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狂人が治癒スキルを獲得しました。  作者: 葉月水
変わり目

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第70話 条件


長いバイク走行の末、やっとの思いで目的地として設定していた場所へと到着した俺たちは、バイクを適当な場所へと駐車すると、早くも周辺散策へと乗り出していた。


「それで、快。態々こんな辺鄙な場所まできて、一体何をするつもりなんだ。スキルオーブが見つかったというなら、態々出向かなくてもクロウズに持って来させれば済む話だろうし…何か別の目的があるんだろ?」


「あぁ、確かにそろそろ目的くらい話してもいいかもな。だが、その前に…」


 俺は銀次との話を中断すると、そのままいじけた子供のように黙りこくっているテンマへと視線を向ける。


「おい。いい加減、機嫌直したらどうだ。もう何度も謝っただろ」


「…心の傷は深いんだよ。一体置いてかれた僕がどれだけ心細かったか…そして、どれだけ笑われたことか…」


「治癒してやっただろ」


「快ちゃんの治癒スキルも万能じゃないってことだね。すごいよね…黒歴史って。思い出すだけで何度も苦しめられるんだもん」


「そうか、ならその責任を取る為にも物理的に忘れさせるしかないな…どの辺を殴ればその記憶を飛ばせ…」


「うん、嘘嘘。今の全部嘘!もう全然大丈夫…だから、その振り上げた拳を収めてくれる?」


 どうやら俺の誠意が伝わって、テンマも機嫌を直してくれたらしい。よかったよかった。


 これでようやく本題へと入れる。


「それで、今日は本当に何をする気なの?スキルオーブ探しじゃないなら、僕にも全然わかんないや」


「まぁ、スキルオーブを探しながらでも良いんだけどな。だが今日の本命の目的は、とりあえず番犬代わりになりそうな動物を見つけることだ」


『番犬代わり?』


 俺の言葉に、テンマと銀次はまるで事前に打ち合わせをしていたかのように言動を一致させる。


 そして、何やらお門違いもいいところな勘違いをし始める。


「…か、快ちゃん。いくら親友の僕たちが大事だからって、流石に用心が過ぎるんじゃない??気持ちは嬉しいけどさ…僕たちそんなに弱くないよ?」


「ま、まぁ…確かに悪い気はしないな」


 揃って顔を赤らめ、頬をかく2人。一種の照れ隠しをなのか、あからさまに落ち着きがなくなっている。


 控えめに言って、一旦ぶん殴りたい。


「おい、その気色の悪い勘違いは即刻やめろ。誰がお前らのための番犬だって言った」


「えーー、違うのーー?」


「……」


 勘違いだと分かり、露骨にガッカリするテンマに、恥ずかしさから黙り込んでしまう銀次。


 テンマはまだしも、今日の銀次はやっぱり浮かれてるな。普段ならこんな勘違いはしなかった。


 しかし、銀次も割と真面目に信じていたんだな。思いの外、反応がガチだ。まぁ、それはそれで気持ち悪いが…。


 俺は一度仕切り直すように大きなため息を吐いてから、2人に情報を補足する。


「番犬ってのは、お前らの為でなくウチの家族の為のやつだ」


「あー、なるほどね!理解理解!」


 テンマは、得心するようにポンと手を打つ。


 しかし、すぐに疑問を口にする。


「ん…でも、快ちゃんが居て危険に陥ることなんてあるのかな?僕控えめに言って、快ちゃん最強だと思ってるけど…」


「流石に最強は言い過ぎだ。だがまぁ、俺がずっと側に居られれば、確かに守り切る自信はある。ただ、それは俺自身が能力者との戦闘を望む以上、難しいだろう。どうしたって離れることになる」


「…今のところ、能力者が大人しくしてるからって、今後もいつ殺人ピエロみたいな無差別殺人を起こす奴が出るか分からないもんね。快ちゃんが不在の間の番犬…確かに必要かも!」


「あぁ、それに俺たちは周りと違って状況が特殊だからな。自ら厄介事に首を突っ込む以上、普通に生活を営む人々より当然抱えるリスクは増える。なら、それに予め備えておくのも、俺たちが果たすべき最低限の義務だろう」


「うん!それもそうだね!僕も、僕たちが好き勝手にやって、快ちゃんの家族が傷つくのは嫌だもんね!おばさんやおじさんは、僕にとってももう家族みたいなもんだし、夏には僕の弟か妹が生まれるわけだし……見つけようか!最強の番犬を!!ね、銀ちゃん!!」


「あぁ、俺もテンマと同じ気持ちだ!異論はない!」


 うん、まぁ、テンマの弟、妹発言は一旦置いておいて…取り敢えずやる気になってくれて何よりだな。


 まぁ、正直なところコイツらが俺の家族を守ることに協力的なのは助かるな。ちょっとおかしい奴らではあるが、いざという時には頼りになるのは間違いない。テンマは言わずもがな強いし、銀次もまだ能力者ではないが根性はあるし、期待は十分に出来る。


 それを考えれば、ここでコイツらの複雑な家庭事情について詳しく言及するのも野暮というものだろう。コイツらが俺の家族を守るのに意欲的なら、俺の家族を実の家族と位置付けようと、そんなもの些事でしかない。


 俺のやる事は至ってシンプルだ。好き勝手に動く以上、家族に危険は及ぼさない。そして、ついでに肉壁となるコイツらを死なさないように立ち回る。


「でさ、快ちゃん。護衛役の動物が必要なのは僕も賛成だし、分かったんだけど、正直言って今いるクロウズも結構強くない?数も多いし、暇な時間さえあれば前に強化してた部位以外も強化してたんでしょ??それなら、十分戦力になるし、護衛役も務まると思うんだけど…」


「まぁ、そりゃ確かに一理あるんだけどな。ただ、アイツらはやっぱり戦闘向きでなくて、偵察向きの体をしてるんだよ。だから、強力な能力者が相手だった場合、時間稼ぎにしかならない可能性がある。しかも、きっとその被害は甚大だ。偵察と俺たちとの情報共有役を兼ねている以上、増員し放題とはいえ、消耗品としては扱いたくない。強化をするにしてもそれなりの手間がかかるしな……それに」


「それに?」


 恐らく、俺がクロウズを護衛役として採用しない理由として…自身で考えていたものは、既に全て挙げられていたのだろう。


 銀次は、少し驚いたように俺の言葉を復唱する。


「クロウズは少し清潔感がないだろ?」


『へ?』


 俺の発言が余程予想外だったのか、2人は揃って呆けた声を出す。


「ウチは一応食を扱うパン屋だからな。なら、当然それなりの清潔感は必須だろう。護衛役を務める以上、家族の側に常に控える事になる。それで言うと、カラスはちょっとイメージ的に悪いだろ…例え、どんなに綺麗にしてても、ゴミ漁ってるイメージが拭えない」


 ——カァ…


 今…俺の周りに常に控えているクロウズの何匹かが、哀しげな声を上げたような気がするが、きっと気のせいだろう。いや、そうに違いない。


 まぁ、でも一応心の中で謝罪しておくか。クロウズには常日頃何かと世話になってるからな。実際クロウズなくして、今の鬼灯は無かった。


 ただ、すまんなクロウズよ。お前らが役に立つことは微塵も否定しないが、世の中には適材適所というものがあるんだ。


 護衛役に採用してやりたい気持ちは山々だが、俺も両親に養ってもらっている身の上の為、勝手して家業を潰すわけにはいかないんだ。分かってくれ。


「快ちゃんって…基本的にぶっ飛んでるけど、そういうところ冷静っていうか、現実的だよね。なんか脱獄とか得意そう」


「あぁ、俺もそれなんとなくわかる気がするぞ…なんというか考えも読めないし、隙がないよな」


 たかが、クロウズを護衛候補から外しただけで、言いたい放題するテンマと銀次。


 コイツら俺を何だと思ってるんだ。言わせておけば調子付きやがって…俺は基本的にいつだって冷静だ。


 それに脱獄が得意そうって何だよ。そもそも俺なら、脱獄以前に捕まるようなヘマはしない。


「それで…言いたい事はそれで全部か?俺としては、時間も限られているし、下らないこと言ってないで、早いとこ護衛候補の動物捜索に移りたいんだが…ちなみに、質問があるなら今のうちだぞ」


「はいはいはい!!」


 俺の最終通告に、テンマは小学生のような主張の激しい挙手をする。


「はい、そこの頭の悪そうな薄ピンク頭君」


「やったー!って、誰が頭の悪そうな薄ピンク頭よ!!僕だって日本屈指の大学に現役合格したんだぞ!!」


「はいはい。すごいすごい。で、質問ってなんだ。時間が惜しい、早く言ってくれ」


「クッ、気に入らないけど、快ちゃんのチートありきだから強く出れない……。まぁ、いっか……それで質問だけど、快ちゃんは、どんな動物をご所望なの!!条件とか!!」


「ふむ…バカだと思ったが、中々にいい質問だ。さすが現役合格といったところか…褒めて遣わす」


「うわ、めちゃくちゃ上から目線だ…でも、悔しいけどちょっと嬉しい」


 条件ね。きっちりと決めていた訳ではないが、これは確かに今明確に定めておいた方が良いだろう。


 この大自然の広大なフィールドを手分けして探すわけだから、何か条件ないし目安を設けた方が、いちいち確認を取らなくていい分、確実に無駄は省ける。


「そうだな。条件で言うと、まず毒を持つ類の動物はなしだな。どんな動物にしろ調教はするつもりだが…間違いでもなんでも俺が居ない時に家族が毒に侵されたら元も子もない」


『ふむ』


「それと、見た目がキモいのもダメだ。夏には俺の兄弟も生まれるし、保護対象に怖がられるのは護衛役としては適さない」


『ふむふむ』


 テンマと銀次は、俺の言葉に真剣な顔をして相槌を打つ。


「あとは、やはり護衛だから爪とか牙とか…直接的に攻撃力のある武器を持っているのが好ましいな。まぁ、だからと言って現状の戦闘力はあまり考慮しなくていいがな。そいつは後からいくらでも鍛えられる。取り敢えずはポテンシャルだけ見て判断してくれ……大体はこんな感じか?」


「なるほど!大体はわかったよ!あ、でも大きさとかはどうする??」


「そうだな。場合によっては、赤子の遊び相手としても機能して欲しいから、イメージとしては俺の部屋に難なく入る程度の大きさだな。後は、適宜自分で判断して、迷ったらクロウズに伝えて俺を呼び判断を仰いでくれ」


「おっけー!僕の方は大丈夫だよ!!」


「そうか。銀次は何かあるか?」


 俺の問いに、銀次は少し躊躇するような素振りをして口を開く。


「なぁ、俺の考えが的外れでなければなのだが…その条件だと、態々こんな所にまで出向かなくても、普通に犬とか猫とかで良いんじゃないか……」


 その銀次の発言に、俺とテンマは互いに目を見開き、顔を見合わせる。


 そして、テンマが驚いた顔のまま銀次を見やる。


「銀ちゃん…それマジで言ってるなら結構ヤバいよ」


「す、すまん。やはり、何か間違っていたか…?!」


 テンマの本気で引いたような物言いに、銀次は額に汗をかき焦りを露にする。


「そっか。銀ちゃんには本気で分からないんだね。犬、猫じゃダメな理由…そして、快ちゃんが態々こんな所まで僕らを連れてきた理由が…」


「あ、あぁ…すまないが全く分からん」


 銀次は、自分は何を見逃しているのかと…テンマの言葉の続きを緊張した面持ちで待つ。


 そして、そんな銀次にテンマは意気揚々とその理由を語る。


「僕には、快ちゃんがここで動物を探せって言った時点で、既にピンと来てたよ。犬、猫じゃダメな理由…そんなのそっちの方がロマンがあるからに決まってるじゃん!!」


「は?…そ、それだけか」


 銀次は「嘘だろ?」と確認するように、俺を見る。


 だが、俺はそんな銀次の期待を裏切るように、黙って首を縦に振って返す。


「は?…じゃないよ銀ちゃん!これは意外に大事なことなんだよ!犬、猫じゃ、没個性が過ぎるでしょ!ファンタジーものには、強いもふもふが不可欠なんだから!」


 銀次が、信じられないとばかりに再度俺を見てくるが、悲しいかな…俺の答えはテンマとほぼ同意見なのだ。


「今回ばかりは、テンマの言う通りだ。お前は地頭は悪くないが、考えが固い所があるぞ。もっと思考を柔らかくして物事を考えろ」


「だが、なぜ…犬、猫だとダメなんだ…没個性でも機能すれば問題ないじゃないか…」


「何故も何も…どうせ番犬として鍛えるなら、より強く、面白そうな動物を探すのは当然のことだろ。犬、猫なんてのは最後の手段に過ぎん。最初から可能性を狭めるな。もしかしたらスキルを持った動物とも出会えるかもしれないだろ」


「な、なるほど……りょ、了解した…」


 銀次は、俺やテンマの発言に不承不承といった態度で頷く。


「よし、これで事前説明は粗方済んだな。なら、早速捜索に移ろう。取り敢えず、制限時間は3時間って所か。3時間経っても手頃な動物が見つからなかったら、再度ここへ集合だ。場所の把握や連絡は基本的にクロウズに頼めば解決してくれるだろう。最後に異議や質問のある者は?」


「ない!!」


「俺も大丈夫だ!」


「よし、なら今をもって捜索開始だ」


 ——ザッ


 俺の掛け声と共に、全員が土を蹴り一斉に大自然の中へと散らばって行く。



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脱獄…伏線か! アルカトラズ刑務所にぶち込まれた快が凶悪な犯罪者をまとめ上げて集団脱獄を試みる…みたいな
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