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狂人が治癒スキルを獲得しました。  作者: 葉月水
変わり目

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第69話 バイク遠征


 3月も後半に差し掛かった春休み。


 俺は、ある目的を果たす為に、大学進学を控えたテンマと銀次を伴い、今日は珍しく県外へと遠征に赴いていた。


「…」


 銀次の運転するバイクの後ろに乗り、風を感じながらそれなりの速度で移りゆく景色を眺める。


「なるほど。走った方が速いが、確かにバイクも移動手段としては悪くないな。車と違って天候の影響をもろに受けるのは欠点だが、小回りが効くのは大きい」


 能力者の存在が世間に周知された影響で、以前みたいに気軽にスキルを使う事が難しくなったからな。これは今後も重宝するかもしれない。


「おー、快も気に入ったか!俺も免許を取った時は、それ程興味はなかったんだがな!これが乗ってみると中々悪くないんだ!言ってくれたらいつでも乗せるぞ!」


「そうだな。悔しいが俺はまだ免許が取れる年齢じゃないしな。機会があったらその時はまた頼むことにしよう」


「あぁ!任せろ!」


 俺の言葉に銀次はやけに上機嫌な様子で応える。顔なんて未だかつて見たことがない程にニコニコだ。


 殺人ピエロの時は置いてけぼりを喰らって大分気にしていたからな…戦闘目的ではないとはいえ、俺やテンマと行動を共にしているこの状況は、銀次にとっては相当に喜ばしいものなのだろう。


 まぁ、あの時の落ち込みようを知っているから、特に咎めたりはしないが…早めに元に戻って欲しいものだ。普段とここまで様子が違うと結構気味が悪い、というか気持ち悪い。


「で、元暴走族の総長さんは原付なんですね。副総長とは違って」


 俺は目的地に着くまでの暇潰しに、俺や銀次の乗るバイクの後ろにピッタリと追尾するように張り付くテンマに軽口を叩く。


 最近は、マナ関連の鍛錬も並列思考が上達してきて片手間にできるようになったからな…移動中は運転する訳でもないし、他にやることがなくて結構退屈なのだ。


「う、うぅ…仕方ないじゃん。急に移動手段作れって言われたんだから。時間に余裕なくてすぐに取れるのコレしか無かったんだよ。それに…僕は元から暴走族なんて作ろうと思ってなかったもん…。前は銀ちゃんの後ろに乗せてもらってたから困らなかったし…」


 後半に掛けて言い訳がましくボソボソと話すテンマ。


 普段とは違い、今はあまり話しかけて欲しくないのか、借りてきた猫のように大人しくなっている。


「冗談だ。別に責めている訳じゃないからそう卑屈になるな。何を隠そうお前が免許を持ってないのを前々から知ってたのに、急に無理を言ったのはこの俺だからな。いや、本当に悪かった」


 俺は反省の意を示すように、振り向いた姿勢のまま少しだけ頭を下げる。


「……じゃあ、目的地に着くまではこのまま放っておいてくれるかな。僕、今はちょっとそっとしておいて欲しくて…」


「いやいや、それこそ冗談はよしてくれよ。そんなにカッコいいバイク乗っておいて、流石にそっとしとくのは無理だろ…ちょ…ちょっとは…っふ、触れさせてくれよ……」


「あーもう!!!急に謝ったりして、怪しいと思ったら、やっぱりバカにする気だったんじゃないか!!!」


 テンマは、俺の笑いを堪えながらの発言に顔を真っ赤にして、運転中だというのに顔を隠すようにしてやや俯かせる。


 テンマが恥ずかしがっている要因。それは、つまるところバイクにある。


 というのも、テンマが今乗っている原付の元の所有者はカラーズなのだ。


 そこから先は、態々詳細を語るまでも無いだろう。


 アイツらの髪色を見れば、センスの尖り方が本物なのは十分に見て取れる。となれば、当然バイクにもそのセンスは反映されている。


 この状況をひと言で表すなら、無料でお古を譲り受けたは良いものの…といったところだろうか。


 テンマ曰く、今朝受け取りだった為、塗装し直す事も、拒否することも出来なかったらしい。


「どうせなら到着するまで放っておいてよ!せっかく、ここまでバカにされずに来てたのに!」


「いや、俺も無理を言った手前、多少の罪悪感もあったし、最後まで触れるつもりは無かったさ。でも、仕方ないだろ。罪悪感より退屈が上回ったんだから」


「暇つぶしで僕をいじめて楽しい?!?!」


「あぁ、割とな。改めて見てみると結構よく似合ってるぞ?蛍光ピンクがお前の髪と良い具合にマッチしている。きっと、元はピンクのバイクだったんだろうな。良いチョイス過ぎて、今度会ったらカラーズを褒めてやりたいと思っていたところだ」


「…クッ…鬼畜すぎる。分かっていたけど、鬼畜すぎるよ…快ちゃん。いくらなんでも容赦が無さすぎるでしょ!」


 テンマは、俺の言葉による羞恥と怒りで涙目となる。やはり、本人も態度にはあまり出していなかったが、相当に恥ずかしかったらしい。


「バカめ、俺が指摘しなくても既に周囲の車両から嘲笑するような視線攻撃を十分に受けていただろ。一体、出発してから何度、窓越しに指を差されて笑われた」


「……やめて、お願いだからそれだけは言わないで。自覚しないように必死なんだから」


 俺の口撃に、テンマは遂には身体をぷるぷると小刻みに震えさせる。直接、指摘された事でより恥ずかしさが増してきたのだろう。


 愉快愉快。これは戦闘中でも中々に見られない反応だ。


 よし、お陰で多少暇は潰せたし、テンマには悪いが、やはりこの辺りで少し距離を取らせてもらうことにしよう。


 このままだと巻き添えを喰らいかねないからな。笑い者は1人いれば十分だ。


「テンマ、すまないがもう少し車間距離を取ってくれ。そんなに近づかれると、バイク初心者の俺としては結構怖くてな」


「…いや、そんなの絶対嘘じゃん。知り合いだと思われたくないから、僕から距離取りたいだけじゃん……」


「そんな訳ないだろ親友。単に怖いだけだ」


「嘘つくならもう少し頑張ってよ!快ちゃんならこれより速く走れるし、何なら万が一落ちてもヘッチャラでしょ……悪いけど、僕は絶対にこれ以上は引き離されないよ。1人で笑い者になるなんて冗談じゃない!死ぬ時が一緒なら、恥をかく時も一緒だよ!親友!」


 くそ、下手に刺激したせいで、逆に吹っ切れさせる事になるとはな…そのお陰でテンマの目的が目立たないことから、俺を巻き添えにする方向へと切り替わってしまった。


 何か手を打たなければ。


 このままだと不特定多数の人間に、蛍光ピンクの原付に乗る不審者の仲間だと、不名誉過ぎる勘違いをされてしまう。


 それは何としても避けたい。


「…まさか親友の言葉を疑うとはな」


「いや、快ちゃんには悪いけどその辺の信頼は全くと言って良い程ないから!快ちゃんが状況次第で平気で嘘つくの知ってるし!!」


「…気は進まないが、信じてもらえないというなら仕方ない。この手を使うしかないか…なるべく話し合いで解決したかったんだがな」


「話し合いって…全く聞いてないじゃん。親友の言葉、疑う疑わない以前に僕の言葉届いてすらないじゃん!…って、一体何する気!?言っとくけど、ここ公道だからね?!人の目あるからね?!」


 そう、おたおたと狼狽えるテンマを他所に、俺は運転手である銀次に指示を出す。


「銀次、速度を上げろ」


「ん、それは構わないが良いのか?そしたらテンマと逸れてしまうぞ!」


「あぁ、それでいい。既に目的地は伝えてあるし、テンマにも先に行くことは伝えてある。だから、法定速度ギリギリまで速度を上げてくれ…トロトロ走るのはもう飽きたんだ」


「そうか、そういう事なら分かったぞ!よく捕まってろよ!飛ばすからな!」


 よし。今の銀次はとびきり機嫌がいいからな。扱い易いったらない。テンマは何やら俺がスキルを使って無茶をすると勘違いしているみたいだが、原付との距離を離すのくらいやり用はいくらでもある。


 運転手への指示を終えた俺は、再度笑みを浮かべながら後ろを振り返る。


「てことで先に行ってるぞ、蛍光ピンク君。精々、笑いを掻っ攫いながら、目的地を目指してくれ」


「クッ!負けるもんか!!絶対着いて行ってやる!」


「そうか?まぁ、50ccで着いて来れるものなら着いてくればいいさ。それこそ、スキルでも何でも使ってな……尤も、それはれっきとした道路交通法違反だけどな」


「き、汚いぞ!!快ちゃん!!こんな時ばっかり法律を出すなんて!!」


「いやいや、別に汚くなんてないぞ。俺は別に法律を守れなんてことは一言も言ってないからな。免許取り立てでも、違反をする覚悟があるなら好きにやってみればいい。…おっと、青信号だ」


 俺が乗るバイクもとい銀次の運転するバイクは、さっきとは打って変わってグングンと加速していく。


 そして、それに伴いテンマとの距離もどんどんと離れていく。


「もーー!バイクなんて大嫌いだぁ!!!」


 どうやら、流石のテンマも免許をとって早々に、違反をする気にはなれなかったらしい。

 

 遥か後方から悲壮感漂う雄叫びが聞こえてくる。


 流石、俺の親友。オチまで完璧だ。


「どうだ快!スピードがあると結構爽快感あるだろ!」


「あぁ、そうだな。悪くない気分だ」





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― 新着の感想 ―
よく免許そんな早く取れたな それはそうと全身ピンクの原付暴走族総長か…
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