そんなクロも、何もペットの座にただただ甘んじているわけではない。


 そこは腐っても俺たち鬼灯の仲間という事だろうか。意外にも強くなろうとする一点に置いては貪欲なのだ。その証拠に、銀次との手合わせの時は、生き生きしているように見える。


 俺の強化術による強化の方もまだ施し始めて日は浅いが、それでも元のポテンシャルが高いせいか、そう遠くないうちに戦闘員としての役割も十分に全うしてくれそうな見通しが立っている。


 この調子だと当初の目論見通り、当分は銀次の手合わせの相手としても役立ってくれそうだ。


 その為、この件に関しては、概ね順調と言っても差し支えはない。


 しかし、順調なものがある一方で、不順なものがあるのもまた世の常で。


 肝心な護衛動物の捜索については、週末を中心に場所を変えたり、クロウズやカラーズにスキルオーブを探す傍ら、動物の捜索を命じてみたりと…色々と工夫を凝らして、捜索を続けているが、今のところ目立った進捗はない。


 はじめは、あまり現時点での戦闘力はどうでも良いと言ったのだが、これも最初の捜索で安易にヒグマを持ち帰ってしまった弊害か…俺を含めた皆の手頃な動物の基準が上がってしまっている節がある。その証拠に、一向に良い報告が上がってこない。


 現在の状況も変わらず芳しくなく、つい先日、カラーズが拠点にいる時の世間話を小耳に挟んだのだが、その会話の内容はとても俺の意を汲んだものとは思えない程、飛躍したものとなっていた。


「ボスが満足する動物ってなんだ?」


「最低、ヒグマ以上だろ?ならライオンとかか?」


「いや、ライオンなんてヒグマとトントンだろ。ゴリラはどうだ?戦闘力は同じくらいでも、手足も人に近いし有能そうだろ」


「バカか、そのゴリラはどこから調達するんだよ。動物園からパクる訳にも行かないんだぞ」


「はぁ、真の問題はそこじゃないだろ。問題は、ゴリラはゴリラでもキングコングぐらいじゃないと、ボスが納得しないってところだ」


『ん〜』


 てな感じで、状況は現在進行形で悪化の一途を辿っている。そもそも、コイツらは完全に家で飼える大きさという絶対条件を失念しているのだ。つまり、あてにならない。


 この分だと、本当にスキルを獲得した動物を見つけるまでこの一件は終わらなそうだ。


 まぁ、俺も余りダラダラ探し続けるのは本意ではないから、程々のところで見切りをつけないといけないのだが…さて、どうなることやら。


 少なくとも俺の兄弟が生まれる前までくらいには、見つけ出したいものだ。


 最悪…余り使いたくない手ではあるが、この計画の当初の最終手段としていた犬猫で妥協するのもまた一つの手だろう。


 拘りも捨て難いが、1番は家族の安全。背に腹は変えられない。


 まぁ、ギリギリまでは粘ってみるがな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ